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69 全部バレました
◆全部バレました
いやぁ、昨夜はすごい雨だったなぁ。季節外れの台風だったのかな?
でも、本日は朝からピーカン。空が突き抜けるような青色で。
天誠の瞳の色と同じだったから。
紫輝は、朝から良い気分だった。
午前中、紫輝は幹部の仕事に出向き。急ぎの用がなければ、午後は廣伊の仕事を手伝うというルーティーンで、生活している。
戦場に行けば、幹部の仕事が大変になるだろうが。今は、青桐の教育期間中だから。紫輝の出番は、そうそうなく。
むしろ、廣伊の第五大隊再編成の方が、急務なのだ。
圧倒的に、なり手がいないからな。
入軍した頃、同じ日に入軍した人が、紫輝が二十四組に配属されたのを見て。
『あそこだけは行きたくなかった』みたいなことを言ったのが、印象的である。
初見の人も避ける、ヤバい組なのだ。
まぁ、それはともかく。
黒馬のミロに乗って、ご機嫌で堺の屋敷に乗りつけ。馬を馬丁さんに預けて、玄関先に立ったら。
にっこり笑顔で、真新しい紺青の軍服を身につけた、堺が。出迎えてくれた。
「おおっ、さすが、堺。スペシャルビューティホー。綺麗だよぉ、神々しいよぉ。前の軍服より、白髪が美しく輝いて見えて、すごく似合ってるよぉ?」
手放しで、紫輝は褒めたたえるが。
でも、なにやら堺のオーラが、怒っているようです。
元々、表情の乏しい堺と、お友達をしてきたのだ。それくらいはわかります。
「紫輝、いらっしゃい。青桐様がお待ちかねですよ」
丁寧語で怒る人ほど、怖いものはない。
紫輝は、頬を引きつらせた。
それにしても。とうとう青桐に、いろいろ暴露しなければならないようだ。
でも、それで。なんで堺が怒っているのか、わからなかった。
軍靴を脱いだ紫輝を、堺は有無を言わせず手を掴んで引っ張っていく。
触れて申し訳ありません、なんて言わないのは、いい兆候だけど。
なんか、嫌な予感しかしません。
紫輝が通されたのは、客間というより、くつろぎ空間という雰囲気の、こじんまりとした囲炉裏の間で。まったり密談するのに最適…いや、それってどんな部屋だよ。
中では青桐が、新品の青い軍服を着て、お茶をすすっている。
まぁ、でも、小さい部屋だから。膝を突き合わせて、という表現がぴったりだ。
紫輝が、青桐の斜め横に座ると、堺がお茶を出してくれて。
堺は、紫輝の対面に座った。
「幸直と巴は、本部に行っているのか?」
ここから先は、たぶん、聞かれてはマズい話をするので。紫輝は彼らの所在を確かめた。
「いえ、昨夜は雨で、本部から屋敷に帰れず。朝方、帰ってきたのですが。全然、寝れなかったということで。今日は全休にすると言って、朝食のあとは、ふたりとも部屋で、爆睡しています」
ふーん、じゃあ、邪魔はされないかな? と思い。紫輝は青桐を見やる。
「さて、報告だが。記憶喪失のフリはバレた」
えええぇ? バレちゃったの?
まぁ、精神を操る堺から、秘密を隠し続けるのは、限界があるかもな。
「ひどいです、紫輝。私に隠し事をするなんて。紫輝は、青桐様が記憶を取り戻していたこと、知っていたというじゃないですかっ」
あぁ、それで、堺は怒りのオーラを放っていたわけだな?
「隠し事というか、青桐の頼みだったからさ。青桐は、堺のそばにいたいようだったから。協力したんだよ」
紫輝が言うと。
堺も青桐も、なにやら頬を染めた。
なになに? 進展アリ、ですか?
