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7 俺の青色 ★
◆俺の青色
宿舎の大部屋は、兵士たちのいびきで大合唱だ。
雨の中の樹海を巡回したから、みんな疲れて、ぐっすり眠っている。
紫輝も疲れてはいたが、夜、天誠と泉で会う約束をしているから。ドキドキして、眠りの波は訪れない。
同室の者が全員寝入ったあと。はやる気持ちで、紫輝は宿舎を抜け出した。
見張りの兵がいない、防御塀の前に立ち。ライラに乗って、そこを飛び越える。
いつもは、ライラが疲れちゃうかと思って、泉までの道のりくらいは歩くのだが。今日は乘ったまま、ライラに泉へ向かってもらった。
早く、天誠に会いたくて。
ライラも、気持ちは一緒なのか。空を飛ぶみたいな疾走感の中、大股で樹海を駆け巡り。
あっという間に、泉に到着した。
しがみついていたライラの背中から、紫輝は降りて、岸辺に立つ。
昼間の土砂降りが嘘のように、月がぽっかりと、空に浮かんでいる。
泉に、月の光が映ると。水面にさざめく小波が、チラチラときらめく。綺麗だな…。
ふと、紫輝は。自身の体を見下ろした。
「初デートで、これは、ダメなやつ」
思わず、眉間にしわが寄る。
着替えたから、軍服は汚れていないけど。昼間、樹海で転んで泥だらけになったから、体が薄汚れているような気がする。
いや。基地に戻ったあと、体も拭いたよ? でも、そのときは体が冷え切っていたから、水浴びまではできなかった…。
いやいや、言い訳している場合じゃない。天誠に会うのに、これじゃ、嫌だな。
「ライラ、俺、水浴びするから。好きなところで、寝んねしてていいぞ」
手を前にきっちりそろえて、お座りしていたライラは。紫輝に言われて、その場をグルグル回る。やがて、足の踏み固めに、納得したのか。そこで丸くなって、寝た。
その姿を目端に映し、紫輝は服を全部脱いだ。
この頃、夏の陽気を感じるから、泉に入っても寒くはない。
そうだ、ここが日本なのだとすると。最近の雨季は、やっぱり梅雨だったんだな?
なら、もうすぐ。本当に、うだる夏の暑さがやってくる。
えぇ? やだな。夏は汗かくし、頻繁に水浴びをしなきゃならなくなる。
あぁ、でも。天誠と合流したんだから、もうすぐ元の世界に帰れるんだ。
なら、不便な生活も、あと、ちょっとの我慢。
そう思えば、気力が湧いてきた。
頭まで水に浸かり、体も心も、全部、綺麗になった気がした。
水面から顔を出し、髪を指で梳いて洗う。
相変わらず、ごわごわではねはねだが。泥汚れはなし。頭をふるふる振って、水滴を弾き飛ばした。
うん。気分爽快。
だけど。急に思いついてしまう。
天誠と会う前に、裸になっていたら…。
深い関係になることを、期待しているみたいじゃないか?
どんだけヤル気なんだよって、思われたくないぃ。
急いで、ここを出なければ。そう思った矢先に。
「…紫輝」
声を掛けられ。紫輝はピャッと肩をすくめた。
時すでに遅く。振り返れば、岸辺に天誠が立っている。
ちょっと、驚いた顔をしている。そして、嬉しさがあふれ出すみたいな、笑顔になった。
いや、いや、これは違うんだ…と、言いたいけど。
違くも無く。
紫輝がおろおろしているうちに、天誠は水の中に入ってきた。
以前は、水に入らず、手招きで呼び寄せたのに。今日はためらうことなく、着衣のままで、ざぶざぶと水音をたてて、紫輝に近づいてくる。
そして、ガバッと音がするほどに、激しく裸身を抱き締めた。
「こんな無防備な姿を見せられたら…もう一秒も我慢できない」
その、せつなく、体の奥から絞り出すような、彼の声を聞き。天誠が自分を欲しがっているのだとわかって、嬉しくなった。
誘うつもりでは、なかったが…。
でも、自分も、天誠と抱き合う場面を想像しなかったわけではない。
彼の気持ちを受け入れたときから、自分もそのつもりだ。
「昼間、言っただろ? もう、我慢しなくていいって」
腰まで浸かった泉の中で、ふたりは互いの瞳をみつめ合い。そして、どちらからともなく顔を寄せ。唇を合わせた。
チュッと、ついばむ可愛らしいキスから。すぐに、口腔に舌が入り込む、大人なキスへ移行した。
お互いに、早く欲しい気持ちがダダ洩れだ。
天誠の体は大きいから、腕も長くて。細身の紫輝を抱き締めると、左手は左の肩に、右手は右の腰骨に、悠々と届いて余るほどだ。
彼のたくましさに、紫輝は身をゆだねる。
天誠の舌が、紫輝の舌に、甘えるように寄り添ってきて。結ぶように絡みつく。
ただ、舌を舐め合っているだけなのに、なんでこんなに肌がジンジン痺れ、頭がぼぅっとなるのだろう。
口とは別の場所が、熱くなるのだろう?
じっくり、くちづけを堪能した天誠が、唇をほどく。指先で、ツッと紫輝の頬の輪郭をなぞった。
その慈愛がこもった、ささやかな感触に。紫輝の心は、うずうずしてしまう。
情欲に潤む、黒い瞳。濡れて色気を増す、薄い唇。
彼のすべてが愛おしくて。
早く、天誠に全部預けてしまいたかった。そして、全部奪い尽くして欲しかった。
「紫輝、俺を眞仲と呼べ」
彼にそう言われるが。紫輝は戸惑い、不安げに彼をみつめた。
彼にとっては、どちらも己の名前だ。
でも、紫輝としては。天誠と呼んだ回数の方が、断然多い。
「天誠は、兄弟を意識させる名前だ。俺は、他人が良い。眞仲として、紫輝に、心のままに愛されたい」
言いながら、彼は紫輝の首筋を舐める。舌先で肌をくすぐり。鎖骨へ唇を下ろしていく。
キスしたときから、紫輝は肌がざわざわしていたから、彼の舌のうごめきを、声が出そうなほど気持ち良く感じる。
「…でも、ふぁ」
言葉を紡ごうとしたとき、彼の手が、紫輝の股間に触れた。
反応し、硬くなりかけているモノを、手の中に、やんわりと握り込まれ。
これはエロティックな行為だと、再認識させられる。
確かに、弟に、そんなところを触られるのはちょっと…と思ってしまう。
羞恥心とか、背徳心とか、ましまし。
彼を眞仲だと思えば、その意識はやわらぎ、素直に体を預けられるような気もするけれど…でも…。
「眞仲って呼んだら、天誠に悪い気がして…」
昼間、彼は紫輝とキスするために。天誠という、弟の部分を殺した。
でもその行為は、紫輝の心を深くえぐり、今も痛みを残している。
彼は、天誠なのに。眞仲と呼んだら、今までの天誠を否定して、本当に殺してしまうような…そんな気になるのだ。
しかし彼は、柔らかい微笑みで紫輝の懸念を一蹴する。
「どちらも、俺の名前だよ。紫輝にとっては、まだ二ヶ月半の出来事なのだろうが。俺は、この名で八年暮らしている。眞仲は、もう俺の一部だ。だから、なにも気にすることはない」
