【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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89 投獄   ★

     ◆投獄

 二泊三日の、四季村旅行から帰ってきた青桐は。堺の屋敷に、今はいるわけだが。
 なんか、帰ってきたなぁという感じがしていた。

 四季村では、自分たち用の屋敷を貰ったけれど。まだなんとなく、お客様という感覚が拭えなくて。
 使用人は、すごく細やかに奉仕してくれたし、堺にも手厚くしてくれたから、嬉しかったのだが。
 高級な宿に泊まったという印象が強く、自分の家という実感がない。
 何回か使えば、自分の家という気になるのだろうか。

「視察は、いかがでしたか? 青桐様」
 夕食のとき、幸直に聞かれ。青桐は、なんと答えようか、迷ってしまった。

「うん。とても有意義な時間だった。学ぶべきことが多かった、と思う」
 それは、そうなのだ。
 とにかく、あそこにいた面子めんつが鬼ヤバかったので。
 とりあえず、手裏基成と赤穂の存在感が、半端ない。
 二大巨頭、だぞ。
 つい最近まできこりだった己がいて、良い空間ではなかったような気がする。
 今更だけど。

 あぁ、赤穂に会って思ったけれど。
 己が赤穂の身代わりなんて、マジで無理。
 なんか、風格が全然違うじゃん。
 記憶喪失で、誤魔化せる範囲なのだろうか、あれは?
 もう、己のせいじゃないから。知らないから。

「紫輝にも言ったんですが、今回、俺らが青桐様たちの穴を頑張って埋めたんで。いつか、休暇ください」
「青桐様の穴を埋めるのは、普通に仕事として当然だと思うのですが。でも、考えておきます」
 青桐の代わりに、堺が返事をした。
 今の堺は、兄に会えて機嫌がいいから。要求は通ると思うよ。
 幸直も手応えを感じたのか、ふと笑った。

     ★★★★★

 夕食のあと、いつものように風呂で汗を流し。自室で堺を待った。
 外出帰りで疲れているとは思うが。就寝の挨拶には、必ず来てくれるので。今日も堺は、来てくれると思っている。

 実は。四季村で、青桐は堺と睦み合わなかった。
 初日は、見知らぬ屋敷で勝手がわからず。どうしようかと思いながら、一緒の寝台で手をつないで寝た。
 翌日には、兄に会えるということで、堺も緊張していたみたいだ。なかなか眠れず、何度も寝返りを打った。
 気になっていることがあると、その気にならないだろう? だから眠りが訪れるまで、兄に会ったらなにを話すんだ? とか。堺の気持ちが通じると良いな、とか。質問することを整理しようか、とか。布団の中でこそこそ話していた。
 でも、それはそれで、楽しかった。恋人の戯れのようで。

 二日目は、そばに兄がいると思うと、堺は完全にその気になれないみたいで。
 申し訳ありません、と眉毛を下げて、謝った。

「いいんだよ。次の日には、また馬に乗るのだから。今日はキスだけ」
 そばに家族がいる状態で、その気になれない気持ちは、青桐にもわかった。
 双子の兄がそばにいる、そう意識すると、なんか、青桐も落ち着かなかったので。

 だから、昨夜も。軽いくちづけと、抱き締めて、頭を撫でたり、頬を撫でたり、それでおとなしく寝たのだ。
 というわけで、今日は堺に触れたかった。
 疲れているのなら、あきらめるけど。でも。堺に触れて、堺が己のものだと感じたい。
 藤王ではなく、己を選んでくれたのだと、ちゃんと確認したいのだ。

 扉を叩く入室の合図があり、堺が戸を開く。
 いつもは、おやすみの挨拶に参りました、と言うのだが。
 今日は台詞が違った。

「青桐様、少しお話してもよろしいですか?」
 もちろんすぐにも了承し、青桐は堺に寝台に座るよう示す。
 寝台脇に置いてある剣掛けに、堺は己の剣を置くと。青桐の隣に腰かけた。
 堺を、青桐はうっとりとみつめる。
 濃い青の軍服は、きっちり着ているけれど。白髪に映えるそれは、禁欲的であり。堺の美しさを極上に引き上げている。

「堺、触れてもいいか?」
 うなずいて、まぶたを閉じる。
 白いまつ毛が、白皙の頬に影を作り、とても美しい。
 今日も、美しい。
 この綺麗な人にくちづけられる、その幸運に感謝し。青桐は唇を寄せた。

