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22 花龍の能力 ▲
◆花龍の能力
二発の『らいかみっ!』を撃ったことで、体が動かなくなった紫輝を。千夜は、大和に預けた。
そして廣伊の元に駆けだす。
千夜の中には、ある想いだけしかなかった。
『あんたは俺の…俺だけの獲物だ』
ただ、体が動いたのだ。
廣伊の前に立ち、剣を振り上げる。
『俺以外の誰も、あんたを殺させねぇ』
だが剣が振り降ろされる前に、白刃が光り。スパッと、千夜の剣を持つ腕が飛んだ。
自分の体から、手が離れ。
ゆっくりと落ちていく、その過程を。
千夜は他人事のように見やる。
切れた場所から血が噴き出したのを目にし、ようやく、痛みが脳にガンと伝わった。
「あ、あぁ…」
その場にいる誰もが、言葉にはならない悲鳴を上げていた。
でも、当の本人は。それどころではない。
もはや剣を持たぬ右腕を、千夜は左手でおさえ。目の前の男に、体当たりした。
そのとき、相手が振るった切っ先が、千夜の頬をかすめて。
それでも千夜は力で押し込み、その男を地に沈めた。
男は、二十二組の組長、山本だった。
「大和っ、野際っ、お願いっ」
紫輝は、ようやく悲痛な声をあげることができた。
目の前で起きたことが、本当に一瞬のことだったから。
声も、悲鳴も、上げられなくて。
ただ、目を見開いて。
事の顛末を、網膜に焼きつけるしかなかった。
紫輝から離れた千夜は、ただ、廣伊の前に立ったのだ。
その後、血しぶきが。
紫輝の視界を、赤く染める。
山本が、手裏兵の刀で千夜の腕を斬ったのだと。すぐには理解できなかった。
手負いの千夜が、咆哮をあげながら男にぶつかっていき。
制圧したあとに、ようやく。倒されたのが、山本だと知った。
早く、千夜を助けて。
そんな気持ちで、紫輝は叫び。
それに反応した、大和と野際が、千夜の元に駆けつけ。
山本を捕縛した。
山本は、刀で千夜を斬った。
剣だったら、骨折くらいで済んだかもしれないのに。刀は、切り離すのに特化している。
紫輝は、そのとき千夜のことしか見ていなかった。
出血が激しい。早く止血しないと。
そう思うのだが、どうしても足に力が入らなくて。
動けないことが悔しくて。
体がどうなってもいいから、千夜のところに行きたい。
でも、行けなくて。
奥歯を噛み締め、ギシリと音が鳴る。
体の奥から湧きあがる震えを、おさえられなかった。
だから…廣伊のことを見ていなかったのだ。
千夜が失血と痛みのショックで、その場に体を横たえ、うずくまっている。
そこに廣伊は駆けつけ、彼の体を抱き締めた。
表情の乏しい廣伊が、目を見開き、唇を震わせている。
「あああああぁっ」
突如あがった、廣伊の叫び。それとともに、緑のオーラが天に突き抜けていった。
ゴゴゴッと地響きが立ち、地面が大きく揺れる。
紫輝は、一瞬地震だと思ったのだが。
違う。それが廣伊の行いだと、すぐ気づいた。
「紫輝様、ご無礼を…」
大和が駆けつけ、動けない紫輝を素早く横抱きにして、その場から離脱する。
廣伊を中心にして、地面に放射状のヒビが入り。そこから巨大なタコの足を思わせる、うねうねした緑色のなにかが出てきた。
その、うねり狂った緑の物体が。地に伏していた兵を、薙ぎ払っていく。
大きな根っこが、ヒビの入った地面から見え隠れしながら。放射状に、這い伸びていく。
千夜を抱く廣伊を、覆いかぶせていくように。肉厚の赤い花びらが、包み込んで。やがてふたりは、見えなくなった。
暴れ狂った大きなものが、動きを止め。巻き上げられた砂埃が、地上に降りて。辺りの惨状が見えるようになった。
戦場の真ん中に、八階の建物ほどに巨大な、植物がそびえ立っている。
八方に伸びる、太く、肉厚な葉の表面には。棘があり。
中央には、円錐状の赤い花。
肉厚の赤い花びらが、細かく、細かく、中心にいくえにも重なって。廣伊と千夜を守っているようだった。
一番外側の花びらが、一枚、一枚、ぼとりと音をたてて落ちていく。
そのサマは、悲嘆に暮れる廣伊が、血の涙を流しているかのように。紫輝には見えた。
「だ、ダメだ…廣伊っ」
紫輝は大和の腕から逃れ、巨大植物へと足を進めた。
よろりと、不安定な足取りを、大和が隣で支えて助けてくれる。
紫輝は、中央で咲く赤い花の根元につくと。水分をたっぷりと蓄えた、その植物を拳で叩いた。
ぼよぼよとした音で、中に届いているようには思えなかったが。
「廣伊、ここから出てきてよ。早く千夜の手当てをしなきゃ…」
この、雫型の蕾は、まるで世の中を拒絶する廣伊の心のようだった。
かたくなに、硬く閉ざす。
廣伊は。千夜を傷つける、すべての者から、彼を守るために。こうして閉じこもってしまった。
廣伊自身も、千夜を傷つける、苦痛に満ちた世界にはいたくはないのだろう。でも。
「早くしないと、手がつながらなくなるよ。一刻を争うんだ」
紫輝は廣伊に訴えながらも、大和に指示した。
「大和、千夜の腕を探してくれないか? 早く手術すれば、腕がつながるかも…」
「駄目なんです、紫輝様。一度離れた腕をつなげることはできません」
紫輝は、そんなことはないと、首を横に振る。
切断しても、早ければ、病院で腕をつなげることができるって、ドラマでよく見た。
だけど。切断された手をつなげたのは、以前の世界のことだ。
「手術で、つなげられない?」
涙が、すぐにもあふれそうな目で。紫輝は大和を見やる。
大和は、御主人に叱られた犬のように、悲しげな目で、紫輝をみつめた。
「つないでも、動かせないし、腐るばかりです。この世界では。それよりも、これだけの大傷を負って、生きていられるかどうか…」
以前の世界でも、切断などは。失血や、痛みが少なくないので、命に関わる。
しかし処置が早ければ、腕がつながることもあるし、命の危機は避けられる。
痛みは麻酔で、やわらげられた。
でも、この世界では。即、命の危機なのだ。
医療技術が発達していない。
えっ、どうなるの?
千夜は、どうしたら助かるの?
