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第2章
21 傲岸不遜な貴公子
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「ルカ君、ストーカー志望だったのに、いつの間にサミュエル殿下の愛人になったの……?」
「いやどっちも違うから」
心底驚いた表情を浮かべるアベルに、ルカは淡々と否定する。昼休みの決闘騒ぎの熱も冷めやらぬうちに、午後のカリキュラムが始ろうとしていた。
カロリーナの宣言後、時間切れとなり、喚く彼女をシモンが言葉巧みに宥めながら、笑顔で引き摺って行った。
「詳細はまた後日お知らせしますね!」とルカに言い残して。ルカは、呆然とその場に立ち尽くしていた。
シモンとかいう人物も、なんだか胡散臭い人であった。ルカの唾液を舐めるという奇行に出たのは、恐らくルカの魔力属性を確認したかったのだろう。ただ触るだけより、相手の魔力を感じやすく、分かりやすいからだ。しかし何のために?
(バレたかな……)
一瞬浮かんだ自分の考えに、背筋が寒くなる。
今さらながら、ルカは「怪しい奴からお菓子を口にいれられても食うなよ」というご主人様からの忠告を思い出し、身震いした。
いや、シモンは胡散臭いが怪しい人ではないので、命令違反ではないはずだ。多分……
『第二王子サミュエルの婚約者と愛人が決闘するらしい』という噂が学園中に広まるまで、あと数時間。ルカは頭を抱えていた。何やら前世より状況が酷い気がする。
ルカは決闘を受けたつもりなど毛頭ないが、あの様子ではカロリーナはもう聞く耳を持たないだろう。
ファーレンホルスト公爵家は、この国の建国以来の有力貴族である。古くから王家と深い繫がりがあり、現当主はこの王国の宰相を務めている。公爵家の子ども達は、王子達とも幼少期からそれなりに交流があったようだ。
カロリーナは、アレでもサミュエルと同じ3年生。公爵家の令嬢ともなれば、通常学園など通わず家庭教師によって学を納めるはずであるが、彼女はサミュエルに少しでも近付くため、わざわざこの学園に編入したらしい。
「中途半端な時期に推薦での編入だったから、多分お金の力でも使ったんだろうって噂されてるよ。ただ一緒に編入してきたシモン・アルムガルトは、魔導具の研究に秀でていて、特許もあるみたいで、その才能を公爵家に買われたとか。……まあでも、さっきの様子見る限り、単なるカロリーナ嬢のお目付け役みたいになってるようだね。あ、ヤバい、先生来た。……じゃあ、ルカ君。『彼』には気をつけてね……」
アベルはルカに心配げな目を向けつつも、静かにルカから離れて行った。
午後からの実践魔術の授業は、飛行術だった。三半規管が弱いルカには最悪な授業だ。ただでさえ精神的なダメージを受けまくっているルカには、さらに追い打ちをかけるような時間となった。
授業は校舎外の訓練場で行われた。
飛行術は、魔力に適性があり、かつその才能がある者だけが習得可能な魔法である。風属性の魔力を身に纏い、空を自在に飛び回ることができるのだ。
最初に周囲の魔素とやらを自分の中に取り込み、自らの魔力とともに体内で循環させるように教師から説明され、ルカは目が点になった。
そんなことを意識すらしたことがなかったからだ。
ルカは乗り物酔いがあるので飛行術は苦手だが、一応習得していて普通に空を飛べる。しかし、教師の説明のとおりにすれば、もっと楽に飛べるのか、と言われたとおり、魔素とやらを取り込んで、自分の魔力を体内で循環させることを意識して、飛んでみた。
結果、うまく飛べずに落ちた。
しかも、何故か身体が猛烈な吐き気でグラついて、地面に転がったまま起き上がれなくなった。いつもの乗り物酔いの十倍くらい酷い。
これは、一体どういうことだろう?
