31 / 32
30 悪役令嬢と対峙する。
学園に入学後、転校生が編入してくると判明したとき、アリシアからゲームの『主人公』について、聞かされたことがある。
走馬灯のようにその時の記憶が蘇った。
「『主人公』は、ひと言でいうとゆるゆるビッチね」
アリシアは淡々とした口調で語った。
僕はアリシアの発した単語の意味が分からず首を傾げた。オヤツのドーナツを頬張ることに忙しくて、あまり聞いていなかったのもある。
「外見は庇護欲を煽る、小動物系天然美少女。中身は男を簡単に誑し込む小悪魔ビッチ。無自覚な分たちが悪いのよ」
「ふ~ん?」
アリシアは指を折りながら『主人公』の特徴をあげていくが、僕の頭はもうドーナツのことで一杯だ。甘いクリームが入ったものとシナモンがかかったもの……交互に食べるのって美味しすぎる。
「『白薔薇学園物語』は18禁の乙女ゲームだし、そういう仕様っちゃそうなんだけど。『主人公』はもう酷くて、誰彼構わず無抵抗で簡単に触らせるわ、拒まないわ、攻略対象者達の膝の上でイチャイチャするわ……冷静に考えたら、第一王子なんて婚約者いるのに、『好きです!愛してます!抱いてください!!』って涙目で迫るなんてありえないわ。それを拒めず受け入れちゃう王子も問題だけど。あんたら学園内でヤッてんじゃないわ!順序ってもんがあるでしょ!!って何度突っ込んだことか……」
アリシアは、『主人公』の所業を思い出して苛立っているのか、持っていた紅茶カップに力が入って割れてしまいそうだ。
しかし、文句を言いながらもシッカリ『ゲーム』をやりこんでたんだな。アリシアもよく分からないなと思いながら僕はドーナツを頬張った。
「私『第一王子ルート』は『主人公』のあまりの流されビッチぶりにイライラするから、あんまり選んでなかったのよね。すぐバッドエンドに飛ぶし、鬱展開で全然楽しめないし」
アリシアは心底嫌そうに呟く。
「『バッドエンド』って何?美味しいの?」
僕はドーナツを飲み込んでから問いかけた。
「全く美味しくないわ。他の攻略対象者達とイチャイチャしまくる『主人公』にキレた『第一王子』がヤンデレ化して、お仕置きと称して卒業パーティで泣き喚く『主人公』を裸にひん剥いて、他の攻略対象者や大勢の貴族達の前で、公開陵辱よ。その後は首輪つけられて監禁コースね。まあ一部のマニアにはウケてるけど」
アリシアは無表情で恐ろしいことを語る。
「うわ、何かよく分からないこど、こわーい!」
僕は最後のドーナツを口の中に放り込み、モギュモギュと咀嚼しながら、適当に答えた。ドーナツ美味しい。
その時はアリシアの言ってることの意味が分からずマトモに聞いてなかったし、僕には関係ないと思っていた。
※※※
「どうしてこうなった……」
僕は卒業パーティが開かれている学園の大広間で、大勢の貴族達を前にレオンハルト王子に抱き寄せられ、アリシアと対峙していた。
「カミル、どうかした?何か思い出した?」
王子は、僕の耳元で優しく囁いた。
「い、いえ、何でもないです……」
僕は首を左右に振って否定しながら青ざめていた。
さっき王子から「お仕置き」って言われたけど、アレ薬飲まされたことだよね?お仕置き終わってるよね?
「裸にしてしまいたい」って言われたけど、言葉のあやだよね?