「もう、隠す必要はなくなった。堺は俺の伴侶になる。な?」
青桐が断言し、堺も小さくうなずく。
紫輝は大興奮だ。
おおっ、すっごい、もうそんなところまで話が進んでいるなんて。
龍鬼であることを卑下していた堺が、青桐と一緒になることを了承するなんて。
丁寧に、大切に、堺の心をほぐしていったんだな。
青桐の努力が実を結んだわけだ。見直したぜ。
「俺は、すぐにも触れを出したいのだが、堺が紫輝に話を通したいと。俺は、おまえの思惑がどうだろうと、堺を伴侶にすることと。堺を生涯、離さねぇことは、譲らない。それに、俺たちのことに、おまえの承諾などいらないと思うのだが。紫輝はどう思うんだ?」
「もちろん、承諾などいらないよ。ただ、時期を見極めるべきだとは思うけどね。何度も言うが、将堂家の次男となった青桐が、龍鬼と結婚するのは、強い反発があると思う。賢く立ち回らないと、最悪引き離され、堺の命が失われる、なんてことにもなりかねない。これは、脅しじゃない。感情的になった大人がどう動くのかわからないから、慎重に行こうという提案だ」
その言葉に、青桐は奥歯を噛みしめる。
青桐は基本、頭が良いと、紫輝は思う。
だが、龍鬼への、世の中の反応を、あまりにも知らなすぎる。
だから、青桐は。普通の人と結婚するというイメージなのだろう。
紫輝だって、この世界に来て。一年経っていない。
それでも、己が龍鬼だったせいもあるだろうが。世間の、龍鬼への対応が厳しいことを、肌で感じて知っている。
なのに、この世界に生まれついた青桐が、一般論を知らないというのは。どういうことなんだろう?
「ちょっと、聞くけど。秘密がバレたということは。堺は、青桐のことを大体わかっていると思っていいのか? その、育ち方や、経歴を?」
「昨夜、教えていただきました。いずれ、赤穂様の影武者になるための訓練を受けていたようで…」
堺の言葉に。青桐は、訂正の言葉をはさんだ。
「赤穂だとは思っていなかった。どこかの、誰かの、なにかのために、爺さんが仕込んでいただけで。爺さんは詳しいことを、俺には話していなかったから」
「山奥で修行していたから、龍鬼のこと知らないのか? すっげ、純粋培養じゃん。堺、良い男が純粋培養で育てられていたのは奇跡だぞ?」
紫輝は、目をキラキラさせて、堺に告げた。
龍鬼を汚いとか、駒とか、利用することだけしか考えていない人が多い中で、これは貴重である。
ただ、なにも知らないのは、注意を怠るので、危険ではある。
「青桐、俺は四月に、ここに現れたんだ。俺はそのとき、自分が龍鬼だとは知らなかった。ある意味、青桐と同じ純粋培養だったんだよ」
そこで、紫輝は己の経緯をざっくり話した。
赤穂の息子であることは話したが、ある事件があって大きくなっちゃった、としか言っていなかったので。
暴漢に襲われ、紫輝は命を守るために三百年過去に飛び。そこで十八になるまで過ごして。去年の四月に、再びここに連れ戻されたのだという、一連の流れだ。
「だから、俺は。本当だったら、六歳なんだけど…それはともかく。この有翼人種が生きる世界には、まだ一年もいないわけ。だけどね。俺は一番初めに出会った村人に、石を投げられた。鍬や鎌を持った人に追い回され。入軍した初日は、宿舎を追い出されて野宿だったし。殺されかけもした。ここに来て、たったの一週間で、もう、ありとあらゆる蔑みを受けたわけ。この世界での龍鬼への差別観は、そういう厳しいものなんだ」
そう言うと、青桐はもちろんだが。
堺も、すごくびっくりしていた。
「そんな、つらい目にあっていたのですか? 紫輝は私と初めて会ったとき、すごく明るい感じだったし、お友達もそばにいたので、そんなことがあったようには見えませんでした。どころか、心の殻に閉じこもる私に、あきらめないでとはげましてもくれたのに」
「だって、堺ってば。こんなに美人さんなのに、自分を化け物のように思っているんだもん。嘘でしょ? 貴方、そんじょそこらの美形じゃないんですよって、教えたくなるじゃん?」
その言葉には、青桐が、しみじみと、深く深く相槌を打っている。
「それは同感だ。つか、堺は。今でも自分を醜いと思っている節があるぞ。綺麗だって褒めると、大体、不思議そうな顔をする」
「申し訳ありません。美的感覚は人それぞれですよね?」
それって、堺。俺らの審美眼をディスってない?