「無様だな、ルカ・クラルヴァイン。貴様、それでも推薦入学者か。何故賢者ともあろうお方が貴様なんぞを推薦したのか理解に苦しむな」
地面に這いつくばったまま呆然としていると、上から冷たい声がしたので、ルカはノロノロと顔を上げる。
ルカを冷ややかに見下ろしていたのは、黒髪にアイスブルーの瞳を持つ、冷たい印象の少年だった。
彼の名前はノア・オルコット。このクラスの、ルカの一つ前の席の少年である。そして、昼休みの時間、ルカにいちゃもんをつけまくったカロリーナの弟である。
ちなみに、ノアは前世ではルカのルームメイトだった。落ちこぼれだったルカに様々な『御指導』を施してくれた、大変ありがた迷惑な存在であり、今世では絶対に関わりたくなかったルカの『天敵その3』だ。とにかく前世では、学園内でも寄宿舎でも容赦なくルカにダメ出しの雨あられ攻撃を浴びせてきたので、ルカにとっては彼の存在自体がストレスでしかなかった。
本日の実践魔術は二人一組のペアになっての訓練であった。そして、ルカはどういうわけかノアと組むことになったのである。
その事実を知り、アベルが顔を真っ青にして震えながら、ノアのことを簡単に説明してくれ、「……気を付けてね……」と呟いたのが印象的であった。
ノアは姉と違って中等部から学園に通っており、成績は常にトップクラス。彼は魔力量も多く、魔法センスもあるらしく、将来はほぼ間違いなく宮廷魔術師団に推薦されるだろうとのことだ。
彼が魔術を学んでいるのは、二男で正妻の子でないので、将来家督を継ぐことが難しいためであろう。
しかし、ノアはとにかく厳しいのだ。
授業開始前に、ノアから一方的に「俺の足を引っ張るなよ」という侮蔑の言葉を浴びせかけられたルカは、この傲岸不遜な態度の少年に、前世で受けた『御指導』の日々を思い出してしまい、思わず遠い目をしてしまったのだった。やはり今世でも、ルカは彼を好きになれそうになかった。
「貴様には飛行術の才能が全くないようだ。魔力の循環もまともにできないのか」
「……そうみたいだね」
地面に転がったままルカは淡々と答えた。正直吐き気が酷くてそれどころではないのだ。ノアの言っていることは事実なので否定はしないが、ちょっとしょんぼりしてしまう。
「貴様とペアなんて、俺も不運だな」
口ではそんなことを言っているのに、彼の手つきは存外優しい。倒れたまま起き上がれないルカの背中に手を当てて身体を支えてくれるあたりから察することができる。しかし相変わらずその瞳は冷え切っているのでよく分からない男だなと思った。
「邪魔だから、さっさとあの木陰に行って休んでいろ。歩けないなら、仕方がないから手を貸してやる」
ノアはルカを支えて木の根元に連れていき、座らせてくれた。無愛想な言い方ではあるが、彼なりの優しさなのかもしれない。しかし表情筋が死滅しているのかあまり伝わってこなかった。
「あの、……足を引っ張ってごめん」
「謝罪は不要だ。自分の欠点を早急に理解して、改善する努力をしろ。このままでは落ちこぼれるぞ」
「……うん。僕は既に、君のお姉さんの言うことも理解出来ないくらいの落ちこぼれなんだけど」
ルカは小さな声でボソリと呟いた。先ほどルカに投げつけられたカロリーナ嬢の言葉は、ルカには難解すぎた。ルカはイロイロと諦めモードに入りつつあった。
「姉の言うことはまともに取り合わなくてもいい。サミュエル殿下の婚約者を自称するなど、身の程知らずも甚だしい。妄想と現実の区別もつかない愚か者など相手にするだけ無駄だ」
