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今日から赤の他人

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「じゃあな!」
 浩史が浮足立った様子で、踵を返して南へと続く道……太陽のある方を南と仮定して……を進んでいく。
「ちょっと、待って、異世界って、どうやって帰るの?」
 浩史が振り返って眉根を寄せる。
「知らねぇし、俺は帰る気ねぇし。チート能力でハーレム世界だぜ?っていうか、俺についてくるなよ?助けてとか言われたって助けねからな?」
 は?
 ハーレム?何を言ってるの?
「婚約破棄したんだから、赤の他人。お前みたいな婚約者がいたって過去さえ恥ずかしいから近づくな。声をかけるな。誰かに俺と知り合いとかも言うな、お前はあっちに行けよ。俺の人生これ以上邪魔するなっ!」
 はぁ?
 私が、いつ浩史の人生を邪魔した?
 はぁ?何言ってるの?本当に、わけが分からないっ!
 こっちこそ、二度と浩史の顔なんて見たくないっ。
 ぷいっと浩史に背を向けて北へと歩き出す。
「ああ、そう、俺は親切だから、一つアドバイスしてやるよ。いわゆるお前、勇者の俺の召還に巻き込んじまったんだろうし。見殺しにしたと思われても寝ざめが悪いからな。とにかくギルドに行け。じゃぁな!」
 浩史の言葉に返事を返さずそのまま速足で歩きだす。
 延々と伸びる道。
 土の色は地球と変わらない。森の木々だって、ピンクの葉っぱというわけではなく緑だし、幹は茶色で空は青で雲は白。
 異世界だって言われたってぴんと来ない。
 けど……。空の月が違う。
 怒りに任せて浩史と離れて歩き出したけれど……。知らない世界で一人でどうしよう。
 不安が胸に押し寄せる。
 立ち止まり、足元に視線を落とす。
 今から、浩史を追いかけようか?
 目に映るのは、土を踏みしめているスニーカーだ。
「土の上でもこの靴なら十分走れる……」
 ジーパンにトレーナー……。とても29歳女子が新宿に足を運ぶオシャレとはいいがたい。本当はもっと春色の綺麗なワンピースとか、かかとのあるサンダルとか……いろいろおしゃれしたかったなぁ。
 でも、浩史の隣に並ぶととてもバランスが悪くて。浩史とおそろいのような服装をしていた。子供のように唐突に浩史は楽しいことを見つける人だったから。「今から山に登ろうぜ」と突然言われたこともあった。「この靴じゃ無理だよ」と言えば舌打ちをされたりもした。それからだったかな。スカートもかかとのある靴もあまりはかなくなったのは。
「……あーあ。貴重な20代。もっと好きにおしゃれしたらよかったな……」
 私と婚約していたことが恥ずかしいだって。
 いい思い出だったとさえ言わないんだ。
 バカみたい。
 ぽたりと、地面に涙が落ちて、すぐに乾いて消えた。
 バカみたい。





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ご覧いただきありがとうございます。

注意1
再び合流するまで、浩史は時々「浩史視点」ということで出てきます。
番外編という場合もありますが、本筋に関係することもありますので、えーっと、本筋に関係するときだけ本筋に関係するよと分かるようにしときます。
腹が立ちつ過ぎて浩史サイドを読みたくないという方への措置となります。
全然気にならないと言う方は関係なくガンガン読み進めてくだされば問題ありません。

注意2
また、15Rに関してまして、保険ではありますが
暴力的なシーンがあります。対モンスターではなく対人なので、耐性が弱い方のために入れてあります。
これも、ちょっと入ってくるかなぁーっていう話数には頭のほうに注意書きをするように配慮していくつもりです。


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