【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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63 元気になりましたか?   ★

     ◆ 元気になりましたか?

 夜になり、青桐は自室でくつろいでいる。
 夕食と風呂を済ませ、ひと息ついたところだ。
 堺の屋敷は居心地が良い。使用人は適度に距離を取ってくれるし、不躾ぶしつけな目で観察もしてこない。
 愛鷹の屋敷では、なんとなく誰かに見張られているような緊張感があった。
 己が記憶を失っていないことを隠しているから、神経質になっていたのかもしれないが。
 ここに来てからは、そういう気配が減ったような気がするのだ。
 もしかしたら紫輝が言っていたように、燎原の息のかかった者がいたのかもしれないな。
 黒猫の勘、恐るべしだ。

 でもひとりの時間が長くなったのは、つまらない。
 以前のように堺の部屋に入りびたってしまおうか…なんて考えていたら、扉が叩かれた。
 堺が来たのだ。

「入っていいぞ」
 引き戸が開かれ、中に入ってきた堺は…軍服だった。不満である。

「高槻は青桐様に好感を持ったようで、良かったですね」
「そうか?」
 寝台の上に座る青桐の前に、堺は床に直に座る。
 高槻の無表情を思い出していたら、堺を隣に座らせる機会を失ってしまった。
 つか、とても好感触には思えなかったが。

「貴方が高槻を、龍鬼という目で見なかったから。喜んでいたではありませんか」
「…そうか?」
 表情筋がピクリと動いただけなのに。無表情仲間だから、高槻の機微がわかるのだろうか?
 謎だ。

「高槻は部下なのに、堺を呼び捨てにしていたな? 龍鬼仲間だからか?」
 龍鬼同士で仲が良く、お友達なのかなと。青桐は単純に思ったのだが。

「私は彼に礼儀作法などを教わりました。だから、私の先生のような感じです」
「年下なのに、先生なのか?」
「高槻は二十五歳なので、私より二歳年上です」
 目を丸くして、青桐は堺をみつめた。
 見上げる堺は、珍しく苦笑いする。

「彼の童顔は特別です」

 でしょうね。
 どう見ても、紫輝と同年代にしか見えなかった。

「あの緑はなんの血脈なんだ?」
「さぁ。聞いたことがないので。紫輝なら知っているんじゃないでしょうか? 彼、血脈当てるの好きなので」

 たまによくわからない言葉を言うけれど…というのは。堺は、口にはしなかった。

「堺は? なんの血脈?」
「私はタンチョウです」
 高槻の血脈は口実で、青桐の本題はこちらだった。
 タンチョウヅルか。堺のたたずまいに合っている。

「ふーん、最初の印象どおりだな。初対面のとき、鶴の恩返しを思い浮かべたことがある。堺が脅えて飛び立ってしまわないと良いな、なんてな」
「私が貴方のそばから飛び立つなんてことは、ありません」
 ふふ、また無意識で強烈な殺し文句を言うんだからと、青桐は内心苦笑した。

「その割には、軍服を着て武装を固めているように見えるが?」
 笑みを浮かべて堺を見下ろすと。
 堺は少し頬を赤らめて。言い訳をする。

「どうしても、軽装で青桐様の部屋に行くのは無礼な気がして。でも武装ではありません。ちゃんと、脱ぎますから」
 立ち上がると、堺は剣を鞘ごと腰帯から引き抜いて、寝台横にある棚に置き。帯をほどいて上着を脱いだ。
 あまりの早業だったから、青桐は彼の服を脱がす機会も失った。

「待って、待って。俺の楽しみを奪わないでくれ」
「首にキスをするのでしょう? わかっております」
「いやいや、わかっていない。こういうのは雰囲気も大切なんだ。とりあえず、隣に座って」

 堺には、そういう雰囲気とか流れとか空気とかは。まだ読めないし、作れない。
 小首を傾げ、とりあえず脱いだ上着を衣装棚に掛ける。
 それから青桐の隣に腰かけた。まだ防具をつけているから、半裸というわけではない。