 まずは、今日一日お疲れさまでした、の挨拶で。ついばむ軽いキス。
 それから愛してる、の深く結びつけるキス。
 でもひとつ、舌を舌で撫でたあと、唇をほどいたから。堺はちょっと不満そう。
 まだまだ、夜は長いんだから。慌てないで。

「あの、今回は。私の我が儘に付き合っていただき、ありがとうございました。いきなり敵の将と会うことは、怖いことだったでしょう?」
「まぁ、俺が一番怖かったのは、赤穂だけど。大丈夫。堺も紫輝もいたし。赤穂のアレ以外は、怖い思いはしなかったぜ」
 青桐は、赤穂のアレを思い出す。
 いきなりの手合わせのことだ。
 だいぶ手加減されていた。それがわかるから、腹が立つというか。
 そして、敵わないというか。それを痛感させられたというか。

「申し訳ありません、もう少し早く気づいていたら、決して怖い思いなどさせませんでした。私がお守りしましたのに」
「ちゃんと守ってくれたじゃないか。これからも頼りにしているよ、堺」
 ねぎらいの言葉に、堺は頬をほんのり染めて。嬉しそうに口元をほころばせる。
 可愛い。

「…私は、兄の求婚を断りました。私には、青桐様だけだと」
 堺はそう言うと、自ら軍服に手をかけ、上着を脱いだ。
 そして防具も外してしまう。

「私が貴方のものだということを、どうか、お確かめください」
 なまめかしく光る白い肌に、薄赤の乳首が際立つ。
 そのように誘われたら、青桐はひとたまりもなかった。
 剥ぎ取るように、己の浴衣を脱ぎ。寝台の下に放り投げると、堺を寝台に組み敷いた。
 堺のことを見下ろすと、肩口まで伸びた髪が前に垂れてくる。邪魔だな。そろそろ、切るか結ぶかしないと。

「あぁ、ずっと触れたかった。堺。今日はいっぱい抱かせてくれ」
 甘く囁きながら、堺の目尻にくちづける。

「私も、貴方と肌を合わせたかった。いつも隣で寝ているのに。どうして、もっと、くっつきたくなるのでしょう? ほんの近くに貴方がいるのに、青桐様に触れたくてたまらなかった」
 堺は青桐の首に腕を回し。くちづけを求めた。
 青桐はそれに応え、熱く、激しいキスを贈る。

 堺は舌先が敏感で、深いキスをしながら、舌先をくすぐると、すぐに瞳を色濃く潤ませる。
 しかし、肌も敏感だ。首筋や鎖骨などを唇で愛撫すると、白い肌をほの赤くして、体を高ぶらせていく。
 白くて透明感のある肌は、己よりも皮膚が薄いのではないか?
 だから感じやすいし、熱く色づくのではないか?
 そう思いながら、青桐は堺のズボンや下着を取り払っていった。

 ふたりで、一糸まとわぬ姿になり。火照る体を抱き締め合う。
「どうだ、堺? 肌を合わせて、いっぱいくっついて。こうしたかったのだろう?」
 つるりと滑るような、きめの細かい堺の肌は、抱き締めると少しひんやりとしているのだが。それでも情欲に燃えているのは、瞳を見ればわかる。
 堺はせつなげな眼差しで、青桐をみつめているから。

「もっと奥まで、貴方で満たしてください。意地悪、しないで」
 青桐は、悪い男の顔でニヤリと笑うと。寝台に常備してある香油を手に取り、堺の後ろに塗り込めた。
 堺の臀部は鍛えられていて、柔らかくはないのだが。引き締まっていて形は格好いい。
 双丘の割れ目に指をもぐり込ませ、蕾を優しく撫でる。

「ここに、欲しいのか?」
 青桐がたずねると。堺は恥ずかしがって、青桐の胸に顔を隠してしまう。
 だけど、そっとうなずいた。
 そんな清楚な仕草が、たまらなく可愛い。

 ゆっくりと蕾を開くようにほころばせ、指を差し入れてほぐしていく。
 その間も、白い肌に舌を這わせ、乳首を舐め濡らし。堺の体を味わいながら、彼の官能を引き出していった。
 たっぷりとした白髪が、寝台の上に広がると、川の流れのように見え。その上で身悶える堺は、艶やかで。とにかく美しい。

