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41 俺の両親
◆俺の両親
朝起きて、紫輝が食堂に入ると。長机の上で、桃色の物体が溶けていた。
月光が両手を投げ出し、机に、片頬をぴったりとくっつけている。
目は開いているけど、死んでいる。
「月光さん、大丈夫? もしかして、二日酔い?」
「あー…酒で潰れたことなんかなかったのに。昨日はやっちゃったぁ。自分の酒量がわからないのは馬鹿だって、もう部下には言えないな」
「二日酔いにいいもの、なにか作ってこようか? 梅干しは、あるかな?」
「すみれちゃんが、ワサビ茶作ってくれてる。今、待ってるとこ」
会話には応じるが、頭は上げられないようで。相当きつそうだ。
月光が苦しんでいるのに、伴侶はどうした?
紫輝は月光の対面に腰かけ、聞いた。
「赤穂は?」
「戦場では、ちゃんとしてるけど、寝てていいってなったら、いつまでも寝ていられるから、あの人」
つまり、まだ寝ていると。
紫輝は、己の伴侶のことを脳裏に浮かべ、クスリと笑う。
「天誠も同じだよ。俺がライラに起こされても、いつまでも寝ているんだ。ライラは早起きで、朝の五時に、ごはんちょうだいって起こしにくる。俺は、もっと寝ていたかったのに。あぁ、でも、トレーニング…朝の訓練ってなったら、天誠はシャッキリして外に出て行くんだ。全然、眠気を引きずらないところ、うらやましい」
「なに、それ? まんま、赤穂じゃん。紫輝ぃ、無意識に父親みたいな伴侶、探したんじゃない?」
「そりゃ、わからないけど。引き取られた先でそういう人がいたって、奇跡的じゃね? 運命じゃね?」
「あぁ、藪蛇だった」
ガクリと、月光はこれ以上なく、机に突っ伏した。
そこに、すみれがお茶を持って来る。
「紫輝様、食事をお持ちしましょうか?」
「ううん、天誠が起きてから、一緒に食べるよ。その間、俺も、このお茶飲みたい」
了承の微笑みで、すみれは会釈し。お茶を注いだ。
ワサビ茶なるものを、紫輝も、ご相伴にあずかった。
ワサビの葉で作られたワサビ茶は、あの独特の香りがほんのりして、さっぱりとした飲み口で。二日酔いの頭がすっきりしそう。
緑茶というより、ハーブティーかな。
お茶を飲んだ月光は、ホッと息をついた。
「会議中に潰れるとは、大失態だ。紫輝、僕が落ちたあと、なんか話した?」
ようやく頭を上げ、月光は紫輝に視線を合わせる。
お茶が効いたね。
「んー、どこまで覚えてんの?」
「祝言あげろって、赤穂が言ってたところ」
「あぁ、じゃあ、ほぼ全部、聞いてんじゃん。あのあと解散したし」
「マジで? なんか赤穂が。両親列席で祝言あげるのに、紫輝が喜んでたって、うきうきして言ってたけど。そのあと、二度寝したけど」
「それは本当だけど。二十四日のクリスマスパーティと一緒に、祝言もあげることになって…」
月光は、ちらりと、大きな瞳で上目遣いした。
「紫輝ぃ、両親って、僕も入ってるの?」
「当たり前じゃん。他に誰がいるの?」
厳密には、紫輝の母親は金蓮で。月光も、そこに引っかかっているようだけど。
そんなの、もうわかっているでしょう? という気持ちで、紫輝は言った。
「だって、俺に触れて、抱き締めて、声をかけて、育ててくれたのは、月光さんと赤穂だろ? だから、俺の両親はふたりなの。文句ある?」
「ないぃ。あぁ、紫輝が認めてくれるなんて。チョー幸せ」
「ライラも昨日、認めてたじゃん。おんちゃんのママって。あたしもママよって。はは、ママ友だ、ウケる」
ひとりで言って、ひとりでけらけら笑う紫輝を、月光は嬉しそうに眺め。
そして、少し陰りを見せた。
「やっぱり、放っておけないよ」
なんのことかと、紫輝は首を傾げて、月光に問う眼差しを向けた。
「昨日、赤穂は。ここで謀略を練るということを言ったけど。これからの展望を計画する、拠点として、この場を万全なものにする。それは大切なことだと思うが。僕は、軍に戻ろうと思うんだ」
「それは駄目だよ」
月光の考えに、紫輝はすかさず、駄目出しをした。
あんまり間髪入れないものだから、月光は目を丸くする。