「堺が俺の約束を守ってくれようとするのは、嬉しいけど。恋人の触れ合いは義務とかでするものじゃないから、覚えておいて。ふたりの気持ちが寄り添って、触れ合いたいってお互いに思ったときに、することなんだよ」
「私は、大丈夫です。青桐様は、今は、したく…ない?」
「したくないわけない。俺はいつでも、堺に触れたいよ」
 青桐の答えに、堺は少し安心した顔をした。
 触れられることを期待してくれているのなら嬉しいと、青桐も思う。

 青桐は堺の手を取って、甲にキスをした。
 これから触れるよ、という意思表示だ。

「防具は俺が外したい。いい?」
「…はい」
 堺は青桐に背中を向けて、長い髪を全部、手で右側にかき集める。
 そうすると、背部が全面見えた。
 防具は、首を守るのと、前部と脇腹を守るようになっている。
 龍鬼以外には翼があるから、その部分はごっそり繰り抜かれているのだ。

 でも堺は龍鬼なので、つるつるの白い背中が露出している。
 ということは、龍鬼の背中は無防備ということだ。
 もしも、この美しい背中が斬りつけられたら…と思い。青桐は堺の背中を、指で斜めに斬りつけた。
 実際、斬れるわけではないが。

 でも堺はびくりと背を反らし、びっくり顔で振り向いた。
「な? なにを?」
「いや、すまない。ここがあまりにも無防備だから。斬りつけられたら危ないなって思って」
「敵に背中を向けなければいいのです」
 当然、という様子で堺は言うのだが。

 それは強者の言葉だった。

 つまり、堺には逃げるという選択肢がないということだから。
「でも味方が斬りつけることも、なくはないだろ?」
 昼間、堺が高槻に言った『あの事件で』という話を、あとで詳しく教えてもらった。
 それは味方の謀反で、大隊が総崩れになりかけたというもので。
 つまり、味方が裏切ることもなくはないということだ。

「テコ入れで前に出ることもありましたが。今後はおそらく、私の背後にいるのは貴方だけです」
 それは必ず己の前には堺がいて、何者からも己を守るという宣言でもあった。

「もしも貴方が裏切って、私を斬るつけるというのなら。それはそうなる運命ということです」
 堺はそうなる運命が、なくはないと思っているのか。
 諦めのような、その場面を夢見ているような、不思議な顔つきをした。
 そんなこと、絶対にあり得ないのに。

「味方が斬りつけることは、なくはないかもしれないが。俺が堺を斬りつけることはあり得ないと断言できる。堺の恋人は、そんな薄情な男じゃないぞ?」

 首の革紐と腰の革紐をほどき、防具を外す。
 すると堺の白い素肌が、青桐の目を焼いた。
 あらわになった首筋から背筋までの線が、流麗で、なまめかしく。絶妙な曲線を描いている。

「もちろんです。青桐様はお優しい方ですから」
「優しいかな? これから堺を泣かすかもしれないのに…」
 青桐は堺の肩を手で掴み、背後から首筋にくちづけた。

「ん、私は、将軍ですよ。キスで泣くなど、あり得ない」
 堺は、青桐が唇へのキス以外にする、ついばむキスを連想しているようで。
 あのような小さなキスをいくらされたところで、なにも感じないと。思い込んでいる。

 でも、キスは。ついばむだけじゃないからな。

 髪を横に流しているので、耳も見える。
 耳たぶを唇で挟み込むと、ひんやりして気持ちが良い。
 そのまま首の筋に沿って、舌を這わせた。

「あ、青桐様。くすぐったい」
「首の皮膚は薄いし、神経も多く通っているから、感触が鋭敏になる。ふふ、堺。くすぐったいだけか?」
「そ、そこで、笑わないでください。く、くすぐったい…から」
 もう、すぐにも賭けに勝ってしまいそうだけど。
 おさらいしておこう。