堺のこういうところは、時間をかけて直していくしかないので。
とりあえず紫輝は、話を戻した。
「つまりだな。将堂の次男が、龍鬼と結婚するなら。少しでも、龍鬼の地位を向上してからの方がいいと思うんだ。そうしたら俺も、結婚を大々的に公表できるしぃ? したいしぃ?」
さりげなく、紫輝の願望も混ぜ込んでみた。
「この前、言った。俺と赤穂が入れ替わるという案は、どうなんだ? そうしたら俺は、堺とともに、山奥に引っ込むが?」
「それは、今の状況では難しい。赤穂側の事情もあるが。まず、青桐は。堺を連れて軍を出るなんて、できないぞ。将堂軍が堺を手放すことは、あり得ない。それは俺や廣伊も同じだ。龍鬼は戦を有利に進めるための、大事な駒。蔑んで、貶めているくせに、当たり前の顔で利用はするんだから。参るよね。ま、そんなことで…終戦でもしなければ難しいな」
「紫輝、それは…」
堺が、少し期待する目で紫輝を見る。
そんなに、青桐と一緒になりたいのか? 堺。
堺が愛情を感じる相手をみつけて、彼との未来を夢見る。
孤独だった堺が、そんなふうに思ってくれること自体が…なんか、涙出そうなくらいに嬉しいよ。
小姑は感動したっ。
でも、まぁ。だったら、期待には応えたいよね。
「青桐。俺は…君の命は狙われないと、教えたかっただけなんだ。安心してもらいたくて。でも、うまく言えず、青桐には、いろいろと推測されてしまったな」
「おまえは、俺に、いろいろ考えさせたかったみたいだが。あのあと、兄上にも会って。やっぱりイケすかねぇと思ったぜ。ちゃんと、自分で考えて。それで、おまえがなにを考えてんのか、知りたいと思ったんだ」
青桐はしっかりと紫輝に向き直り、真剣な眼差しで問いかけた。
「紫輝、おまえは、なにをどうするつもりなんだ? そこには堺も関わっているんだろ? なら、教えろ。全部だ」
背中で、ライラ剣が『おんちゃんたかたかてんちゃんせんにゃ』という、よくわからない呪文をつぶやいている。
今、超シリアスなところだから、ちょっと待っててな。
「実は、俺たち。終戦目指して、活動しているんだ」
青桐は将堂に来て、まだ二週間。それで、将堂の行く末を左右するようなことに巻き込むのは、ちょっと早すぎかとも思うんだけど。
でも、たぶん。
青桐は、堺に出会った瞬間に、もう、ある道筋に向かって進むと決めたんだろうな。
堺を幸せにする、道筋に。
俺たちの道が、その道筋に沿っているのなら。きっと協力できるよね?
でも。これで全部バレましたな。
「紫輝ッ、終戦目指してるって、どういうことだっ?」
そのとき、部屋の引き戸が開かれ、目をかっぴらいた幸直と、どこか眠そうな巴が廊下に立っていた。
そして幸直の腕には、千夜が。
せ、千夜?
「今そこで、こいつ、捕まえたんだけど。なんで腕が生えてんだ? どういうことなんだ、紫輝っ」
幸直に問い詰められ、紫輝は頬を両手でおさえ、ムンクの叫びのごとく悲鳴を上げた。
言葉は『ぎにゃーーーっ』という、猫の断末魔のごとくであったが。
いやぁ、昨夜はすごい雨だったなぁ。季節外れの台風だったのかな?