紫輝の欲望の実を育てるように、彼の大きな手が、屹立を上下に擦り立てる。根元から、茎をなぞり上げ、先端まで、丁寧に、絶妙な力加減で。
腰の周辺が、じわじわと疼きはじめ。紫輝は、彼の胸元の服を、すがるみたいに握った。
「…ん、でも、だけどぉ…」
「名前なんか、俺はどうでもいいのさ。それよりも、俺たちが体を合わせることに、罪悪感を持ってもらいたくない。俺は、紫輝を欲しがる、ただの男だ。紫輝のすべてを愛したい。紫輝にも、愛してほしい。だから、いろいろな顔を、隠さず俺に見せてくれ。気持ち良ければ、素直に乱れて。寂しかったら、思うまま甘えて。怖かったら…眞仲にしたみたいに、抱きついて、怖いと言えばいい」
彼の手のひらが、背中をまんべんなく撫で。
唇で、肩や首を愛撫され。
あまりの気持ち良さに、うっとりしてしまった。
兄として、弟に乱されるのは、情けないと思ってしまうけど。そんな枷は、もう取っ払ってしまえばいい。
弱い自分も、彼は愛してくれる。
だから紫輝は、彼の望む名を呼んだ。
「…眞仲」
兄の矜持で、弟には、さらけ出したくない部分がある。
でも、彼と愛し合うのに、その部分は邪魔なのだ。
だから、目をつぶろうと思っていた。その部分を見ないように、意識しないように。
それは、兄という名の虚勢で隠してきた、羞恥、未知の恐怖、弟を愛し求める気持ち。
だけど、眞仲になら、目をつぶって誤魔化すのではなく。全部、素直にさらけ出せる。
快楽に溺れ、みっともなく喘いでも。
初めて抱き合うことに、恐れを感じ、怖いと泣いても。
大丈夫、俺を信じて…と言って、己のすべてを受け止めてくれるから。
目の前の男を、存分に愛していい。
目の前の男を、すべて奪い尽くしてもいい。
彼を眞仲と呼ぶのは、そのための儀式だ。
「眞仲が、好き。早く、眞仲が欲しい」
素直な気持ちが、口から出てしまった。
紫輝は、ずっと言いたかったのだ。彼が好きだと。愛していると。
昼間、彼と洞穴でキスしたときから、体が火照り続けていて。それから、長く、長く、彼を求めていた。
でも、さすがに直球すぎた…かな。
我に返ると恥ずかしくて、赤面してしまう。
「紫輝…」
でも、眞仲は優しい笑みを浮かべている。
熱い、吐息交じりの色っぽい声で、名を呼ばれると。紫輝の鼓動は、勝手に高鳴ってしまう。
弱いのだ、彼の声に。
眞仲は紫輝の手を引き、滝の脇にある岩肌にうながした。水位は膝下くらい。
「おいで、ここに手をついて」
言われるまま、両手を岩につけると。お尻を、彼に突き出す格好になってしまい、かなり恥ずかしい。
ひたと、眞仲の指先が、紫輝のすぼまりに当てられる。
なんだか違和感があった。
「ヌルヌルする…なに?」
「アロエだ。この世界には、ローションなんて気の利いたものはないからな。でも、初めての紫輝に、傷をつけたくない。大丈夫、天然成分だから、むしろ体には良い」
アロエから抽出したジェルをまとった眞仲の指は、固く閉ざした蕾の入り口をほぐしていく。くちゅくちゅと音を立て、指が少しずつ中に入り込んでくるのが、わかってしまう。
「紫輝、痛くないか? 嫌じゃ…ない?」
「ん、平気。嫌じゃない。続けろ…よ」
その答えに、眞仲は安堵の息を漏らす。そして、さらに指の本数を増やした。
狭い中を、潤しながら、二本の指を出し入れする。
痛くはないけれど、なんだか、ぞわぞわというか。変な感じで。
気持ち良く…はないな。
そんなことを考えていたとき。背後の眞仲が、左手を紫輝の前に回して、抱き込んだ。
耳の裏からうなじへと、ねっとりと舌を這わせ、紫輝のなめらかな肌を味わっている。
その感触に、快楽が芽吹き。
敏感な肌が、ぞわりと粟立つ。
うなじを舐められているのに、なぜか後孔をなぶる彼の指を、意識してしまう。
「ん…は、ん」
愛撫が気持ち良くて、甘い吐息が漏れるようになってきた。
ついさっきまで、気持ち良さには、程遠いところにいたのに。
眞仲の手が、喉元や腕や腹を、快感を引き出す動きで、撫で回すから。体がどんどん熱くなって。
彼が触れる、それだけで、体が喜んでいるのがわかる。
「紫輝…ここ、いい?」
眞仲の指先が、紫輝の胸に触れた。平坦な胸の上を、ただ撫でているだけ。普段、そこにあることも忘れがちな乳首だ。
手のひらに撫でられても、特になんともなかったのに。
その些細な接触が続くと、だんだん硬くなってきて。芯を持って、プツリと立ち上がった乳首を、指先でいじられていると…くすぐったい、じゃなくて。ヒリヒリ? みたいな。かゆいような。そんな感じがしてくる。
言葉と指で、紫輝は眞仲に、乳首の存在を意識させられた。
「ま、なか? そこ、ばっかり…やぁ…っ」
しつこく、人差し指でコリコリされて、胸の先がムズムズする。
紫輝は、岩肌に指を食い込ませ、じれったい感触に耐えた。
なんで、そんなところが気持ち良いんだ?
つか、羽で、さわさわするみたいな触り方じゃなくて、しっかり触れ!
なんて思っていたら。親指と人差し指で、乳首をキュッと、つままれた。
「あ…はっ」
ビンと、乳首に通った芯に、電流が流れるみたいな、鮮烈な快感が走り抜けた。
そして、後孔にそのままある眞仲の指を、すぼまりが締めつける。
さっきまで、指がそこにあるだけだった。
なのに、下腹部が痺れ、彼の指のうごめきまで、イイと感じてしまう。
「や、じゃないだろ? 紫輝は敏感だな。もう、どこもかしこも…気持ち良さそうだ」
乳輪の周りを撫で回し、ときどき、親指の腹で突起を押し潰す。些細な接触と、過敏な刺激を、交互に繰り返され。紫輝は、じっとしていられない愉悦にさらされた。
胸の悦楽に身悶えしている中、後ろに深く挿し入れられている二本の指が、左右に広げられた。
「あ…んっ」
奥を開かれる感覚に、体がビクンと震えた。
紫輝の体の中には、眞仲の指しか入っていない。
なのに、唐突に、体全体を眞仲に支配されているように感じた。
「な、なんで? 急に…は、そこっ」
指を行き来する、その間に、すごくジンとする場所がある。そこを刺激されると、目の裏に火花が散り。屹立がダイレクトに反応する。鮮やかな快感だった。
感じすぎる。そこは、嫌だ。でも、やめないで。
そんな矛盾した想いに翻弄される。
「すごく柔らかい。紫輝、もう俺を迎えてくれないか?」
興奮に息を弾ませ、眞仲が耳元に囁く。
それがどういう意味か、わからないわけはない。でも、まだうなずけなかった。
「待って、眞仲。お願い…」
胸を探る眞仲の手に、手を重ね。紫輝は、ちらりと彼を振り返る。
「眞仲の顔、見たいんだ」
その訴えに、眞仲はクッと息を吐き出し。後雷から、指を引き抜いた。
情欲に目を潤ませた眞仲は、素早く紫輝を横抱きにし、滝へ向かっていく。
どこへ行くのだろう?