不安が積もり積もって、とうとう涙がぼたぼた落ちた。
「でも、患部を縫える医者はいるんだよね? 早く止血をすれば、助かるよね?」
「おそらく。しかし、このあとの方が大変ですよ。まず、感染症にかかったら助からない。山本が使った刀が、手入れをされた物ならば、良いのですが…」
「…なんだ、これはっ」
大和の説明の途中で、援軍に駆けつけた美濃が、巨大植物を見て叫んだ。
同じく駆けつけた堺は、真っ直ぐ紫輝の元に来てくれた。
膝をついて、泣く紫輝の顔を、のぞき込む。
「いったい、なにがあったのですか? 紫輝は、怪我はないか?」
「あいつが、裏切って、千夜がっ、廣伊がぁ…」
泣いてる場合じゃないのに、涙が止まらなくて。
紫輝は一生懸命説明しようとしたのだが、声が詰まって出てこない。
堺は、大和に目を向ける。
「二十二組組長の山本が、謀反です。手裏側に高槻組長が、第五大隊長だという情報を、手裏側に流しました。望月組長補佐は、山本の刃から組長を守り。腕を負傷。高槻組長は龍鬼の能力を発揮し、この植物の中に。山本はあちらに」
立て板に水が流れるごとく、大和は説明した。
手で示した先では、山本を捕縛している九班の仲間が手を上げる。
「この植物を…高槻が? 先ほどの地震も、彼の能力か?」
「はい。植物がせり上がってくる際に、かなりの揺れが起こりました」
己の質問に答えた、大和の言葉に。堺は、我知らず息をのんだ。
高槻の能力は、希薄だと思っていたのだ。
気の輝きがあるので、龍鬼であることは間違いないのだが。
小さな花芽を出すのが、精いっぱいだった。
高槻にその能力を見せてもらったとき。
十三歳で、すでに火も水も操れた堺は。どういう顔をしたらいいのか、心底悩んだものだ。
そんな感じで、戦場ではもちろん、使えないし。高槻自身、龍鬼としての活躍はできませんと、事前申告するほどだったのだ。
それでも、高槻は身体能力が、他の龍鬼以上にある。
能力などなくても、優れた龍鬼だったのだ。
それが、まさか。地を揺らし、巨大植物を産み出すほどの能力を、出現させるとは。
地を揺らし、炎を操り、水を湧出させ、空を飛ぶ。これが龍鬼として、最強の能力だと言われている。
今まで、能力が少ないと言われていた高槻だが。実は、強力な武器を隠し持っていたのかもしれない。
堺は花龍の能力に、改めて震撼した。
「…紫輝は、立てないのか? なんで、こんなに消耗している?」
あぐぅ…と唸る紫輝に代わり、それも大和が説明した。
「らいかみっ! を二回撃ちました。大技は一回が限度なのに、敵の集中攻撃を受けて、仕方がなく…」
堺が来てくれて、紫輝は、猛烈にホッとしていた。
こんな、動くのもままならない体では。廣伊が自分から出てきてくれても、助けられないかもしれない。
でも堺がいれば、なんとかしてくれるだろうと思えた。
「堺、この植物の中心に、廣伊と千夜がいるんだ。ふたりで、閉じこもっちゃって。でも、早く手当てをしないと、腕を切断した千夜が。千夜がぁ…」
涙はそのままに、紫輝は感情を表に出して、堺に訴えた。
「わかりました。私が必ず、ふたりを助けますよ」
堺は大和に、紫輝とともに後方に下がるよう指示し。
美濃にも命令した。
「幸直、山本の処置と、第五大隊の立て直しを命じます」
「おう、任せておけ」
そこに、九班の安井、藤森、三木が援軍を連れて戻ってきて。
美濃は、その兵を預かり、ほころびた第五大隊の穴を補修しにかかった。
明るい声をかけ、兵を鼓舞しながら、的確な指示を出している。
紫輝の『らいかみっ!』で、周囲の手裏兵は、だいぶ少なくなっているのだが。
薄い陣形を狙って、こちらに来ようとする敵兵もいる。
美濃は突破されないよう前面に立って、手裏兵を威嚇していた。
「大丈夫だ、紫輝。右将軍様なら、きっと、なんとかしてくれる」
不安げな眼差しで、堺をみつめる紫輝に。野際が、力づけるように声をかけてくれる。
でも堺が来る前、野際が力任せに植物を斬りつけていたのだが。全く刃が通っていかない。
頑丈な、茎と根なのだ。
植物を前にして。堺が剣を、美しい立ち姿でスラリと抜いた。
九班の者たちは、少し離れた位置で、固唾をのんで見守るしかない。
堺が持つ剣は、太く、立派な柄に。腰に携えて、地につきそうなほどの、長い刃。
ライラ剣ほど大きくはないが。一般の剣に比べて、刃の幅が広く、分厚く、長大なものだ。
ライラ剣はライラの体重の重さしかないから、大きくても、紫輝が扱える。
でも堺の剣は。たぶん、紫輝は持てない。
廣伊の剣も、以前持たせてもらったとき、落としそうになったほど。想像以上に、この世界の剣は、重いのだ。
堺の剣は、廣伊の剣の、上を行くと思う。
剣先が動いた、と思った瞬間。
目の前を、白い閃光が走り抜ける。そんな、速い太刀さばきだった。
花と茎の付け根が、少しずれ。
ズズッと、擦れる音をさせて。赤い花の部分が傾いた。
生気を失い、花びらがほころび。
ふたりを覆っていた肉厚の花弁が、一枚一枚、剥がれていく。
ドドーンと、にぶい地鳴りを響かせて、花の部分が地に落ちたとき。固く閉じていた蕾は、開ききり。血を吸い取ったかのような、紅の花が、咲きほこっていた。
ふたりは花の中央から、転がり落ちてくるが。堺がしっかりと、抱き止める。
「千夜っ、廣伊っ」
少し気力を取り戻した紫輝は、堺たちに駆け寄っていった。
千夜は、意識を失っていたが。腕に、蔓のようなものが巻きついていて。患部は、なにかの植物に覆われている。
粘着性のある植物が、傷を咥えこんでいるみたいに見える。
出血はない。止血が充分にできているようだ。
「…さ、かい」
目を覚ました廣伊が、堺の腕の中で、名を呼ぶ。
「高槻…こんなところに籠城したって、なにも変わらないんだ。世間も、私たちも…」
どこか物悲しい顔つきで、堺は廣伊をみつめる。
龍鬼なら。誰にも、とがめられない世界に行きたい。それが駄目なら、静かなところにずっと閉じこもっていたい。そんなふうに、一度は願うものだ。
廣伊の気持ちには、紫輝も堺も同意する。
でも、自らが閉じこもっても。外の世界は変わらない。それも知っている。
龍鬼だけが知る、龍鬼の物悲しさなのだ。
「すまない。千夜を、医者に…」
「あぁ。すぐ医者に診せる」
堺は千夜だけを担ぎ上げ、馬に乗せると。即座に、その場を去っていった。
九班の者たちと、廣伊は。堺の後ろ姿を見守る。
どうか、手遅れにならないように…そう、祈りながら。
美濃幸直、率いる第五大隊は。体勢を立て直すことに成功し。すでに戦線を押し返していた。
戦闘可能状態の兵が、ごっそり抜けた手裏軍は。一騎当千の美濃相手に、戦うことができなくなっていたのだ。
紫輝たちがいる、巨大植物が倒れている場所は、今や戦線のかなり後方となり。戦う兵の姿は、前方のはるか遠く。
砂埃の舞う戦場が、寂寥感を漂わせ。ただただそこに、呆然と立ち尽くしていた。
★★★★★
壮絶で、長い一日が、終わり。紫輝は一足早く、前線基地への帰路に着いた。
本当は、廣伊の方こそ。一刻も早く、基地に戻り、千夜の容体を見たいのだろうけど。
二十四組の指揮を執らなければならないし。
組長不在の、二十二組の采配や。今回の事件の報告、本拠地への帰還の手配などなど。することが山積みで。
廣伊は、千夜のことを紫輝に託し、諸々の後始末に駆け回っているのだ。
誰もいないところで。紫輝はちょっとズルをして、ライラを獣型に戻して、乗った。
最短で、基地に着いたと思う。
表門の手前で、ライラを剣に戻し。そこからニ分ほど、基地の中をひた走り、医務棟についた。
怪我人などは、早めの治療が有効なので。医務棟は、表門近くに配置してあるのだ。
入り口に堺が立っていて、紫輝は足を止める。
「堺、千夜はどう?」
相変わらず、堺の表情は乏しく、顔色も悪く見えたから。紫輝は心配になってしまう。
「腕についていた植物に、止血と麻酔の効果があったようで。命を脅かされることなく、無事に手術を終えました」
「なら、助かったんだね?」
紫輝は喜び、笑顔で堺に聞いた。
それでも堺は、眉間を寄せる、渋い顔つきを崩さない。
「それは、経過を見なければわかりません。これから、痛みも出てくるだろうし。炎症による熱発も、気が抜けない。こういう事例は、あとの症状の方が大変なんですよ」
大和も似たようなことを言っていたと、紫輝は思い出す。
感染症になったら、助からないって。
「でも、とりあえずは…大丈夫でしょう?」
なんとか、大丈夫という言葉を引き出したくて、紫輝は堺をみつめる。
そうしてようやく、彼はうなずいてくれた。
「じゃあ、千夜に会ってくる」
気持ちを落ち着けて、紫輝が医務棟の中へ入ろうとすると。堺が止めた。
「怪我人は、龍鬼の存在を、ものすごく嫌がります。傷がある分、汚染されやすいだろうと…」
「え、そ…そうなんだ」
汚染とか、なんか嫌な感じなんだけど。
思わぬところから、龍鬼の弊害を知らされ。紫輝は不意打ちを食らった気分になった。
でも、怪我人相手に怒れないし。
うー、もやもや。
「望月は、高槻の部下だし、彼が顔を出しやすいよう、新設の天幕で休ませています。こちらへ」
もやもやな気分を引きずったまま、紫輝は堺についていった。
龍鬼に深く関わった者は、龍鬼でなくても隔離されてしまうってこと?
重傷で、目を離せない状況でも、ただ龍鬼と親しくしていただけで、充分な治療が受けられないの?
じゃあ、もし龍鬼である自分が、病気になったら。誰か診てくれる医者はいるの?
そんなこと、考えると怖くなるから。
紫輝は途中で思考を止めた。
今はとにかく、千夜の容体が心配。彼のことだけを考えていよう。
千夜のために用意された天幕は、三角屋根に四本の支柱で、家の形をしている。
キャンプなどで使用する、三角のテントよりは、大きくて丈夫そうだから、安心はした。
紫輝は以前の世界で、学校の運動会とかで、運営本部が使用していた職員用のテントみたいだなと感じた。
でもそれは、布張りだから風が通る。
九月下旬の、この時期としては。少し肌寒いのではないかと思うし。衛生的にも、問題があるなと思っていた。
大和が言っていたように、感染症になったら大変なのに。
この環境では、防げるものも防げないんじゃないか?