「月光さん、戻ったら、金蓮に殺されるよ? もう、口封じ対象だよ? そんなの、月光さんがわからないはずない」
金蓮は。赤穂が死んだと思っているから、赤穂は除外として。
月光は、赤穂の死の真相を知る者だ。
井上医師は、金蓮の体の秘密を知り、そのケアを一手に引き受けているので。彼女にとっては有用だ。
今までの経緯で、口の堅さも信用を得ているのだろう。
だから命の危険はない。と、彼自身が言っていた。
紫輝もそう思う。
でも月光は。将堂の宝玉は。
今回のことで、金蓮とは対決姿勢に入った。
将堂の勢力下に、大きな領地も持っているので、謀反を起こされると厄介なのだ。
さらに、将堂の頭脳でもあった彼が、手裏に奪われたら、大きな痛手になる。
それならば、いっそ殺してしまおうと。金蓮は考えるかもしれない。
だから。金蓮がその気を起こさないうちに。月光の行方をくらますため、念入りに迂回して、この村に入ってもらったのだ。
それなのに、月光が軍に戻ったら、すべてが水の泡ではないか。
「それは、そうだけど…赤穂も、そう思ったから。ふたりで、ここにこもると言ったんだけど。でも僕は、紫輝の父親だ。君をひとりにできない」
「将堂の宝玉らしくもないな。月光さん、選ぶ人を間違えないで。月光さんにとって一番大事なのは赤穂だろ?」
「赤穂と、子供の君と、どちらかを選ぶことなんか…できない」
いつもは、冷静な判断ができるのだろうけど。珍しく、感情で動いている。
でも、紫輝が、まだ月光の子供だとわかっていなかった頃。
紫月の行方を確かめるために、紫輝を通じて安曇眞仲に接触しようとしたのだ。
あのときも、確かに。ちょっと強引だったなと、紫輝は思い返す。
側近の地位にある者が、手裏の幹部に会おうとするなんて、危ないことだよね。ふ、と。紫輝は笑った。
「いいんだよ。赤穂を選んで。自分の命を選んで。それで、俺が月光さんに捨てられるってわけじゃないし。選ばれなかったって、拗ねたりもしないよ。そんな子供じゃない。つか、ちゃんと生きる道を選んでくれないと。俺が心配だろう? だって、俺。月光さんも赤穂も、大事なんだ」
「…安曇に。紫輝を守り切ると約束した」
そこ? 意外なところに引っかかっているのだなと、紫輝は思うが。
月光は一度、紫輝を守り切れなかった。それが痛恨の極みなのだ。
紫輝にとっては、十年以上前のことでも。月光にしてみれば、つい最近の話。
その悔恨は、いまだ色濃く、月光の胸に残っている。
子供がみつかったから、良かった。ではないのだ。
あのとき、こうしていたら。もっとなにかできたのではないか。
そうやって、親は己の失敗を、いつまでも悔やみ続ける。
安曇に言われたからではない。己に課した戒めなのだ。
「そばにいることだけが、守るってことじゃない。んー、俺には守ってくれる人がいっぱいいるよ。筆頭はライラだけど。廣伊も千夜も大和も、そばでガッチリ守ってくれるし。天誠も、赤穂も、月光さんも。そばにはいなくても、俺をしっかり支えてくれる。だから俺は頑張れる。でしょ?」
しょんぼりした顔で、月光は紫輝を見やる。
本当は、わかっているのだ。軍に戻ったところで、自分は足手まといになるのだと。
紫輝の行く手を邪魔することにも、なりかねないと。
「俺は、天誠ほど頭良くないんだから、月光さんに助けてもらえないと、困るよ。だから月光さんは、赤穂のそばにいて。この拠点を守って。父さんのこと、頼むよ。父さん?」
「ふふ、子供に諭されるとは…将堂の宝玉も、焼きが回ったな」
目の前で手を組んで、月光は、そこに額をつける。
手の陰に隠れて、見えにくかったけれど。情けなさからか、紫輝に父さんと呼ばれたからか…月光の頬に涙が伝った。
「なにジジイみたいなこと言ってんの? 子供とはいえ、三歳しか変わらないんですけどぉ?」
月光の涙には気づかぬふりで、紫輝は軽口を叩いた。
そのとき。キンキンと、なにやら金属音がして。
紫輝と月光は顔を見合わせ、外に様子を見に行ってみた。
そうしたら、寝ていたはずの天誠と赤穂が、玄関前で、また激しく手合せしているよ。
手合せだよね? 殺し合ってないよね?
