転生してませんが、悪役令嬢の弟です。

フジミサヤ

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14 魔術師団長の息子に抱き締められる。

 アロイスは僕を抱えたまま、ベッドに乗り上げると、そのまま横に寝転んだ。僕は慌てて離れようとしたが、腰を掴まれて動けず、一緒にベッドに横になってしまう。

「は~、楽になった。これで落ち着いて会話できますね」
 アロイスは結局僕を後ろから抱き締めたまま、離れないつもりのようだ。先ほどより密着している気がする。抱きまくら扱いなのかもしれない。


「はあ……もう、いいや。このまま話すよ。アリシアの悪事のことなんだけど…殿下に何を報告したの?」
 僕は諦めてそのままの状態で訊いてみた。アロイスの吐息が耳にかかる。

「レオンハルト殿下から、何も聞いていないんですか?」
「うん。何も…」
「……」
 アロイスはしばらく黙っていたが、やがて諦めたように溜息をついた。

「……分かりました。じゃあ、少しお話ししますね」
 アロイスは僕の髪に顔を埋めながら、静かに語り始めた。

「僕は生徒会メンバーなので、レオンハルト殿下から命じられて、いろいろ諜報活動というか、……調査を担当させられているんです。ローズハート公爵令嬢については、誰かを階段から突き落とした、とか、水をかけた、とか噂はいくつかありますが今のところ決定的な証拠はありません」
「そう……、んっ」

 アロイスは大真面目な声で語っているが、手付きがおかしい。僕の胸を弄りはじめた。しかも片手で揉みながら、もう片方の手で太腿の内側を撫でてくる。


「ただ僕は殿下から、卒業までに絶対に悪事の証拠を見つけろと命じられていまして……」
「どうして?殿下はやっぱりアリシアを疑って…、あっ、んんっ……」

 アロイスの手がどんどん際どいところまで伸びてきて、僕は変な声が出そうになるのを必死で抑えた。でも彼は気にせず話を続ける。

「違いますよ。殿下は婚約破棄したいので、アリシア嬢に何らかの罪を被せる気です。たとえ潔白であっても」
「そんなっ……んっ、ぁっ」

 アロイスの手が僕の股間に伸びてきた。衣服の上から優しく撫でられる。
 これは流石に拒絶すべきだろうか?でも話の続きも気になる……。

「殿下が、そこまでして婚約破棄したい理由を、先輩は聞かされてないんですか?本当に?」
「うっ……し、知らな……、あぅっ」

 アロイスは僕の性器の形を確かめるかのように、何度もなぞってきた。

「殿下は、アリシア嬢と結婚するつもりはないみたいですし。他にご結婚したい方がいらっしゃるようですよ」

「えっ?!それって誰!?」

 僕は驚いて、思わず振り向いてアロイスの顔を見た。すると、至近距離で目が合う。

「本当に分からないんですか?カミル先輩は鈍いなぁ。いやちゃんと伝えてない殿下がバカなのかな……」
 アロイスは呆れたような顔をして言うと、僕の首筋を舐めた。そのまま強く吸い付かれる。

「あっ……、いやっ、んん……」
 アロイスは舌先で耳の後ろをゆっくりと舐めながら、指で僕の乳首を摘まんできた。もう片方の手は相変わらず僕の下半身を刺激し続けている。

 コルネリウスからも鈍感だと言われた。
 みんな僕のことを馬鹿にしてるのかと、やや悲しくなる。
 僕は身悶えながら、必死に考えた。最近王子が一番一緒にいる者といえば……。


「シャルロッテ……」
「え?」
 思わず僕の口から漏れた名前に反応して、アロイスが動きを止めた。

「カミル先輩……、『シャルロッテ』をご存知なんですか?」
「あ、うん。でも最近は会ってない。連れていかれちゃって……」

 同じクラスの『シャルロッテ』が僕と会話をしていると、いつもレオンハルト王子がどこからか現れて、シャルロッテを引き摺っていってしまう。多分シャルロッテが僕と仲良くするのが嫌なのだろう。
 2人は僕なんかより、ずっと長い時間を一緒に過ごしているようだ。僕は悲しくなって俯いた。

