【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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40 首脳会談 ③

「その話の流れで行くと、金蓮にも、双子の兄弟がいるってことになるな?」
 紫輝が話を振り向けると。
 意外な方面から、答えが返ってきた。天誠だ。

「それは、俺に心当たりがある。手裏基成は三人体制で動かしていると説明したが。ひとりは俺。もうひとりは不破、である藤王。そしてもうひとりは、手裏家の長子である手裏銀杏だ」
 将堂側の話が続いて、ずっと天誠は黙っていたが。
 心当たりって、なんだろう?

「手裏銀杏というのは、手裏家のお家騒動のとき、乱心して、基成に討たれたと伝え聞いているが?」
 廣伊の質問に、天誠は、お猪口を傾けながら話を続ける。

「実際は、手裏家で冷遇されていた銀杏を救うために、不破が起こした謀反だった。しかし銀杏は女性なので、手裏家を乗っ取ったとしても、すぐに当主として認められない。彼女が手裏家を円滑に継ぐまで、我らが手柄を立てつつ実績を作っている最中だった。まぁ、俺には。紫輝が現れたので。もう、その気はないのだが」

「で、その心当たりっていうのは?」
 うすうす察しはつくけれど。
 一応、お約束だから。紫輝は天誠に聞いてみた。

「その銀杏が、金蓮にそっくりだ」

 二十代前半なのに、大人っぽいみなさんは、リアクションも声もなく驚いていた。
「女にしては長身で、赤茶の髪に赤茶の大翼。…子供の紫輝に剣を振り上げていたやつが、銀杏と同じ顔つきで驚いたから、間違いない。おそらく。赤穂、というか、金蓮に矢を射かけたのは、銀杏だ。基成三人のうち、俺は紫輝のそばにいたし、不破は藤王として金蓮のそばにいたからな。女の力だから、威力が落ちて、即死を免れたのだろう。ついていたな?」

 フッと、天誠が笑いかけると。赤穂は、ケッと舌打ちした。
 もう、仲良くしてよね。

「おい、本当の手裏基成はどうしたんだ。おまえが殺ったのか?」
 紫輝の前で、生々しい話をしたくなかった天誠は。赤穂の考えなしの質問に、眉間にしわを寄せる。
 でも、まぁいいか。本当のことを言えば。

「手裏基成殺していない。逃げられたんだ」
「へぇ、天誠から逃げられるなんて、相当の手練れなんだね?」
 純粋に感心したように、紫輝は言うが。
 天誠は苦笑いを浮かべる。

「俺は、この翼を手に入れる前で、瀕死の状態だったのでな…深追いできなかった」
 家族を殺されたというのに、手負いの己に立ち向かえず、逃走したヘタレ、などとは言えない。
 口元をにこやかに歪め、一家惨殺などの不利になることは口にしない天誠だった。

「その翼は、手裏家の大翼だな?」
 すでに、酒からお茶に飲み物を変えている月光だが、なにやら天誠に絡み始めた。

「三百年前の薬品のせいで、鳥類遺伝子を取り込まないと死ぬところだったと、紫輝に聞いている。それで紫輝の弟が、安曇眞仲で、手裏基成だなんて、妙なことになっていると…ちょっと、出来過ぎているんじゃない?」
 いつものごとく、天誠は冷静な顔つきだけど。大丈夫?

「それは、自分でもそう思う。でも、正真正銘、偶然だ。死にそうだったから、目の前にあった翼をつけてみたが。本当につくなんて思わないだろ?」
「じゃあ、僕の翼をつけたら、桃色の髪に桃色の瞳になっていたかもな? なかなか可愛らしいじゃないか?」
 紫輝は天誠をみつめ、プッと吹き出した。
 えぇぇ? 天誠なら似合うって。
 ライラとセットで、いいんじゃね?