「朝の鍛錬には、良い陽気ですね、お父さん」
なに言ってんの? と紫輝は、胸の中でツッコむ。
だって、昨晩、雪が降ったから。ガンガンに積もっているし。超寒いんですけど。
でも。またまた、ふたりが動いている場所に雪の痕跡はない。
どうなっているのやら。
「父さん、言うなっ。貴様は、マジで殺したくなるよなっ、つか、死ねや!」
剣から火花が散るほど、気の圧を感じるほど、激烈なぶつかり合いだ。
真剣でそういうの、やめてよ。
つか、ふたりとも。酒量が馬鹿みたいに多かったのに。元気だな、おい。
「紫輝を未亡人にするわけにはいかないな」
「まだ祝言前だから、間に合うぞ」
「でも、紫輝は。もう俺でないと満足できない体に…」
「殺すっ!」
朝から外で、この人たち、本当になに言ってんの? ねぇ、月光さん? という気持ちで振り返ったら。
なにやらピンクの髪が、怒りで真っ赤に燃えていた。
「殺すっ!」
スラリと剣を抜いた月光が、天誠に挑みかかっていった。
昨日は、赤穂ひとり対ふたりだったが。今日は天誠ひとり対ふたりになっている。
え? 二日酔い、治った?
「やばい、紫輝、手助けしろ。このままじゃ祝言の前に未亡人だぞ」
薄笑いで、天誠は紫輝に助けを求めるが。
うん。まだ余裕あるね。
「ライラは部屋で腹出して寝てます」
なので剣は手元にありません。そして自業自得だと思います。
でも…なんだかんだで、幸せだよね?
朝起きて、紫輝が食堂に入ると。長机の上で、桃色の物体が溶けていた。
月光が両手を投げ出し、机に、片頬をぴったりとくっつけている。
目は開いているけど、死んでいる。
「月光さん、大丈夫? もしかして、二日酔い?」
「あー…酒で潰れたことなんかなかったのに。昨日はやっちゃったぁ。自分の酒量がわからないのは馬鹿だって、もう部下には言えないな」
「二日酔いにいいもの、なにか作ってこようか? 梅干しは、あるかな?」
「すみれちゃんが、ワサビ茶作ってくれてる。今、待ってるとこ」
会話には応じるが、頭は上げられないようで。相当きつそうだ。
月光が苦しんでいるのに、伴侶はどうした?
紫輝は月光の対面に腰かけ、聞いた。
「赤穂は?」
「戦場では、ちゃんとしてるけど、寝てていいってなったら、いつまでも寝ていられるから、あの人」
つまり、まだ寝ていると。
紫輝は、己の伴侶のことを脳裏に浮かべ、クスリと笑う。
「天誠も同じだよ。俺がライラに起こされても、いつまでも寝ているんだ。ライラは早起きで、朝の五時に、ごはんちょうだいって起こしにくる。俺は、もっと寝ていたかったのに。あぁ、でも、トレーニング…朝の訓練ってなったら、天誠はシャッキリして外に出て行くんだ。全然、眠気を引きずらないところ、うらやましい」
「なに、それ? まんま、赤穂じゃん。紫輝ぃ、無意識に父親みたいな伴侶、探したんじゃない?」
「そりゃ、わからないけど。引き取られた先でそういう人がいたって、奇跡的じゃね? 運命じゃね?」
「あぁ、藪蛇だった」
ガクリと、月光はこれ以上なく、机に突っ伏した。
そこに、すみれがお茶を持って来る。
「紫輝様、食事をお持ちしましょうか?」
「ううん、天誠が起きてから、一緒に食べるよ。その間、俺も、このお茶飲みたい」
了承の微笑みで、すみれは会釈し。お茶を注いだ。
ワサビ茶なるものを、紫輝も、ご相伴にあずかった。
ワサビの葉で作られたワサビ茶は、あの独特の香りがほんのりして、さっぱりとした飲み口で。二日酔いの頭がすっきりしそう。
緑茶というより、ハーブティーかな。
お茶を飲んだ月光は、ホッと息をついた。
「会議中に潰れるとは、大失態だ。紫輝、僕が落ちたあと、なんか話した?」
ようやく頭を上げ、月光は紫輝に視線を合わせる。