 青桐は、堺の耳に唇を寄せた。
「体を捧げろ、俺の龍」
 そして、堺の後孔に剛直を挿入した。
 堺はビクンと体をわななかせ、歓喜の中で青桐を受け入れた。

「ああぁ、青桐様っ」
 青桐は、俺の龍という言葉に、堺が強く反応することに気づいていた。
 確信したのは四季村で、堺のみならず、紫輝も藤王もぞくぞくすると言ったからだ。
 その言葉が、なにかの引き金なのか。それはわからないが。
 感度が良くなるのは、間違いない。
 痛いよりは、良い方がいいと思うので。青桐は有効利用することにしたのだ。

 でももちろん、愛しているという想いからの『俺の龍』ではある。
 乱発すると、何事も効果が薄れるので、ここぞというときに使うのだ。

「ん、んん…あ、青桐、さ、まぁ」
 とろりとした瞳で、挿入された己の熱さや脈動に感じ入る堺を。青桐は愛しげにみつめ返し。精力的に律動する。
 堺は青桐からもたらされる刺激に酔いしれ、素直に悦楽を受け入れた。

「堺、また初めてのこと、しようか?」
 ただただ、体に渦巻くじんじんに陶酔していた堺は、青桐の言葉がよくわからないままうなずいた。
 すると青桐はつながった状態で堺の身を起こし、体の上に乗り上げさせる。
 青桐が下になって、堺は青桐をまたぐような格好で青桐の上に座っている。

「ふぁ、あっ。あ、青桐、さま」
 挿入された剛直の角度が変わったことで、じんじんの感覚も変わって。堺は戸惑ってしまう。
 それに、あるじの上に乗るという行為が、なんとなく、申し訳ないような。体重をかけられないような。

 なのに、青桐は堺の腰を手で支え持ち、引き下ろす。
 堺は青桐を根元までしっかりくわええ込まされた。ズンと突き上がる剛直の存在感に、堺は両手で口元をおさえ、嬌声をこらえる。

「ん、じんじんが、ビリビリです。ここが、もやもやします」
 堺は左手で下腹をおさえ、青桐に訴える。

「青桐様、私が乗って、苦しくはありませんか?」
 青桐の羽の下には、枕がいっぱい重ね置かれているので、痛くない。

「大丈夫だ。それより、あのときと体勢が同じだ。ほら、年末に馬の訓練を堺としただろう?」
 いやらしく笑って、青桐は腰を揺らす。
 馬に乗っているかのように、ゆるやかに。
 年末、馬の訓練と称して、堺の腹の上に青桐は乗せられ、どのような動きでも体幹を定めるように、という練習をさせられたのだ。

「四季村に行く途中、紫輝が堺に乗馬の教えを受けたいと言ったときは、ひやりとしたよ。堺が紫輝にも、こうして腹に乗せて、えっちな練習をするんじゃないかと思って」
「あれは…私は、そんなつもりでは…」

 今、青桐のモノを体に挿入した状態で、揺らされて。
 あの体勢がはしたないことだったと知り。
 堺は羞恥に、顔を真っ赤にしてしまう。
 さらに、青桐の剛直が隘路を上下するから、気持ち良さに身を震わせる。

「堺、あのとき俺が、なんて言ったか。覚えてるか?」
 話しながらも、青桐は腰を揺らめかせるから。快感に脳は痺れ、堺は考えがまとまらない。
「んぁ…ん、え?」
「俺は、下から突き上げたいと言ったんだ」
 そう言い、青桐はゆるやかだった腰つきを、突き上げる動きに変えた。
 強めの刺激が、堺の身を焼く。

「あ、あ、あ…そんな、深い、の」
 体の一番奥を叩かれるような。体のすべてが青桐に満たされるような、そんな刺激におののいて、堺は青桐の腹の上に手をついた。

「乗馬の訓練で、俺は。堺が俺の上で、今みたいに揺れる、いやらしい姿を想像していたんだよ。あれは、えっちな練習法だから、俺以外の者にしてはいけないぞ」
「あ、い、いたしません」
「えっちなことをして、ごめんなさい。これからは、えっちなことは、俺としかしないって。言って」
「ご、ごめんなさい。あ、青桐さまぁ、えっちなことして、ごめんなさい。えっちなことは、も、青桐さまとしか、しません。あ、ん」

 薄青の瞳を涙ぐませ、一生懸命謝る堺を、満足そうに青桐は見やる。
 いつも清楚な堺が、えっち、なんて単語を言うのが、いやらしくて萌える。

「…でも、青桐さまとは。えっちなこと、したい、です」
 うかがうような眼差しで、そんなことを言われたら。
 青桐は、たぎってしまう。

「んん、そのように、大きくしては…あ、い、いけません」
 体の内側で、剛直がみなぎったのが、堺にわかってしまった。
 己がムクリとうごめいたとき、堺も身をくねらせた。
 ふたりで、互いの変化に、身を高ぶらせるこの行為が。一番互いを近くに感じられるのだと、実感する。