「堺、体にキスして、唇のキスより感じる個所があったら。俺と本気の勝負という約束だよ? そうだな、勃起したら堺の負け。それで、いい?」
「いいです。余裕です。負ける気がしません」

 負けず嫌いの堺が、可愛いんですけど。
 でも手加減なしだからな。

「じゃあとりあえず。寝台に、うつ伏せに寝て?」
 青桐は、御馳走は後に取っておく性質である。
 前面を可愛がるのは、あとのお楽しみ。まずはこの白くて広い堺の背中だ。
 先ほど不用意に触れたときの反応で、背中が敏感なのだと気づいてしまった。

 ここは、攻めるしかないだろっ。

 髪をけたまま、寝台にうつ伏せになった堺は。無防備に、背をさらす。
 青桐は彼の体をまたいで。まずは、手で彼の背中の感触を堪能した。
 羽毛も翼もない、つるつるの、触り心地の良い背中。
 あるはずの物がない違和感はあるが、堺の背中はその肌の白さが際立って、目にまぶしいほどだ。

 まるで足跡のない新雪の上のよう。ひたすらに美しかった。

 ここから翼が生えるのかと、肩甲骨の辺りに唇を寄せたら。
 早くも堺が『あっ』と声をあげて身をよじった。
 ここは特別、敏感なようだ。

 それでも構わずに、舌で舐め濡らし、唇の表面で触れたり、ついばんだりした。
「っん、ふ、う、ぅう、んっ」
 唇を引き結んで、堺は背中の感触に耐えているようだが。
 耐え切れない吐息が、鼻から漏れている。

「こら、歯を食いしばったら駄目だろう? ちゃんと感じて」
 青桐は堺の口の中に指を差し入れて、開けさせる。
「あぁ、あ、や、ら…あおひり、さまぁ…んぁあ」

 指を入れたまま、首の付け根の尖った骨や、肩、筋肉の際などを舌でたどっていくと。途端に、甘いあえぎが放たれた。
 すると堺の弱いところがどんどん明らかになっていく。

「は、は、に、ひ…ぁ、あ」
 首から背筋につながる骨の線は、声がおさえられないほど感じるようだし。

「んぁあ、はぁ、あぁ、んぁ、む…んっ」
 やはり、一番、声に艶を帯びるのが。肩甲骨の辺りだった。

 まだ背中の上部だけしか舐めていないのに、感じやすい堺は陥落寸前で。口から指を抜くと、たっぷりと唾液がまといついている。
 涙目で振り返る堺に見せつけるように、その指を青桐は舐めた。

「堺、上を向いて」
 青桐の指図通り、堺は寝返りを打つ。すると、白い肌の上を妖艶に彩る乳首が、青桐の目に飛び込んできた。
 この乳首の色は、凶悪だ。
 桜も恥じらう、赤みを帯びた桃色。艶やかで、光沢があって。目が釘付けになってしまう。

「青桐様、どこか、変ですか?」
 無言でじっくり見てしまったから、堺が不安に思ったようだ。
 青桐は取りつくろって、笑みを浮かべる。

「いや。とても綺麗で、見惚れてしまった」
 そっと、人差し指で乳輪に触れると、それだけで堺は息をのんだ。
 ここも敏感とか。ヤバい。

 ここもだが、ズボンを持ち上げるほどに堺の局部は反応していた。
 青桐は堺のズボンのひもをほどいて屹立を外気にさらす。そして示すように、中指の背で屹立を付け根から上に向かって撫で上げた。

「堺の負けだな。体にも、いっぱい感じるところがあるだろう?」
「認めます。私が知らないことは、まだまだ多くあるのですね?」
 堺が負けを認めたところで、青桐は堺の乳首にくちづけた。
 この御馳走を目の前にしたら、もう我慢できない。

