転生してませんが、悪役令嬢の弟です。

フジミサヤ

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30 悪役令嬢と対峙する。

 学園に入学後、転校生が編入してくると判明したとき、アリシアからゲームの『主人公』について、聞かされたことがある。
 走馬灯のようにその時の記憶が蘇った。

 

「『主人公』は、ひと言でいうとゆるゆるビッチね」
 アリシアは淡々とした口調で語った。

 僕はアリシアの発した単語の意味が分からず首を傾げた。オヤツのドーナツを頬張ることに忙しくて、あまり聞いていなかったのもある。

「外見は庇護欲を煽る、小動物系天然美少女。中身は男を簡単に誑し込む小悪魔ビッチ。無自覚な分たちが悪いのよ」
「ふ~ん?」
 
 アリシアは指を折りながら『主人公』の特徴をあげていくが、僕の頭はもうドーナツのことで一杯だ。甘いクリームが入ったものとシナモンがかかったもの……交互に食べるのって美味しすぎる。


「『白薔薇学園物語』は18禁の乙女ゲームだし、そういう仕様っちゃそうなんだけど。『主人公』はもう酷くて、誰彼構わず無抵抗で簡単に触らせるわ、拒まないわ、攻略対象者達の膝の上でイチャイチャするわ……冷静に考えたら、第一王子なんて婚約者いるのに、『好きです!愛してます!抱いてください!!』って涙目で迫るなんてありえないわ。それを拒めず受け入れちゃう王子も問題だけど。あんたら学園内でヤッてんじゃないわ!順序ってもんがあるでしょ!!って何度突っ込んだことか……」

 アリシアは、『主人公』の所業を思い出して苛立っているのか、持っていた紅茶カップに力が入って割れてしまいそうだ。
 しかし、文句を言いながらもシッカリ『ゲーム』をやりこんでたんだな。アリシアもよく分からないなと思いながら僕はドーナツを頬張った。

「私『第一王子ルート』は『主人公』のあまりの流されビッチぶりにイライラするから、あんまり選んでなかったのよね。すぐバッドエンドに飛ぶし、鬱展開で全然楽しめないし」
 アリシアは心底嫌そうに呟く。

「『バッドエンド』って何?美味しいの?」
 僕はドーナツを飲み込んでから問いかけた。

「全く美味しくないわ。他の攻略対象者達とイチャイチャしまくる『主人公』にキレた『第一王子』がヤンデレ化して、お仕置きと称して卒業パーティで泣き喚く『主人公』を裸にひん剥いて、他の攻略対象者や大勢の貴族達の前で、公開陵辱よ。その後は首輪つけられて監禁コースね。まあ一部のマニアにはウケてるけど」
 アリシアは無表情で恐ろしいことを語る。

「うわ、何かよく分からないこど、こわーい!」
 僕は最後のドーナツを口の中に放り込み、モギュモギュと咀嚼しながら、適当に答えた。ドーナツ美味しい。

 その時はアリシアの言ってることの意味が分からずマトモに聞いてなかったし、僕には関係ないと思っていた。



 
※※※

「どうしてこうなった……」


 僕は卒業パーティが開かれている学園の大広間で、大勢の貴族達を前にレオンハルト王子に抱き寄せられ、アリシアと対峙していた。


「カミル、どうかした?何か思い出した?」
 王子は、僕の耳元で優しく囁いた。
「い、いえ、何でもないです……」
 僕は首を左右に振って否定しながら青ざめていた。


 さっき王子から「お仕置き」って言われたけど、アレ薬飲まされたことだよね?お仕置き終わってるよね?
「裸にしてしまいたい」って言われたけど、言葉のあやだよね?
 ていうか、王子は僕を「閉じ込めたい」とか言ってたような……。


 ダメだ。
 ピースが揃いすぎてて目眩がする。




「アリシア、君から『シャルロッテ』への暴力行為が確認されている。淑女としてあるまじき行為だ。『シャルロッテ』は貴重な聖魔法の使い手だが、君からの行為で精神を病んでしまい、本来の力が発揮できない状況だ。この罪は重い。信頼性のある証言や証拠もあるよ」
 王子はアリシアを見据えて静かに告げた。


「なるほど、そうくるのね」

 アリシアは小声で呟くと、薄目でフランツを睨みつけた。フランツは気まずげに目を逸らす。
 『シャルロッテ』と名乗っていたフランツであれば、アリシアから何度も殴りつけられているのを僕も目撃している。強ち真っ赤な嘘とも言えない。


「……それから、上手に隠していたけれど、カミルへの数々の罵詈雑言もあったと聞いている」

 王子は僕を抱き締める腕に力を入れた。僕は身を縮こまらせた。

 アリシアは確かに口は悪いが、僕は正直彼女に何を言われてもそんなに気にしてない。むしろBGMとして聞き流すこともあるくらいだ。


「それで?私を処刑でもするおつもりですか?」
 アリシアは王子を睨みつけながら問いかけた。

 僕は焦って王子を見上げた。自分の今後のことも怖いが、今はアリシアだ。処刑なんて許されない!

「殿下! アリシアは何も悪くありません!!悪いのは全部僕で……」
「……カミルは、優しいね。大丈夫だよ、彼女を処刑なんてしないよ。そんなこと許されないだろう?今後の行動を改めるよう注意するだけだ」

 王子は僕を愛おしそうに見つめながら、安心させるように優しく頭を撫でた。僕は安堵の息を漏らすが、次の王子の言葉に凍りつくことになる。

「カミルにはお仕置きするよ」
「……え?」

「カミルも今後の行動改めてもらわないと。言葉だけだと足りないみたいだから、身体に教え込むしかないよね?」

 王子は僕に優しく告げた。僕は彼を見上げたまま、硬直した。目の前が真っ暗になる。
 この状況から、どうやって逃げ出せばいいのか必死に考える。しかし、どうすればいいのか全く思いつかない。

「逃さないよ」
 王子は僕にニッコリと微笑みかけると、僕の腰をゆっくりと撫で上げた。

 僕の中で、緊張の糸がプツンと切れる音がした。



※※※



 僕は反省した。
 もう遅いかもしれないけれど。



 僕には前世の記憶がなく、違う世界から転生してないけど、次にもし違う人生があるなら、絶対に流されたりしない。
 きちんと自分の意思で自分の未来を選択出来る人間になろう。
 僕は固く心に誓った。
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