ノアは顔を顰め、忌々しそうに吐き捨てた。彼は相当姉を毛嫌いしているようだ。しかし『自称』婚約者が事実なら現実と妄想の区別がつかないカロリーナも精神を病んでいることになる。恐ろしい。
「……姉は卑怯者ゆえ、決闘とやらも正々堂々など行わぬ。恐らくは卑劣な手を使ってくるだろう。精々普段から気を付けるんだな。ほら、水だ。さっさと飲め。貴様のその青白い顔を見ていると、無性に腹が立つ」
ノアは、木の根元にへたり込むルカに、自分の水筒から水を注いで渡してくれた。ルカは戸惑いながら、それを受け取る。昼休みの出来事をどうやら彼は既に知っているらしい。
「……なんか、本当にごめん」
「謝罪は不要だと言っただろう」
ルカが再び小さな声で呟いて俯くと、ノアはぴしゃりと言い放ち、ルカから視線を逸らした。そのまま立ち上がる。
「……あと、愛人はやめておけ。貴様のような生ぬるい奴の精神がそんな立場に耐えられるとは思えぬ。身を滅ぼすぞ」
「……」
ノアはそれだけ言い残すと、ルカを置いて授業へ戻って行ってしまった。
なんか、愛人が既成事実みたいに扱われている。
ルカはますます落ち込んだ。手渡された水をちびりちびりと飲みながら、ルカはぼんやりとノアの姿を目で追った。
ノアは飛行術を既に習得しているようで、教師の補助など全く必要とせず優雅に空を舞っていた。
前世の彼はサミュエルの熱狂的な信奉者の一人だった。昼休みのルカとサミュエルの絡みを知っているのならば、既に彼に嫌われてしまった理由も分かる。
そして、彼はなかなか情報通のようだ。ルカが推薦入学者であることも何故か知っていた。ルカ自身は自分に推薦状を書いてくれた人物のことは知らないが、どうやらかなりの有名人らしい。大変迷惑な話である。
ひとつ、気になっていることと言えば。
ノアが、複雑な紋様が描かれた白銀の腕輪を嵌めていることだ。前世ではあんな腕輪をしていただろうか?
その腕輪は、ルカが前世で、闇属性の魔力を封じる為にクライヴから嵌められたものと、デザインが似ている気がしたのだ。
(……まさかね)
ルカは嫌な考えを振り払うように軽く頭を振り、木に寄りかかって目を閉じた。
(何もかもがうまくいかない。もう帰りたい。……ご主人様に、会いたいな)
学園での人間関係に疲れ、ルカは早くもホームシック気味であった。チクチクと痛む胃を抑え、憂鬱な表情で溜め息を吐き出す。
結局自分は不適合者なのだ。どんなに頑張ったところで、この学園生活という枠組をうまく踏み越えることができない。
ルカの暗い気持ちとは裏腹に、上空では爽やかな風がそよいで、天高く澄んだ青空がどこまでも広がっていた。
「いやどっちも違うから」
心底驚いた表情を浮かべるアベルに、ルカは淡々と否定する。昼休みの決闘騒ぎの熱も冷めやらぬうちに、午後のカリキュラムが始ろうとしていた。
カロリーナの宣言後、時間切れとなり、喚く彼女をシモンが言葉巧みに宥めながら、笑顔で引き摺って行った。
「詳細はまた後日お知らせしますね!」とルカに言い残して。ルカは、呆然とその場に立ち尽くしていた。
シモンとかいう人物も、なんだか胡散臭い人であった。ルカの唾液を舐めるという奇行に出たのは、恐らくルカの魔力属性を確認したかったのだろう。ただ触るだけより、相手の魔力を感じやすく、分かりやすいからだ。しかし何のために?