「あぁ、も、う、負けを認めた、のに…」
「勝負はついたが…これは、いつもの、恋人の触れ合いだよ」
 むしゃぶりつくように、青桐は堺の乳首を舐め撫でる。
 堺の胸筋は、張りがあって、弾力があって、平らで、硬い、男特有の胸板。
 己と同じようにも思うが。
 この薄赤の乳首は、青桐を存分にたぎらせた。

 少しふっくらして柔らかい感触。舌を押し上げるほどに主張する乳突起。
 そして刺激すれば、堺の薄青の瞳が情欲に濡れ。
 見せつけるように舌を出して、乳首をくすぐれば。
 堺の唇がしどけなく開いて。快楽を甘受するいやらしい顔を見せる。

「あ、は…青桐様。し、ないで。出る、も、出て、しまいます」
 舌先で乳首を弾くようにつつくと。そのたびに堺はひくひくと体を揺らし。腰ももじもじさせる。
 そのまま続けていたら、堺がビクンと震え。泣きそうな顔で眉尻を下げた。

「青桐様、出て、しまいました…」
 堺の申告に、青桐は彼の股間を見るが、屹立はそのままだ。
「まだ、硬いままだし、精も出ていないぞ?」

「なにかが出たような感じで。今度こそ本当に、粗相を?」
 うりゅ、と瞳を潤ませる堺に。青桐は首を横に振って、訂正した。
「いや、先走りの蜜が、少し勢いよく出たのだ。ほら、透明な液体だよ」
 青桐は、堺の腹の上にたまる粘液を手に取り、堺の目の前で見せた。

「それは、なんですか?」
「精液が通りやすくするよう、粘液で精管を潤すんだ。これも、体が気持ち良さを受けると誰でも自然に出てくるものだぞ」

「そんな緻密なことを無意識にしているのですか? 体って、すごいんですね」
「それを言ったら、心臓だって無意識に動いているじゃないか。体の仕組みは、我らには計り知れないものだよ。でも、そうだな。堺の言うように、改めて考えるとすごいことだな?」

 愛しげに、堺の頬にキスをすると。堺は尊敬の眼差しで青桐をみつめてきた。
 なんでも知っていると、思われただろうか?
 でもそんな感激しているところ、悪いけれど。
 堺の官能が冷めないうちに、本イきに導きたいから、続行するよ?

 青桐は堺の屹立を刺激しながら、今度は左の乳首に舌を這わせた。
 先走りの説明を医学的に説明したが。いわゆる堺は、乳首の刺激で軽くイったのだ。
 そんなの見せられたら、こちらもみなぎってしまうではないか。

「あ、青桐、さま…」
「昨日のように、気持ち良さに集中して。我慢しないで、素直に感じて」
 精をほとばしらせる悦びを、堺はまだ身につけてはいない。
 昨日は、意識のある中で体験した初めての射精に。困惑し、驚愕し、戸惑って。わけがわからないうちに、突っ走った感じだっただろう。
 官能を受けて精を放つ、その感覚を身につけるには経験を重ねるしかない。
 この行為に嫌悪を感じず。羞恥に戸惑わず。己と抱き合いたいと思ってくれたら…。

 そうなるまでは、青桐は己の欲を押しつけないつもりだった。
「堺、じんじんしてきたら、俺に気持ち良いと教えてくれ」
 丁寧に、丹念に、乳首をねっとりと舌で舐めながら、堺に告げた。

「ん、教えたら、どうなるのですか?」
「堺が、気持ち良いと教えてくれたら…もっと良くしてあげるんだ」
 チュクッと吸いつくと。堺はピクリと身を震わせた。
 やっぱり、感度が良い。
 さらに舌で刺激していく。

「こ、これ以上、気持ち良く、なるのですか?」
「うん。もっと、な? 堺は今、どれくらい気持ち良い?」
「どれくらい? わ、わかりません。でも昨日より、じんじんして、います」
「昨日より? じゃあ、もう出るのかな?」
「ん、出る…出そう…ん、ん」
「堺、出るじゃなくて。達する前に、イくと言って?」
「行く? どこに?」
「絶頂に達することを、そこに到達するということを、イくと言うんだよ」
「わかりました。イくと、言います」