ていうか、王子は僕を「閉じ込めたい」とか言ってたような……。
ダメだ。
ピースが揃いすぎてて目眩がする。
「アリシア、君から『シャルロッテ』への暴力行為が確認されている。淑女としてあるまじき行為だ。『シャルロッテ』は貴重な聖魔法の使い手だが、君からの行為で精神を病んでしまい、本来の力が発揮できない状況だ。この罪は重い。信頼性のある証言や証拠もあるよ」
王子はアリシアを見据えて静かに告げた。
「なるほど、そうくるのね」
アリシアは小声で呟くと、薄目でフランツを睨みつけた。フランツは気まずげに目を逸らす。
『シャルロッテ』と名乗っていたフランツであれば、アリシアから何度も殴りつけられているのを僕も目撃している。強ち真っ赤な嘘とも言えない。
「……それから、上手に隠していたけれど、カミルへの数々の罵詈雑言もあったと聞いている」
王子は僕を抱き締める腕に力を入れた。僕は身を縮こまらせた。
アリシアは確かに口は悪いが、僕は正直彼女に何を言われてもそんなに気にしてない。むしろBGMとして聞き流すこともあるくらいだ。
「それで?私を処刑でもするおつもりですか?」
アリシアは王子を睨みつけながら問いかけた。
僕は焦って王子を見上げた。自分の今後のことも怖いが、今はアリシアだ。処刑なんて許されない!
「殿下! アリシアは何も悪くありません!!悪いのは全部僕で……」
「……カミルは、優しいね。大丈夫だよ、彼女を処刑なんてしないよ。そんなこと許されないだろう?今後の行動を改めるよう注意するだけだ」
王子は僕を愛おしそうに見つめながら、安心させるように優しく頭を撫でた。僕は安堵の息を漏らすが、次の王子の言葉に凍りつくことになる。
「カミルにはお仕置きするよ」
「……え?」
「カミルも今後の行動改めてもらわないと。言葉だけだと足りないみたいだから、身体に教え込むしかないよね?」
王子は僕に優しく告げた。僕は彼を見上げたまま、硬直した。目の前が真っ暗になる。
この状況から、どうやって逃げ出せばいいのか必死に考える。しかし、どうすればいいのか全く思いつかない。
「逃さないよ」
王子は僕にニッコリと微笑みかけると、僕の腰をゆっくりと撫で上げた。
僕の中で、緊張の糸がプツンと切れる音がした。
※※※
僕は反省した。
もう遅いかもしれないけれど。
僕には前世の記憶がなく、違う世界から転生してないけど、次にもし違う人生があるなら、絶対に流されたりしない。
きちんと自分の意思で自分の未来を選択出来る人間になろう。
僕は固く心に誓った。
走馬灯のようにその時の記憶が蘇った。
「『主人公』は、ひと言でいうとゆるゆるビッチね」
アリシアは淡々とした口調で語った。
僕はアリシアの発した単語の意味が分からず首を傾げた。オヤツのドーナツを頬張ることに忙しくて、あまり聞いていなかったのもある。
「外見は庇護欲を煽る、小動物系天然美少女。中身は男を簡単に誑し込む小悪魔ビッチ。無自覚な分たちが悪いのよ」
「ふ~ん?」
アリシアは指を折りながら『主人公』の特徴をあげていくが、僕の頭はもうドーナツのことで一杯だ。甘いクリームが入ったものとシナモンがかかったもの……交互に食べるのって美味しすぎる。
「『白薔薇学園物語』は18禁の乙女ゲームだし、そういう仕様っちゃそうなんだけど。『主人公』はもう酷くて、誰彼構わず無抵抗で簡単に触らせるわ、拒まないわ、攻略対象者達の膝の上でイチャイチャするわ……冷静に考えたら、第一王子なんて婚約者いるのに、『好きです!愛してます!抱いてください!!』って涙目で迫るなんてありえないわ。それを拒めず受け入れちゃう王子も問題だけど。あんたら学園内でヤッてんじゃないわ!順序ってもんがあるでしょ!!って何度突っ込んだことか……」
アリシアは、『主人公』の所業を思い出して苛立っているのか、持っていた紅茶カップに力が入って割れてしまいそうだ。
しかし、文句を言いながらもシッカリ『ゲーム』をやりこんでたんだな。アリシアもよく分からないなと思いながら僕はドーナツを頬張った。
「私『第一王子ルート』は『主人公』のあまりの流されビッチぶりにイライラするから、あんまり選んでなかったのよね。すぐバッドエンドに飛ぶし、鬱展開で全然楽しめないし」