「堺、馬に乗るときは、体幹を意識するんだろ? 腿で俺の体をしっかりはさんで。そうしたら、俺がどんな動きをしても、堺は耐えられるんだろう?」
 そう言って、青桐は思いきり腰を揺らし、堺を突き上げる。
 堺は乗馬の要領で、丹田に力を込め、体勢をまっすぐに保つ。でも、断続的に下から襲い来る、愉悦をはらむ淫蕩な責め苦に、艶めいた声をおさえられない。

「ふぁ、あ、ん、あ、あ、あ」
「く、しまる。あぁ、上手だ、堺。俺を美味しそうに飲み込んでいる」

 体幹を意識することで、堺は自然、青桐の剛直をギュッと締めつけてしまう。そこを小刻みに揺すりあげられ、蜜筒をかき回され、絶え間なく悦楽が湧き上がる。

「可愛い、可愛い、俺の龍。堺の身も心も、俺だけのものだっ」
 甘さのにじむ青桐の声を聞けば、体の奥の奥で、キュンとなにかがはじけるみたいになって。堺は惑乱するほどの快楽に背を反らした。

「あ、んぁ。やぁ、イく。青桐様っ、あ、あ…あ、んっ」
 青桐が堺の腰を掴んで、グンとひと際強く突き上げると。堺は前を触られないままに、白濁を放った。
 ビクビクと震える狭い中を、さらに突き入れ。青桐も堺に熱い精を注ぎ込む。

 堺は。目がくらむほどの官能が、下腹に渦巻いて、己と青桐がひとつになるような。そんな体感を受けていた。
 それは、雲の上を歩くみたいにフワフワして。灼熱の玉が身をとろけさせるみたいにトロリとした。すごく心地よい感覚だった。

     ★★★★★

 堺は龍鬼の能力で、おけの中に氷をいっぱい出し。それを人肌に温めて湯を作る。
 堺は氷を出す方が簡単にできるのだが、火も起こせるので。温度調節もお手の物。
 それはともかく。
 それで手拭いを濡らし、情事のあとの青桐の体をサッと拭いて。身支度を整える。
 主が、さっぱりとして、浴衣をきっちり着込むのを見ると。堺はなんだか心が満ち足りるのだ。

 自分も身綺麗にしてから軍服を着る。
「楽な格好で、一緒に寝ればいいのに」
 青桐は、書物の中の物語のように、夫婦は同じ寝台で安寧の中、眠りにつく。というのを実践したいと思うので、堺が情事のあと、すぐに軍服を着てしまうことが不満だ。

「ですが、高槻も紫輝も、龍鬼というだけで味方から襲撃されることもあると言っていました。さすがに、時雨家の当主である私は、狙われたことはありませんが。私は、どんな状況でも、青桐様をお守りしたいので。寝台の中でも油断したくはないのです」

「え? 龍鬼は味方に襲撃されるのか?」
「高槻は、年に一、二度あると言っていました。紫輝も、すでに五回ほど命を狙われたとか?」
「マジか?」
「えぇ。あり得ません」
 紫輝にその話を聞いたとき、堺は、血の気が引いて、倒れそうになった。
 そして、自分は。龍鬼の中でも、恵まれている方なのだと再認識したのだ。

 紫輝はいつも、明るくてほがらかだから、とてもそんな目にあっていたとは思わなくて。
 配慮が足りなかったな、と反省したのだった。
 でも、もう紫輝も幹部になった。さすがに幹部を暗殺しようとする者はいないだろう。と思いたい。

 堺は青桐の寝台に横になり、彼と向かい合う。
 すると青桐が、堺の腰を手でさすった。

「堺、腰は痛くないか? いっぱい突き上げてしまったからな」
「大丈夫です。ちょっと、ウズウズはいたしますが」
 今日は、少し激しかったから。まだ青桐を受け入れているような感覚が残っている。でも、それは決して、嫌な思いではない。
 なんとなく、くすぐったいような。甘い痛みだ。
 そんなふうに、体の感覚を噛みしめていたら。青桐がフフッと笑った。