崖の岩肌と、滝の間に、隙間がある。そこに入っていくと、滝の裏側が空洞になっていた。
水も溜まっているが、岸の部分もあって。
眞仲は、岸に紫輝を横たえた。
ふかふかの砂地で、寝ていても背中は痛くない。
腰から下は、水に浸かるが。顔にはかからない、絶妙な配分だ。
広さは大きめのテントくらいだけど、天井が高いので圧迫感はなく。岩壁が火山岩だから、なんかキラキラ光ってて、星空みたいだった。
中から外を見ると、滝が、水のカーテンが掛かっている感じに見え、まるで天蓋のベッドのよう。
いかにもロマンティックなシチュエーションだ。
昼間の洞穴で、眞仲がロマンティックな場所じゃなきゃ…なんて言っていたが、ここだったんだなって察した。
でも、紫輝には、なにより。眞仲の顔を正面に見られて、彼を感じられる、そのことが嬉しいのだ。
「紫輝…なぁ、紫輝…欲しい。早く…」
眞仲が甘えるみたいに、紫輝の首筋に顔を埋めて、囁いた。
大人な眞仲が、余裕なく紫輝を求めてくるから、なんだか可愛いって思ってしまう。
「いいよ。して、眞仲」
紫輝は、眞仲の頭を優しく抱いて、彼をうながした。
でも、了承するとき。本当は、緊張で心臓がバックバクだった。
だって、初めてだから。
無闇に怖い気持ちと。彼が欲しい気持ち。いろいろな心情が混ざり合い、胸が苦しい。
眞仲は、ボタンで留められたズボンの前をくつろげると、すでに隆々と勃起した剛直を外気にさらした。
彼の大きな体格に見合った、剛直を目にし。紫輝は…息を呑む。
「おっきぃ…だ、大丈夫かなぁ…」
のぼせていた体が、一瞬にして冷えた気がした。
でも、逃げ出す気もないけど。
「大丈夫、紫輝の体、とても柔らかいし。絶対に傷つけないから。信じて」
「ん、信じてる。眞仲…ん」
怖じ気を誤魔化すみたいに、キスをして。彼に身をゆだねる。
眞仲はもう一度、指ですぼまりを探るが、間を置かぬうちに、紫輝の膝裏を手で持って、足を開いた。
後孔に眞仲のモノがあてがわれ…。
熱い、と感じた先端が、ゆっくり蕾を押し広げていく。
「は…んっ、は」
眞仲はひと息に進まず、少し進んで、抜いて、また奥へ、という行為を何度も繰り返した。傷つけないよう、紫輝の臀部を両側に開き、時間をかけて剛直を挿入していく。
紫輝も、呼吸を合わせて、彼を受け入れていった。
欲望のままに貫くのではなく、受け入れる紫輝のつらさを、気遣ってくれる。
眞仲に大事にされているのが、紫輝の心に伝わり。
急激に、体の奥が燃える感覚がした。
ついさっきまで、痛みに脅える気持ちがあったのに。身を裂かれてもいいから、早く彼のすべてが欲しい…そんな激しい感情が湧き上がった。
「眞仲、きて…もっと…っあぁ」
紫輝の求めに応じ、眞仲が少し強めに、ズンと突き入れた。
その衝撃にさらわれないように、紫輝は眞仲の首にしがみつく。
彼の太さや熱さ、脈動まで、体の内に感じ取れる。
「ん、眞仲ぁ…ま、まだ? んっ、全部、も、入れろ、よ」
「全部、入っているよ。紫輝のここ、すごく柔らかくて、気持ち良い。俺を、美味しそうに頬張っている」
今、眞仲は動いていないのに、秘蕾がひくひくして、物欲しそうに彼を求めている。その動きが、もぐもぐしているように感じるのだろうか? とちょっと首を傾げた。
「あぁ、本当に…可愛くて。骨までしゃぶり尽くしたいっ」
紫輝の態度にツボって、眞仲が感嘆して呻く。
目の前にある紫輝の桃色の乳首に、御馳走をいただく丁寧さで、舌を這わせた。ちゅぷっと吸いついて、舌先で硬い先端をつんつんする。
「や、いい…だめ、んぁ…あ」
右の乳首は、親指で乳輪を撫でられ。左の乳首は、舌で存分にしゃぶられて。紫輝は無意識に、あられもない声を漏らしていた。
先ほど教えられた胸への愛撫に、すぐに溺れる。
胸の先が、気持ち良いと。秘蕾が連動し、挿入された剛直を締めつけてしまう。その動きは、自分では止められない。むしろ、意識すると、余計にひくひくしちゃうぅ。
「俺、初めてなのに…こんな、良いの、おかしい?」
自分だけが、いやらしい。
眞仲は余裕なのに。なんだか悲しくなってきた。
「おかしくない。紫輝が感じているのは、心の底から俺を受け入れているから。俺に、すべてを許してくれているんだよ。初めてすることは、誰だって怖いものなのに。紫輝は、男前だな」
眞仲は少し腰を引き、ズブと剛直を突き入れる。
ずっと、灼熱の塊を入れたままにされ、内側がくすぶっていた。そこを彼の欲望で抜き差しされ、敏感な粘膜を擦られれば。
あとは燃え上がるだけ。
「本当に? 眞仲ぁ、これで、いいの? 眞仲も、気持ち良い?」
「もちろん、良いに決まっている。とても上手だよ、紫輝」
彼に褒められ、紫輝はふと笑みを浮かべる。
眞仲の触れるところすべてが、快感に塗り替えられていくようだった。彼が入り込む秘所も、彼の長い髪がくすぐる胸も、腰に彼が食い込ませている指先さえも…。
「あ…ん、んぁ、あ」
腰を前後する眞仲の情熱を、紫輝は一身に受けた。彼の剛直を根元まで呑み込み、ずるりと引き抜かれ、また受け入れる。
体の奥底まで、とろ火で炙られるような。
うずうずして、どこか甘ったるくて。濃厚な感覚。
それを、もっと欲しい。
「そこ、好き。眞仲ぁ、好きっ」
ほとんど触られていない紫輝のモノは、硬くしなり。蜜口からは、とろりと先走りをしたたらせている。
もう高みは、すぐそこだった。
本能のままに、紫輝は眞仲を掻き抱き。眞仲も紫輝に応えて、熱烈にくちづける。
互いに舌を絡ませ、甘噛みし、舐め回す。
「あぁ、可愛いよ。もっと、いやらしい顔を見せて…」
『兄さん』と、低い声で耳元に囁かれた。
そのワードに、紫輝は。猛烈な羞恥を引き出された。
兄と弟。
弟に押し倒され、乱される自分。
その場面を、俯瞰で見ているみたいな、いたたまれない感情に支配され。
紫輝は狼狽した。
「な…おまえっ…」
ぎらつく目で紫輝を見下ろし、赤い舌で薄い唇を舐める天誠は…セクシーだった。
しなやかで、美しい。けれど、獰猛な獣。
まるで、翼の生えた黒豹が、紫輝という獲物に襲い掛かるシーン。
実際、彼の瞳は、紫輝を食らい尽くしたいと饒舌に語っていた。
「ねぇ、兄さん。イくときの顔…俺に見せて」
パンと音が鳴るほど、激しく天誠は腰を叩きつけた。そのまま荒っぽく抜き差しされる。
思いっきり甘やかして、心地よい快楽だけをもたらす眞仲と。
情熱の炎で、ひりつく刺激を浴びせる天誠と。
ふたりの愛に翻弄され、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「バッ、あ…天誠、や、やだ…あぁ」
己の熱い精が、屹立の先端近くまでせり上がるのを、紫輝は感じていた。
それは男が、情交の中で、一番、快楽に身を投じたい瞬間でもある。
精を放出したい、それしか考えられなくなる。
だけど、兄として情けない姿をさらしたくない。
そんな思いが脳裏によぎり。
悦楽に没頭しきれず、紫輝は唇を噛んで我慢した。
「んっ、んんっ…」
だが、先走りで濡れる紫輝の蜜口を、天誠は親指でゆるゆる撫でて、兄を追い詰める。
本当に、もうすぐそこまで来ている射精感に身震いし、紫輝は唇の合わせをしどけなく開いた。
「ぁ…見るな。イく、から。天誠…見な、いでぇ…」
「だめ。全部、見るよ。弟の俺に、抱かれて喜ぶ、兄さんのエロ顔…」
弟の熱のこもった視線にさらされ、紫輝は、なんとかこらえようとするけれど。
天誠は紫輝の足を大きく開き、胸につくくらい押しつける。
臀部が浮き上がり、後孔に天誠の剛直がズブリと埋め込まれていくのを見せつけられる。
「あ、あぁ…」
「ほら、兄さん。見て? 今、兄さんのここを愛しているのは、誰だ?」
彼が『ここを』と言ったとき、剛直が引き抜かれ、また挿入される。
ズクズクと擦りたてる。
堅固な愛で、紫輝の中を満たしている。
それを目にし、体感もし。紫輝は身悶えた。
嬉しくて。気持ち良くて。愛おしくて。
禁断を犯す恐れより。彼を。美しい弟を、手に入れる喜びの方が勝った。
もう、兄の体裁など取りつくろえない。
自分に愛を注ぐ者の名を、紫輝は口にした。
「天誠。俺の、ここを、愛しているのは…俺の弟の、天誠っ」
官能にとろけて、舌足らずに己の名を呼ぶ兄の姿を、天誠は満足げに見やる。妖艶な微笑を浮かべた。
「あぁ、兄さん。そうだよ。兄さんを愛で満たすのは、これから、ずっと俺だけだ」
喰らうような激しさで、天誠は紫輝にくちづける。
紫輝も彼に抱きつき、弟に愛される悦楽に身を浸した。
「…して。天誠…あ、もっと、んぁ…」
与えられる快楽を無防備に追いかけ、紫輝は淫らに乱れた。
彼の腰の動きに合わせて、なまめかしく腰を揺らし。しがみつき。燃えて。濡れて。なにもかもさらけ出す。
そして、ひときわ強く、彼に突き入れられたとき。
紫輝の体がビクンと跳ねた。
「あぁ…っ、ん」
思いっきり白濁を飛ばし、紫輝は精を放つ、最高の悦に入る。
そのときの顔を、弟にじっくりと見られてしまった。
だが、その羞恥さえ、紫輝に甘い痺れをもたらす。
「…兄さんっ」
達して小刻みに震える紫輝の中へ、天誠がぐっと、剛直をねじ込んだ。
体の一番深いところに、熱い精を叩きつけられ、紫輝はまた、身をわななかせる。
そのとき。目の前で彼が、翼を広げた。
羽の一枚一枚が、艶やかな黒の美しさ。耳をくすぐる、優しい羽音。眉間を寄せる恍惚の表情。
それは彼が、紫輝だけに見せる、麗しい姿だった。
「ありがとう、兄さん。俺を受け入れてくれて。この日をずっと、待っていた」
甘く、せつなく。そして、哀愁のにじむ声で言われ。紫輝はようやく、天誠の想いに応えられたのだと思い。すごく感動した。
「おまえは、天誠? それとも、眞仲?」
情事の余韻が残る、上気した頬のまま、紫輝は彼に問いかける。
「ふふ、どっちでもいいか。天誠も眞仲も、おまえの全部が俺のものだ」
彼は、高い鼻梁で紫輝の鼻の頭を撫で。ことのほか嬉しそうに笑った。
「それって…天誠とも眞仲ともエッチしたいって宣言? 欲張りだな、兄さんは」
「そうだよ、俺は欲張りなんだ。ふたりとも、俺の愛する人」
紫輝は彼の頬を両手で包み、可愛らしいキスを贈る。
唇をつけたまま、声を出さずに『愛してる』とつぶやくと。
彼はその言葉を呑み込むように、情熱的で、甘ったるいくちづけを返してきたのだ。
★★★★★
滝の裏の洞窟から、泉に戻った紫輝は。情事の跡が色濃く残る体を、清めていた。
着衣のまま、泉で紫輝と戯れてしまった天誠は。当然だが、ずぶ濡れになってしまい。
岸辺に小さな焚火を作り、濡れた軍服を火の前で乾かしている。
もちろんライラは、焚火の前にいち早く陣取り、オレンジ色の炎のそばで、丸くなって寝ています。
焦げる。火に近いと、毛が焦げるから、気をつけてっ。
一糸まとわぬ身になった天誠が、泉の中央にいる紫輝の元へやってくる。
その体を、紫輝はガン見した。
高校生だったときの天誠より、胸筋とか二の腕とかが鍛え上げられていて、すごく格好良い体つきになっているじゃないかぁ? 腹筋も割れてて、シックスパックってやつ。
マジで、うらやましいっ。
でも、ムキムキじゃない。エッチのときは服で隠されていた、バランスの良い美しい肢体。ギリシャ彫刻も顔を真っ青にする、魅惑ボディ。
なに、この完璧さ。殴らせろ。
天誠の腹めがけて、拳を繰り出すと、ペチッて言った。どこの猫パンチ?