でも滅菌室や集中治療室なんか、この世界にはないんだろうな?
天幕の中へ入ると、千夜のそばに白衣の男性が立っていた。
「井上医師です。望月の手術をしてくれた主治医ですよ」
堺の説明に、紫輝は安心して笑みを浮かべた。
もしかしたら、付き添いの人もいないかもしれないと、思っていたので。
医者がそばにいてくれたことが、もう、嬉しかった。
「彼は、あまり龍鬼に偏見のない、珍しい医者ですから。龍鬼が戦場に出るときは、必ず同行します。紫輝も、もしも怪我などしたら、すぐに彼に診てもらってくださいね?」
龍鬼を診てくれる医者がいることに、紫輝は安堵した。
そして、深々と頭を下げる。
「千夜を診てくださり、ありがとうございます、井上先生。俺は右第五大隊二十四組九班班長の間宮紫輝です。以後、よろしくお願いします」
「おや、三人目の龍鬼だね? こりゃまた、仕事が増えそうな、嫌な予感だ」
ちょっとおどけたような感じで、井上医師は言った。
彼は、白に近い薄茶色に、まだら模様が入っている髪だ。
少し年嵩に見える。
なんというか、井上は。くたびれた学者感が滲み出ているというか。そんな感じ。
翼は薄茶の地に、小さな濃茶の模様がてんてんと入る、特徴的な中くらいの翼。ほわほわした羽毛がなんだか…。
「あったかそう」
「…なにが?」
紫輝のつぶやきに、井上がすかさずツッコんだ。
堺は紫輝の思いもよらないつぶやきに、ツッコみそびれたようだ。
そう来たか…と、思ったか、思わなかったか。
「彼はフクロウです」
とりあえず面倒くさいので。堺は種明かしした。
「あの、千夜はどうですか?」
紫輝は、本題に立ち戻り。井上に、千夜の容体をたずねた。
「私がやれることは、みんなやった。元々、腕をぶった切られて、命があるという方が稀なんだ。あとは、彼の体力次第」
やはり医者も、堺や大和と同じことを言う。
紫輝はがっかりした。
「ヨモギが良いよ」
「え?」
井上の言葉が、紫輝にはよくのみ込めず、たずね返す。
ヨモギって、なんだっけ?
あ、ヨモギパンとか、聞いたことあるかな? でも、それかな?
「ヨモギは消炎、抗菌作用があるから、傷口に当てておくと、悪化を防げるかもしれない。この辺りには、いっぱい生えているよ?」
紫輝は、医療技術が進んでいた時代で暮らしていた。
病院では、多種類の薬剤で、あらゆる病気や怪我が治療され。
軽い症状なら、家で、市販の薬を飲めば治った。
そういう世界だったので、薬草頼みの今の状態に、落胆してしまう。
ここが小説の中の異世界だったら、回復魔法とか、聖女の浄化とか、ポーションとかで、すぐに直せるのに。
「彼の腕にくっついていた植物は、アロエだ。あれは皮膚を保護して、解毒の働きもある、万能薬。高槻がでっかいアロエを出したんだって? あとで採集しに行こうかな?」
「あれはもう、干からびてしまいました」
そう。廣伊が地上から産み出した、あの植物は。あのあと、すぐに枯れて、風に散ってしまった。
元々、そこにあるものではなく。
廣伊の気が供給されなければ、維持できないものなのだろう。
地面の裂け目だけが、廣伊が能力を発現した証として残った。
「ええぇ、もったいない。止血、鎮痛、殺菌、最高の薬剤になりえたものを…」
愕然、という顔で嘆く、井上を見やり。
紫輝は、この世界では、薬的なものは期待できないのだなと理解し。ヨモギとアロエ…と頭に刻み込む。
「それより、彼は明日退却するのだろう? 移動はどうするんだ?」
「え。こんな状態の千夜を、まさか動かすって言うんですか?」
紫輝は、木製のベッドに寝かされている千夜を見ながら、井上に聞いた。
血の気を失った白い顔色に、青みがさしている。
今、動かしたら、それこそ死んでしまう。
背筋が凍る思いで、紫輝は千夜を見下ろした。
「今回は、右軍がすべて下がり、左に全権を明け渡す交代なのです。右軍は、すべて退去しなければなりません。それが重傷の者でも、本拠地に戻るというのが決まりなんです」
静かな口調で、堺が説明する。
しかし、紫輝は納得できなかった。
ある程度回復しなければ、動かすのは危険だと、医学的に素人の紫輝でも、考えつくことだ。
「特例とか、ダメですか? だって、千夜は味方に斬られたんだ。こんなの…関東まで移動なんて、絶対に無理ですからっ」
「泣くな」
語尾を涙声で揺らす紫輝に、叱咤の声が飛ぶ。
廣伊が、天幕の中に入ってきたのだ。
千夜のかたわらに、さっと寄っていった廣伊は、寝顔を見ると。井上に視線をやった。
「どうだ?」
「応急処置が良かった。今は落ち着いている。あとは、望月ががんばれるか、だな?」
廣伊は、フッと小さく息をつき。
紫輝と堺に、目線でテントの外へ出るよう促した。
テントを出る直前『あ』とつぶやき。
背中から、なんか長いものを出して、井上に放り投げる。
巨大アロエの葉の一部分だ。山芋並みに大きいが。
「やる。研究に使ってくれ」
「やった。助かるよぉ、高槻」
井上は頬擦りする勢いで、アロエの葉を大事に抱え込んだ。
なんであの葉は生き残っているんだろう?
廣伊の加護があるのかな?
そう思ってよく見れば。アロエは薄っすらと緑に光って見えた…。
紫輝は、千夜のそばについていたいと思ったのだが。
上官命令なので、仕方なく、廣伊について外へ出る。
すると、そこには。赤穂と月光がいた。
廣伊は彼らの前で片膝をつき。首を垂れる。
「この度は、我が隊での不祥事、誠に申し訳ありませんでした」
「山本の寝返りだろう。おまえの責任はない」
廣伊の前に立つ赤穂は、威厳を持って言い切る。
だが廣伊は、顔を上げなかった。
「いいえ、予兆はありました。山本には、第五大隊長なのではないかと、以前から疑念を抱かれておりました。知りながら、対処をしなかった。そのことが、今回の件につながったのだと。戦死者は、第五大隊副長、富永をはじめ。二十二組の兵、合わせて十八名。大きな犠牲となりました」
副長が犠牲になっていたことを知り、紫輝はギョッとした。
仮説として。
山本が第五大隊長になるためには、第五大隊長と、副長が、命を失わなければならない。そんな話をしていたのだ。
まさか、本当に副長が帰らぬ人になっていたなんて。
「富永の死因は、刀傷でした。山本が、私に向けたのも、刀。おそらく、あの乱戦の中で。私と副長を、手裏にやられたと見せかけるつもりだったのかと」
「廣伊が第五大隊長って情報を、山本が手裏に漏らしたことを。俺が手裏兵から聞き出さなかったら。誰もそのことに気づかすに、山本が第五大隊長になっていたかもしれないって…そういうこと? 千夜が廣伊をかばわなかったら、廣伊も…一部始終を見ていた俺たちも、山本は皆殺しにしたかもしれない。手裏の刀で…」
紫輝の言葉に、廣伊が重々しくうなずいたので。
これは、紫輝の妄想ではないのだ。
山本が千夜を斬ったのは、廣伊を狙ったからだ。
己の流した情報で、己の組の仲間が大量に死ぬことも構わず。上官である副長も。裏を知った者も、みんな殺して。第五大隊長になるなんて。そんな大それたことを、山本は実行する気だったのだろうか?