 アロイスはそんな僕の様子をみて、「マジか、カミル先輩アレが本命なのか?じゃあ、殿下は無理矢理襲ってんのか…?」と呟いていたが、よく聞こえなかった。


「……カミル先輩、これから俺が言うことは絶対に秘密にして欲しいのですが」
「……?」
 アロイスは僕を腕の中から開放すると、身体を起こしてベッドに座り、真剣な表情になって言った。僕は戸惑ったが、同じように起き上がって、アロイスと向かいあわせになり、小さく肯く。

「『シャルロッテ』はエルスハイマー男爵家で虐待されていた可能性があります」
「ええっ!?」
 僕は驚愕してアロイスを見つめた。

「……どうも言動がおかしくて、心を病んでしまったかもしれず……、今は男爵家から保護されて、その、レオンハルト殿下の……管理下にあります」 
 アロイスは言いにくそうに言葉を濁した。
「そ、そうなんだ……」
「はい」

 レオンハルト王子が、わざわざ男爵家の彼を匿っているということは、それだけ彼は王子にとって大事な人なのだろう。
 やはり、アリシアと婚約破棄して、主人公である『シャルロッテ』と結婚するつもり、ということなのだろうか。

 心臓が痛くて泣きそうになる。この気持ちは何だろう。  
 僕はギュッと目を瞑った。


「カミル先輩、一応確認しますけど、レオンハルト殿下に脅されたりしていませんよね?その……、先日も、先輩、泣きながら嫌がってるのに無理矢理されてたし……」
「い、いや、されてないよっ。…大丈夫だよ?」

 僕は赤くなりながらも慌てて否定したが、アロイスはまだ疑いの目で見てくる。

「もし、本気で殿下から逃げたいなら、相談してくださいね。絶対に一人で行動しないでください」
「ありがとう……。でも、今のところ逃げるつもりはないよ」

「……そうですか。でも、カミル先輩が逃げたくなったときは、僕、力になりますし。もしシャルロッテと会いたいなら、……一応連絡はとれるので、なんとかできると思いますし」
「ありがと……」
 僕はアロイスの気持ちが嬉しくて微笑んだ。

 しかし、アロイスはなぜか苦虫を噛み潰したような顔になった。
「……涙が出てますよ、先輩」
「あ、これは……」
 いつの間にか、僕は泣いていたらしい。慌てて目元を拭う。

 アロイスは軽くため息をつくと、手を伸ばして僕の頬を撫でてきた。そのまま腕を引き寄せられ、抱き締められる。
 
「先輩、これからもここに来てくれたら、美味しいお菓子も準備しますし、情報も流しますよ。ただ、僕も自分の命は惜しいので、レオンハルト殿下には僕の部屋に来たことは黙っていてくださいね」
「……ん」

 耳元で低く囁かれ、僕は身体が震えた。意識がふわふわしてきて、力が抜ける。

 みんな、なぜこんな僕に秘密を作らせるのだろう。僕は上手く立ち回れないのに。
 僕はぼんやりしていた。
 
「先輩?眠くなりましたか?また横になりますか?」

 目を閉じると、アロイスが優しく頭を撫でてくれる。
 唇に何か柔らかいものが触れた気がしたが、もう考える気力は残っていなかった。

 扉が開くような音がして、不意に薔薇の香りに包まれた。頭を撫でてくれていたアロイスの手がとまる。
 そういえば、この部屋には季節はずれの薔薇の花が飾られていた。懐かしい。王子と一緒に過ごした学園の庭では、いつもこの香りが漂っていた。薔薇の香りに包まれているうちに、眠気が襲ってきた。


「……やばい、魔王降臨じゃん。なんで連れ込んでるのがバレたんだろ。……詰んだ」
 僕の意識はそこで途切れた。
 最後に聞こえたのは、絶望に塗れたアロイスの声だった。


 僕がアロイスの部屋を訪れたのはその日が最初で最後になった。
 僕はその後、学園でアロイスの姿を見ることができなくなった。
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