「? なんで殴るの? まぁ、いい。兄さん、もっとキスしよ」
そばに来たと同時に、そうするのが自然だという態度で。裸の紫輝を抱き締め、唇を合わせてくる。
紫輝は今、天誠の肩ほども、身長がない。
腰をかがめてキスをする、天誠の太い首に手を回し、紫輝は彼のくちづけに応える。
まぁ、キスはいい。怒っているんじゃなくて、拗ねているだけだから。
毎日、剣を振っているとはいえ、ライラ剣は重くないから。
紫輝の腕は、細いままだ。
天誠のたくましい体には、引き締まっていて美しいとか、大きな体格に憧れるとか、力強さに胸がときめくとか、賛辞の言葉ばかりが思いつくのだが。
それに対して、自分の体のみすぼらしさとか、貧相な感じとか…小ささとか、が際立って。つらい。
男として、もっと大きくなりたいんだけど。どこが? 全部っ。切実にっ。
だけど。天誠に体全部をすっぽりと抱き包まれて、ギュってされると。安心感や幸福感が、ふつふつと湧き上がるので、それはそれで嬉しい。
くちづけを受けながら、そっと目を開ける。
天誠の後ろに、白く輝く大きな月がある。月の明かりが、天誠の体の輪郭を照らし。闇に浮かび上がるように見えて。綺麗だな、と思っていると。
彼も目を開けた。
「…あ」
一瞬だけ見えたもの。紫輝はもう一度、それを確かめたくて。天誠の二の腕をペチペチ叩いた。
「どうした?」
愛する兄との甘いくちづけに、酔いしれていた天誠は。色気がない感じで中断され、少々ムッとしたが。
紫輝が両手を広げ『抱っこ』とせがむから。
その、きゅるんとした猫目で、上目遣いとか。子供みたいな、あどけなさとか。
あまりの可愛さに、鼻血が出そうになった。
「んっ…兄さん。それは…」
反則です。
っつか、そんなヤバ可愛い顔を、誰にも見せていないだろうな? と。ひとり、メラッと炎を燃やす天誠。
特に、なにも考えていない紫輝は。彼に『抱っこ』の説明をする。
「できるだろ? ほら、鷹を乗せるみたいな感じで、腕の上に俺を座らせるやつ。今のおまえならできる」
「…そりゃ、できるけど。こうか?」
天誠は低く屈んで、紫輝の膝裏をすくうようにして、片腕に座らせると。軽々持ち上げた。
軽々と…というところに、男の矜持がズクズク刺激されるけれども。
今の体格差では、致し方なしだ。
なんにせよ、紫輝は天誠よりも頭が上の状況を作りたかったのだ。そうすれば、天誠が上を向くから。
紫輝は天誠の頬に両手を添え、彼の目をのぞき込む。
「…やっぱり」
なにがやっぱりか、わからず。天誠は、ただ目の前の紫輝をみつめた。
「確かに、普段は黒い瞳だけど。月の光が差し込むと、以前のような青色になる。そこの洞窟で、岩肌の光がチラチラと天誠の瞳に映り込んで、宇宙の星みたいだなって思ってたんだけど。そのとき、少し青く見えていたんだ」
天誠の全部が塗り替えられたわけではないとわかり。紫輝は、嬉しさがあふれまくりの笑みを浮かべた。
「そうなのか? 鏡は、この世界では貴重品だし、性能も悪く、色目が綺麗に映らないし。そもそも変容した己の姿など、よく見る気にはならない」
「天誠は、メタモルフォーゼ的な気分なんだな? でも、髪は黒いが、癖がなく透明感あって綺麗だし。母さん譲りの白い肌は、父さん譲りの肌色になったと思えばいいし。逆に、筋肉が引き締まって見えて、男らしいじゃないか。顔の造作は変わっていないし。それに、ここに、天誠の青がある。大好きな、俺の青色が」
手放しで褒められ、天誠は口元をゆるめる。
青をみつけて、興奮しているのか。頬を染め、一生懸命、弟を慰めようとする兄が、愛くるしくてたまらなかった。
「今まで誰も、目が青いなんて言う者はいなかった」
「そうだな。昼間は黒い瞳に見えていた。月の光とか、夜だけ、反応するのかもな?」
「なら、納得できる。この世界では、光源も貴重だから。夜間、誰かに会うようなこともない」
「じゃあ、この青色は、俺だけが知る、俺の青色だな」
彼の頭を、紫輝は優しく腕に抱き、こめかみにそっと、キスを贈る。
己の頭よりも高い位置にある紫輝を見上げ、天誠がまぶしそうに目を細める。
月の光がまぶしいのではない。
いつだって、天誠にとっては。紫輝自身が、光り輝いて見える。まぶしい存在だった。
「昔。兄さんが、俺の目をのぞき込んで、綺麗な青色と言うのが、好きだった。もう、それは望めないことだと思っていたが…」
「綺麗な青色。俺の青色」
愛おしさが募って、紫輝から天誠にキスした。
彼の澄んだ青い瞳が、紫輝は、なにより好きだった。
黒い瞳も、天誠の理知的な面によく似合っていて、素敵だけど。
純粋に、愛する人の名残に出会えて、嬉しいのだ。
「俺の青い瞳も、俺自身も、全部、全部、兄さんのものだよ。だから…紫輝、俺のお嫁さんになって?」
彼に言われ。紫輝は、眞仲に『俺の嫁にする』と言われた日のことを思い出した。
紫輝にとっては、眞仲と出会って、たった一日目に言われた。冗談みたいな台詞だったが。
彼から見れば、八年待ち望んで、ようやくできた、プロポーズだったのだろう。
嫁だなんて、からかうような響きの中に秘められた、言葉と想いの重さ。
それを、紫輝は知り。
胸に、喜びとせつなさがあふれた。
「いいよ。俺、おまえのお嫁さんになる。結婚しよう、天誠」
ふたりは、ひそかに微笑み合い。
月の光だけが見守る中で、厳かに誓いのくちづけを交わした。
みつめ合い。額をすりつけ合い。そして…ちょっとだけ泣き合った。
分け隔てられた時間に、傷つけられた彼の心を。自分がそばにいることで、癒すことができたなら。
そんな願いを込めて。
紫輝は天誠のことを、きつく抱き締めた。
宿舎の大部屋は、兵士たちのいびきで大合唱だ。
雨の中の樹海を巡回したから、みんな疲れて、ぐっすり眠っている。
紫輝も疲れてはいたが、夜、天誠と泉で会う約束をしているから。ドキドキして、眠りの波は訪れない。
同室の者が全員寝入ったあと。はやる気持ちで、紫輝は宿舎を抜け出した。
見張りの兵がいない、防御塀の前に立ち。ライラに乗って、そこを飛び越える。
いつもは、ライラが疲れちゃうかと思って、泉までの道のりくらいは歩くのだが。今日は乘ったまま、ライラに泉へ向かってもらった。
早く、天誠に会いたくて。
ライラも、気持ちは一緒なのか。空を飛ぶみたいな疾走感の中、大股で樹海を駆け巡り。
あっという間に、泉に到着した。
しがみついていたライラの背中から、紫輝は降りて、岸辺に立つ。
昼間の土砂降りが嘘のように、月がぽっかりと、空に浮かんでいる。
泉に、月の光が映ると。水面にさざめく小波が、チラチラときらめく。綺麗だな…。
ふと、紫輝は。自身の体を見下ろした。
「初デートで、これは、ダメなやつ」
思わず、眉間にしわが寄る。
着替えたから、軍服は汚れていないけど。昼間、樹海で転んで泥だらけになったから、体が薄汚れているような気がする。
いや。基地に戻ったあと、体も拭いたよ? でも、そのときは体が冷え切っていたから、水浴びまではできなかった…。
いやいや、言い訳している場合じゃない。天誠に会うのに、これじゃ、嫌だな。
「ライラ、俺、水浴びするから。好きなところで、寝んねしてていいぞ」
手を前にきっちりそろえて、お座りしていたライラは。紫輝に言われて、その場をグルグル回る。やがて、足の踏み固めに、納得したのか。そこで丸くなって、寝た。
その姿を目端に映し、紫輝は服を全部脱いだ。
この頃、夏の陽気を感じるから、泉に入っても寒くはない。
そうだ、ここが日本なのだとすると。最近の雨季は、やっぱり梅雨だったんだな?