お茶が効いたね。
「んー、どこまで覚えてんの?」
「祝言あげろって、赤穂が言ってたところ」
「あぁ、じゃあ、ほぼ全部、聞いてんじゃん。あのあと解散したし」
「マジで? なんか赤穂が。両親列席で祝言あげるのに、紫輝が喜んでたって、うきうきして言ってたけど。そのあと、二度寝したけど」
「それは本当だけど。二十四日のクリスマスパーティと一緒に、祝言もあげることになって…」
月光は、ちらりと、大きな瞳で上目遣いした。
「紫輝ぃ、両親って、僕も入ってるの?」
「当たり前じゃん。他に誰がいるの?」
厳密には、紫輝の母親は金蓮で。月光も、そこに引っかかっているようだけど。
そんなの、もうわかっているでしょう? という気持ちで、紫輝は言った。
「だって、俺に触れて、抱き締めて、声をかけて、育ててくれたのは、月光さんと赤穂だろ? だから、俺の両親はふたりなの。文句ある?」
「ないぃ。あぁ、紫輝が認めてくれるなんて。チョー幸せ」
「ライラも昨日、認めてたじゃん。おんちゃんのママって。あたしもママよって。はは、ママ友だ、ウケる」
ひとりで言って、ひとりでけらけら笑う紫輝を、月光は嬉しそうに眺め。
そして、少し陰りを見せた。
「やっぱり、放っておけないよ」
なんのことかと、紫輝は首を傾げて、月光に問う眼差しを向けた。
「昨日、赤穂は。ここで謀略を練るということを言ったけど。これからの展望を計画する、拠点として、この場を万全なものにする。それは大切なことだと思うが。僕は、軍に戻ろうと思うんだ」
「それは駄目だよ」
月光の考えに、紫輝はすかさず、駄目出しをした。
あんまり間髪入れないものだから、月光は目を丸くする。
「月光さん、戻ったら、金蓮に殺されるよ? もう、口封じ対象だよ? そんなの、月光さんがわからないはずない」
金蓮は。赤穂が死んだと思っているから、赤穂は除外として。
月光は、赤穂の死の真相を知る者だ。
井上医師は、金蓮の体の秘密を知り、そのケアを一手に引き受けているので。彼女にとっては有用だ。
今までの経緯で、口の堅さも信用を得ているのだろう。
だから命の危険はない。と、彼自身が言っていた。
紫輝もそう思う。
でも月光は。将堂の宝玉は。
今回のことで、金蓮とは対決姿勢に入った。
将堂の勢力下に、大きな領地も持っているので、謀反を起こされると厄介なのだ。
さらに、将堂の頭脳でもあった彼が、手裏に奪われたら、大きな痛手になる。
それならば、いっそ殺してしまおうと。金蓮は考えるかもしれない。
だから。金蓮がその気を起こさないうちに。月光の行方をくらますため、念入りに迂回して、この村に入ってもらったのだ。
それなのに、月光が軍に戻ったら、すべてが水の泡ではないか。
「それは、そうだけど…赤穂も、そう思ったから。ふたりで、ここにこもると言ったんだけど。でも僕は、紫輝の父親だ。君をひとりにできない」
「将堂の宝玉らしくもないな。月光さん、選ぶ人を間違えないで。月光さんにとって一番大事なのは赤穂だろ?」
「赤穂と、子供の君と、どちらかを選ぶことなんか…できない」
いつもは、冷静な判断ができるのだろうけど。珍しく、感情で動いている。
でも、紫輝が、まだ月光の子供だとわかっていなかった頃。
紫月の行方を確かめるために、紫輝を通じて安曇眞仲に接触しようとしたのだ。
あのときも、確かに。ちょっと強引だったなと、紫輝は思い返す。
側近の地位にある者が、手裏の幹部に会おうとするなんて、危ないことだよね。ふ、と。紫輝は笑った。
「いいんだよ。赤穂を選んで。自分の命を選んで。それで、俺が月光さんに捨てられるってわけじゃないし。選ばれなかったって、拗ねたりもしないよ。そんな子供じゃない。つか、ちゃんと生きる道を選んでくれないと。俺が心配だろう? だって、俺。月光さんも赤穂も、大事なんだ」