(バレたかな……)
一瞬浮かんだ自分の考えに、背筋が寒くなる。
今さらながら、ルカは「怪しい奴からお菓子を口にいれられても食うなよ」というご主人様からの忠告を思い出し、身震いした。
いや、シモンは胡散臭いが怪しい人ではないので、命令違反ではないはずだ。多分……
『第二王子サミュエルの婚約者と愛人が決闘するらしい』という噂が学園中に広まるまで、あと数時間。ルカは頭を抱えていた。何やら前世より状況が酷い気がする。
ルカは決闘を受けたつもりなど毛頭ないが、あの様子ではカロリーナはもう聞く耳を持たないだろう。
ファーレンホルスト公爵家は、この国の建国以来の有力貴族である。古くから王家と深い繫がりがあり、現当主はこの王国の宰相を務めている。公爵家の子ども達は、王子達とも幼少期からそれなりに交流があったようだ。
カロリーナは、アレでもサミュエルと同じ3年生。公爵家の令嬢ともなれば、通常学園など通わず家庭教師によって学を納めるはずであるが、彼女はサミュエルに少しでも近付くため、わざわざこの学園に編入したらしい。
「中途半端な時期に推薦での編入だったから、多分お金の力でも使ったんだろうって噂されてるよ。ただ一緒に編入してきたシモン・アルムガルトは、魔導具の研究に秀でていて、特許もあるみたいで、その才能を公爵家に買われたとか。……まあでも、さっきの様子見る限り、単なるカロリーナ嬢のお目付け役みたいになってるようだね。あ、ヤバい、先生来た。……じゃあ、ルカ君。『彼』には気をつけてね……」
アベルはルカに心配げな目を向けつつも、静かにルカから離れて行った。
午後からの実践魔術の授業は、飛行術だった。三半規管が弱いルカには最悪な授業だ。ただでさえ精神的なダメージを受けまくっているルカには、さらに追い打ちをかけるような時間となった。
授業は校舎外の訓練場で行われた。
飛行術は、魔力に適性があり、かつその才能がある者だけが習得可能な魔法である。風属性の魔力を身に纏い、空を自在に飛び回ることができるのだ。
最初に周囲の魔素とやらを自分の中に取り込み、自らの魔力とともに体内で循環させるように教師から説明され、ルカは目が点になった。
そんなことを意識すらしたことがなかったからだ。
ルカは乗り物酔いがあるので飛行術は苦手だが、一応習得していて普通に空を飛べる。しかし、教師の説明のとおりにすれば、もっと楽に飛べるのか、と言われたとおり、魔素とやらを取り込んで、自分の魔力を体内で循環させることを意識して、飛んでみた。
結果、うまく飛べずに落ちた。
しかも、何故か身体が猛烈な吐き気でグラついて、地面に転がったまま起き上がれなくなった。いつもの乗り物酔いの十倍くらい酷い。
これは、一体どういうことだろう?
「無様だな、ルカ・クラルヴァイン。貴様、それでも推薦入学者か。何故賢者ともあろうお方が貴様なんぞを推薦したのか理解に苦しむな」
地面に這いつくばったまま呆然としていると、上から冷たい声がしたので、ルカはノロノロと顔を上げる。
ルカを冷ややかに見下ろしていたのは、黒髪にアイスブルーの瞳を持つ、冷たい印象の少年だった。
彼の名前はノア・オルコット。このクラスの、ルカの一つ前の席の少年である。そして、昼休みの時間、ルカにいちゃもんをつけまくったカロリーナの弟である。
ちなみに、ノアは前世ではルカのルームメイトだった。落ちこぼれだったルカに様々な『御指導』を施してくれた、大変ありがた迷惑な存在であり、今世では絶対に関わりたくなかったルカの『天敵その3』だ。とにかく前世では、学園内でも寄宿舎でも容赦なくルカにダメ出しの雨あられ攻撃を浴びせてきたので、ルカにとっては彼の存在自体がストレスでしかなかった。
本日の実践魔術は二人一組のペアになっての訓練であった。そして、ルカはどういうわけかノアと組むことになったのである。
その事実を知り、アベルが顔を真っ青にして震えながら、ノアのことを簡単に説明してくれ、「……気を付けてね……」と呟いたのが印象的であった。
ノアは姉と違って中等部から学園に通っており、成績は常にトップクラス。彼は魔力量も多く、魔法センスもあるらしく、将来はほぼ間違いなく宮廷魔術師団に推薦されるだろうとのことだ。
彼が魔術を学んでいるのは、二男で正妻の子でないので、将来家督を継ぐことが難しいためであろう。
しかし、ノアはとにかく厳しいのだ。