 素直で真面目な堺が、可愛すぎて。
 青桐は堺にくちづけて、手の動きを速めた。
 乳首への刺激より、くちづけの方が馴染みがあるからか。堺は少し安堵したような顔つきで、首に腕を回してきた。
 青桐も、左手を堺の首の後ろに回して肩を抱く。堺をまたいでいた体を、彼に寄り添わせるように横たえる。
 体が密着すると、心も体も近づくようで心地がいい。

 舌と舌を絡めるくちづけはだいぶ慣れて、堺も青桐がするのに、合わせられるようになってきた。
「青桐、も、イ、きます」
 濡れた舌を見せながら、自信なさそうに伝える堺が、いじらしかった。

「いいよ。上手に、イってみせて」
 深く唇を合わせ、舌を結んで。少し強めに、堺の屹立を上下にこすると。
 堺は腰を震わせて、大きくビクリと痙攣した。
 そのあとも小刻みに、何度か震え。青桐はすべてを絞り出すように、屹立を撫で上げてうながした。

 キスをほどくと、堺は息をついて。青桐の胸に額をすりつけてくる。
 少し、気持ち良さを味わえただろうか?
 彼が快楽の余韻にひたる顔は、あどけなさと色っぽさが混ざり合って、なんだかすごく神聖な感じがする。

「堺、今日も上手にイけたな。可愛かったよ」
 頬にキスしたあと、青桐は堺の残滓を舐めた。
 堺が、昨日みたいに大胆なキスをしてくるのを想像していたのに。

 堺はまじまじと青桐をみつめるだけだった。
「元気になりますか?」
 なんとなく脈絡がないように感じ、青桐は首を傾げるが。
 堺は続けて言った。

「紫輝が。龍鬼の体液は伴侶を元気にさせる秘薬なのかもね、って。言ったのです。どう思いますか?」
 おお、あの黒猫耳、良いことを言ってくれたな。
 これで堺が。龍鬼だから性交してはいけません、なんて思い込みを無くしてくれたらありがたい。

「あぁ、すごく元気が湧いてくるよ。特に堺とキスをすると、俺は心が満ち足りて、すごく嬉しくなる。不安も孤独も、堺とキスすると霧散して。癒されるんだ」
 チュムッと音の鳴るキスをしてから、ゆっくりと、深く、濡れるような、とろけるような、甘いくちづけをした。

「ならば、いいのです。私が貴方のお役に立てるなら」
「役に立つというか…愛しているからだよ?」
 青桐の囁きに、堺はさすがにもう、きょとんとはしない。
 はにかんで。頬を染めて。薄く笑って…。

 彼の嬉しそうな顔を見て、青桐も嬉しくなった。

「なぁ、今日はここで寝ていったらどうだ? 自室に戻らなくてもいいだろう?」
 甘い雰囲気のまま堺を誘った。
 愛鷹の屋敷のように、青桐は堺と共寝をしたいのだ。
 でもこの空気なら流されるはず、と思ったのに。

 堺は目つきを凛々しくさせた。

「いいえ、そういうわけにはいきません。同じ屋敷にいるからこそケジメをつけないと」
 シャッと身を起こし、堺は青桐に背を向けてズボンのひもを結んでしまう。
 もう、真面目さんなんだからな。
 防具をつけるところで、青桐も身を起こし。寝台の上で胡坐をかいて、堺の防具のひもを結ぶのを手伝った。

