132 / 159
90 俺は雷龍だ
◆俺は雷龍だ
第五大隊長の屋敷。食堂で朝食をとった紫輝と大和は、屋敷の敷地内にある厩舎に行った。
ミロの手綱を、馬丁さんから渡してもらって、まずは歩いて門を出る。
いつものように、午前中は堺の屋敷に向かうのだ。
仕事の仕方を教わったり、青桐とともに勉強をしたりする毎日。
でも明日は引っ越しだから、今日は荷造りだなって思っていた。
門番をしている野際に、行ってくるね、と。のんきに挨拶して、馬に乗り。
しばらく馬を走らせていたら、千夜が道の真ん中に立っていた。
「千夜? どうした?」
馬を止め、紫輝は千夜にたずねる。
今日も、瑠璃色の髪が目に鮮やかだ。
朝早い時間だし、ここは屋敷と本拠地の中心部の間くらいだったから、人影がなかったからいいけど。
でも千夜は隠密ながら、外見は派手だし。
無茶なことをして、どうした? と思ってしまう。
おもむろに、千夜は紫輝の横に来て、言う。
「時雨将軍が、統花燎源様率いる左の兵に拘束された」
あんまり思いもよらないことを言われたから、紫輝は脳みそに情報が到達するのが遅れた。
「なに? 堺が捕まったってこと? なんで?」
「将堂の血脈を汚したという、傷害罪だ」
「…続けて」
珍しく険しい眼差しでうながす紫輝に、千夜は短くうなずき。
報告を続ける。
「青桐様と美濃様、里中様は。談判しに、指令本部に向かった。大将の執務室に入り。金蓮様と統花様に将軍の解放を要求しているところだ」
「うん。堺は今どこに?」
「指令本部の地下牢に。抵抗することなく、おとなしく牢におさまった」
「抵抗しなかった、か。金蓮も本拠地に入っているんだな?」
「金蓮様一行は、今朝方、本拠地に入った」
「今朝、本拠地入りして、その足で堺を捕まえた? ずいぶん急な話だ」
どういうつもりなのか?
もしかして、四季村を出る間際に危ぶんだみたいに、堺を餌に、藤王をおびき出す作戦を、金蓮が考えついたのか、とも紫輝は思ったが。
「青桐様の屋敷の元家令が一緒だった。青桐様が、時雨様の屋敷に逗留していることを、歪曲して伝えたのでは?」
千夜の言葉に、紫輝は重いため息をついた。
あのトンデモ家令が、金蓮に嘘八百で泣きついたってことだ。
「歪曲でもないけどな。オケ。じゃあ、大和は青桐のところに行って、俺が堺を連れて行くから、そこで談判を続けていてって、伝言してくれ」
「紫輝様は?」
大和にたずねられ、紫輝はメラリと燃える怒りの眼差しを向け、決然と告げた。
「もちろん、堺を救出に行く。つか、略奪? 脱獄?」
紫輝は千夜に、ミロに乗るよううながし。彼に手綱を持たせて、指令本部へと馬を走らせた。
「千夜、地下牢の場所わかる? 案内して」
「正面から行くのか? 左の兵士が守っているぞ?」
「行くの。全部、生気吸うから」
馬上で、千夜は紫輝の様子をうかがうが、かなりご立腹だ。
ずっと口がへの字なので。
「正面突破して、堺を連れ出したら、金蓮のところへ行く。今日こそ、ビシッと言ってやるっ!」
でも、ただ腹立ちまぎれに、がむしゃらに突っ込んで、全部ぶっ壊す…という感じではなさそうなので。
千夜は安堵の息をつく。
紫輝は、安曇のように理詰めで計画的に動くのではないが。本能的にでも、ちゃんと着地点に向かって行動しているのだ。
だから、大丈夫だと思える。
そうして、紫輝たちは指令本部についた。
指令本部は横長の和風建築。画一的な作りで、正面玄関を入って、右側を右軍が、左側を左軍が使用している。
執務や作戦対策する、教室のような造りの部屋がいくつもある。昭和初期の小学校みたいな感じ。
大和は左側に行き、突き当りの大将の執務室へと向かった。そして千夜は、玄関ホールのさらに奥へ行くと、その場にいた三人の兵士に斬りかかっていった。
紫輝もライラ剣を出して、彼らの剣を受け、生気を吸う。
「千夜、殺さないで。味方をやると、あとが面倒くさそうだから」
「わかっている」
兵士がその場に倒れると、千夜は床板に手を置き、なにかを掴むと。床板を引っ剥がした。
ように見えたが。
ただの廊下に見えていた、そこの扉を開くと。下に木製の階段が伸びていた。
あ、階段、久しぶりに見た。
つか、忍者屋敷みたいな隠し部屋?