もし、手裏兵から聞き出した、あの情報がなかったら。今も、誰も、なにも知らなかったかもしれない。
そう思うと、今更ながらにゾッとした。
「廣伊は、第五大隊長なのか?」
今回の件は、廣伊が大隊長でなければ、成り立たない反乱だ。
紫輝は、まさかと思いながらも、廣伊をみつめる。
廣伊はゆっくり立ちあがり。紫輝を真正面から見据えた。
「そうだ。私が第五大隊長だ」
「高槻。それは最高機密なんだが…」
堂々と紫輝に真実を告げた廣伊を、赤穂が目を吊り上げてたしなめる。
以前、第五大隊長の所在は、軍の勝敗を決めかねない重要情報なので。敵はおろか、味方にすら明かせないことなのだと教えられた。
つまり、廣伊が殺されていたら。
防衛線が総崩れになる恐れがあったということだ。
「いいえ、今回の件で、私の地位を秘することに、意味はなくなりました。むしろ、真実を告げなければ、兵たちは納得しないでしょう。私の兵は、荒くればかりなので」
ふと、廣伊が笑う。
けなす言葉の陰に、自分が育て上げた二十四組の兵たちへの愛情が見て取れた。
「これからは堂々と、顔も名も出し、手裏軍に相対します。そうさせてください。もちろん、防衛線を突破させることなど…将堂軍第五大隊長、高槻廣伊の名にかけて、決してさせはしません」
睥睨していた赤穂は、愉快そうにククッと笑い。尊大に胸を張って廣伊に告げた。
「いいだろう。どうせ我ら、明日には、戦場を去る身だしな。第五大隊長、高槻廣伊に人事権を預け。人員補充と第五大隊の新たな統制を任せる」
「はい。謹んでお受けいたします」
己の上司である廣伊が、赤穂に頭を下げる。
こうして上司と部下のやり取りを見ると、いつもは悪ふざけで絡んでくるばかりの赤穂が、なにやら偉い人に見えるから、不思議だ。
いや、右軍総司令官だから、正しく、偉いんだけど。
「それから、望月のことだが。本拠地までの道のりは、厳しいだろう。河口湖の辺りに、月光の屋敷がある。しばらくはそこを使うといい」
「は? 瀬来様…のですか?」
赤穂の提案に、廣伊は戸惑いを隠せない。
本来なら、組長級が怪我を負っても、幹部が顔を出すことはない。
今回の顛末は謀反という、あってはならない特別な事案だから、か?
そうして、廣伊は。そばにいる紫輝を見やる。
そして、違うな、と思ったのだ。
この場にいる、准将、側近、将軍、すべての幹部級は、紫輝がここにいるから、いるのだ。
関係性などは、わからない。
紫輝に聞けば『友達』としか返ってこなさそう。
ただ、紫輝の人脈に、己が胡坐をかいてもいいものだろうか…としばし悩んだ。
「屋敷と言っても、小さい休憩所みたいなものですよ。使用人もいないから、かえって不便で申し訳ないんだけど。ぜひ使ってくれないかな?」
瀬来からは、なんとなく断りづらい圧を感じた。
つまり。瀬来も赤穂も、そうしてほしいなにかがあるのだ。
理由はわからないが。
こちらにとってはありがたい話なのだから、乗らない手はない。
「では、お借りいたします」
廣伊は丁寧に、瀬来に頭を下げる。
瀬来と赤穂は、なにやらひとつ息をついた。
千夜の行く先にめどが立って、ホッとしたのは。こちらだというのに。
「俺も、一緒に行く。いいだろ? 廣伊」
「あぁ、助かる」
紫輝は廣伊から許しを得て、安堵の息をついた。
千夜の容体では、本拠地まで行くなんて無理だと思っていた。
そこに赤穂が助けの手を差し伸べてくれたので。本当に感謝した。
河口湖なら、ここからそう離れた場所ではない。ライラに乗れば、三十分くらいで着くだろう。
防衛線に近いので、小競り合いはあるかもしれないが。
そこも、将堂の兵が見回っているので、逆に安心だ。
廣伊は、側近の月光の屋敷を借りることを、恐れ多いと感じていたかもしれないが。了承してくれて、良かった。今は、千夜を生かすことが重要なんだから。
「一度兵舎に戻り、明日の移動指示を、班長としてしっかりとしてこい。そうだな…野際か安井に、班長代理を頼むといい。千夜の容体が、移動に耐える状態まで落ち着いたら、夜のうちに動く。仕事を終えたら、ここに戻ってきてくれ」
「はい」
廣伊の指示に、部下の顔で紫輝はうなずく。そうして廣伊は、千夜のいる天幕に再び入っていった。
紫輝が、廣伊の後ろ姿を見守っていると。
頭を、大きな手で鷲掴みされた。
おいおい、オオワシさんよぉ。という気分で、赤穂を睨むと。
廣伊の前では威風堂々としていた赤穂が、奥歯をギシギシさせていた。
「おまえよぉ…最後の最後で、冷や冷やさせんじゃねぇっ!」
「本当だよぉ。もう、なんなのっ、明日引き上げるって日に、謀反とか。あり得ないんですけどぉ」
月光までもが、半泣き状態で抱きついてきて。紫輝は戸惑ってしまう。
それ、自分のせいじゃないし。
っていうか、この距離感、ダメじゃね?
将堂家に目をつけられたくなくて、避けてたんじゃなかったっけ?
「だ、ダメですっ、ここ、外。つか、堺、そこ、いるからぁ」
ひそひそ声で、ふたりをたしなめ。紫輝は彼らから距離を取った。
すると背中が、堺にぶつかって。今度は後ろから、堺が紫輝を抱き止める。
「ずいぶん、紫輝と仲良くなったのですね、瀬来。つい最近まで、紫輝を追い詰めていたというのに」
しかし、堺の矛先は月光だった。
あれ? ちょっと険悪?
紫輝のいないところで、ふたりが揉めたことを、紫輝は知らなかった。
「そうなんだ。紫輝とは仲直りしたんだよ。僕も、堺を見習ったわけ。紫輝のことはなにもかも、見ざる言わざる聞かざるってね?」
「なにを企んでいるんですか?」
「企んでなんかいないよぉ。屋敷を貸すのも、あのときはごめんね! 的な意味合いもあるんだ」
「紫輝の心は暴きませんが。貴方の心を暴くのはやぶさかではないのですよ」
なんで、このふたりがバトってんのか、知らないが。
堺が、紫輝のことを全部知っている月光の心をのぞいたら、なにもかもバレちゃう。
ヤバいよ。なんとかしなきゃ。
「駄目だよ。堺」
慌てて、紫輝は体を反転させて、堺に向き直ると。弟を叱る兄のような気持ちで、堺に言った。
「俺たちは龍鬼なんだから、そういう脅しみたいなのは駄目。信用を無くしちゃうだろう? 俺たちは誰とでもフレンドリーに…えっと、友達…みんな友達、的な? みんなと仲良く、的な?」
最後はグダグダになったが。なんとか言いたいことを言うと。
堺も、叱られた弟みたいな顔で、しゅんとしていた。
いや、基本表情は動いていないので。そういうイメージなんだけど。
「…紫輝がそう言うのなら。そんな感じで、紫輝は私とも仲良くしてくれたから。これ以上は言いませんが。瀬来は赤穂様と恋仲なのだから。あまり紫輝にくっつかないでください」
「えええぇー、三人でいたすのもいいんじゃない?」
「破廉恥ですっ」
あぁ、ハレンチって言葉、残っているんだな。と紫輝が思うのは。
紫輝は破廉恥という漢字を知らないからだった。
なにやら揉めているふたりを尻目に、赤穂が、紫輝の髪をわしゃわしゃと掻き回して、言った。
「紫輝。俺は残務処理で本拠地へ帰還しなければならない。ここでお別れだ」
傍若無人で厄介な男だが。父親だし。
お別れだと言われると、なんだか寂しい気になる。