アリシアは心底嫌そうに呟く。
「『バッドエンド』って何?美味しいの?」
僕はドーナツを飲み込んでから問いかけた。
「全く美味しくないわ。他の攻略対象者達とイチャイチャしまくる『主人公』にキレた『第一王子』がヤンデレ化して、お仕置きと称して卒業パーティで泣き喚く『主人公』を裸にひん剥いて、他の攻略対象者や大勢の貴族達の前で、公開陵辱よ。その後は首輪つけられて監禁コースね。まあ一部のマニアにはウケてるけど」
アリシアは無表情で恐ろしいことを語る。
「うわ、何かよく分からないこど、こわーい!」
僕は最後のドーナツを口の中に放り込み、モギュモギュと咀嚼しながら、適当に答えた。ドーナツ美味しい。
その時はアリシアの言ってることの意味が分からずマトモに聞いてなかったし、僕には関係ないと思っていた。
※※※
「どうしてこうなった……」
僕は卒業パーティが開かれている学園の大広間で、大勢の貴族達を前にレオンハルト王子に抱き寄せられ、アリシアと対峙していた。
「カミル、どうかした?何か思い出した?」
王子は、僕の耳元で優しく囁いた。
「い、いえ、何でもないです……」
僕は首を左右に振って否定しながら青ざめていた。
さっき王子から「お仕置き」って言われたけど、アレ薬飲まされたことだよね?お仕置き終わってるよね?
「裸にしてしまいたい」って言われたけど、言葉のあやだよね?
ていうか、王子は僕を「閉じ込めたい」とか言ってたような……。
ダメだ。
ピースが揃いすぎてて目眩がする。
「アリシア、君から『シャルロッテ』への暴力行為が確認されている。淑女としてあるまじき行為だ。『シャルロッテ』は貴重な聖魔法の使い手だが、君からの行為で精神を病んでしまい、本来の力が発揮できない状況だ。この罪は重い。信頼性のある証言や証拠もあるよ」
王子はアリシアを見据えて静かに告げた。
「なるほど、そうくるのね」
アリシアは小声で呟くと、薄目でフランツを睨みつけた。フランツは気まずげに目を逸らす。
『シャルロッテ』と名乗っていたフランツであれば、アリシアから何度も殴りつけられているのを僕も目撃している。強ち真っ赤な嘘とも言えない。
「……それから、上手に隠していたけれど、カミルへの数々の罵詈雑言もあったと聞いている」
王子は僕を抱き締める腕に力を入れた。僕は身を縮こまらせた。
アリシアは確かに口は悪いが、僕は正直彼女に何を言われてもそんなに気にしてない。むしろBGMとして聞き流すこともあるくらいだ。
「それで?私を処刑でもするおつもりですか?」
アリシアは王子を睨みつけながら問いかけた。
僕は焦って王子を見上げた。自分の今後のことも怖いが、今はアリシアだ。処刑なんて許されない!
「殿下! アリシアは何も悪くありません!!悪いのは全部僕で……」
「……カミルは、優しいね。大丈夫だよ、彼女を処刑なんてしないよ。そんなこと許されないだろう?今後の行動を改めるよう注意するだけだ」
王子は僕を愛おしそうに見つめながら、安心させるように優しく頭を撫でた。僕は安堵の息を漏らすが、次の王子の言葉に凍りつくことになる。
「カミルにはお仕置きするよ」
「……え?」
「カミルも今後の行動改めてもらわないと。言葉だけだと足りないみたいだから、身体に教え込むしかないよね?」
王子は僕に優しく告げた。僕は彼を見上げたまま、硬直した。目の前が真っ暗になる。
この状況から、どうやって逃げ出せばいいのか必死に考える。しかし、どうすればいいのか全く思いつかない。
「逃さないよ」
王子は僕にニッコリと微笑みかけると、僕の腰をゆっくりと撫で上げた。
僕の中で、緊張の糸がプツンと切れる音がした。
※※※
僕は反省した。
もう遅いかもしれないけれど。
僕には前世の記憶がなく、違う世界から転生してないけど、次にもし違う人生があるなら、絶対に流されたりしない。
きちんと自分の意思で自分の未来を選択出来る人間になろう。
僕は固く心に誓った。
あなたにおすすめの小説
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。