そうか。地下牢だから、地下にあるんだな、と思い。
紫輝は階段を降りていく。背中は千夜に守ってもらうのだ。
「行くぞ、ライラ。ガンガン吸ってけ」
『あいっ、おんちゃん、ひさしぶりね』
ライラはなにやら、ウキウキして言う。
戦場から遠ざかり、三ヶ月ほど経つ。その間、ライラは大体、紫輝の生気を吸っていたから、他人の生気食べるのは久しぶり、ってことだ。
ま、結婚式とか、つまみ食いはしていたけどな。
階段を降りると、薄暗い中を、廊下が伸び。ぼんやりとしたろうそくの火が、ところどころ照らしている。
つか、なにやら夜の学校みたいで怖いんですけど。
暗がりから、突然、左の兵士が出てきたっ。
まるでゾンビ映画なんですけどぉ。
とはいえ、紫輝は如才なく兵士の剣を受け、敵はライラに生気を吸われて昏倒する。
よしよし、この感じが、久しぶりなんだな。
敵意のある人の剣を受けるってやつ。
なんか、初陣思い出したよ。
やっぱり、間が空くと感が狂うね。赤穂と手合せしていて、良かった。
紫輝は気を引き締め直し、廊下を進んでいく。
だが、そうは言っても、地下牢に、それほどの人員は配備されていないみたい。
三人くらい、倒したら。奥の方から話し声がした。
「…おまえも懲りないな。金蓮様に目をつけられているというのに、将堂の御血筋に手を出すとか。考えられねぇ。龍鬼は龍鬼らしく、肩身を狭めて生きてりゃ、いいんだよ」
その言い様に、紫輝はイラッとして。口をはさんだ。
「龍鬼らしくって、なんだよ? 俺らは人と同じ。ただ翼がないだけだ」
「なんだ、おまえはっ? 見張りはどうした?」
紫輝は、右手にライラ剣を持ったまま、左腕の記章を男に見せつけ、言った。
「右参謀、兼、第五大隊副長、間宮紫輝だ。あ、雷龍も名乗った方がいい?」
「…紫輝?」
男の前にある牢の中から、堺の声がした。
どうやら、目の前の男がラスボスのようだ。
背後に、時折襲い掛かってくる兵士は、千夜がしっかり退治してくれている。
青いつむじ風は健在だな。
「ちなみに見張りの方は、俺が倒しました。もうひとりもいないよ」
言って、紫輝は辺りを見やる。
牢屋は、分厚めの木組みが縦横の格子状になっている。中は床板。だけど、暗いし狭いし、底冷えするというか、なんか寒々しい。
そんなところに、氷の化身のごとき堺が、おとなしく座っていて。
あぁっ、掃き溜めに鶴とはこのことかっ? つか、冬にこの場所はあり得ないんだけど。
「おい、あんた。堺のこと出してくれる?」
普通に、紫輝は男に頼んだ。ま、彼は怒るよね。
「はぁ? おまえ、誰に口利いてんだ? 俺は左次将軍、大塚洋だぞ」
大塚は、紫輝よりちょっと背が高いくらいの男で、体格が大きいわけでもなく。だから、きゃんきゃん騒ぐ小型犬みたいな感じ。
羽は…暗いからよく見えない。あんまり興味もない。
「あぁ、すいません。大塚さん、堺をそこから出してください」
こっちこそ怒っているのだけど。とりあえず紫輝は下手に出て、笑みも浮かべてみた。
「ふっざけんなっ、龍鬼ごときがっ、俺に軽々しく話しかけてんじゃねぇよ」
「出たよ、龍鬼ごとき。左のやつらって、語彙が少ないよね? 本当に頭良いの?」
「おまえ、馬鹿にしてんのか?」
馬鹿にして…なくもなくもなくもない。つか、問答、面倒くさい。
「ちなみに、大塚さん。堺はなんで牢に入れられたの? 参考に、聞かせてください」
「はっ、そんなの。醜い龍鬼が、汚い手で、将堂の御方に触ったからだ」
「触ったから、なんなの? まさか、見るだけ、触れるだけで龍鬼がうつるとか思ってる、頭の悪い人なの? だったら、あんたももう、龍鬼になってしまうな?」
「高貴なハヤブサ血脈の俺が、醜い龍鬼になどなるわけがない。ただ汚いから、近寄りたくはないがな」
ハハッと、なにが面白いのかわからないが、大塚は笑った。
咎のない者を、理由なく排他し。自分ではなにも考えず、周りがそういう雰囲気だから、自分もするという、胸糞悪い人種のようだった。