なら、もうすぐ。本当に、うだる夏の暑さがやってくる。
えぇ? やだな。夏は汗かくし、頻繁に水浴びをしなきゃならなくなる。
あぁ、でも。天誠と合流したんだから、もうすぐ元の世界に帰れるんだ。
なら、不便な生活も、あと、ちょっとの我慢。
そう思えば、気力が湧いてきた。
頭まで水に浸かり、体も心も、全部、綺麗になった気がした。
水面から顔を出し、髪を指で梳いて洗う。
相変わらず、ごわごわではねはねだが。泥汚れはなし。頭をふるふる振って、水滴を弾き飛ばした。
うん。気分爽快。
だけど。急に思いついてしまう。
天誠と会う前に、裸になっていたら…。
深い関係になることを、期待しているみたいじゃないか?
どんだけヤル気なんだよって、思われたくないぃ。
急いで、ここを出なければ。そう思った矢先に。
「…紫輝」
声を掛けられ。紫輝はピャッと肩をすくめた。
時すでに遅く。振り返れば、岸辺に天誠が立っている。
ちょっと、驚いた顔をしている。そして、嬉しさがあふれ出すみたいな、笑顔になった。
いや、いや、これは違うんだ…と、言いたいけど。
違くも無く。
紫輝がおろおろしているうちに、天誠は水の中に入ってきた。
以前は、水に入らず、手招きで呼び寄せたのに。今日はためらうことなく、着衣のままで、ざぶざぶと水音をたてて、紫輝に近づいてくる。
そして、ガバッと音がするほどに、激しく裸身を抱き締めた。
「こんな無防備な姿を見せられたら…もう一秒も我慢できない」
その、せつなく、体の奥から絞り出すような、彼の声を聞き。天誠が自分を欲しがっているのだとわかって、嬉しくなった。
誘うつもりでは、なかったが…。
でも、自分も、天誠と抱き合う場面を想像しなかったわけではない。
彼の気持ちを受け入れたときから、自分もそのつもりだ。
「昼間、言っただろ? もう、我慢しなくていいって」
腰まで浸かった泉の中で、ふたりは互いの瞳をみつめ合い。そして、どちらからともなく顔を寄せ。唇を合わせた。
チュッと、ついばむ可愛らしいキスから。すぐに、口腔に舌が入り込む、大人なキスへ移行した。
お互いに、早く欲しい気持ちがダダ洩れだ。
天誠の体は大きいから、腕も長くて。細身の紫輝を抱き締めると、左手は左の肩に、右手は右の腰骨に、悠々と届いて余るほどだ。
彼のたくましさに、紫輝は身をゆだねる。
天誠の舌が、紫輝の舌に、甘えるように寄り添ってきて。結ぶように絡みつく。
ただ、舌を舐め合っているだけなのに、なんでこんなに肌がジンジン痺れ、頭がぼぅっとなるのだろう。
口とは別の場所が、熱くなるのだろう?
じっくり、くちづけを堪能した天誠が、唇をほどく。指先で、ツッと紫輝の頬の輪郭をなぞった。
その慈愛がこもった、ささやかな感触に。紫輝の心は、うずうずしてしまう。
情欲に潤む、黒い瞳。濡れて色気を増す、薄い唇。
彼のすべてが愛おしくて。
早く、天誠に全部預けてしまいたかった。そして、全部奪い尽くして欲しかった。
「紫輝、俺を眞仲と呼べ」
彼にそう言われるが。紫輝は戸惑い、不安げに彼をみつめた。
彼にとっては、どちらも己の名前だ。
でも、紫輝としては。天誠と呼んだ回数の方が、断然多い。
「天誠は、兄弟を意識させる名前だ。俺は、他人が良い。眞仲として、紫輝に、心のままに愛されたい」
言いながら、彼は紫輝の首筋を舐める。舌先で肌をくすぐり。鎖骨へ唇を下ろしていく。
キスしたときから、紫輝は肌がざわざわしていたから、彼の舌のうごめきを、声が出そうなほど気持ち良く感じる。
「…でも、ふぁ」
言葉を紡ごうとしたとき、彼の手が、紫輝の股間に触れた。
反応し、硬くなりかけているモノを、手の中に、やんわりと握り込まれ。
これはエロティックな行為だと、再認識させられる。
確かに、弟に、そんなところを触られるのはちょっと…と思ってしまう。
羞恥心とか、背徳心とか、ましまし。
彼を眞仲だと思えば、その意識はやわらぎ、素直に体を預けられるような気もするけれど…でも…。
「眞仲って呼んだら、天誠に悪い気がして…」
昼間、彼は紫輝とキスするために。天誠という、弟の部分を殺した。
でもその行為は、紫輝の心を深くえぐり、今も痛みを残している。
彼は、天誠なのに。眞仲と呼んだら、今までの天誠を否定して、本当に殺してしまうような…そんな気になるのだ。
しかし彼は、柔らかい微笑みで紫輝の懸念を一蹴する。
「どちらも、俺の名前だよ。紫輝にとっては、まだ二ヶ月半の出来事なのだろうが。俺は、この名で八年暮らしている。眞仲は、もう俺の一部だ。だから、なにも気にすることはない」
紫輝の欲望の実を育てるように、彼の大きな手が、屹立を上下に擦り立てる。根元から、茎をなぞり上げ、先端まで、丁寧に、絶妙な力加減で。
腰の周辺が、じわじわと疼きはじめ。紫輝は、彼の胸元の服を、すがるみたいに握った。
「…ん、でも、だけどぉ…」
「名前なんか、俺はどうでもいいのさ。それよりも、俺たちが体を合わせることに、罪悪感を持ってもらいたくない。俺は、紫輝を欲しがる、ただの男だ。紫輝のすべてを愛したい。紫輝にも、愛してほしい。だから、いろいろな顔を、隠さず俺に見せてくれ。気持ち良ければ、素直に乱れて。寂しかったら、思うまま甘えて。怖かったら…眞仲にしたみたいに、抱きついて、怖いと言えばいい」
彼の手のひらが、背中をまんべんなく撫で。
唇で、肩や首を愛撫され。
あまりの気持ち良さに、うっとりしてしまった。
兄として、弟に乱されるのは、情けないと思ってしまうけど。そんな枷は、もう取っ払ってしまえばいい。
弱い自分も、彼は愛してくれる。
だから紫輝は、彼の望む名を呼んだ。
「…眞仲」
兄の矜持で、弟には、さらけ出したくない部分がある。
でも、彼と愛し合うのに、その部分は邪魔なのだ。
だから、目をつぶろうと思っていた。その部分を見ないように、意識しないように。
それは、兄という名の虚勢で隠してきた、羞恥、未知の恐怖、弟を愛し求める気持ち。
だけど、眞仲になら、目をつぶって誤魔化すのではなく。全部、素直にさらけ出せる。
快楽に溺れ、みっともなく喘いでも。
初めて抱き合うことに、恐れを感じ、怖いと泣いても。
大丈夫、俺を信じて…と言って、己のすべてを受け止めてくれるから。
目の前の男を、存分に愛していい。
目の前の男を、すべて奪い尽くしてもいい。
彼を眞仲と呼ぶのは、そのための儀式だ。
「眞仲が、好き。早く、眞仲が欲しい」
素直な気持ちが、口から出てしまった。
紫輝は、ずっと言いたかったのだ。彼が好きだと。愛していると。
昼間、彼と洞穴でキスしたときから、体が火照り続けていて。それから、長く、長く、彼を求めていた。
でも、さすがに直球すぎた…かな。
我に返ると恥ずかしくて、赤面してしまう。
「紫輝…」
でも、眞仲は優しい笑みを浮かべている。
熱い、吐息交じりの色っぽい声で、名を呼ばれると。紫輝の鼓動は、勝手に高鳴ってしまう。
弱いのだ、彼の声に。
眞仲は紫輝の手を引き、滝の脇にある岩肌にうながした。水位は膝下くらい。
「おいで、ここに手をついて」
言われるまま、両手を岩につけると。お尻を、彼に突き出す格好になってしまい、かなり恥ずかしい。
ひたと、眞仲の指先が、紫輝のすぼまりに当てられる。
なんだか違和感があった。
「ヌルヌルする…なに?」
「アロエだ。この世界には、ローションなんて気の利いたものはないからな。でも、初めての紫輝に、傷をつけたくない。大丈夫、天然成分だから、むしろ体には良い」
アロエから抽出したジェルをまとった眞仲の指は、固く閉ざした蕾の入り口をほぐしていく。くちゅくちゅと音を立て、指が少しずつ中に入り込んでくるのが、わかってしまう。
「紫輝、痛くないか? 嫌じゃ…ない?」
「ん、平気。嫌じゃない。続けろ…よ」
その答えに、眞仲は安堵の息を漏らす。そして、さらに指の本数を増やした。
狭い中を、潤しながら、二本の指を出し入れする。
痛くはないけれど、なんだか、ぞわぞわというか。変な感じで。
気持ち良く…はないな。
そんなことを考えていたとき。背後の眞仲が、左手を紫輝の前に回して、抱き込んだ。
耳の裏からうなじへと、ねっとりと舌を這わせ、紫輝のなめらかな肌を味わっている。
その感触に、快楽が芽吹き。
敏感な肌が、ぞわりと粟立つ。
うなじを舐められているのに、なぜか後孔をなぶる彼の指を、意識してしまう。
「ん…は、ん」
愛撫が気持ち良くて、甘い吐息が漏れるようになってきた。
ついさっきまで、気持ち良さには、程遠いところにいたのに。
眞仲の手が、喉元や腕や腹を、快感を引き出す動きで、撫で回すから。体がどんどん熱くなって。
彼が触れる、それだけで、体が喜んでいるのがわかる。
「紫輝…ここ、いい?」
眞仲の指先が、紫輝の胸に触れた。平坦な胸の上を、ただ撫でているだけ。普段、そこにあることも忘れがちな乳首だ。
手のひらに撫でられても、特になんともなかったのに。
その些細な接触が続くと、だんだん硬くなってきて。芯を持って、プツリと立ち上がった乳首を、指先でいじられていると…くすぐったい、じゃなくて。ヒリヒリ? みたいな。かゆいような。そんな感じがしてくる。
言葉と指で、紫輝は眞仲に、乳首の存在を意識させられた。
「ま、なか? そこ、ばっかり…やぁ…っ」
しつこく、人差し指でコリコリされて、胸の先がムズムズする。
紫輝は、岩肌に指を食い込ませ、じれったい感触に耐えた。
なんで、そんなところが気持ち良いんだ?
つか、羽で、さわさわするみたいな触り方じゃなくて、しっかり触れ!
なんて思っていたら。親指と人差し指で、乳首をキュッと、つままれた。
「あ…はっ」
ビンと、乳首に通った芯に、電流が流れるみたいな、鮮烈な快感が走り抜けた。
そして、後孔にそのままある眞仲の指を、すぼまりが締めつける。
さっきまで、指がそこにあるだけだった。
なのに、下腹部が痺れ、彼の指のうごめきまで、イイと感じてしまう。
「や、じゃないだろ? 紫輝は敏感だな。もう、どこもかしこも…気持ち良さそうだ」
乳輪の周りを撫で回し、ときどき、親指の腹で突起を押し潰す。些細な接触と、過敏な刺激を、交互に繰り返され。紫輝は、じっとしていられない愉悦にさらされた。
胸の悦楽に身悶えしている中、後ろに深く挿し入れられている二本の指が、左右に広げられた。
「あ…んっ」
奥を開かれる感覚に、体がビクンと震えた。
紫輝の体の中には、眞仲の指しか入っていない。
なのに、唐突に、体全体を眞仲に支配されているように感じた。
「な、なんで? 急に…は、そこっ」
指を行き来する、その間に、すごくジンとする場所がある。そこを刺激されると、目の裏に火花が散り。屹立がダイレクトに反応する。鮮やかな快感だった。
感じすぎる。そこは、嫌だ。でも、やめないで。
そんな矛盾した想いに翻弄される。
「すごく柔らかい。紫輝、もう俺を迎えてくれないか?」
興奮に息を弾ませ、眞仲が耳元に囁く。
それがどういう意味か、わからないわけはない。でも、まだうなずけなかった。
「待って、眞仲。お願い…」
胸を探る眞仲の手に、手を重ね。紫輝は、ちらりと彼を振り返る。
「眞仲の顔、見たいんだ」
その訴えに、眞仲はクッと息を吐き出し。後雷から、指を引き抜いた。
情欲に目を潤ませた眞仲は、素早く紫輝を横抱きにし、滝へ向かっていく。
どこへ行くのだろう?