でも、本日は朝からピーカン。空が突き抜けるような青色で。
天誠の瞳の色と同じだったから。
紫輝は、朝から良い気分だった。
午前中、紫輝は幹部の仕事に出向き。急ぎの用がなければ、午後は廣伊の仕事を手伝うというルーティーンで、生活している。
戦場に行けば、幹部の仕事が大変になるだろうが。今は、青桐の教育期間中だから。紫輝の出番は、そうそうなく。
むしろ、廣伊の第五大隊再編成の方が、急務なのだ。
圧倒的に、なり手がいないからな。
入軍した頃、同じ日に入軍した人が、紫輝が二十四組に配属されたのを見て。
『あそこだけは行きたくなかった』みたいなことを言ったのが、印象的である。
初見の人も避ける、ヤバい組なのだ。
まぁ、それはともかく。
黒馬のミロに乗って、ご機嫌で堺の屋敷に乗りつけ。馬を馬丁さんに預けて、玄関先に立ったら。
にっこり笑顔で、真新しい紺青の軍服を身につけた、堺が。出迎えてくれた。
「おおっ、さすが、堺。スペシャルビューティホー。綺麗だよぉ、神々しいよぉ。前の軍服より、白髪が美しく輝いて見えて、すごく似合ってるよぉ?」
手放しで、紫輝は褒めたたえるが。
でも、なにやら堺のオーラが、怒っているようです。
元々、表情の乏しい堺と、お友達をしてきたのだ。それくらいはわかります。
「紫輝、いらっしゃい。青桐様がお待ちかねですよ」
丁寧語で怒る人ほど、怖いものはない。
紫輝は、頬を引きつらせた。
それにしても。とうとう青桐に、いろいろ暴露しなければならないようだ。
でも、それで。なんで堺が怒っているのか、わからなかった。
軍靴を脱いだ紫輝を、堺は有無を言わせず手を掴んで引っ張っていく。
触れて申し訳ありません、なんて言わないのは、いい兆候だけど。
なんか、嫌な予感しかしません。
紫輝が通されたのは、客間というより、くつろぎ空間という雰囲気の、こじんまりとした囲炉裏の間で。まったり密談するのに最適…いや、それってどんな部屋だよ。
中では青桐が、新品の青い軍服を着て、お茶をすすっている。
まぁ、でも、小さい部屋だから。膝を突き合わせて、という表現がぴったりだ。
紫輝が、青桐の斜め横に座ると、堺がお茶を出してくれて。
堺は、紫輝の対面に座った。
「幸直と巴は、本部に行っているのか?」
ここから先は、たぶん、聞かれてはマズい話をするので。紫輝は彼らの所在を確かめた。
「いえ、昨夜は雨で、本部から屋敷に帰れず。朝方、帰ってきたのですが。全然、寝れなかったということで。今日は全休にすると言って、朝食のあとは、ふたりとも部屋で、爆睡しています」
ふーん、じゃあ、邪魔はされないかな? と思い。紫輝は青桐を見やる。
「さて、報告だが。記憶喪失のフリはバレた」
えええぇ? バレちゃったの?
まぁ、精神を操る堺から、秘密を隠し続けるのは、限界があるかもな。
「ひどいです、紫輝。私に隠し事をするなんて。紫輝は、青桐様が記憶を取り戻していたこと、知っていたというじゃないですかっ」
あぁ、それで、堺は怒りのオーラを放っていたわけだな?
「隠し事というか、青桐の頼みだったからさ。青桐は、堺のそばにいたいようだったから。協力したんだよ」
紫輝が言うと。
堺も青桐も、なにやら頬を染めた。
なになに? 進展アリ、ですか?
