【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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59 それでも、眞仲を愛してるっ

     ◆それでも眞仲を愛してる

 元日の、そろそろ日が暮れるという頃。お正月の御馳走をたらふく食べて、満足満足という状態で。赤穂の屋敷の囲炉裏の部屋でぬくぬくだらだらしていた紫輝だが。
 明日はもう本拠地へ移動するので、そろそろ準備をしに本棟に戻ろうかなぁ、なんて思っていたら。
 同じく囲炉裏の前でごろごろでろでろしていたライラが、すくっと身を起こして。
 御手々をきっちりそろえた、胸毛ふさふさ女王様的威厳のある座り姿で、鳴いた。

「てんちゃんから、おはなしがありますっ」

 そしてキリリとした目つきに変わって、天誠憑依バージョンライラになった。
「紫輝、今話せるか?」
「大丈夫。そばに赤穂と月光さんもいるよ」

 天誠憑依バージョンだと、ライラの話し声が聞こえない月光にも話が聞こえる。
 声はライラだが、話しているのは天誠だからだ。

「実は、アクシデントが起きた。安曇眞仲が、死んだ」
「えええぇぇ…」

 紫輝は驚きの声をあげたあと、言葉をなくした。

 天誠が話しているから、天誠は無事なんだろうけど。
 どういうことかわからなくて、ひどく動揺してしまった。

「どういうことだ、詳しく話せ」
 動揺する紫輝を見ていられなかったか、赤穂が先をうながす。

「三人体制の基成のひとり、銀杏が、一族の者の前で顔をさらし、俺と結婚するとかぬかしやがったんだ。当然俺は突っぱねたが、銀杏が手裏家惨殺の主犯だということにしていたので、銀杏が殺していないとしたら犯人は誰なんだという話になり。仕方なく安曇眞仲が主犯で、すでに亡くなったと明言したんだ。金髪碧眼だった安曇眞仲はもういないから、辻褄を合わせるにはそれしかなかった」

 別に、安曇眞仲が本当に死んだわけじゃない。
 天誠は健在なんだから。

 でも、紫輝は。天誠が天誠を殺したと紫輝に言ったときのことが、まだトラウマだ。

 この世界に来て、初めて己に優しくしてくれたのが安曇眞仲だった。
 眞仲は右も左もわからない紫輝に、いろいろ教えてくれて。優しくて、背中も押してくれて。
 ときには、ぐずぐずに甘やかしてくれた。

 紫輝にとって眞仲は、もうひとりの恋人なのだ。

 だから、そんな。眞仲が死んだ、なんて言われると。
 悲しくて。
 死んでいないのはわかっているけど。なんだか涙が出てきちゃうぅ。

「あっ、馬鹿。紫輝、泣くんじゃない。俺は今、慰めに行けないんだぞ」
 慌てたように、天誠憑依ライラが丸い手を上げてチョイチョイする。
 招き猫みたいで、可愛いけど。
 紫輝は超可愛いライラを、堪能する余裕はない。

「だってぇ…」
 下唇を噛みしめて、涙をこらえるが。
「俺の、眞仲がぁ…俺の、なのにぃ…」
 ムゥッと唇を突き出さないと、涙が出そう。
 そんな紫輝のそばに月光がサッと寄ってきて、頭を手で撫でる。

「大丈夫だよ、紫輝。あいつは生きてるから。クソしぶとく、生きてるから。殺しても死なないから」
 桃色の美少女顔で、にっこり笑いかけ。
 あまりフォローになってはいない毒舌を吐く。

 顔とお口が完全に合っていません。

 しかし死なないという月光のワードは、紫輝を心強く支えた。
 うんうんと、うなずく。

「じゃあ手裏は、安曇が死んだと公表するのか?」
 問いかける赤穂に、ライラは丸顔ながら神妙な顔つきで首を振る。

「いや、それではやはり龍鬼の数が将堂と均衡が取れない。将堂に付け込まれないよう、そのまま三人体制で安曇眞仲がいる態を続けようと…ごねるジジイどもをなんとか説得して、承諾させた。女の身をさらした銀杏はもう戦場に出せないから、手裏の分家に預かってもらうことになり。俺の隠密の亜義を三人目に据えることにした。しかし今までのようには、安曇の名を出せなくなる。出番をおさえてフェードアウトってやつだな」