「堺も、俺に同行させる。龍鬼が三人抜けたら、退却の道のり、戦力不足になりかねないからな。だが、おまえたちの護衛が月光ひとりでは、あまりにも心許ないので。美濃幸直を残していく」
「失礼ですね、貴方は。でも、力仕事はやってもらおう」
赤穂の暴言に、月光は桃色の羽を不満そうにバタつかせた。
「月光は、いつも看病される側のやつだが。それゆえに、病人の気持ちはよくわかるだろう。存分に頼ってやれ」
頭を撫でていた手で、紫輝の肩をがっしりと組んで。紫輝にしか聞こえない小声で、耳に囁いた。
「本拠地に戻ったら、連絡しろ。屋敷に招いてやる。親子水入らず…とか。どうだ?」
「ぶはっ、らしくねぇ」
赤穂の言葉に、思いっきり吹き出してしまった。
笑う紫輝の鼻を、ギュッとつまんで。小生意気なやつめ、と吐き捨てると。
赤穂はひらりと手を振って、踵を返した。
「月光、堺、早く来い。やることやって、とっとと帰るぞ」
「紫輝、あとでね」
小さく手を振った月光とは、一緒に屋敷に行くので、すぐに会える。
でも、堺とも、ここでいったんお別れだ。
「紫輝。あの約束、楽しみにしていますね」
「うん、俺も。またな、堺」
何度も振り返りながら去っていく、名残惜しげな堺の様子に。紫輝もなんだか悲しくなる。
でも、またすぐに会えるんだから。大丈夫。そう思い。
紫輝も、廣伊に指示されたことをするために、二十四組の宿舎に急いだ。
二発の『らいかみっ!』を撃ったことで、体が動かなくなった紫輝を。千夜は、大和に預けた。
そして廣伊の元に駆けだす。
千夜の中には、ある想いだけしかなかった。
『あんたは俺の…俺だけの獲物だ』
ただ、体が動いたのだ。
廣伊の前に立ち、剣を振り上げる。
『俺以外の誰も、あんたを殺させねぇ』
だが剣が振り降ろされる前に、白刃が光り。スパッと、千夜の剣を持つ腕が飛んだ。
自分の体から、手が離れ。
ゆっくりと落ちていく、その過程を。
千夜は他人事のように見やる。
切れた場所から血が噴き出したのを目にし、ようやく、痛みが脳にガンと伝わった。
「あ、あぁ…」
その場にいる誰もが、言葉にはならない悲鳴を上げていた。
でも、当の本人は。それどころではない。
もはや剣を持たぬ右腕を、千夜は左手でおさえ。目の前の男に、体当たりした。
そのとき、相手が振るった切っ先が、千夜の頬をかすめて。
それでも千夜は力で押し込み、その男を地に沈めた。
男は、二十二組の組長、山本だった。
「大和っ、野際っ、お願いっ」
紫輝は、ようやく悲痛な声をあげることができた。
目の前で起きたことが、本当に一瞬のことだったから。
声も、悲鳴も、上げられなくて。
ただ、目を見開いて。
事の顛末を、網膜に焼きつけるしかなかった。
紫輝から離れた千夜は、ただ、廣伊の前に立ったのだ。
その後、血しぶきが。
紫輝の視界を、赤く染める。
山本が、手裏兵の刀で千夜の腕を斬ったのだと。すぐには理解できなかった。
手負いの千夜が、咆哮をあげながら男にぶつかっていき。
制圧したあとに、ようやく。倒されたのが、山本だと知った。
早く、千夜を助けて。
そんな気持ちで、紫輝は叫び。
それに反応した、大和と野際が、千夜の元に駆けつけ。
山本を捕縛した。
山本は、刀で千夜を斬った。
剣だったら、骨折くらいで済んだかもしれないのに。刀は、切り離すのに特化している。
紫輝は、そのとき千夜のことしか見ていなかった。
出血が激しい。早く止血しないと。
そう思うのだが、どうしても足に力が入らなくて。
動けないことが悔しくて。
体がどうなってもいいから、千夜のところに行きたい。
でも、行けなくて。
奥歯を噛み締め、ギシリと音が鳴る。
体の奥から湧きあがる震えを、おさえられなかった。
だから…廣伊のことを見ていなかったのだ。
千夜が失血と痛みのショックで、その場に体を横たえ、うずくまっている。
そこに廣伊は駆けつけ、彼の体を抱き締めた。
表情の乏しい廣伊が、目を見開き、唇を震わせている。
「あああああぁっ」
突如あがった、廣伊の叫び。それとともに、緑のオーラが天に突き抜けていった。
ゴゴゴッと地響きが立ち、地面が大きく揺れる。
紫輝は、一瞬地震だと思ったのだが。
違う。それが廣伊の行いだと、すぐ気づいた。
「紫輝様、ご無礼を…」
大和が駆けつけ、動けない紫輝を素早く横抱きにして、その場から離脱する。
廣伊を中心にして、地面に放射状のヒビが入り。そこから巨大なタコの足を思わせる、うねうねした緑色のなにかが出てきた。
その、うねり狂った緑の物体が。地に伏していた兵を、薙ぎ払っていく。
大きな根っこが、ヒビの入った地面から見え隠れしながら。放射状に、這い伸びていく。
千夜を抱く廣伊を、覆いかぶせていくように。肉厚の赤い花びらが、包み込んで。やがてふたりは、見えなくなった。
暴れ狂った大きなものが、動きを止め。巻き上げられた砂埃が、地上に降りて。辺りの惨状が見えるようになった。
戦場の真ん中に、八階の建物ほどに巨大な、植物がそびえ立っている。
八方に伸びる、太く、肉厚な葉の表面には。棘があり。
中央には、円錐状の赤い花。
肉厚の赤い花びらが、細かく、細かく、中心にいくえにも重なって。廣伊と千夜を守っているようだった。
一番外側の花びらが、一枚、一枚、ぼとりと音をたてて落ちていく。
そのサマは、悲嘆に暮れる廣伊が、血の涙を流しているかのように。紫輝には見えた。
「だ、ダメだ…廣伊っ」
紫輝は大和の腕から逃れ、巨大植物へと足を進めた。
よろりと、不安定な足取りを、大和が隣で支えて助けてくれる。
紫輝は、中央で咲く赤い花の根元につくと。水分をたっぷりと蓄えた、その植物を拳で叩いた。
ぼよぼよとした音で、中に届いているようには思えなかったが。
「廣伊、ここから出てきてよ。早く千夜の手当てをしなきゃ…」
この、雫型の蕾は、まるで世の中を拒絶する廣伊の心のようだった。
かたくなに、硬く閉ざす。
廣伊は。千夜を傷つける、すべての者から、彼を守るために。こうして閉じこもってしまった。
廣伊自身も、千夜を傷つける、苦痛に満ちた世界にはいたくはないのだろう。でも。
「早くしないと、手がつながらなくなるよ。一刻を争うんだ」
紫輝は廣伊に訴えながらも、大和に指示した。
「大和、千夜の腕を探してくれないか? 早く手術すれば、腕がつながるかも…」
「駄目なんです、紫輝様。一度離れた腕をつなげることはできません」
紫輝は、そんなことはないと、首を横に振る。
切断しても、早ければ、病院で腕をつなげることができるって、ドラマでよく見た。
だけど。切断された手をつなげたのは、以前の世界のことだ。
「手術で、つなげられない?」
涙が、すぐにもあふれそうな目で。紫輝は大和を見やる。
大和は、御主人に叱られた犬のように、悲しげな目で、紫輝をみつめた。
「つないでも、動かせないし、腐るばかりです。この世界では。それよりも、これだけの大傷を負って、生きていられるかどうか…」
以前の世界でも、切断などは。失血や、痛みが少なくないので、命に関わる。
しかし処置が早ければ、腕がつながることもあるし、命の危機は避けられる。
痛みは麻酔で、やわらげられた。
でも、この世界では。即、命の危機なのだ。
医療技術が発達していない。
えっ、どうなるの?
千夜は、どうしたら助かるの?
