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あれ?でも、単にギルド長がS級冒険者って知らないだけ?ギルド長だって登録に来ただけの人に本気で圧力かけるわけないかな?
「北にいた」
エディさんの言葉にどきりとする。北というのは北の戦線のことだろう。
「もう、戦場に送られるのはごめんだ。勝利に酔いしれ陛下は今度は侵略戦争をはじめようとバカなことを考えていると耳にした」
ギルド長が短剣をひっこめた。
「なるほどな。北の戦場帰りか。帰らぬ者も多く、戻ったとて大怪我を負い生活に支障をきたす者も多いと聞く……」
ギルド長が私の頭をポンッと叩いた。
どうやら、息子の父親のことを思って慰めようとしてくれたんだろう。
いや、生死不明だし、そもそも生きていて欲しいとは思うけど、死なないで~と追いすがって泣くような関係ではないんだよ。
「勝利したということに酔いしれ、欲をかく馬鹿どもから逃げ出したってことか。いい判断だ」
ふっとギルド長が笑い、エディさんは苦笑いする。
「だが、これとそれとは話が別だ!」
ギルド長はエディを上から下まで眺めた。
「腕に自信があるなんて言葉ほど信用できない物はない。幾度となくそれで身の丈に合わない依頼を受けて失敗してきたやつを見ている」
あ、うん。受け付けの仕事の一つで冒険者の力量にあった依頼を勧めるというのがある。そのために冒険者には等級があり、依頼書も振り分けられているんだけど。
同じ銀級でも、下の方と上の方じゃ力量も違うし、得意な分野……護衛が得意だとか採取が得意だとかもあっていまだにさっぱりわからない。
ミーニャさん曰く「銀級くらいになれば己を分かっている。一番ヤバイのは鈍色から順調に銅級に上がって調子に乗っているやつ」だそうだ。
あっと声が出そうになったよね。私も妊娠騒動が泣ければ順調に銅級に上がっていただろうし、このまま銀級まであっさり上がるんじゃないかなーなんて高をくくっていた。だからこの足踏みはちょうどよかったんだと思う。
「騎士や兵ってのは、対人や連携して戦うことには強いが、変則的な魔物を相手にすると全く役に立たないなんてこともある」
エディさんが頷いた。
「その通りだ。北の戦線では、敵兵に加えて魔物が出たため被害が広がった。はじめは魔物に対抗する術を知らない者がほとんどだったからだ。だが、生き残った者は、魔物にも打ち勝った者だ」
エディさんの青くてきれいな瞳の奥に暗い闇のようなものが浮かんで見える。
……ああ、どれほど北は酷い状況だったんだろう。
彼……一夜の花嫁を求めた彼、クリスの被害仲間略してヒガナーさんも、普段ならまったく気にもしないジンクスを……。望みもしない一夜の花嫁を大金を詰んで仲間のために求めたと言っていた。
いや、大金を詰んだなんてヒガナーさんが言ったわけではないけど。
クリスが大金が手に入ったと持ち逃げしたって話を聞いただけで。大金……って、クリスが大喜びするほどの金額ってどれくらいなんだろうね?
伯爵令嬢の私からせしめとるつもりだった金額……伯爵家の中では割合裕福だったから、それなりの金額だろうし、支払われたお金も相当な額だったのでは?
命の値段だったとしても、支払えるとなると、もしやヒガナーさんはお金持ち……いや、庶民のお金持ちなら戦地に行く必要ないから、貴族の、どうしても戦地に向かう義務みたいなのがある金持ち貴族の……?