「大丈夫だ、天誠。髪の毛ピンクでも、俺はきっと、おまえを好きになる!」
 親指をたてて、ニカッと笑うと。
 天誠は、紫輝の額を指で小突いて、床に沈めた。
 デコピンはいかんよ。

 額を手で擦りながら起き上がると。
 月光の表情が、からかう顔つきから真面目なものに戻っている。

「話を戻すけど。安曇は、手裏家の者ではないが、手裏の象徴として有益な翼があり。紫輝は将堂の血族だ。そのふたりが手を組むということは、二大勢力である手裏と将堂の統合ということになる。戦を終わらせ、天下を統一する可能性を、充分に持ち合わせてはいるが…。安曇はどういう構想を思い描いているんだ?」
 月光が天誠に問いただす。
 ようやく首脳会談風になってきたな、と紫輝は思った。
 まぁ、今までも、濃い内容だったけど。

「平和的解決法としては、俺と紫輝の結婚を発表し、二家の融合を宣伝することだな。そしてゆくゆくは、紫輝を頂点にして、この地を統治し。国の形に変えていく。全国統一だ」
 話が大きくなってきて、紫輝は途端にオロオロしてしまう。

「え、そうなの? 俺、国とか統治とか政治とか、あんまりわからないんだけど」
 政治アレルギーというか。
 政治というと、小難しいという先入観があって、どうしても尻込みしてしまうのだ。

「だから、お勉強をすると、先ほど言っただろう? でも、そんなに難しく考えることはない。紫輝の後ろには、必ず俺がいるのだし。以前の世界ほど、大規模じゃない。悪いことをする人がいたら、捕まえて罰を与える。みんなが健やかに暮らせるよう、税金を集めて警察や役所を作る。そういう当たり前のことを整えれば、大概のことはうまく回るんだ」
 トラブルが起きたら、どう対処するか。
 天誠が言ったことは、それくらいなら自分でも考えつきそうなものなので、なんとなく納得して。
 紫輝はうんうんと、うなずいた。

「紫輝が納得したところで。いずれそういう方向で進めるつもりなのだが。そのためには双方に、少々障害がある」
 天誠の話に、熟考した月光が口を開く。

「将堂側の問題か…。紫輝が将堂のてっぺんに上り詰めるには、龍鬼の地位を上げなければならないと思う。民衆の龍鬼への恐れを払拭しないと、支持を得られず。将堂軍内部でも、龍鬼は将軍以上になれず、政治にも介入できない。それは、将堂に根強くはびこる差別観で。その意識を変えられないと、紫輝は将堂家の一員であることすら認めてもらえないだろう」

「手裏側の問題は。カラス羽根黒翼として差別された側として、将堂への反発がある。将堂は美しいもの、希少なものを優遇し、その他大勢を見下している。その体質を手裏側は全く受け入れられない。紫輝は、龍鬼として虐げられてきた側だから、カラス羽は同情的だ。しかし将堂の血脈というだけで反発されることもあるだろう。でもそこは、当主の一声で解決できる。俺の伴侶には、誰も口を出させない」
 威圧感バリバリの魔王オーラで、天誠は言い切ってくれる。
 頼もしくて、紫輝は彼にすべてを預けていれば大丈夫だという気になれた。

「一番のネック…障害は。手裏基成である他のふたり、不破と銀杏の、将堂憎しの感情だ。銀杏は、金蓮の妹、将堂の血脈として、いずれ政治の駒に使うために、手裏が確保しておいた切り札だ。手裏家の養子という態だが、地下牢に長く閉じ込められ、人質扱いだった。不破は、銀杏に会って、手裏と将堂の闇を見たのだ。戦のために子供を利用する手裏。家督争いを回避するため、子のひとりを見捨てる将堂。どちらも、不破は許せなかった。やつは真面目だから、理不尽に虐げられる者を、捨て置けないんだ」

 むぅと唸ったあと、赤穂は口をはさんだ。
「兄上の半身が、手裏に奪われていたことも、驚きだが。藤王は人格者だったのに、将堂を裏切り、手裏に加担していることが、未だに信じられない。実際に目で見たことだから、確かなことではあるのだが…」

「人格者ゆえに、受容できないものがあるのだろう。時雨家のお家騒動で、おそらく将堂を見限るなにかがあった。不破は特に、龍鬼が不遇なことに憤怒する傾向がある。紫輝が襲われていたところを目撃したときも。将堂の龍鬼への処遇に、激怒していた。親族であるのに、龍鬼だから殺す。そんな横暴な話は、受け入れられない。とね」