不安が積もり積もって、とうとう涙がぼたぼた落ちた。
「でも、患部を縫える医者はいるんだよね? 早く止血をすれば、助かるよね?」
「おそらく。しかし、このあとの方が大変ですよ。まず、感染症にかかったら助からない。山本が使った刀が、手入れをされた物ならば、良いのですが…」
「…なんだ、これはっ」
大和の説明の途中で、援軍に駆けつけた美濃が、巨大植物を見て叫んだ。
同じく駆けつけた堺は、真っ直ぐ紫輝の元に来てくれた。
膝をついて、泣く紫輝の顔を、のぞき込む。
「いったい、なにがあったのですか? 紫輝は、怪我はないか?」
「あいつが、裏切って、千夜がっ、廣伊がぁ…」
泣いてる場合じゃないのに、涙が止まらなくて。
紫輝は一生懸命説明しようとしたのだが、声が詰まって出てこない。
堺は、大和に目を向ける。
「二十二組組長の山本が、謀反です。手裏側に高槻組長が、第五大隊長だという情報を、手裏側に流しました。望月組長補佐は、山本の刃から組長を守り。腕を負傷。高槻組長は龍鬼の能力を発揮し、この植物の中に。山本はあちらに」
立て板に水が流れるごとく、大和は説明した。
手で示した先では、山本を捕縛している九班の仲間が手を上げる。
「この植物を…高槻が? 先ほどの地震も、彼の能力か?」
「はい。植物がせり上がってくる際に、かなりの揺れが起こりました」
己の質問に答えた、大和の言葉に。堺は、我知らず息をのんだ。
高槻の能力は、希薄だと思っていたのだ。
気の輝きがあるので、龍鬼であることは間違いないのだが。
小さな花芽を出すのが、精いっぱいだった。
高槻にその能力を見せてもらったとき。
十三歳で、すでに火も水も操れた堺は。どういう顔をしたらいいのか、心底悩んだものだ。
そんな感じで、戦場ではもちろん、使えないし。高槻自身、龍鬼としての活躍はできませんと、事前申告するほどだったのだ。
それでも、高槻は身体能力が、他の龍鬼以上にある。
能力などなくても、優れた龍鬼だったのだ。
それが、まさか。地を揺らし、巨大植物を産み出すほどの能力を、出現させるとは。
地を揺らし、炎を操り、水を湧出させ、空を飛ぶ。これが龍鬼として、最強の能力だと言われている。
今まで、能力が少ないと言われていた高槻だが。実は、強力な武器を隠し持っていたのかもしれない。
堺は花龍の能力に、改めて震撼した。
「…紫輝は、立てないのか? なんで、こんなに消耗している?」
あぐぅ…と唸る紫輝に代わり、それも大和が説明した。
「らいかみっ! を二回撃ちました。大技は一回が限度なのに、敵の集中攻撃を受けて、仕方がなく…」
堺が来てくれて、紫輝は、猛烈にホッとしていた。
こんな、動くのもままならない体では。廣伊が自分から出てきてくれても、助けられないかもしれない。
でも堺がいれば、なんとかしてくれるだろうと思えた。
「堺、この植物の中心に、廣伊と千夜がいるんだ。ふたりで、閉じこもっちゃって。でも、早く手当てをしないと、腕を切断した千夜が。千夜がぁ…」
涙はそのままに、紫輝は感情を表に出して、堺に訴えた。
「わかりました。私が必ず、ふたりを助けますよ」
堺は大和に、紫輝とともに後方に下がるよう指示し。
美濃にも命令した。
「幸直、山本の処置と、第五大隊の立て直しを命じます」
「おう、任せておけ」
そこに、九班の安井、藤森、三木が援軍を連れて戻ってきて。
美濃は、その兵を預かり、ほころびた第五大隊の穴を補修しにかかった。
明るい声をかけ、兵を鼓舞しながら、的確な指示を出している。
紫輝の『らいかみっ!』で、周囲の手裏兵は、だいぶ少なくなっているのだが。
薄い陣形を狙って、こちらに来ようとする敵兵もいる。
美濃は突破されないよう前面に立って、手裏兵を威嚇していた。
「大丈夫だ、紫輝。右将軍様なら、きっと、なんとかしてくれる」
不安げな眼差しで、堺をみつめる紫輝に。野際が、力づけるように声をかけてくれる。
でも堺が来る前、野際が力任せに植物を斬りつけていたのだが。全く刃が通っていかない。
頑丈な、茎と根なのだ。
植物を前にして。堺が剣を、美しい立ち姿でスラリと抜いた。
九班の者たちは、少し離れた位置で、固唾をのんで見守るしかない。
堺が持つ剣は、太く、立派な柄に。腰に携えて、地につきそうなほどの、長い刃。
ライラ剣ほど大きくはないが。一般の剣に比べて、刃の幅が広く、分厚く、長大なものだ。
ライラ剣はライラの体重の重さしかないから、大きくても、紫輝が扱える。
でも堺の剣は。たぶん、紫輝は持てない。
廣伊の剣も、以前持たせてもらったとき、落としそうになったほど。想像以上に、この世界の剣は、重いのだ。
堺の剣は、廣伊の剣の、上を行くと思う。
剣先が動いた、と思った瞬間。
目の前を、白い閃光が走り抜ける。そんな、速い太刀さばきだった。
花と茎の付け根が、少しずれ。
ズズッと、擦れる音をさせて。赤い花の部分が傾いた。
生気を失い、花びらがほころび。
ふたりを覆っていた肉厚の花弁が、一枚一枚、剥がれていく。
ドドーンと、にぶい地鳴りを響かせて、花の部分が地に落ちたとき。固く閉じていた蕾は、開ききり。血を吸い取ったかのような、紅の花が、咲きほこっていた。
ふたりは花の中央から、転がり落ちてくるが。堺がしっかりと、抱き止める。
「千夜っ、廣伊っ」
少し気力を取り戻した紫輝は、堺たちに駆け寄っていった。
千夜は、意識を失っていたが。腕に、蔓のようなものが巻きついていて。患部は、なにかの植物に覆われている。
粘着性のある植物が、傷を咥えこんでいるみたいに見える。
出血はない。止血が充分にできているようだ。
「…さ、かい」
目を覚ました廣伊が、堺の腕の中で、名を呼ぶ。
「高槻…こんなところに籠城したって、なにも変わらないんだ。世間も、私たちも…」
どこか物悲しい顔つきで、堺は廣伊をみつめる。
龍鬼なら。誰にも、とがめられない世界に行きたい。それが駄目なら、静かなところにずっと閉じこもっていたい。そんなふうに、一度は願うものだ。
廣伊の気持ちには、紫輝も堺も同意する。
でも、自らが閉じこもっても。外の世界は変わらない。それも知っている。
龍鬼だけが知る、龍鬼の物悲しさなのだ。
「すまない。千夜を、医者に…」
「あぁ。すぐ医者に診せる」
堺は千夜だけを担ぎ上げ、馬に乗せると。即座に、その場を去っていった。
九班の者たちと、廣伊は。堺の後ろ姿を見守る。
どうか、手遅れにならないように…そう、祈りながら。
美濃幸直、率いる第五大隊は。体勢を立て直すことに成功し。すでに戦線を押し返していた。
戦闘可能状態の兵が、ごっそり抜けた手裏軍は。一騎当千の美濃相手に、戦うことができなくなっていたのだ。
紫輝たちがいる、巨大植物が倒れている場所は、今や戦線のかなり後方となり。戦う兵の姿は、前方のはるか遠く。
砂埃の舞う戦場が、寂寥感を漂わせ。ただただそこに、呆然と立ち尽くしていた。
★★★★★
壮絶で、長い一日が、終わり。紫輝は一足早く、前線基地への帰路に着いた。
本当は、廣伊の方こそ。一刻も早く、基地に戻り、千夜の容体を見たいのだろうけど。
二十四組の指揮を執らなければならないし。
組長不在の、二十二組の采配や。今回の事件の報告、本拠地への帰還の手配などなど。することが山積みで。
廣伊は、千夜のことを紫輝に託し、諸々の後始末に駆け回っているのだ。
誰もいないところで。紫輝はちょっとズルをして、ライラを獣型に戻して、乗った。
最短で、基地に着いたと思う。
表門の手前で、ライラを剣に戻し。そこからニ分ほど、基地の中をひた走り、医務棟についた。
怪我人などは、早めの治療が有効なので。医務棟は、表門近くに配置してあるのだ。
入り口に堺が立っていて、紫輝は足を止める。
「堺、千夜はどう?」
相変わらず、堺の表情は乏しく、顔色も悪く見えたから。紫輝は心配になってしまう。
「腕についていた植物に、止血と麻酔の効果があったようで。命を脅かされることなく、無事に手術を終えました」
「なら、助かったんだね?」
紫輝は喜び、笑顔で堺に聞いた。
それでも堺は、眉間を寄せる、渋い顔つきを崩さない。
「それは、経過を見なければわかりません。これから、痛みも出てくるだろうし。炎症による熱発も、気が抜けない。こういう事例は、あとの症状の方が大変なんですよ」
大和も似たようなことを言っていたと、紫輝は思い出す。
感染症になったら、助からないって。
「でも、とりあえずは…大丈夫でしょう?」
なんとか、大丈夫という言葉を引き出したくて、紫輝は堺をみつめる。
そうしてようやく、彼はうなずいてくれた。
「じゃあ、千夜に会ってくる」
気持ちを落ち着けて、紫輝が医務棟の中へ入ろうとすると。堺が止めた。
「怪我人は、龍鬼の存在を、ものすごく嫌がります。傷がある分、汚染されやすいだろうと…」
「え、そ…そうなんだ」
汚染とか、なんか嫌な感じなんだけど。
思わぬところから、龍鬼の弊害を知らされ。紫輝は不意打ちを食らった気分になった。
でも、怪我人相手に怒れないし。
うー、もやもや。
「望月は、高槻の部下だし、彼が顔を出しやすいよう、新設の天幕で休ませています。こちらへ」
もやもやな気分を引きずったまま、紫輝は堺についていった。
龍鬼に深く関わった者は、龍鬼でなくても隔離されてしまうってこと?
重傷で、目を離せない状況でも、ただ龍鬼と親しくしていただけで、充分な治療が受けられないの?
じゃあ、もし龍鬼である自分が、病気になったら。誰か診てくれる医者はいるの?
そんなこと、考えると怖くなるから。
紫輝は途中で思考を止めた。
今はとにかく、千夜の容体が心配。彼のことだけを考えていよう。
千夜のために用意された天幕は、三角屋根に四本の支柱で、家の形をしている。
キャンプなどで使用する、三角のテントよりは、大きくて丈夫そうだから、安心はした。
紫輝は以前の世界で、学校の運動会とかで、運営本部が使用していた職員用のテントみたいだなと感じた。
でもそれは、布張りだから風が通る。
九月下旬の、この時期としては。少し肌寒いのではないかと思うし。衛生的にも、問題があるなと思っていた。
大和が言っていたように、感染症になったら大変なのに。
この環境では、防げるものも防げないんじゃないか?