崖の岩肌と、滝の間に、隙間がある。そこに入っていくと、滝の裏側が空洞になっていた。
水も溜まっているが、岸の部分もあって。
眞仲は、岸に紫輝を横たえた。
ふかふかの砂地で、寝ていても背中は痛くない。
腰から下は、水に浸かるが。顔にはかからない、絶妙な配分だ。
広さは大きめのテントくらいだけど、天井が高いので圧迫感はなく。岩壁が火山岩だから、なんかキラキラ光ってて、星空みたいだった。
中から外を見ると、滝が、水のカーテンが掛かっている感じに見え、まるで天蓋のベッドのよう。
いかにもロマンティックなシチュエーションだ。
昼間の洞穴で、眞仲がロマンティックな場所じゃなきゃ…なんて言っていたが、ここだったんだなって察した。
でも、紫輝には、なにより。眞仲の顔を正面に見られて、彼を感じられる、そのことが嬉しいのだ。
「紫輝…なぁ、紫輝…欲しい。早く…」
眞仲が甘えるみたいに、紫輝の首筋に顔を埋めて、囁いた。
大人な眞仲が、余裕なく紫輝を求めてくるから、なんだか可愛いって思ってしまう。
「いいよ。して、眞仲」
紫輝は、眞仲の頭を優しく抱いて、彼をうながした。
でも、了承するとき。本当は、緊張で心臓がバックバクだった。
だって、初めてだから。
無闇に怖い気持ちと。彼が欲しい気持ち。いろいろな心情が混ざり合い、胸が苦しい。
眞仲は、ボタンで留められたズボンの前をくつろげると、すでに隆々と勃起した剛直を外気にさらした。
彼の大きな体格に見合った、剛直を目にし。紫輝は…息を呑む。
「おっきぃ…だ、大丈夫かなぁ…」
のぼせていた体が、一瞬にして冷えた気がした。
でも、逃げ出す気もないけど。
「大丈夫、紫輝の体、とても柔らかいし。絶対に傷つけないから。信じて」
「ん、信じてる。眞仲…ん」
怖じ気を誤魔化すみたいに、キスをして。彼に身をゆだねる。
眞仲はもう一度、指ですぼまりを探るが、間を置かぬうちに、紫輝の膝裏を手で持って、足を開いた。
後孔に眞仲のモノがあてがわれ…。
熱い、と感じた先端が、ゆっくり蕾を押し広げていく。
「は…んっ、は」
眞仲はひと息に進まず、少し進んで、抜いて、また奥へ、という行為を何度も繰り返した。傷つけないよう、紫輝の臀部を両側に開き、時間をかけて剛直を挿入していく。
紫輝も、呼吸を合わせて、彼を受け入れていった。
欲望のままに貫くのではなく、受け入れる紫輝のつらさを、気遣ってくれる。
眞仲に大事にされているのが、紫輝の心に伝わり。
急激に、体の奥が燃える感覚がした。
ついさっきまで、痛みに脅える気持ちがあったのに。身を裂かれてもいいから、早く彼のすべてが欲しい…そんな激しい感情が湧き上がった。
「眞仲、きて…もっと…っあぁ」
紫輝の求めに応じ、眞仲が少し強めに、ズンと突き入れた。
その衝撃にさらわれないように、紫輝は眞仲の首にしがみつく。
彼の太さや熱さ、脈動まで、体の内に感じ取れる。
「ん、眞仲ぁ…ま、まだ? んっ、全部、も、入れろ、よ」
「全部、入っているよ。紫輝のここ、すごく柔らかくて、気持ち良い。俺を、美味しそうに頬張っている」
今、眞仲は動いていないのに、秘蕾がひくひくして、物欲しそうに彼を求めている。その動きが、もぐもぐしているように感じるのだろうか? とちょっと首を傾げた。
「あぁ、本当に…可愛くて。骨までしゃぶり尽くしたいっ」
紫輝の態度にツボって、眞仲が感嘆して呻く。
目の前にある紫輝の桃色の乳首に、御馳走をいただく丁寧さで、舌を這わせた。ちゅぷっと吸いついて、舌先で硬い先端をつんつんする。
「や、いい…だめ、んぁ…あ」
右の乳首は、親指で乳輪を撫でられ。左の乳首は、舌で存分にしゃぶられて。紫輝は無意識に、あられもない声を漏らしていた。
先ほど教えられた胸への愛撫に、すぐに溺れる。
胸の先が、気持ち良いと。秘蕾が連動し、挿入された剛直を締めつけてしまう。その動きは、自分では止められない。むしろ、意識すると、余計にひくひくしちゃうぅ。
「俺、初めてなのに…こんな、良いの、おかしい?」
自分だけが、いやらしい。
眞仲は余裕なのに。なんだか悲しくなってきた。
「おかしくない。紫輝が感じているのは、心の底から俺を受け入れているから。俺に、すべてを許してくれているんだよ。初めてすることは、誰だって怖いものなのに。紫輝は、男前だな」
眞仲は少し腰を引き、ズブと剛直を突き入れる。
ずっと、灼熱の塊を入れたままにされ、内側がくすぶっていた。そこを彼の欲望で抜き差しされ、敏感な粘膜を擦られれば。
あとは燃え上がるだけ。
「本当に? 眞仲ぁ、これで、いいの? 眞仲も、気持ち良い?」
「もちろん、良いに決まっている。とても上手だよ、紫輝」
彼に褒められ、紫輝はふと笑みを浮かべる。
眞仲の触れるところすべてが、快感に塗り替えられていくようだった。彼が入り込む秘所も、彼の長い髪がくすぐる胸も、腰に彼が食い込ませている指先さえも…。
「あ…ん、んぁ、あ」
腰を前後する眞仲の情熱を、紫輝は一身に受けた。彼の剛直を根元まで呑み込み、ずるりと引き抜かれ、また受け入れる。
体の奥底まで、とろ火で炙られるような。
うずうずして、どこか甘ったるくて。濃厚な感覚。
それを、もっと欲しい。
「そこ、好き。眞仲ぁ、好きっ」
ほとんど触られていない紫輝のモノは、硬くしなり。蜜口からは、とろりと先走りをしたたらせている。
もう高みは、すぐそこだった。
本能のままに、紫輝は眞仲を掻き抱き。眞仲も紫輝に応えて、熱烈にくちづける。
互いに舌を絡ませ、甘噛みし、舐め回す。
「あぁ、可愛いよ。もっと、いやらしい顔を見せて…」
『兄さん』と、低い声で耳元に囁かれた。
そのワードに、紫輝は。猛烈な羞恥を引き出された。