「へーど?」
「フェードアウトは、徐々に下がっていなくなる、的な?」
 ひくひく泣きながらも、赤穂が引っかかったところを訳す紫輝。
 案外、冷静だった。
 でもいなくなるって自分で言って、また悲しくなってしまう。
 いなくなったって。眞仲と呼べなくなったって…。

「でもっ、それでも、眞仲を愛してるっ」

 離れているのが寂しくて、紫輝はライラの首にギュッと抱きついた。
 白くて柔らかい毛と温かな体温が、紫輝を慰めてくれる。
 抱きつかれたライラは。
 いや。中に憑依している天誠は。
 満足そうに、柔らかな口元の引き上げてニンマリと笑った。

「やっぱり兄さんは俺のことをよくわかっているな? 眞仲は、もうひとりの俺。その俺を、決してないがしろにはしない。どんな俺も、愛してくれる」
「当たり前だ。つか、普通に、眞仲を愛してる」

「ふふ、少し気が晴れた。兄さんがそう言ってくれるなら。俺の中の眞仲は決して死にはしない」
「本当か?」
 紫輝は少し身を離し、ライラのゴールデングリーンの瞳をのぞき込む。

「あぁ。眞仲は、兄さんだけの眞仲になる。それだけだ。次に会うときは、眞仲で存分に甘やかしてやる」
 ライラはピンクの舌を出して、紫輝の頬を舐めた。
 しかし猫の舌というのは、基本やすりだ。
 ハリハリしているので。泣き濡れた紫輝の頬はザラリとこすられて、さらに赤くなってしまった。

「痛い、痛い、気持ち良いけど、嬉しいけど…」
 舐められて嬉しいけど、痛い。
 痛気持ち良いうちは、我慢できるが。ずっとは無理。
 それも猫飼いあるあるだ。

「まぁ、そんなわけで。眞仲と銀杏は、退場だ。俺は手裏基成が主軸になる」
「紫輝的には、思うところもあるようだけど。いいんじゃない? 基成として手裏をがっちり掌握し、そのあとで統合という流れに持っていければ脚本通りだ」
 月光がうなずき。ライラも偉そうに、ウムとうなずく。

「銀杏には隠密をつけておいた方がいいんじゃないか? 安曇にの字なんでしょ? 恋する女はなにをするかわからないよ。あんた独身の態だから、銀杏はあきらめきれないんじゃなぁい?」
 さらに続く月光の忠告に、ライラは眉間にしわを寄せて。開いた口をへの字にして。可愛い顔をゆがませた。
 あの、臭い匂いを嗅いだときにする、フレーメンの顔に似てる感じ。
 かなりヤバい顔だが、そんな表情もライラはチャーミングだから、あなどれないのだっ。

「あぁあ面倒くせぇ。早く紫輝と結婚しましたって報告したい。大々的に広めたい。うちの嫁がこんなに可愛いって世界中に伝えたいぃ」
「そういうのは心の中に秘めていてくださいっ」
 つか、そんなふうに思うのは、マジ天誠だけだから。
 紫輝はそう思い、天誠を諭すのだが。

「そうだよ。うちの息子が可愛くて、純粋で、きらめいていて、あどけなくて、可愛いのは、僕だけが知っていればいいことだっ!」
 天誠のハイパーブラコンも手に余るというのに、なんか斜め上を行く親馬鹿が増えちゃって、ツッコミが追いつかない紫輝だった。
 つか、可愛い、二度言った。

