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Extra 運命2
しおりを挟む目が覚めると、愛しい存在が俺の側で穏やかな寝息を立てていた。自分の腕の中に大切な番がいることを確認できて、安堵する。
自分に余裕がなくなったのは、いつからだろうか。自分の所有物だと樹に痕跡をつけても不安が消えず、それどころか独占欲は増すばかりだった。
奪われる可能性を完全に排除できないから、本当は誰にも見せたくない。触れさせたくない。閉じ込めて、自分だけのものにしておきたい。
重症だということは、自分でも理解している。
腕の中の樹は、俺に拘束されているにも関わらず幸せそうな顔をして眠っている。その顔を見ただけで、胸が満たされる気がした。
樹のスマホが光っていることに気付いて、そっと手を伸ばす。画面に表示されたメッセージの送信者を見て、一瞬呼吸が止まった。
何故、彼女と樹が繋がっている?
俺は無言で彼女をブロックすると、スマホをそっと元の場所に戻した。
「……、れん……なに、してんだ?」
樹は眠そうに目を擦ると、ぼんやりと俺を見上げてきた。まだ意識が覚醒していないのか、舌足らずな口調で俺の名を呼ぶ。
「悪い、起こした?まだ早いし、もう少し寝てていいよ」
俺は誤魔化すように、樹の目元にかかった前髪をかきあげ、額に軽くキスを落とす。
「ん……」
樹は気持ち良さそうに俺の胸に頭をすり寄せてくる。普段覚醒しているときは、恥ずかしがって自分から寄ってこないが、こういうときだけは素直だ。可愛い。もっと甘えてほしくて、ぎゅうと抱きしめてやる。
昨日は樹が帰宅するなり玄関で襲いかかり、そのまま風呂場に連れて行って散々鳴かせた。何度も樹の中で果てたが、それでも収まらず、ベッドに移動して再び体を重ねた。樹はそのまま気絶するように眠りについてしまった。
樹の体を弄りながら、首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。甘い香りが鼻腔を満たし、俺の脳を痺れさせる。
「ふぁ……」
樹はむにゃむにゃと何か呟いて、俺の背中に手を回してきた。
「……れん、すき……」
「……」
突然の告白に心臓が跳ねる。
寝惚けているのは分かるが、愛しさが溢れ出してきて、どうしようもない。
何だこの可愛い生き物。可愛すぎてどうにかなる。
「俺も好きだよ」
俺は樹の耳元で囁くと、樹の首筋を甘噛んだ。
「ゃっ……」
びくりと反応して声を上げる姿も艶めかしく、俺を煽ってくる。身を捩らせながらも、俺にすがるように抱きついてくるので、余計に止まれなくなる。
「……可愛い」
俺は樹の頬を撫でると、今度は唇に口づけた。角度を変えて深く貪ると、樹の吐息が漏れ出す。
「んぅ……、れん……っ」
「何?」
潤んだ瞳で見つめてくる樹が愛しくて、思わず笑みが溢れる。
「……俺の」
「ん?」
「……俺のスマホに、何かしてるのか?」
甘い空気が一瞬で霧散した。
樹は俺の首に腕を回して抱きついたまま、上目遣いで俺を睨んでいる。どうやら覚醒してしまったようだ。
「何もしてないよ」
俺は笑顔を崩さず答える。
「嘘つきの笑顔が張り付いてるぞ」
「……ちょっと、位置情報アプリ入れたり、面倒臭そうな奴ブロックしたりしてるだけだよ」
仕方がない。俺はシレッと白状した。
「……やっぱりかよ、お前」
樹は呆れたような溜め息をついている。
「三嶋から、絶対監視されてるから気をつけろって言われたんだ」
樹が呟いた言葉に思わず舌打ちする。あの野郎、余計なこと樹に吹き込みやがって。
俺は樹の肩口に顔を寄せると、樹の身体を強く抱きしめた。
「……ごめん。樹が心配だったんだよ」
樹は、俺の独占欲の強さを知っている。俺の執着心も、嫉妬深さも。
樹は俺の頭を優しく撫でてきた。子どもの頃からよくされるが、樹に頭を撫でられると、少しだけ心が落ち着く。
「まあ、別にいいけど」
「……んん?」