兄と弟。
弟に押し倒され、乱される自分。
その場面を、俯瞰で見ているみたいな、いたたまれない感情に支配され。
紫輝は狼狽した。
「な…おまえっ…」
ぎらつく目で紫輝を見下ろし、赤い舌で薄い唇を舐める天誠は…セクシーだった。
しなやかで、美しい。けれど、獰猛な獣。
まるで、翼の生えた黒豹が、紫輝という獲物に襲い掛かるシーン。
実際、彼の瞳は、紫輝を食らい尽くしたいと饒舌に語っていた。
「ねぇ、兄さん。イくときの顔…俺に見せて」
パンと音が鳴るほど、激しく天誠は腰を叩きつけた。そのまま荒っぽく抜き差しされる。
思いっきり甘やかして、心地よい快楽だけをもたらす眞仲と。
情熱の炎で、ひりつく刺激を浴びせる天誠と。
ふたりの愛に翻弄され、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「バッ、あ…天誠、や、やだ…あぁ」
己の熱い精が、屹立の先端近くまでせり上がるのを、紫輝は感じていた。
それは男が、情交の中で、一番、快楽に身を投じたい瞬間でもある。
精を放出したい、それしか考えられなくなる。
だけど、兄として情けない姿をさらしたくない。
そんな思いが脳裏によぎり。
悦楽に没頭しきれず、紫輝は唇を噛んで我慢した。
「んっ、んんっ…」
だが、先走りで濡れる紫輝の蜜口を、天誠は親指でゆるゆる撫でて、兄を追い詰める。
本当に、もうすぐそこまで来ている射精感に身震いし、紫輝は唇の合わせをしどけなく開いた。
「ぁ…見るな。イく、から。天誠…見な、いでぇ…」
「だめ。全部、見るよ。弟の俺に、抱かれて喜ぶ、兄さんのエロ顔…」
弟の熱のこもった視線にさらされ、紫輝は、なんとかこらえようとするけれど。
天誠は紫輝の足を大きく開き、胸につくくらい押しつける。
臀部が浮き上がり、後孔に天誠の剛直がズブリと埋め込まれていくのを見せつけられる。
「あ、あぁ…」
「ほら、兄さん。見て? 今、兄さんのここを愛しているのは、誰だ?」
彼が『ここを』と言ったとき、剛直が引き抜かれ、また挿入される。
ズクズクと擦りたてる。
堅固な愛で、紫輝の中を満たしている。
それを目にし、体感もし。紫輝は身悶えた。
嬉しくて。気持ち良くて。愛おしくて。
禁断を犯す恐れより。彼を。美しい弟を、手に入れる喜びの方が勝った。
もう、兄の体裁など取りつくろえない。
自分に愛を注ぐ者の名を、紫輝は口にした。
「天誠。俺の、ここを、愛しているのは…俺の弟の、天誠っ」
官能にとろけて、舌足らずに己の名を呼ぶ兄の姿を、天誠は満足げに見やる。妖艶な微笑を浮かべた。
「あぁ、兄さん。そうだよ。兄さんを愛で満たすのは、これから、ずっと俺だけだ」
喰らうような激しさで、天誠は紫輝にくちづける。
紫輝も彼に抱きつき、弟に愛される悦楽に身を浸した。
「…して。天誠…あ、もっと、んぁ…」
与えられる快楽を無防備に追いかけ、紫輝は淫らに乱れた。
彼の腰の動きに合わせて、なまめかしく腰を揺らし。しがみつき。燃えて。濡れて。なにもかもさらけ出す。
そして、ひときわ強く、彼に突き入れられたとき。
紫輝の体がビクンと跳ねた。
「あぁ…っ、ん」
思いっきり白濁を飛ばし、紫輝は精を放つ、最高の悦に入る。
そのときの顔を、弟にじっくりと見られてしまった。
だが、その羞恥さえ、紫輝に甘い痺れをもたらす。
「…兄さんっ」
達して小刻みに震える紫輝の中へ、天誠がぐっと、剛直をねじ込んだ。
体の一番深いところに、熱い精を叩きつけられ、紫輝はまた、身をわななかせる。
そのとき。目の前で彼が、翼を広げた。
羽の一枚一枚が、艶やかな黒の美しさ。耳をくすぐる、優しい羽音。眉間を寄せる恍惚の表情。
それは彼が、紫輝だけに見せる、麗しい姿だった。
「ありがとう、兄さん。俺を受け入れてくれて。この日をずっと、待っていた」
甘く、せつなく。そして、哀愁のにじむ声で言われ。紫輝はようやく、天誠の想いに応えられたのだと思い。すごく感動した。
「おまえは、天誠? それとも、眞仲?」
情事の余韻が残る、上気した頬のまま、紫輝は彼に問いかける。
「ふふ、どっちでもいいか。天誠も眞仲も、おまえの全部が俺のものだ」
彼は、高い鼻梁で紫輝の鼻の頭を撫で。ことのほか嬉しそうに笑った。
「それって…天誠とも眞仲ともエッチしたいって宣言? 欲張りだな、兄さんは」
「そうだよ、俺は欲張りなんだ。ふたりとも、俺の愛する人」
紫輝は彼の頬を両手で包み、可愛らしいキスを贈る。
唇をつけたまま、声を出さずに『愛してる』とつぶやくと。
彼はその言葉を呑み込むように、情熱的で、甘ったるいくちづけを返してきたのだ。
★★★★★
滝の裏の洞窟から、泉に戻った紫輝は。情事の跡が色濃く残る体を、清めていた。
着衣のまま、泉で紫輝と戯れてしまった天誠は。当然だが、ずぶ濡れになってしまい。
岸辺に小さな焚火を作り、濡れた軍服を火の前で乾かしている。
もちろんライラは、焚火の前にいち早く陣取り、オレンジ色の炎のそばで、丸くなって寝ています。
焦げる。火に近いと、毛が焦げるから、気をつけてっ。
一糸まとわぬ身になった天誠が、泉の中央にいる紫輝の元へやってくる。
その体を、紫輝はガン見した。
高校生だったときの天誠より、胸筋とか二の腕とかが鍛え上げられていて、すごく格好良い体つきになっているじゃないかぁ? 腹筋も割れてて、シックスパックってやつ。
マジで、うらやましいっ。
でも、ムキムキじゃない。エッチのときは服で隠されていた、バランスの良い美しい肢体。ギリシャ彫刻も顔を真っ青にする、魅惑ボディ。
なに、この完璧さ。殴らせろ。
天誠の腹めがけて、拳を繰り出すと、ペチッて言った。どこの猫パンチ?