「…とりあえず、忠告に従い隠密はつけとく。銀杏は感情で動くから、行動が全く読めない。うぜぇ」
 スーパービューティフォーなライラの顔で、うぜぇとか言ってはいけませんっ。

「で、ここからが本題なのだが…」
 さんざん泣かせておいて、まだ本題に入ってないとか…。
 もう、紫輝はげんなりしていた。

「藤王と話したよ。あいつの最終目標は堺を手に入れることと、龍鬼を虐げる世の中を壊すことだ」
「堺を手に入れるって? 兄として迎えに行く、的な?」
 聞き捨てならない言葉を聞き、げんなりしていた紫輝はシャキッとした。
 藤王は、なにやら不穏なので。
 用心する天誠の気持ちが移って、紫輝も身構えてしまう。

「いや、伴侶にすると言っていた。なんか、呪いが解けたってさ。八年も隠れていたのは、そこら辺の事情がありそうだ。だがその憂いもなくなり、堺を手に入れる時が来たというところか」
「でも、堺を無理矢理連れて行くという話なら、俺は賛同できないな」
「無理強いする気はないらしい。堺の意思を尊重すると言っていた」
 うーん、ならば考える余地はあるのかな…と紫輝は頭をひねる。

「どう思う? 月光さん」
「伴侶うんぬんは私的なことだし、兄弟の再会も当人を差し置いてこちらが邪魔をするのは違うと思う。ただ堺を藤王に連れ去られるのは困るから、そこは予防線を張っておきたい。藤王も強力な龍鬼だが、堺も彼に次ぐ、強い龍鬼だ。無理にどうこうはできないと思うけど。できれば対抗できる龍鬼を護衛につけたいね。それなら堺と藤王が会うという場面も、現実味を帯びるかな?」

「じゃあ、ダブルデートだな」

「だぶるでぇと?」
 紫輝の言葉に、月光と赤穂が首を傾げる。
 可愛い、両親のシンクロが愛おしいです。

「俺と天誠、藤王と堺。この二組で会うの。どう? 天誠」
「事前に、俺の兄さんを傷つけないかと確認したら。龍鬼を傷つけたりしないという言質げんちを取った。藤王は先代の不破から、虐げられた龍鬼や子供を救え、という使命を受けたらしい。それで俺も助けられたので、その話は真実味がある。しかしその話が嘘で、もしも彼が反旗を翻したとしても。こちらが三人なら制圧できるだろう」
 紫輝の提案に、天誠も乗る。

 紫輝がこの世界に来たとき、天誠は手裏軍で保護することも考えたが、どうしても不破が怖かった。
 天誠ひとりでは、最強の龍鬼から紫輝を守り切れない。
 でも、今は。
 紫輝を守るのは、天誠ひとりではない。
 屈強な戦士が何人も紫輝の後ろにいる。

 天誠は、不破の言葉を信じ切っているわけではない。だから、いくつもの『もしも』を考えてシミュレーションする。
 それで大丈夫だと思うから、承諾するのだ。

「できれば、もう少し情報があれば安心できる。八年前の事件のこととか、隠れていた理由とか。特に先代の不破の話は、紫輝を本当に傷つけないのか、その危険性を図る意味でも知りたいところだ」
 赤穂の助言に、天誠…ライラもうなずく。

「あぁ、もう少し突っ込んでみよう」
「もうひとつの、龍鬼を虐げる世の中を壊すというのは、我らの本意であるから。味方に引き入れて、そばで見ていろと言ってやればいい」

「簡単に言いやがる」
 天誠は片方の口角を引き上げて、ニヤリと悪い顔で笑う。
 天使なライラちゃんの顔で、そういう下品な笑い方をしてはいけませんっ。

「もしも堺の件がうまくいかなくても、不破の手は治してやりたい。結構つらそうなんだ」
「それはもちろん。いつまでも痛い思いをさせていたら、可哀想だもんな?」

 敵とか味方とか全く考えていない、まっさらな紫輝の考えに。
 天誠は、好きだなぁと思い。
 ピュアだなぁと思い。
 やっぱり、白を集めて固めた純白な天使だと再確認するのだった。