「もう、隠す必要はなくなった。堺は俺の伴侶になる。な?」
青桐が断言し、堺も小さくうなずく。
紫輝は大興奮だ。
おおっ、すっごい、もうそんなところまで話が進んでいるなんて。
龍鬼であることを卑下していた堺が、青桐と一緒になることを了承するなんて。
丁寧に、大切に、堺の心をほぐしていったんだな。
青桐の努力が実を結んだわけだ。見直したぜ。
「俺は、すぐにも触れを出したいのだが、堺が紫輝に話を通したいと。俺は、おまえの思惑がどうだろうと、堺を伴侶にすることと。堺を生涯、離さねぇことは、譲らない。それに、俺たちのことに、おまえの承諾などいらないと思うのだが。紫輝はどう思うんだ?」
「もちろん、承諾などいらないよ。ただ、時期を見極めるべきだとは思うけどね。何度も言うが、将堂家の次男となった青桐が、龍鬼と結婚するのは、強い反発があると思う。賢く立ち回らないと、最悪引き離され、堺の命が失われる、なんてことにもなりかねない。これは、脅しじゃない。感情的になった大人がどう動くのかわからないから、慎重に行こうという提案だ」
その言葉に、青桐は奥歯を噛みしめる。
青桐は基本、頭が良いと、紫輝は思う。
だが、龍鬼への、世の中の反応を、あまりにも知らなすぎる。
だから、青桐は。普通の人と結婚するというイメージなのだろう。
紫輝だって、この世界に来て。一年経っていない。
それでも、己が龍鬼だったせいもあるだろうが。世間の、龍鬼への対応が厳しいことを、肌で感じて知っている。
なのに、この世界に生まれついた青桐が、一般論を知らないというのは。どういうことなんだろう?
「ちょっと、聞くけど。秘密がバレたということは。堺は、青桐のことを大体わかっていると思っていいのか? その、育ち方や、経歴を?」
「昨夜、教えていただきました。いずれ、赤穂様の影武者になるための訓練を受けていたようで…」
堺の言葉に。青桐は、訂正の言葉をはさんだ。
「赤穂だとは思っていなかった。どこかの、誰かの、なにかのために、爺さんが仕込んでいただけで。爺さんは詳しいことを、俺には話していなかったから」
「山奥で修行していたから、龍鬼のこと知らないのか? すっげ、純粋培養じゃん。堺、良い男が純粋培養で育てられていたのは奇跡だぞ?」
紫輝は、目をキラキラさせて、堺に告げた。
龍鬼を汚いとか、駒とか、利用することだけしか考えていない人が多い中で、これは貴重である。
ただ、なにも知らないのは、注意を怠るので、危険ではある。
「青桐、俺は四月に、ここに現れたんだ。俺はそのとき、自分が龍鬼だとは知らなかった。ある意味、青桐と同じ純粋培養だったんだよ」
そこで、紫輝は己の経緯をざっくり話した。
赤穂の息子であることは話したが、ある事件があって大きくなっちゃった、としか言っていなかったので。
暴漢に襲われ、紫輝は命を守るために三百年過去に飛び。そこで十八になるまで過ごして。去年の四月に、再びここに連れ戻されたのだという、一連の流れだ。
「だから、俺は。本当だったら、六歳なんだけど…それはともかく。この有翼人種が生きる世界には、まだ一年もいないわけ。だけどね。俺は一番初めに出会った村人に、石を投げられた。鍬や鎌を持った人に追い回され。入軍した初日は、宿舎を追い出されて野宿だったし。殺されかけもした。ここに来て、たったの一週間で、もう、ありとあらゆる蔑みを受けたわけ。この世界での龍鬼への差別観は、そういう厳しいものなんだ」
そう言うと、青桐はもちろんだが。
堺も、すごくびっくりしていた。
「そんな、つらい目にあっていたのですか? 紫輝は私と初めて会ったとき、すごく明るい感じだったし、お友達もそばにいたので、そんなことがあったようには見えませんでした。どころか、心の殻に閉じこもる私に、あきらめないでとはげましてもくれたのに」
「だって、堺ってば。こんなに美人さんなのに、自分を化け物のように思っているんだもん。嘘でしょ? 貴方、そんじょそこらの美形じゃないんですよって、教えたくなるじゃん?」
その言葉には、青桐が、しみじみと、深く深く相槌を打っている。
「それは同感だ。つか、堺は。今でも自分を醜いと思っている節があるぞ。綺麗だって褒めると、大体、不思議そうな顔をする」
「申し訳ありません。美的感覚は人それぞれですよね?」
それって、堺。俺らの審美眼をディスってない?