「あんたと話していると、不愉快だな。むかつくから、生気を吸って、頭の先から足の先まで、龍鬼の能力で汚染してやるよ。あんたの言う、汚い龍鬼の能力で、溺れてしまえっ」
目の前が真っ赤になるほどに、紫輝は怒りを感じていた。
声を張って威嚇するが、大塚はニヤリと笑って。紫輝に言う。
「雷龍、知ってるぜ。おまえ、剣を合わせた相手を昏倒させるんだろ? でも、俺は。麟義瀬間に次ぐ剣の使い手だ。おまえなど、剣を合わせるまでもなく、ぶった切ってやるぜ」
あぁ、また龍鬼を有効活用できない、おバカちゃんが出現した。
そうだ、こいつは脳みそを使えない人種だった。
頭の悪いやつが、剣術だけで、上の地位につくと、下が迷惑するんですけど。
と、紫輝はげんなりする。
「龍鬼をぶった切ったら、金蓮様がお怒りになるんじゃね?」
わかりやすく、忠告してやったが。
聞く耳持ちゃしない。
「龍鬼が人を襲ったから成敗したと言えば、金蓮様も納得するだろうよ」
なるほど。こういう輩のせいで、なんの咎もない龍鬼が、不当に蔑まれることになったのかもしれないな、と紫輝は考え。
もう、マジで、ふつふつと怒りが燃えたぎってきたよ。
「冤罪をでっちあげるわけか。わっかりました。腐ったクズと話すのは、時間がもったいないってことがな」
紫輝はビシッと、ライラ剣の剣先を大塚に向けた。
「腐った、クズだと? 俺に向かって? 許せんっ」
大塚は剣を抜いて、紫輝に向かってきた。確かに早いし、隙もなく、なかなかの手練れのようだが。
「おまえ、情報不足だぞ。俺は…雷龍だ」
バリリッと、電撃の光が剣先に集まり。紫輝は叫んだ。
「らいかみっ!」
ドンと、紫輝の怒りの波動のような大きな音が鳴り。紫の電光が、大塚に直撃した。
バリバリと感電したかのように男は痙攣し、その場にくずおれる。
「別に、ライラと剣を合わせなくても、生気は吸えるよ? もう、聞こえてないだろうけど」
のほほんとした口調で、紫輝は意識を失った大塚に教えてあげた。
普通なら死んじゃうような派手な感じで倒れ込んだが、大丈夫。普通にライラが生気を吸っただけ。いつもと同じだ。
とにかく、ラスボスを倒したので、いったんライラ剣を背中の鞘にしまい。
大塚の軍服を探って牢のカギを取り出すと、堺の牢の出口を開ける。
「さぁ、帰ろう。堺」
紫輝は笑顔で、堺に手を差し出した。
第五大隊長の屋敷。食堂で朝食をとった紫輝と大和は、屋敷の敷地内にある厩舎に行った。
ミロの手綱を、馬丁さんから渡してもらって、まずは歩いて門を出る。
いつものように、午前中は堺の屋敷に向かうのだ。
仕事の仕方を教わったり、青桐とともに勉強をしたりする毎日。
でも明日は引っ越しだから、今日は荷造りだなって思っていた。
門番をしている野際に、行ってくるね、と。のんきに挨拶して、馬に乗り。
しばらく馬を走らせていたら、千夜が道の真ん中に立っていた。
「千夜? どうした?」
馬を止め、紫輝は千夜にたずねる。
今日も、瑠璃色の髪が目に鮮やかだ。
朝早い時間だし、ここは屋敷と本拠地の中心部の間くらいだったから、人影がなかったからいいけど。
でも千夜は隠密ながら、外見は派手だし。
無茶なことをして、どうした? と思ってしまう。
おもむろに、千夜は紫輝の横に来て、言う。
「時雨将軍が、統花燎源様率いる左の兵に拘束された」
あんまり思いもよらないことを言われたから、紫輝は脳みそに情報が到達するのが遅れた。
「なに? 堺が捕まったってこと? なんで?」
「将堂の血脈を汚したという、傷害罪だ」
「…続けて」
珍しく険しい眼差しでうながす紫輝に、千夜は短くうなずき。
報告を続ける。
「青桐様と美濃様、里中様は。談判しに、指令本部に向かった。大将の執務室に入り。金蓮様と統花様に将軍の解放を要求しているところだ」
「うん。堺は今どこに?」
「指令本部の地下牢に。抵抗することなく、おとなしく牢におさまった」
「抵抗しなかった、か。金蓮も本拠地に入っているんだな?」
「金蓮様一行は、今朝方、本拠地に入った」
「今朝、本拠地入りして、その足で堺を捕まえた? ずいぶん急な話だ」
どういうつもりなのか?