「…安曇に。紫輝を守り切ると約束した」
そこ? 意外なところに引っかかっているのだなと、紫輝は思うが。
月光は一度、紫輝を守り切れなかった。それが痛恨の極みなのだ。
紫輝にとっては、十年以上前のことでも。月光にしてみれば、つい最近の話。
その悔恨は、いまだ色濃く、月光の胸に残っている。
子供がみつかったから、良かった。ではないのだ。
あのとき、こうしていたら。もっとなにかできたのではないか。
そうやって、親は己の失敗を、いつまでも悔やみ続ける。
安曇に言われたからではない。己に課した戒めなのだ。
「そばにいることだけが、守るってことじゃない。んー、俺には守ってくれる人がいっぱいいるよ。筆頭はライラだけど。廣伊も千夜も大和も、そばでガッチリ守ってくれるし。天誠も、赤穂も、月光さんも。そばにはいなくても、俺をしっかり支えてくれる。だから俺は頑張れる。でしょ?」
しょんぼりした顔で、月光は紫輝を見やる。
本当は、わかっているのだ。軍に戻ったところで、自分は足手まといになるのだと。
紫輝の行く手を邪魔することにも、なりかねないと。
「俺は、天誠ほど頭良くないんだから、月光さんに助けてもらえないと、困るよ。だから月光さんは、赤穂のそばにいて。この拠点を守って。父さんのこと、頼むよ。父さん?」
「ふふ、子供に諭されるとは…将堂の宝玉も、焼きが回ったな」
目の前で手を組んで、月光は、そこに額をつける。
手の陰に隠れて、見えにくかったけれど。情けなさからか、紫輝に父さんと呼ばれたからか…月光の頬に涙が伝った。
「なにジジイみたいなこと言ってんの? 子供とはいえ、三歳しか変わらないんですけどぉ?」
月光の涙には気づかぬふりで、紫輝は軽口を叩いた。
そのとき。キンキンと、なにやら金属音がして。
紫輝と月光は顔を見合わせ、外に様子を見に行ってみた。
そうしたら、寝ていたはずの天誠と赤穂が、玄関前で、また激しく手合せしているよ。
手合せだよね? 殺し合ってないよね?
「朝の鍛錬には、良い陽気ですね、お父さん」
なに言ってんの? と紫輝は、胸の中でツッコむ。
だって、昨晩、雪が降ったから。ガンガンに積もっているし。超寒いんですけど。
でも。またまた、ふたりが動いている場所に雪の痕跡はない。
どうなっているのやら。
「父さん、言うなっ。貴様は、マジで殺したくなるよなっ、つか、死ねや!」
剣から火花が散るほど、気の圧を感じるほど、激烈なぶつかり合いだ。
真剣でそういうの、やめてよ。
つか、ふたりとも。酒量が馬鹿みたいに多かったのに。元気だな、おい。
「紫輝を未亡人にするわけにはいかないな」
「まだ祝言前だから、間に合うぞ」
「でも、紫輝は。もう俺でないと満足できない体に…」
「殺すっ!」
朝から外で、この人たち、本当になに言ってんの? ねぇ、月光さん? という気持ちで振り返ったら。
なにやらピンクの髪が、怒りで真っ赤に燃えていた。
「殺すっ!」
スラリと剣を抜いた月光が、天誠に挑みかかっていった。
昨日は、赤穂ひとり対ふたりだったが。今日は天誠ひとり対ふたりになっている。
え? 二日酔い、治った?
「やばい、紫輝、手助けしろ。このままじゃ祝言の前に未亡人だぞ」
薄笑いで、天誠は紫輝に助けを求めるが。
うん。まだ余裕あるね。
「ライラは部屋で腹出して寝てます」
なので剣は手元にありません。そして自業自得だと思います。
でも…なんだかんだで、幸せだよね?
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