堺のこういうところは、時間をかけて直していくしかないので。
とりあえず紫輝は、話を戻した。
「つまりだな。将堂の次男が、龍鬼と結婚するなら。少しでも、龍鬼の地位を向上してからの方がいいと思うんだ。そうしたら俺も、結婚を大々的に公表できるしぃ? したいしぃ?」
さりげなく、紫輝の願望も混ぜ込んでみた。
「この前、言った。俺と赤穂が入れ替わるという案は、どうなんだ? そうしたら俺は、堺とともに、山奥に引っ込むが?」
「それは、今の状況では難しい。赤穂側の事情もあるが。まず、青桐は。堺を連れて軍を出るなんて、できないぞ。将堂軍が堺を手放すことは、あり得ない。それは俺や廣伊も同じだ。龍鬼は戦を有利に進めるための、大事な駒。蔑んで、貶めているくせに、当たり前の顔で利用はするんだから。参るよね。ま、そんなことで…終戦でもしなければ難しいな」
「紫輝、それは…」
堺が、少し期待する目で紫輝を見る。
そんなに、青桐と一緒になりたいのか? 堺。
堺が愛情を感じる相手をみつけて、彼との未来を夢見る。
孤独だった堺が、そんなふうに思ってくれること自体が…なんか、涙出そうなくらいに嬉しいよ。
小姑は感動したっ。
でも、まぁ。だったら、期待には応えたいよね。
「青桐。俺は…君の命は狙われないと、教えたかっただけなんだ。安心してもらいたくて。でも、うまく言えず、青桐には、いろいろと推測されてしまったな」
「おまえは、俺に、いろいろ考えさせたかったみたいだが。あのあと、兄上にも会って。やっぱりイケすかねぇと思ったぜ。ちゃんと、自分で考えて。それで、おまえがなにを考えてんのか、知りたいと思ったんだ」
青桐はしっかりと紫輝に向き直り、真剣な眼差しで問いかけた。
「紫輝、おまえは、なにをどうするつもりなんだ? そこには堺も関わっているんだろ? なら、教えろ。全部だ」
背中で、ライラ剣が『おんちゃんたかたかてんちゃんせんにゃ』という、よくわからない呪文をつぶやいている。
今、超シリアスなところだから、ちょっと待っててな。
「実は、俺たち。終戦目指して、活動しているんだ」
青桐は将堂に来て、まだ二週間。それで、将堂の行く末を左右するようなことに巻き込むのは、ちょっと早すぎかとも思うんだけど。
でも、たぶん。
青桐は、堺に出会った瞬間に、もう、ある道筋に向かって進むと決めたんだろうな。
堺を幸せにする、道筋に。
俺たちの道が、その道筋に沿っているのなら。きっと協力できるよね?
でも。これで全部バレましたな。
「紫輝ッ、終戦目指してるって、どういうことだっ?」
そのとき、部屋の引き戸が開かれ、目をかっぴらいた幸直と、どこか眠そうな巴が廊下に立っていた。
そして幸直の腕には、千夜が。
せ、千夜?
「今そこで、こいつ、捕まえたんだけど。なんで腕が生えてんだ? どういうことなんだ、紫輝っ」
幸直に問い詰められ、紫輝は頬を両手でおさえ、ムンクの叫びのごとく悲鳴を上げた。
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