「なんですか?」
「別れ際に、紫輝が言ったの。こういう意味だよ」
 紫輝は確かに、別れ際に腰が痛いと言っていた。
 堺は単純に、乗馬に慣れていなくて、腰が痛くなったのだと思っていたのに。
 青桐に言われ、堺はようやく、紫輝の言葉の意味がわかって、顔を赤くした。

 つまり紫輝は、昨夜、あの男と…。

「聞きたくありません」
 眉間にしわを寄せ、堺は青桐を睨んだ。

「なんだ? やっぱり今でも、紫輝に未練があるのか? 紫輝が他の男に抱かれるのが嫌か?」
「そのような…未練、というものではないのです。でも。紫輝はまだ…幼気いたいけなので。あの男に、力任せに抱かれているのかと思うと、腹が立ちます。というか、想像したくありません」

 怒る堺の眉間を、青桐は苦笑して、指先で揉んでやる。
「紫輝は、俺と堺がうまくいくように、応援してくれたぞ。紫輝は…あいつと、結婚しているわけだし。堺も紫輝を応援してあげなきゃ」

 青桐は、基成と言いそうになって。ま、寝台の中でなにを言っても誰にも聞こえはしないだろうが。将堂軍の中では基成の名前は禁句だろうと思って。あいつに言い換えた。

「紫輝は、とても大切な友達、家族です。紫輝の選んだ相手なのだから、応援…したいとは思うのですが」
 堺は、眉間のしわはなくしたが。情けなく眉を下げた。

「そういえば、四季村で。堺はあいつと一度も話さなかったか?」
 だぶるでぇとのときはわからないが、青桐が見ていた限りで、堺が基成と言葉を交わした場面はなかったように思う。
 堺は、だって…と。聞いたことのない言葉遣いをする。
 か、可愛いっつうの。

「あの男…私と目が合ったとき、紫輝を抱き寄せたのです。いかにも、紫輝は俺のもの。残念だったなぁ…。と言うように。つかに手が伸びかけました」
 なにやらメラリと炎を燃やす堺を、青桐は抱き寄せて。頭を手で優しく撫でた。

「これ以上は、俺が紫輝に嫉妬してしまいそうだ。ま、雪解けはいずれってことで」
 青桐は、堺を撫でている間にも、眠くなってきた。
 二泊三日の旅程で、今日は長く馬にも乗った。さすがに疲れが出たのだろう。
 堺も己の胸に頭を預けて目を閉じている。幸せな気持ちで、青桐は目を閉じた。

     ★★★★★

 ガンガンガンと扉が叩かれ、青桐は目を覚ました。
 堺はいち早く寝台を降り、剣を片手に扉に向かう。
 雨戸の隙間から日が見えるので、夜は明けている時間だ。

 堺が扉を開けると、そこには巴がいた。

「堺、燎源が兵士を連れて、屋敷に上がり込んできた。幸直が止めているが、それほど時間は稼げない」
「なんだと?」
 青桐は巴の話に気色ばむが、堺はちらりと青桐に視線を向けただけで。
 慌てる様子もなく、剣を腰帯に差した。

「巴、青桐様がとがを受けないよう、巴が青桐様を止めてくれ」
 言い終わるか終わらないかのところで、燎源が声を張った。

「堺、貴様っ…青桐様の部屋でなにをしていたのだ?」
 燎源は、いつもの微笑みの顔ではなく、怒りをあらわにした表情をしていた。
 糸目が若干開いているので、相当だ。
 燎原の後ろには、左の次将軍と、その部下たち。あと青桐の屋敷をクビになった、あの家令がいた。

「それはこちらの台詞だ。約束もなく、こんな朝早くに人の屋敷に押し入ってきて、何事だっ」
 堺が口を開く前に、青桐が燎源に言うが。
 燎源は構わず、堺の手を後ろに縛り上げた。

「堺、わかっているな? 将堂家の血脈を龍鬼の血で汚すのは、傷害行為だ。おまえを投獄する」
「ふっざけんなっ! 堺っ、堺に触るんじゃねぇ」
 青桐は剣を取り、燎源に向かって行こうとするが。そこを巴に止められた。

「巴、邪魔すんなっ」
「これは堺の指示です。青桐様、左に剣を向けるのは得策じゃない。頭を冷やして。正攻法で、堺を助け出してやるしかない」
「しかしっ、堺が…」

 赤穂に、堺を奪われるなと言われていたのに。すぐにも堺の命が奪われたら。
 今、どうしたらいいのか、青桐はわからなくて。
 堺が、左に連れ去られてしまう。それを見ているしかないのかと。途方に暮れた。

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