もしかして、四季村を出る間際に危ぶんだみたいに、堺を餌に、藤王をおびき出す作戦を、金蓮が考えついたのか、とも紫輝は思ったが。
「青桐様の屋敷の元家令が一緒だった。青桐様が、時雨様の屋敷に逗留していることを、歪曲して伝えたのでは?」
千夜の言葉に、紫輝は重いため息をついた。
あのトンデモ家令が、金蓮に嘘八百で泣きついたってことだ。
「歪曲でもないけどな。オケ。じゃあ、大和は青桐のところに行って、俺が堺を連れて行くから、そこで談判を続けていてって、伝言してくれ」
「紫輝様は?」
大和にたずねられ、紫輝はメラリと燃える怒りの眼差しを向け、決然と告げた。
「もちろん、堺を救出に行く。つか、略奪? 脱獄?」
紫輝は千夜に、ミロに乗るよううながし。彼に手綱を持たせて、指令本部へと馬を走らせた。
「千夜、地下牢の場所わかる? 案内して」
「正面から行くのか? 左の兵士が守っているぞ?」
「行くの。全部、生気吸うから」
馬上で、千夜は紫輝の様子をうかがうが、かなりご立腹だ。
ずっと口がへの字なので。
「正面突破して、堺を連れ出したら、金蓮のところへ行く。今日こそ、ビシッと言ってやるっ!」
でも、ただ腹立ちまぎれに、がむしゃらに突っ込んで、全部ぶっ壊す…という感じではなさそうなので。
千夜は安堵の息をつく。
紫輝は、安曇のように理詰めで計画的に動くのではないが。本能的にでも、ちゃんと着地点に向かって行動しているのだ。
だから、大丈夫だと思える。
そうして、紫輝たちは指令本部についた。
指令本部は横長の和風建築。画一的な作りで、正面玄関を入って、右側を右軍が、左側を左軍が使用している。
執務や作戦対策する、教室のような造りの部屋がいくつもある。昭和初期の小学校みたいな感じ。
大和は左側に行き、突き当りの大将の執務室へと向かった。そして千夜は、玄関ホールのさらに奥へ行くと、その場にいた三人の兵士に斬りかかっていった。
紫輝もライラ剣を出して、彼らの剣を受け、生気を吸う。
「千夜、殺さないで。味方をやると、あとが面倒くさそうだから」
「わかっている」
兵士がその場に倒れると、千夜は床板に手を置き、なにかを掴むと。床板を引っ剥がした。
ように見えたが。
ただの廊下に見えていた、そこの扉を開くと。下に木製の階段が伸びていた。
あ、階段、久しぶりに見た。
つか、忍者屋敷みたいな隠し部屋?
そうか。地下牢だから、地下にあるんだな、と思い。
紫輝は階段を降りていく。背中は千夜に守ってもらうのだ。
「行くぞ、ライラ。ガンガン吸ってけ」
『あいっ、おんちゃん、ひさしぶりね』
ライラはなにやら、ウキウキして言う。
戦場から遠ざかり、三ヶ月ほど経つ。その間、ライラは大体、紫輝の生気を吸っていたから、他人の生気食べるのは久しぶり、ってことだ。
ま、結婚式とか、つまみ食いはしていたけどな。
階段を降りると、薄暗い中を、廊下が伸び。ぼんやりとしたろうそくの火が、ところどころ照らしている。
つか、なにやら夜の学校みたいで怖いんですけど。
暗がりから、突然、左の兵士が出てきたっ。
まるでゾンビ映画なんですけどぉ。
とはいえ、紫輝は如才なく兵士の剣を受け、敵はライラに生気を吸われて昏倒する。
よしよし、この感じが、久しぶりなんだな。
敵意のある人の剣を受けるってやつ。
なんか、初陣思い出したよ。
やっぱり、間が空くと感が狂うね。赤穂と手合せしていて、良かった。
紫輝は気を引き締め直し、廊下を進んでいく。
だが、そうは言っても、地下牢に、それほどの人員は配備されていないみたい。
三人くらい、倒したら。奥の方から話し声がした。
「…おまえも懲りないな。金蓮様に目をつけられているというのに、将堂の御血筋に手を出すとか。考えられねぇ。龍鬼は龍鬼らしく、肩身を狭めて生きてりゃ、いいんだよ」
その言い様に、紫輝はイラッとして。口をはさんだ。
「龍鬼らしくって、なんだよ? 俺らは人と同じ。ただ翼がないだけだ」