「紫輝、明日から本拠地だな。気をつけて行けよ」
「うん。天誠も油断するなよ」
「はは、了解しました、兄さん。ダブルデート、楽しみだな。期日は相談して決めよう」

 オッケー、とか。じゃあな、とか言い合って。天誠は通信を切った。
 憑依が解けたライラは、引き締まっていた口元の柔らかい部分を、ダヨンと垂らして。瞳もホンワリ、柔らかい色になって。クアッとあくびして。
 また囲炉裏の前で、ドシンと横になる。
 一仕事終えたライラのポンポンを、お疲れ様と言いながら撫でた。

「なんか、手裏の様子ってあんまりわからなかったけど。いろいろ動いているんだな?」
 紫輝は胡坐をかいて座り直すと、赤穂に言った。

「そうだな、謎な部分が手裏には多くある。たとえば、安曇がなんで基成に成り代われたのか、将堂ではまずあり得ないことだが。それは手裏本家が味方にも内情を明かさない、秘密主義なところがあったからだろう。次期当主の顔さえ広めていないのは、なぜか。手裏には特有のしきたりがあるのかもな。味方にもこれほどの秘密主義なのだ。将堂に動向が掴めるはずもない」

「それより紫輝、だぶるでぇとはうちでしなさい」
 月光に上目遣いでみつめられ、紫輝はうぇ? となる。

「親の前でデートなんて、恥ずかしいよぉ」
「なに? でぇとって恥ずかしいことなの? 僕の前でできない、破廉恥なことなの?」

「いやいや、別に破廉恥ではないけど。デートは、逢引きなの。恋人同士の逢瀬ってやつ。だから親は、邪魔しちゃダメなの。俺と天誠、堺と藤王の二組でデートするから、ダブルデートなの」

 俺と天誠、のところで拳をひとつ出し。堺と藤王のところで拳をひとつ出し。ふたつの拳を、仲良くお散歩するようなジェスチャーで紫輝は動かす。
 月光に、紫輝は懇切丁寧に教えるが。月光の疑問は尽きない。

「なんで二組で逢引きするの? それこそ邪魔じゃない?」
「普通はさ、付き合いたての恋人って間が持たないから、仲の良い友達とその恋人で、楽しく遊びながら心の距離を縮める的な?」

「間が持たねぇんなら、睦み合えばいいんじゃね?」

 紫輝が一生懸命説明をしているのに、赤穂が茶々を入れてくる。
 いや、もしかしてこの世界では、それが普通なのかもしれないが。

「ケダモノっ、もう、三百年前はそんな即物的じゃなかったの。告白して、手をつないで、デートしてから、そういうのなの…まぁそれも。時代遅れっぽくなりつつあったけど」

「月光なんか、告白する前にキスしてきたぞ」
「あれはさぁ、赤穂が熱出して、死んじゃったらどうしようって必死で…」

「やーめーてー。親のそういう話、聞きたくないんでっ」
 なんか、両親がいちゃいちゃくねくねし始めたから。紫輝は話を強引に引き戻した。

「とにかく、まだ味方になるかどうかわからない藤王をここに連れてくるわけにはいかない。デートは別の場所でするつもり。でも…青桐は、話の流れでは連れてくるかもしれない」
「それは、紫輝がポカしたから仕方ないねぇ」
 月光がちょっとからかう顔で、紫輝に言う。
 口をとがらせた。

「まだ、わかんないじゃん。ポカしてないかもしれないじゃん。青桐は気づいていないかもしれないじゃん」
「俺の感性に知性が乗っかってんだろ? 絶対気づいてるって。俺を能無し扱いする、失礼な息子よ」
 赤穂にまで責められてしまい、紫輝はさらに頬も膨らませた。

 そんなの、明日青桐と会ったらわかることだもん。気づいていない方に、一票!

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