樹は俺が何をしても大抵許してくれるし、受け入れてくれる。でも今回は流石にブチ切れるかもと思っていたら、意外にもあっさりと受け入れられてしまった。樹も大概俺に甘い。
「位置情報、勝手に把握されてても気にならないのか?」
「迎えに来てもらう時とか便利だし」
樹は特に無理している様子もなく、本当に気にしてなさそうだ。
「……そっか」
俺の独占欲もなかなかだと自覚はあるが、樹のこの無防備さも相当ヤバいと思う。
「あ~、でも連絡先消したりとかは事前に言ってくれないと困る。お前、どうせ高瀬さんブロックしたんだろ。連絡先交換したけど、お前が嫌なら消すし」
高瀬の名前を聞いて眉間に皺が寄る。高瀬と樹が繋がっていたということは、高瀬が俺の知らないところで樹に接触していたということだ。
高瀬には二度と樹に近付くなと念を押したはずなのに。あのクズ女め。
「偶然会ったんだよ。高校の時のこと謝られただけだよ」
俺の表情から心を読み取ったのか、樹は苦笑いを浮かべている。
「……彼女、めちゃくちゃ蓮のこと理解してんだな。蓮が俺のスマホ勝手に調べて自分の連絡先削除してくることまで予知してたぞ」
「…………」
俺は返す言葉もなく黙り込んだ。高瀬は本当に食えない女だと思う。本当に偶然だったのか。奴は基本的に俺と考え方が同じで、自分勝手で悪質な部類だ。
樹の周囲に群がって来る害虫どもをどうやって駆除しようかと考え込んでいると、樹が俺の顔を覗き込んできた。
そのまま強引に引き寄せられ、唇を重ねられる。
「ん……」
樹は積極的に舌を差し入れて絡めてくる。樹からこんな風に求められることは珍しい。それだけで気分が上昇する自分が単純すぎると思う。
「樹?」
樹はゆっくりと唇を離すと、熱の籠った眼差しで俺を見つめてくる。
「……なんか、ムカついた。お前は、俺のものなんだから。他の奴のことなんて考えるなよ」
唇を尖らせて、拗ねている。
「……」
どうしよう。可愛い。
俺の番が可愛すぎて辛い。
俺は悶えそうになる衝動を抑えながら、真っ赤になって恥ずかしがっている樹を引き寄せて、思いっきり抱き締める。
「俺は樹のものだよ。俺の頭の中は樹でいっぱいだから安心してよ」
囁きながら、樹の項に口づけを落とす。樹は小さく声を漏らすと、俺の腕の中で身体を震わせた。
欠陥だらけの自分を全部認めて受け入れてくれて、不安や孤独といった心の隙間を目一杯の幸せで満たしてくれる。
この世で一番愛しくて大切な存在と出会えたこの素晴らしい奇跡を、『運命』と呼ばずして、何と呼ぶのだろう。
「……蓮、俺も証つけていい?」
樹は俺の首に腕を回すと、甘えるように強請ってくる。
笑顔で頷いてやれば、樹は嬉々として首筋に顔を埋めてきて、俺の項に歯を立てた。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(2件)
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感想ありがとうございます😊
面白かったと言っていただいて嬉しいです✨
読んでいただいた方の感じ方なので、どのようにとらえてもらっても良いと思っているのですが、三嶋は騙されてないかもしれません🤭
10首枷まで拝読させて頂きました!
とっても素敵なお話で読み進める度にドキドキワクワクしキュンが止まりません!🫶🥰
樹の抱えている秘密、それごと愛していそうな蓮の重苦しくも切ない想いが素敵過ぎます❤
10首枷の樹と三嶋の会話シーンに爆笑しました🤭援交疑うって、本当にどこまで本気なんでしょうか?実はめちゃ鋭かったりしたら……お母様の実家も気になるし、突然現れた沢渡さんもめちゃイケメンとか波乱の予感しかしない~!
本格的に寒くなってまいりましたのでお身体ご自愛下さい😊続きを楽しみにお待ちしてます😆🌟
感想ありがとうございます😊
コレ面白いんだろうか……とビクビクしながら投稿してるので、嬉しいです✨