転生してませんが、悪役令嬢の弟です。

フジミサヤ

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28 第一王子にお仕置きされる。


 レオンハルト王子に連れてこられたのは、パーティー会場である広間から少し離れた、いつもの庭園だった。今の季節は手入れされた花壇に色とりどりの花が咲き乱れ、甘い香りが漂っている。ただ春とはいえ、夜になるとかなり冷え込む。吐く息が白い。



「カミル、口あけて」

 王子から後頭部を押さえつけられ、優しい声で命じられた。

「い、いや……です」
 僕は顔を背けて抵抗した。命じられた内容が恐ろしすぎる。とんでもないお仕置きだ。

「ダメだよ、カミル」
「うう……だって……」
 僕が弱っている隙に背中に手を回され、グッと腕を固定される。もう逃げられない。

「カミル、はい、あーん」
 僕はイヤイヤと首を振るが、王子は僕の顎をつかんで無理矢理口を開けさせた。
 口の中に柔らかい何かをねじ込まれる。

「んん!あ、やあっ」
 僕は思わず悲鳴を上げながら、吐き出そうするが、王子は許してくれなかった。再び口の中に押し込まれる。

「噛まないようにね。吐き出すのも駄目だ。奥まで入れるよ」
「ん、んんっ……」

 僕は涙を流しながら、従うしかなかった。喉奥が刺激され、息が苦しくなる。僕は泣きながら絶えた。するとソレが口の中でゆっくりと弾け、苦みのある液体が口に広がった。

「っ!……うう……」
「全部飲んで」
 僕は王子の言葉に従い、吐き出したい衝動を必死で抑えて嚥下した。涙と涎が顎を伝う。

「んん……う、げほ」
 全部飲み切った後、急に視界が回るような感覚に襲われ眩暈を覚えた。次の瞬間には涙が溢れ、身体が震え出す。

「カミル、大丈夫?よく頑張ったね」
 王子は優しく頭を撫でてくれた。

「う、うう……で、でんかぁ…、めちゃくちゃ苦いです……うう……」

 いつものように膝の上に乗せられていた僕は、王子の胸にしがみついて、えぐえぐと泣いた。苦みがまだ口の中に残っている。

 飲ませられたのは、丸薬タイプの薬剤だった。液体のままだと飲めない重病人でも、丸薬のまま口の中に入れてしまえば、中でそのうち溶けてしまうとかで、高価なものらしい。「ちょっと苦いけど、回復効果もあるから」と王子がその薬剤を取り出した瞬間、僕は逃げ出そうとしたが、アッサリ王子に拘束され、脱走は失敗に終わった。


「卒業式に出席できないほど、体調悪いんでしょ?出席できなくて残念だったね。これ体力回復によく効くから」
「ち、ちが……うぅ……」
 まさか仮病でしたとは、今さら言えない。嘘をついた罰が当たってしまった。


 どんなに素晴らしい効果があろうが僕には関係ない。薬の類はとにかく苦いのだ。
 僕は甘味が大好物なのだが、反比例して、苦味は全く受け付けない。

 子供の頃、父上が南国の珍しい果実『ゴーヤ』を手に入れたとかで、厨房に沢山あったのを、ツマミ食いをしたことがあった。口に入れて噛んだ瞬間、あまりの苦さに悶絶して僕は卒倒した。アレが果実なんて詐欺だ。世の中には恐ろしい食べ物が転がっていることを学ぶと同時に、僕の中で『ゴーヤ』は禁忌となった。
 それ以来、苦味がトラウマとなっている。体力は回復しても精神的には大ダメージを負ってしまう。僕にとっては毒薬と同じだ。


「カミル、泣かないで。本当に苦手なんだね」
 王子は、泣き続ける僕の背中を優しく撫でてくれた。

「で、でんかぁ……もう許してください。口の中が苦くて死にそうです…」
 僕は王子の胸にすがりついて懇願する。これ以上苦味の薬は飲みたくない。本当に拷問だ。

「うーん、しょうがないなあ。じゃあ、終わりにするから顔あげて」
 王子は僕の顎をつかむと、上を向かせた。僕はまだ涙が止まらない状態で、瞳を潤ませて王子を見つめた。情けない表情になっているだろうと思うと恥ずかしくなる。
 再び口に何か、丸い塊のような物を押し込まれた。

「んんん……っ」
 反射的に身体が強張るが、すぐに王子に口を塞がれる。今度は硬い物を入れられた。
 僕はその感触に覚えがあった。舌で押し返そうとするが、ゆっくりと口の中で形が変わるのを感じると、すぐに甘さが広がった。飴玉だったようだ。甘くて美味しい……と思うと、自然に涙が止まってしまった。我ながら単純で現金なものだ。

「ん……」
 口の中で、飴が少しずつ溶けていく。僕の舌の動きに合わせるかのように、王子の舌が動いて絡みついてきた。その感触が心地よくて、僕はさらに夢中になっていく。口内をまさぐられ、頭がぼんやりとする頃には口の中は空っぽになってしまったようだ。口寂しくなって舌で追ってしまうが、もうそこに何もないことが分かると再び涙が溢れてきた。
 王子の唇がゆっくりと離れ、ますます寂しくなる。


「カミル」
 王子に頭を撫でられながら、耳元で名前を囁かれた。


「……ずっと一緒にいたいと言ってくれたのは嘘だった?」

 王子は静かに尋ねた。声に哀しみが滲んでいる。
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