「魔物相手でも問題ないってことか。確かに先ほどの反応は悪くなかった」
ああ、私が目で追えなかったあの動き。そういえば、エディはよく止めたね。
まぁ、ギルド長も本当に喉をつくつもりではなく、寸止めしただろうけど。目に留まらぬ速さで剣の鍔で止めてた。
「だが、飛び級はない。どんな実力があろうとも、だ」
ちらりとギルド長が私を見る。おや?私の出番?そうだ、説明。
「昇級には決められた回数の依頼をこなすと昇級試験受験資格が受けられるようになります。試験に合格すれば昇級です。また次の級を目指して依頼をこなしてください。それから……これはとても大切な話なんですが」
ごくりと唾を飲み込む。
「1年間依頼を受けないと、冒険者資格が剥奪になり、また鈍色級からやり直しです」
エディがちょっと驚いた顔をする。
「降格ではなく?再スタートするときにまたやり直し?」
「はい~、そうなんですぅ~」
涙目になりこくこくと頷く。
「1年のうち、依頼を1つでも受ければ資格が剥奪にならないんだ。受けて、失敗した場合は失敗数により降格にはなるが、剥奪にはならない。これには理由があり、引退を申告する制度がないからだ。1年活動がなければ引退扱いってことだ。じゃなきゃ、指名依頼や強制依頼があった時に大変なことになる」
「北にいた」
エディさんの言葉にどきりとする。北というのは北の戦線のことだろう。
「もう、戦場に送られるのはごめんだ。勝利に酔いしれ陛下は今度は侵略戦争をはじめようとバカなことを考えていると耳にした」
ギルド長が短剣をひっこめた。
「なるほどな。北の戦場帰りか。帰らぬ者も多く、戻ったとて大怪我を負い生活に支障をきたす者も多いと聞く……」
ギルド長が私の頭をポンッと叩いた。
どうやら、息子の父親のことを思って慰めようとしてくれたんだろう。
いや、生死不明だし、そもそも生きていて欲しいとは思うけど、死なないで~と追いすがって泣くような関係ではないんだよ。
「勝利したということに酔いしれ、欲をかく馬鹿どもから逃げ出したってことか。いい判断だ」
ふっとギルド長が笑い、エディさんは苦笑いする。
「だが、これとそれとは話が別だ!」
ギルド長はエディを上から下まで眺めた。
「腕に自信があるなんて言葉ほど信用できない物はない。幾度となくそれで身の丈に合わない依頼を受けて失敗してきたやつを見ている」
あ、うん。受け付けの仕事の一つで冒険者の力量にあった依頼を勧めるというのがある。そのために冒険者には等級があり、依頼書も振り分けられているんだけど。
同じ銀級でも、下の方と上の方じゃ力量も違うし、得意な分野……護衛が得意だとか採取が得意だとかもあっていまだにさっぱりわからない。
ミーニャさん曰く「銀級くらいになれば己を分かっている。一番ヤバイのは鈍色から順調に銅級に上がって調子に乗っているやつ」だそうだ。
あっと声が出そうになったよね。私も妊娠騒動が泣ければ順調に銅級に上がっていただろうし、このまま銀級まであっさり上がるんじゃないかなーなんて高をくくっていた。だからこの足踏みはちょうどよかったんだと思う。
「騎士や兵ってのは、対人や連携して戦うことには強いが、変則的な魔物を相手にすると全く役に立たないなんてこともある」
エディさんが頷いた。
「その通りだ。北の戦線では、敵兵に加えて魔物が出たため被害が広がった。はじめは魔物に対抗する術を知らない者がほとんどだったからだ。だが、生き残った者は、魔物にも打ち勝った者だ」
エディさんの青くてきれいな瞳の奥に暗い闇のようなものが浮かんで見える。
……ああ、どれほど北は酷い状況だったんだろう。
彼……一夜の花嫁を求めた彼、クリスの被害仲間略してヒガナーさんも、普段ならまったく気にもしないジンクスを……。望みもしない一夜の花嫁を大金を詰んで仲間のために求めたと言っていた。
いや、大金を詰んだなんてヒガナーさんが言ったわけではないけど。
クリスが大金が手に入ったと持ち逃げしたって話を聞いただけで。大金……って、クリスが大喜びするほどの金額ってどれくらいなんだろうね?
伯爵令嬢の私からせしめとるつもりだった金額……伯爵家の中では割合裕福だったから、それなりの金額だろうし、支払われたお金も相当な額だったのでは?
命の値段だったとしても、支払えるとなると、もしやヒガナーさんはお金持ち……いや、庶民のお金持ちなら戦地に行く必要ないから、貴族の、どうしても戦地に向かう義務みたいなのがある金持ち貴族の……?
「魔物相手でも問題ないってことか。確かに先ほどの反応は悪くなかった」
ああ、私が目で追えなかったあの動き。そういえば、エディはよく止めたね。
まぁ、ギルド長も本当に喉をつくつもりではなく、寸止めしただろうけど。目に留まらぬ速さで剣の鍔で止めてた。
「だが、飛び級はない。どんな実力があろうとも、だ」
ちらりとギルド長が私を見る。おや?私の出番?そうだ、説明。
「昇級には決められた回数の依頼をこなすと昇級試験受験資格が受けられるようになります。試験に合格すれば昇級です。また次の級を目指して依頼をこなしてください。それから……これはとても大切な話なんですが」
ごくりと唾を飲み込む。
「1年間依頼を受けないと、冒険者資格が剥奪になり、また鈍色級からやり直しです」
エディがちょっと驚いた顔をする。
「降格ではなく?再スタートするときにまたやり直し?」
「はい~、そうなんですぅ~」
涙目になりこくこくと頷く。
「1年のうち、依頼を1つでも受ければ資格が剥奪にならないんだ。受けて、失敗した場合は失敗数により降格にはなるが、剥奪にはならない。これには理由があり、引退を申告する制度がないからだ。1年活動がなければ引退扱いってことだ。じゃなきゃ、指名依頼や強制依頼があった時に大変なことになる」
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