「? なんで殴るの? まぁ、いい。兄さん、もっとキスしよ」
そばに来たと同時に、そうするのが自然だという態度で。裸の紫輝を抱き締め、唇を合わせてくる。
紫輝は今、天誠の肩ほども、身長がない。
腰をかがめてキスをする、天誠の太い首に手を回し、紫輝は彼のくちづけに応える。
まぁ、キスはいい。怒っているんじゃなくて、拗ねているだけだから。
毎日、剣を振っているとはいえ、ライラ剣は重くないから。
紫輝の腕は、細いままだ。
天誠のたくましい体には、引き締まっていて美しいとか、大きな体格に憧れるとか、力強さに胸がときめくとか、賛辞の言葉ばかりが思いつくのだが。
それに対して、自分の体のみすぼらしさとか、貧相な感じとか…小ささとか、が際立って。つらい。
男として、もっと大きくなりたいんだけど。どこが? 全部っ。切実にっ。
だけど。天誠に体全部をすっぽりと抱き包まれて、ギュってされると。安心感や幸福感が、ふつふつと湧き上がるので、それはそれで嬉しい。
くちづけを受けながら、そっと目を開ける。
天誠の後ろに、白く輝く大きな月がある。月の明かりが、天誠の体の輪郭を照らし。闇に浮かび上がるように見えて。綺麗だな、と思っていると。
彼も目を開けた。
「…あ」
一瞬だけ見えたもの。紫輝はもう一度、それを確かめたくて。天誠の二の腕をペチペチ叩いた。
「どうした?」
愛する兄との甘いくちづけに、酔いしれていた天誠は。色気がない感じで中断され、少々ムッとしたが。
紫輝が両手を広げ『抱っこ』とせがむから。
その、きゅるんとした猫目で、上目遣いとか。子供みたいな、あどけなさとか。
あまりの可愛さに、鼻血が出そうになった。
「んっ…兄さん。それは…」
反則です。
っつか、そんなヤバ可愛い顔を、誰にも見せていないだろうな? と。ひとり、メラッと炎を燃やす天誠。
特に、なにも考えていない紫輝は。彼に『抱っこ』の説明をする。
「できるだろ? ほら、鷹を乗せるみたいな感じで、腕の上に俺を座らせるやつ。今のおまえならできる」
「…そりゃ、できるけど。こうか?」
天誠は低く屈んで、紫輝の膝裏をすくうようにして、片腕に座らせると。軽々持ち上げた。
軽々と…というところに、男の矜持がズクズク刺激されるけれども。
今の体格差では、致し方なしだ。
なんにせよ、紫輝は天誠よりも頭が上の状況を作りたかったのだ。そうすれば、天誠が上を向くから。
紫輝は天誠の頬に両手を添え、彼の目をのぞき込む。
「…やっぱり」
なにがやっぱりか、わからず。天誠は、ただ目の前の紫輝をみつめた。
「確かに、普段は黒い瞳だけど。月の光が差し込むと、以前のような青色になる。そこの洞窟で、岩肌の光がチラチラと天誠の瞳に映り込んで、宇宙の星みたいだなって思ってたんだけど。そのとき、少し青く見えていたんだ」
天誠の全部が塗り替えられたわけではないとわかり。紫輝は、嬉しさがあふれまくりの笑みを浮かべた。
「そうなのか? 鏡は、この世界では貴重品だし、性能も悪く、色目が綺麗に映らないし。そもそも変容した己の姿など、よく見る気にはならない」
「天誠は、メタモルフォーゼ的な気分なんだな? でも、髪は黒いが、癖がなく透明感あって綺麗だし。母さん譲りの白い肌は、父さん譲りの肌色になったと思えばいいし。逆に、筋肉が引き締まって見えて、男らしいじゃないか。顔の造作は変わっていないし。それに、ここに、天誠の青がある。大好きな、俺の青色が」
手放しで褒められ、天誠は口元をゆるめる。
青をみつけて、興奮しているのか。頬を染め、一生懸命、弟を慰めようとする兄が、愛くるしくてたまらなかった。
「今まで誰も、目が青いなんて言う者はいなかった」
「そうだな。昼間は黒い瞳に見えていた。月の光とか、夜だけ、反応するのかもな?」
「なら、納得できる。この世界では、光源も貴重だから。夜間、誰かに会うようなこともない」
「じゃあ、この青色は、俺だけが知る、俺の青色だな」
彼の頭を、紫輝は優しく腕に抱き、こめかみにそっと、キスを贈る。
己の頭よりも高い位置にある紫輝を見上げ、天誠がまぶしそうに目を細める。
月の光がまぶしいのではない。
いつだって、天誠にとっては。紫輝自身が、光り輝いて見える。まぶしい存在だった。
「昔。兄さんが、俺の目をのぞき込んで、綺麗な青色と言うのが、好きだった。もう、それは望めないことだと思っていたが…」
「綺麗な青色。俺の青色」
愛おしさが募って、紫輝から天誠にキスした。
彼の澄んだ青い瞳が、紫輝は、なにより好きだった。
黒い瞳も、天誠の理知的な面によく似合っていて、素敵だけど。
純粋に、愛する人の名残に出会えて、嬉しいのだ。
「俺の青い瞳も、俺自身も、全部、全部、兄さんのものだよ。だから…紫輝、俺のお嫁さんになって?」
彼に言われ。紫輝は、眞仲に『俺の嫁にする』と言われた日のことを思い出した。
紫輝にとっては、眞仲と出会って、たった一日目に言われた。冗談みたいな台詞だったが。
彼から見れば、八年待ち望んで、ようやくできた、プロポーズだったのだろう。
嫁だなんて、からかうような響きの中に秘められた、言葉と想いの重さ。
それを、紫輝は知り。
胸に、喜びとせつなさがあふれた。
「いいよ。俺、おまえのお嫁さんになる。結婚しよう、天誠」
ふたりは、ひそかに微笑み合い。
月の光だけが見守る中で、厳かに誓いのくちづけを交わした。
みつめ合い。額をすりつけ合い。そして…ちょっとだけ泣き合った。
分け隔てられた時間に、傷つけられた彼の心を。自分がそばにいることで、癒すことができたなら。
そんな願いを込めて。
紫輝は天誠のことを、きつく抱き締めた。
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