 その天誠の答えを聞けば。紫輝はやっぱり、藤王がそれほど悪い人には思えなくて。聞いてみた。

「でも、藤王が差別を嫌う、まともな考えを持つ人なら。話し合う余地があるんじゃないか? 俺は、まず。戦をなくしたいけど。この世界から、差別もなくしたい。悪いことをしていない人が、見た目だけで迫害されるのは、良くないよ。龍鬼もカラス羽も。藤王は、そういう考えなんでしょ?」
 藤王、良い人じゃん? と紫輝は単純に考えるが。
 それはまだ、表面しか見えていないからなのかもしれない。

 だって天誠は。不破に対しては、初めから慎重に、思慮深く、事を進めてきたのだ。
 もしかしたら、似た者同士だから。油断ならないと思っているのかもな。

「基本はな。だが、藤王が腹の底でなにを考えているのか、俺には読めない。今回の金蓮襲撃の件も、俺に相談がなかった。強硬手段に出たのかもしれない。つまり、今現在、情報不足だ。不破と銀杏が、この先どのように考えているのか、見極める必要がある」
「将堂の方も、もう少し紫輝が動きやすい状態にしないと…」

 難しい顔つきで、月光が言うが。
 え、自分は、なにかした方がいいの? と紫輝は小首を傾げるしかない。
 なんか、難しすぎて。頭に入ったような、入らないような、なんですけど。
 結婚報告して平和的解決、だけは頭に入っているけど。

「将堂側の障害は、感情面が多い。その点は、変革してから修正していくのもアリだとは思うが。どちらにしても互いに、もう少し時間が必要だ。最適な状態を見て取ったら、行動に移すのが良いと思う」
「「「異議なし」」」
 紫輝以外の三人が声をそろえて言うのに、紫輝は目を丸くする。
 よくわからないうちに、なんか決まったの?

「赤穂様はこれから、どのように動かれるのですか?」
 盃を重ねながら、廣伊がたずねる。
 全然、表情が変わっていないんだけど。酒に強いのか、ただ顔に出ないだけなのか、廣伊の場合、判断がつかないな。と、紫輝は彼をしげしげ見やる。

「俺は、死んだことになっているから。動けない。のこのこと兄上の前に出て行ったら、問答無用で斬られそうだ。月光ともども、しばらくは、この第三勢力の本拠地で、のんびりしつつ、謀略を練ることとしよう…いいな?」
 ちらりと、赤穂は天誠に目をやり。天誠はうなずく。
 うんうん、仲良くなってきたな。

「手始めに、おまえら。祝言をあげろ。見届け人は、亡霊の我らだが。俺の家系図に、ビシッと名前を乗っけてやるから。これはのちのち、紫輝が俺の子供であるという証拠として、生きてくる。こいつが裏切らないようにする、枷にもなるしな」
「枷は大歓迎だ。俺を紫輝にどんどん縛りつけてくれ」
 ビビらせるつもりで、赤穂は言ったのだろうが。
 むしろ天誠は、恍惚という表情になったので。みんなドン引きした。

 天誠の、振り切ったハイパーブラコンを舐めたらいけない。

「つまり、俺と天誠の仲を認めてくれたの? お父さんっ!」
 紫輝のお父さん攻撃に、赤穂はヘラリと頬をゆるめ。そして引き締めて。咳払いした。

「あぁ、まぁ、うん。だから、そろそろ、剣を取り戻してくれ」
 照れ隠しで、ごにょごにょ言う赤穂をほったらかして。
 紫輝は、ライラの広くてたくましくて温かくて毛がつるつるで気持ち良い背中に、抱きついた。

「ライラ、ライラ、赤穂認めてくれるってよ。剣を返してって言ってるよ?」
 手のひらで、てんてん横腹を叩くと。ライラは、おもむろにあおむけになる。
 胸の前でクロスした丸い手で、剣を抱いている。しっかりホールドだ。そして…猫キックがさく裂した。