授業開始前に、ノアから一方的に「俺の足を引っ張るなよ」という侮蔑の言葉を浴びせかけられたルカは、この傲岸不遜な態度の少年に、前世で受けた『御指導』の日々を思い出してしまい、思わず遠い目をしてしまったのだった。やはり今世でも、ルカは彼を好きになれそうになかった。
「貴様には飛行術の才能が全くないようだ。魔力の循環もまともにできないのか」
「……そうみたいだね」
地面に転がったままルカは淡々と答えた。正直吐き気が酷くてそれどころではないのだ。ノアの言っていることは事実なので否定はしないが、ちょっとしょんぼりしてしまう。
「貴様とペアなんて、俺も不運だな」
口ではそんなことを言っているのに、彼の手つきは存外優しい。倒れたまま起き上がれないルカの背中に手を当てて身体を支えてくれるあたりから察することができる。しかし相変わらずその瞳は冷え切っているのでよく分からない男だなと思った。
「邪魔だから、さっさとあの木陰に行って休んでいろ。歩けないなら、仕方がないから手を貸してやる」
ノアはルカを支えて木の根元に連れていき、座らせてくれた。無愛想な言い方ではあるが、彼なりの優しさなのかもしれない。しかし表情筋が死滅しているのかあまり伝わってこなかった。
「あの、……足を引っ張ってごめん」
「謝罪は不要だ。自分の欠点を早急に理解して、改善する努力をしろ。このままでは落ちこぼれるぞ」
「……うん。僕は既に、君のお姉さんの言うことも理解出来ないくらいの落ちこぼれなんだけど」
ルカは小さな声でボソリと呟いた。先ほどルカに投げつけられたカロリーナ嬢の言葉は、ルカには難解すぎた。ルカはイロイロと諦めモードに入りつつあった。
「姉の言うことはまともに取り合わなくてもいい。サミュエル殿下の婚約者を自称するなど、身の程知らずも甚だしい。妄想と現実の区別もつかない愚か者など相手にするだけ無駄だ」
ノアは顔を顰め、忌々しそうに吐き捨てた。彼は相当姉を毛嫌いしているようだ。しかし『自称』婚約者が事実なら現実と妄想の区別がつかないカロリーナも精神を病んでいることになる。恐ろしい。
「……姉は卑怯者ゆえ、決闘とやらも正々堂々など行わぬ。恐らくは卑劣な手を使ってくるだろう。精々普段から気を付けるんだな。ほら、水だ。さっさと飲め。貴様のその青白い顔を見ていると、無性に腹が立つ」
ノアは、木の根元にへたり込むルカに、自分の水筒から水を注いで渡してくれた。ルカは戸惑いながら、それを受け取る。昼休みの出来事をどうやら彼は既に知っているらしい。
「……なんか、本当にごめん」
「謝罪は不要だと言っただろう」
ルカが再び小さな声で呟いて俯くと、ノアはぴしゃりと言い放ち、ルカから視線を逸らした。そのまま立ち上がる。
「……あと、愛人はやめておけ。貴様のような生ぬるい奴の精神がそんな立場に耐えられるとは思えぬ。身を滅ぼすぞ」
「……」
ノアはそれだけ言い残すと、ルカを置いて授業へ戻って行ってしまった。
なんか、愛人が既成事実みたいに扱われている。
ルカはますます落ち込んだ。手渡された水をちびりちびりと飲みながら、ルカはぼんやりとノアの姿を目で追った。
ノアは飛行術を既に習得しているようで、教師の補助など全く必要とせず優雅に空を舞っていた。
前世の彼はサミュエルの熱狂的な信奉者の一人だった。昼休みのルカとサミュエルの絡みを知っているのならば、既に彼に嫌われてしまった理由も分かる。
そして、彼はなかなか情報通のようだ。ルカが推薦入学者であることも何故か知っていた。ルカ自身は自分に推薦状を書いてくれた人物のことは知らないが、どうやらかなりの有名人らしい。大変迷惑な話である。
ひとつ、気になっていることと言えば。
ノアが、複雑な紋様が描かれた白銀の腕輪を嵌めていることだ。前世ではあんな腕輪をしていただろうか?
その腕輪は、ルカが前世で、闇属性の魔力を封じる為にクライヴから嵌められたものと、デザインが似ている気がしたのだ。
(……まさかね)
ルカは嫌な考えを振り払うように軽く頭を振り、木に寄りかかって目を閉じた。
(何もかもがうまくいかない。もう帰りたい。……ご主人様に、会いたいな)
学園での人間関係に疲れ、ルカは早くもホームシック気味であった。チクチクと痛む胃を抑え、憂鬱な表情で溜め息を吐き出す。
結局自分は不適合者なのだ。どんなに頑張ったところで、この学園生活という枠組をうまく踏み越えることができない。
ルカの暗い気持ちとは裏腹に、上空では爽やかな風がそよいで、天高く澄んだ青空がどこまでも広がっていた。
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