でも滅菌室や集中治療室なんか、この世界にはないんだろうな?
天幕の中へ入ると、千夜のそばに白衣の男性が立っていた。
「井上医師です。望月の手術をしてくれた主治医ですよ」
堺の説明に、紫輝は安心して笑みを浮かべた。
もしかしたら、付き添いの人もいないかもしれないと、思っていたので。
医者がそばにいてくれたことが、もう、嬉しかった。
「彼は、あまり龍鬼に偏見のない、珍しい医者ですから。龍鬼が戦場に出るときは、必ず同行します。紫輝も、もしも怪我などしたら、すぐに彼に診てもらってくださいね?」
龍鬼を診てくれる医者がいることに、紫輝は安堵した。
そして、深々と頭を下げる。
「千夜を診てくださり、ありがとうございます、井上先生。俺は右第五大隊二十四組九班班長の間宮紫輝です。以後、よろしくお願いします」
「おや、三人目の龍鬼だね? こりゃまた、仕事が増えそうな、嫌な予感だ」
ちょっとおどけたような感じで、井上医師は言った。
彼は、白に近い薄茶色に、まだら模様が入っている髪だ。
少し年嵩に見える。
なんというか、井上は。くたびれた学者感が滲み出ているというか。そんな感じ。
翼は薄茶の地に、小さな濃茶の模様がてんてんと入る、特徴的な中くらいの翼。ほわほわした羽毛がなんだか…。
「あったかそう」
「…なにが?」
紫輝のつぶやきに、井上がすかさずツッコんだ。
堺は紫輝の思いもよらないつぶやきに、ツッコみそびれたようだ。
そう来たか…と、思ったか、思わなかったか。
「彼はフクロウです」
とりあえず面倒くさいので。堺は種明かしした。
「あの、千夜はどうですか?」
紫輝は、本題に立ち戻り。井上に、千夜の容体をたずねた。
「私がやれることは、みんなやった。元々、腕をぶった切られて、命があるという方が稀なんだ。あとは、彼の体力次第」
やはり医者も、堺や大和と同じことを言う。
紫輝はがっかりした。
「ヨモギが良いよ」
「え?」
井上の言葉が、紫輝にはよくのみ込めず、たずね返す。
ヨモギって、なんだっけ?
あ、ヨモギパンとか、聞いたことあるかな? でも、それかな?
「ヨモギは消炎、抗菌作用があるから、傷口に当てておくと、悪化を防げるかもしれない。この辺りには、いっぱい生えているよ?」
紫輝は、医療技術が進んでいた時代で暮らしていた。
病院では、多種類の薬剤で、あらゆる病気や怪我が治療され。
軽い症状なら、家で、市販の薬を飲めば治った。
そういう世界だったので、薬草頼みの今の状態に、落胆してしまう。
ここが小説の中の異世界だったら、回復魔法とか、聖女の浄化とか、ポーションとかで、すぐに直せるのに。
「彼の腕にくっついていた植物は、アロエだ。あれは皮膚を保護して、解毒の働きもある、万能薬。高槻がでっかいアロエを出したんだって? あとで採集しに行こうかな?」
「あれはもう、干からびてしまいました」
そう。廣伊が地上から産み出した、あの植物は。あのあと、すぐに枯れて、風に散ってしまった。
元々、そこにあるものではなく。
廣伊の気が供給されなければ、維持できないものなのだろう。
地面の裂け目だけが、廣伊が能力を発現した証として残った。
「ええぇ、もったいない。止血、鎮痛、殺菌、最高の薬剤になりえたものを…」
愕然、という顔で嘆く、井上を見やり。
紫輝は、この世界では、薬的なものは期待できないのだなと理解し。ヨモギとアロエ…と頭に刻み込む。
「それより、彼は明日退却するのだろう? 移動はどうするんだ?」
「え。こんな状態の千夜を、まさか動かすって言うんですか?」
紫輝は、木製のベッドに寝かされている千夜を見ながら、井上に聞いた。
血の気を失った白い顔色に、青みがさしている。
今、動かしたら、それこそ死んでしまう。
背筋が凍る思いで、紫輝は千夜を見下ろした。
「今回は、右軍がすべて下がり、左に全権を明け渡す交代なのです。右軍は、すべて退去しなければなりません。それが重傷の者でも、本拠地に戻るというのが決まりなんです」
静かな口調で、堺が説明する。
しかし、紫輝は納得できなかった。
ある程度回復しなければ、動かすのは危険だと、医学的に素人の紫輝でも、考えつくことだ。
「特例とか、ダメですか? だって、千夜は味方に斬られたんだ。こんなの…関東まで移動なんて、絶対に無理ですからっ」
「泣くな」
語尾を涙声で揺らす紫輝に、叱咤の声が飛ぶ。
廣伊が、天幕の中に入ってきたのだ。
千夜のかたわらに、さっと寄っていった廣伊は、寝顔を見ると。井上に視線をやった。
「どうだ?」
「応急処置が良かった。今は落ち着いている。あとは、望月ががんばれるか、だな?」
廣伊は、フッと小さく息をつき。
紫輝と堺に、目線でテントの外へ出るよう促した。
テントを出る直前『あ』とつぶやき。
背中から、なんか長いものを出して、井上に放り投げる。
巨大アロエの葉の一部分だ。山芋並みに大きいが。
「やる。研究に使ってくれ」
「やった。助かるよぉ、高槻」
井上は頬擦りする勢いで、アロエの葉を大事に抱え込んだ。
なんであの葉は生き残っているんだろう?
廣伊の加護があるのかな?
そう思ってよく見れば。アロエは薄っすらと緑に光って見えた…。
紫輝は、千夜のそばについていたいと思ったのだが。
上官命令なので、仕方なく、廣伊について外へ出る。
すると、そこには。赤穂と月光がいた。
廣伊は彼らの前で片膝をつき。首を垂れる。
「この度は、我が隊での不祥事、誠に申し訳ありませんでした」
「山本の寝返りだろう。おまえの責任はない」
廣伊の前に立つ赤穂は、威厳を持って言い切る。
だが廣伊は、顔を上げなかった。
「いいえ、予兆はありました。山本には、第五大隊長なのではないかと、以前から疑念を抱かれておりました。知りながら、対処をしなかった。そのことが、今回の件につながったのだと。戦死者は、第五大隊副長、富永をはじめ。二十二組の兵、合わせて十八名。大きな犠牲となりました」
副長が犠牲になっていたことを知り、紫輝はギョッとした。
仮説として。
山本が第五大隊長になるためには、第五大隊長と、副長が、命を失わなければならない。そんな話をしていたのだ。
まさか、本当に副長が帰らぬ人になっていたなんて。
「富永の死因は、刀傷でした。山本が、私に向けたのも、刀。おそらく、あの乱戦の中で。私と副長を、手裏にやられたと見せかけるつもりだったのかと」
「廣伊が第五大隊長って情報を、山本が手裏に漏らしたことを。俺が手裏兵から聞き出さなかったら。誰もそのことに気づかすに、山本が第五大隊長になっていたかもしれないって…そういうこと? 千夜が廣伊をかばわなかったら、廣伊も…一部始終を見ていた俺たちも、山本は皆殺しにしたかもしれない。手裏の刀で…」
紫輝の言葉に、廣伊が重々しくうなずいたので。
これは、紫輝の妄想ではないのだ。
山本が千夜を斬ったのは、廣伊を狙ったからだ。
己の流した情報で、己の組の仲間が大量に死ぬことも構わず。上官である副長も。裏を知った者も、みんな殺して。第五大隊長になるなんて。そんな大それたことを、山本は実行する気だったのだろうか?