「あぁあ、剣が曲がるだろ、紫輝、早くやめさせろ」
 赤穂の剣も、廣伊に負けず劣らずの、ごつい剣だ。ちょっとやそっとじゃ、曲がらないと思うけど。
 ライラの猫キックの威力は、すさまじいから。曲がらないとは言い切れない。

 紫輝はライラをなだめてから、なんとか剣を返してもらった。
 赤穂は鞘から剣を抜き、曲がっていないのを確認すると、息をついて鞘に戻した。

「ったく。認めてやったのに、なんで怒るんだ?」
「愛がたりないわ。パパは、どんとかまえて、だまってイイ子イイ子するものよっ」
 寝たまま、手足をピーンと伸ばし、ライラは赤穂に言う。
 さすが、ライラは深いねぇ…と紫輝は関心する。

「ぱぱってなんだ?」
「父です。ライラの含蓄は、いつ聞いても惚れ惚れするな。で、祝言だが。二十四日のクリスマスパーティーのときに一緒にやります」
 気が変わらぬうちに、という勢いで。天誠は予定をぶっこんできた。
 えぇ? 二日後だよ?
 スタッフの皆さん大丈夫かなぁ?
 って、祝言ってなにやるのか、イマイチわからないけど。

 結婚式だよね?

「くり…なんだって?」
 当然知らないだろう赤穂たちに、紫輝は、すみれたちに説明したようなことを、もう一度告げた。

「クリスマスパーティーだよ。まぁ、俺らの世界の、お祭り騒ぎ的な? その日は、家族や恋人や友達と一緒に過ごして、絆を深めたりするんだ。そう思うと、その日に結婚式って。最高だよね? 両親も親友も列席してもらえるんだから、言うことないよ。それにクリスマスイブが結婚記念日とか、超ロマンティックじゃーん? 絶対忘れないし」
 テンション爆上がりな紫輝を、赤穂は、まんざらでもなさそうな半笑いで見やる。
 両親列席で、この上なく喜んでいる息子。という図に、赤穂は内心、ご満悦だった。

「くりなんとかって、そんなに重要な日なのかよ」
「そうだよ。誕生日と並ぶ、大イベント日だよ。な、天誠?」
 紫輝と赤穂がやり取りしているところに、廣伊がおそるおそる声をかけた。

「話の途中ですみません、赤穂様。側近が潰れました」
 みんなが、月光の座っていた場所に目を向けると。
 ふにゃりとした笑みを浮かべる月光が、ぐてぇと床板に寝そべっていて。ピンクの翼が、ふわっ、ふわっ、と動いている。

 どうやら首脳会談はここでお開きのようです。

     ★★★★★

 赤穂は、月光をお姫様抱っこして、本棟の客間に入っていった。
 すぐ隣に、赤穂たちに用意した屋敷があるのだけど。雪の中、月光を抱えて帰るのは大変だから。今晩は本棟に泊まることになったのだ。

 でも、廣伊は。自分たちの家に戻るというので。
 玄関までお見送りしている。つか、隣だけど。

「紫輝。私は未だかつてないほどの、命の危機を感じている」
 特に酔ったようには見えない、しっかりした足取りで、廣伊は軍靴を履き。紫輝に向き直る。

「今回の話は、なにもかも、私が知っていい情報ではなかった」
 廣伊は、思う。
 将堂家の双子の話も、藤王が生きていた話も、手裏基成が、紫輝の弟てんせい不破ふじおう金蓮の妹いちょう、であることも。
 どれひとつとっても、その秘密を知った者は、抹殺対象ではないのか、と。

「情報共有は大切だよ。な? 天誠」
 紫輝はあっけらかんとして、隣に立つ天誠に聞くが。
 いやいや、そういう話じゃない。と、廣伊は顔を青白くするのだった。

「大丈夫。戦が終われば、秘密などあってないようなものになる」
 そう言って、天誠は。紫輝の頭をポンポンと、手で軽く叩いて見せる。
 彼が言いたいのは。紫輝がてっぺんに立ったら、秘密は秘密でなくなり。その頃には、なにもかもが決着するだろう。ということだ。

 そうであってほしい。そうなってもらわないと困る。と廣伊は思うのだった。

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