 堺のしなやかな背中の筋肉は、もしかしたら己のものよりも柔らかそうだと感じた。
 翼付近の己の筋肉は、後ろ手に触れる限りゴリゴリしている。

「不思議だな。ムキムキのゴリゴリの筋肉じゃないのに、あんな大剣を振るんだから」
 防具は肩の際までだ。そこから伸びる堺の二の腕の筋肉も。決して、大きく、丸く、張り出しているわけではない。
「高槻も小さいのに、あの剣を振るだろう? だから龍鬼には。くまが詰まっているんだと思うんだ」
「熊? あの山にいる熊ですか?」
 青桐の突拍子のない言葉に、堺は無邪気にフフッと笑った。
 珍しい、堺のマジ笑い。その顔、好きです。

「私に熊が詰まっていても、青桐様は大丈夫なのですか? 熊なら、まだマシです。もしかしたら得体の知れないものが詰まっているのかもしれませんよ?」
 堺は青桐の方を向いて、うかがうように聞いてくる。
 そんなの全然問題ないよと言うように、青桐は堺の頬を手でそっと撫でた。

「いいよ。この美しい顔、均整の取れた体。その薄い皮膚の下に、どれほど凶暴な熊が詰まっていようとも。それが俺の堺なんだから」
「俺の…堺?」
 なぜか心もとない顔をする堺を、青桐はギュッと抱き締める。
 これは俺のものだと。
 青桐はいつだって、声を大にして言いたいのだ。

「あぁ。俺の堺。俺の龍。大好きだよ。何度でも言えるよ」
 すると堺が、腕の中で、声もなく、ツッとひと筋涙を流した。
 青桐は、睦言の延長のつもりだった。
 愛していると伝えたかっただけ。
 なのに堺が泣いたから、慌ててしまった。

「どうした? なにか嫌なことでも言ってしまったか?」
「いいえ。これは、嬉しい涙です。今まで、これほどに私自身を求められたことはなかった。大好きだなんて…俺の龍だなんて…。貴方の言葉が、私の胸に痛いほど突き刺さる。苦しい…けれど、嬉しいのです」
 堺が己の襟元にしがみついて、胸に顔を埋めた。

 己の愛情が堺へようやく届いたような気がして、青桐は感激した。
 ここまで来るのに、ガッツリ二週間以上費やしたのだ。感無量である。

「私は貴方の龍です。貴方が望む限り、おそばにいさせてください」
「そこは、ずっと一緒と言っていいところだぞ」
 そこで堺は少し瞳に陰りを見せる。
 でも。薄青の瞳から、もうひと粒、宝石のような涙を落としてから、笑った。

「ずっと、おそばに…」

 堺はそう言って、よく青桐が堺にするように。青桐の頬についばむキスをした。
 なにこれ? 承諾のキス?
 可愛いんですけど。

 青桐はもう、どこもかしこもギュンギュンしてしまった。
 でも。時折見せる堺の陰りが気になっていた。
 なんとなく、ずっとという言葉に、引っかかっているような気もするが。
 わからないな。
 永遠を信じていないのだろうか?
 それともまだ、龍鬼である自分が、己のそばにいることに抵抗がある?

 堺は龍鬼であることで傷ついてきたと、紫輝も言っていた。
 ひとつやふたつの言葉では、堺の傷は癒せないのだろう。

「やっぱり、今日はここで一緒に寝よう。堺を一晩中抱き締めていたい」
 そばに己がいることを感じて眠れば、己がずっとそばにあることを、なにも恐れることなどないと、実感できるはずだ。
 生涯己の隣にいるのは、堺。それを信じてほしかった。

 のだが。男の生理が差し迫ってもいた。
「ちょっと、手洗いに行ってくる。でも、ここにいて。待っていてくれよ。な? 堺」

 青桐は超速で部屋を出て、手洗いに向かう。
 今日の堺は可愛すぎて、ヤバかった。
 白い背中とか。薄赤の乳首とか。半泣きの薄青の瞳とか。誰か、己の忍耐力を褒めてくれないかな?
 と思いながら。済ますべきことを済まして。部屋に戻ったら。

 案の定、堺はいないのだった。

 くっそ、逃げられた。しかし抜かずに堺と共寝できる自信はなかったのだから、仕方がない。涙。

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