もし、手裏兵から聞き出した、あの情報がなかったら。今も、誰も、なにも知らなかったかもしれない。
そう思うと、今更ながらにゾッとした。
「廣伊は、第五大隊長なのか?」
今回の件は、廣伊が大隊長でなければ、成り立たない反乱だ。
紫輝は、まさかと思いながらも、廣伊をみつめる。
廣伊はゆっくり立ちあがり。紫輝を真正面から見据えた。
「そうだ。私が第五大隊長だ」
「高槻。それは最高機密なんだが…」
堂々と紫輝に真実を告げた廣伊を、赤穂が目を吊り上げてたしなめる。
以前、第五大隊長の所在は、軍の勝敗を決めかねない重要情報なので。敵はおろか、味方にすら明かせないことなのだと教えられた。
つまり、廣伊が殺されていたら。
防衛線が総崩れになる恐れがあったということだ。
「いいえ、今回の件で、私の地位を秘することに、意味はなくなりました。むしろ、真実を告げなければ、兵たちは納得しないでしょう。私の兵は、荒くればかりなので」
ふと、廣伊が笑う。
けなす言葉の陰に、自分が育て上げた二十四組の兵たちへの愛情が見て取れた。
「これからは堂々と、顔も名も出し、手裏軍に相対します。そうさせてください。もちろん、防衛線を突破させることなど…将堂軍第五大隊長、高槻廣伊の名にかけて、決してさせはしません」
睥睨していた赤穂は、愉快そうにククッと笑い。尊大に胸を張って廣伊に告げた。
「いいだろう。どうせ我ら、明日には、戦場を去る身だしな。第五大隊長、高槻廣伊に人事権を預け。人員補充と第五大隊の新たな統制を任せる」
「はい。謹んでお受けいたします」
己の上司である廣伊が、赤穂に頭を下げる。
こうして上司と部下のやり取りを見ると、いつもは悪ふざけで絡んでくるばかりの赤穂が、なにやら偉い人に見えるから、不思議だ。
いや、右軍総司令官だから、正しく、偉いんだけど。
「それから、望月のことだが。本拠地までの道のりは、厳しいだろう。河口湖の辺りに、月光の屋敷がある。しばらくはそこを使うといい」
「は? 瀬来様…のですか?」
赤穂の提案に、廣伊は戸惑いを隠せない。
本来なら、組長級が怪我を負っても、幹部が顔を出すことはない。
今回の顛末は謀反という、あってはならない特別な事案だから、か?
そうして、廣伊は。そばにいる紫輝を見やる。
そして、違うな、と思ったのだ。
この場にいる、准将、側近、将軍、すべての幹部級は、紫輝がここにいるから、いるのだ。
関係性などは、わからない。
紫輝に聞けば『友達』としか返ってこなさそう。
ただ、紫輝の人脈に、己が胡坐をかいてもいいものだろうか…としばし悩んだ。
「屋敷と言っても、小さい休憩所みたいなものですよ。使用人もいないから、かえって不便で申し訳ないんだけど。ぜひ使ってくれないかな?」
瀬来からは、なんとなく断りづらい圧を感じた。
つまり。瀬来も赤穂も、そうしてほしいなにかがあるのだ。
理由はわからないが。
こちらにとってはありがたい話なのだから、乗らない手はない。
「では、お借りいたします」
廣伊は丁寧に、瀬来に頭を下げる。
瀬来と赤穂は、なにやらひとつ息をついた。
千夜の行く先にめどが立って、ホッとしたのは。こちらだというのに。
「俺も、一緒に行く。いいだろ? 廣伊」
「あぁ、助かる」
紫輝は廣伊から許しを得て、安堵の息をついた。
千夜の容体では、本拠地まで行くなんて無理だと思っていた。
そこに赤穂が助けの手を差し伸べてくれたので。本当に感謝した。
河口湖なら、ここからそう離れた場所ではない。ライラに乗れば、三十分くらいで着くだろう。
防衛線に近いので、小競り合いはあるかもしれないが。
そこも、将堂の兵が見回っているので、逆に安心だ。
廣伊は、側近の月光の屋敷を借りることを、恐れ多いと感じていたかもしれないが。了承してくれて、良かった。今は、千夜を生かすことが重要なんだから。
「一度兵舎に戻り、明日の移動指示を、班長としてしっかりとしてこい。そうだな…野際か安井に、班長代理を頼むといい。千夜の容体が、移動に耐える状態まで落ち着いたら、夜のうちに動く。仕事を終えたら、ここに戻ってきてくれ」
「はい」
廣伊の指示に、部下の顔で紫輝はうなずく。そうして廣伊は、千夜のいる天幕に再び入っていった。
紫輝が、廣伊の後ろ姿を見守っていると。
頭を、大きな手で鷲掴みされた。
おいおい、オオワシさんよぉ。という気分で、赤穂を睨むと。
廣伊の前では威風堂々としていた赤穂が、奥歯をギシギシさせていた。
「おまえよぉ…最後の最後で、冷や冷やさせんじゃねぇっ!」
「本当だよぉ。もう、なんなのっ、明日引き上げるって日に、謀反とか。あり得ないんですけどぉ」
月光までもが、半泣き状態で抱きついてきて。紫輝は戸惑ってしまう。
それ、自分のせいじゃないし。
っていうか、この距離感、ダメじゃね?
将堂家に目をつけられたくなくて、避けてたんじゃなかったっけ?
「だ、ダメですっ、ここ、外。つか、堺、そこ、いるからぁ」
ひそひそ声で、ふたりをたしなめ。紫輝は彼らから距離を取った。
すると背中が、堺にぶつかって。今度は後ろから、堺が紫輝を抱き止める。
「ずいぶん、紫輝と仲良くなったのですね、瀬来。つい最近まで、紫輝を追い詰めていたというのに」
しかし、堺の矛先は月光だった。
あれ? ちょっと険悪?
紫輝のいないところで、ふたりが揉めたことを、紫輝は知らなかった。
「そうなんだ。紫輝とは仲直りしたんだよ。僕も、堺を見習ったわけ。紫輝のことはなにもかも、見ざる言わざる聞かざるってね?」
「なにを企んでいるんですか?」
「企んでなんかいないよぉ。屋敷を貸すのも、あのときはごめんね! 的な意味合いもあるんだ」
「紫輝の心は暴きませんが。貴方の心を暴くのはやぶさかではないのですよ」
なんで、このふたりがバトってんのか、知らないが。
堺が、紫輝のことを全部知っている月光の心をのぞいたら、なにもかもバレちゃう。
ヤバいよ。なんとかしなきゃ。
「駄目だよ。堺」
慌てて、紫輝は体を反転させて、堺に向き直ると。弟を叱る兄のような気持ちで、堺に言った。
「俺たちは龍鬼なんだから、そういう脅しみたいなのは駄目。信用を無くしちゃうだろう? 俺たちは誰とでもフレンドリーに…えっと、友達…みんな友達、的な? みんなと仲良く、的な?」
最後はグダグダになったが。なんとか言いたいことを言うと。
堺も、叱られた弟みたいな顔で、しゅんとしていた。
いや、基本表情は動いていないので。そういうイメージなんだけど。
「…紫輝がそう言うのなら。そんな感じで、紫輝は私とも仲良くしてくれたから。これ以上は言いませんが。瀬来は赤穂様と恋仲なのだから。あまり紫輝にくっつかないでください」
「えええぇー、三人でいたすのもいいんじゃない?」
「破廉恥ですっ」
あぁ、ハレンチって言葉、残っているんだな。と紫輝が思うのは。
紫輝は破廉恥という漢字を知らないからだった。
なにやら揉めているふたりを尻目に、赤穂が、紫輝の髪をわしゃわしゃと掻き回して、言った。
「紫輝。俺は残務処理で本拠地へ帰還しなければならない。ここでお別れだ」
傍若無人で厄介な男だが。父親だし。
お別れだと言われると、なんだか寂しい気になる。
「堺も、俺に同行させる。龍鬼が三人抜けたら、退却の道のり、戦力不足になりかねないからな。だが、おまえたちの護衛が月光ひとりでは、あまりにも心許ないので。美濃幸直を残していく」
「失礼ですね、貴方は。でも、力仕事はやってもらおう」
赤穂の暴言に、月光は桃色の羽を不満そうにバタつかせた。
「月光は、いつも看病される側のやつだが。それゆえに、病人の気持ちはよくわかるだろう。存分に頼ってやれ」
頭を撫でていた手で、紫輝の肩をがっしりと組んで。紫輝にしか聞こえない小声で、耳に囁いた。
「本拠地に戻ったら、連絡しろ。屋敷に招いてやる。親子水入らず…とか。どうだ?」
「ぶはっ、らしくねぇ」
赤穂の言葉に、思いっきり吹き出してしまった。
笑う紫輝の鼻を、ギュッとつまんで。小生意気なやつめ、と吐き捨てると。
赤穂はひらりと手を振って、踵を返した。
「月光、堺、早く来い。やることやって、とっとと帰るぞ」
「紫輝、あとでね」
小さく手を振った月光とは、一緒に屋敷に行くので、すぐに会える。
でも、堺とも、ここでいったんお別れだ。
「紫輝。あの約束、楽しみにしていますね」
「うん、俺も。またな、堺」
何度も振り返りながら去っていく、名残惜しげな堺の様子に。紫輝もなんだか悲しくなる。
でも、またすぐに会えるんだから。大丈夫。そう思い。
紫輝も、廣伊に指示されたことをするために、二十四組の宿舎に急いだ。
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