「なんだ、おまえはっ? 見張りはどうした?」
紫輝は、右手にライラ剣を持ったまま、左腕の記章を男に見せつけ、言った。
「右参謀、兼、第五大隊副長、間宮紫輝だ。あ、雷龍も名乗った方がいい?」
「…紫輝?」
男の前にある牢の中から、堺の声がした。
どうやら、目の前の男がラスボスのようだ。
背後に、時折襲い掛かってくる兵士は、千夜がしっかり退治してくれている。
青いつむじ風は健在だな。
「ちなみに見張りの方は、俺が倒しました。もうひとりもいないよ」
言って、紫輝は辺りを見やる。
牢屋は、分厚めの木組みが縦横の格子状になっている。中は床板。だけど、暗いし狭いし、底冷えするというか、なんか寒々しい。
そんなところに、氷の化身のごとき堺が、おとなしく座っていて。
あぁっ、掃き溜めに鶴とはこのことかっ? つか、冬にこの場所はあり得ないんだけど。
「おい、あんた。堺のこと出してくれる?」
普通に、紫輝は男に頼んだ。ま、彼は怒るよね。
「はぁ? おまえ、誰に口利いてんだ? 俺は左次将軍、大塚洋だぞ」
大塚は、紫輝よりちょっと背が高いくらいの男で、体格が大きいわけでもなく。だから、きゃんきゃん騒ぐ小型犬みたいな感じ。
羽は…暗いからよく見えない。あんまり興味もない。
「あぁ、すいません。大塚さん、堺をそこから出してください」
こっちこそ怒っているのだけど。とりあえず紫輝は下手に出て、笑みも浮かべてみた。
「ふっざけんなっ、龍鬼ごときがっ、俺に軽々しく話しかけてんじゃねぇよ」
「出たよ、龍鬼ごとき。左のやつらって、語彙が少ないよね? 本当に頭良いの?」
「おまえ、馬鹿にしてんのか?」
馬鹿にして…なくもなくもなくもない。つか、問答、面倒くさい。
「ちなみに、大塚さん。堺はなんで牢に入れられたの? 参考に、聞かせてください」
「はっ、そんなの。醜い龍鬼が、汚い手で、将堂の御方に触ったからだ」
「触ったから、なんなの? まさか、見るだけ、触れるだけで龍鬼がうつるとか思ってる、頭の悪い人なの? だったら、あんたももう、龍鬼になってしまうな?」
「高貴なハヤブサ血脈の俺が、醜い龍鬼になどなるわけがない。ただ汚いから、近寄りたくはないがな」
ハハッと、なにが面白いのかわからないが、大塚は笑った。
咎のない者を、理由なく排他し。自分ではなにも考えず、周りがそういう雰囲気だから、自分もするという、胸糞悪い人種のようだった。
「あんたと話していると、不愉快だな。むかつくから、生気を吸って、頭の先から足の先まで、龍鬼の能力で汚染してやるよ。あんたの言う、汚い龍鬼の能力で、溺れてしまえっ」
目の前が真っ赤になるほどに、紫輝は怒りを感じていた。
声を張って威嚇するが、大塚はニヤリと笑って。紫輝に言う。
「雷龍、知ってるぜ。おまえ、剣を合わせた相手を昏倒させるんだろ? でも、俺は。麟義瀬間に次ぐ剣の使い手だ。おまえなど、剣を合わせるまでもなく、ぶった切ってやるぜ」
あぁ、また龍鬼を有効活用できない、おバカちゃんが出現した。
そうだ、こいつは脳みそを使えない人種だった。
頭の悪いやつが、剣術だけで、上の地位につくと、下が迷惑するんですけど。
と、紫輝はげんなりする。
「龍鬼をぶった切ったら、金蓮様がお怒りになるんじゃね?」
わかりやすく、忠告してやったが。
聞く耳持ちゃしない。
「龍鬼が人を襲ったから成敗したと言えば、金蓮様も納得するだろうよ」
なるほど。こういう輩のせいで、なんの咎もない龍鬼が、不当に蔑まれることになったのかもしれないな、と紫輝は考え。
もう、マジで、ふつふつと怒りが燃えたぎってきたよ。
「冤罪をでっちあげるわけか。わっかりました。腐ったクズと話すのは、時間がもったいないってことがな」
紫輝はビシッと、ライラ剣の剣先を大塚に向けた。
「腐った、クズだと? 俺に向かって? 許せんっ」
大塚は剣を抜いて、紫輝に向かってきた。確かに早いし、隙もなく、なかなかの手練れのようだが。
「おまえ、情報不足だぞ。俺は…雷龍だ」
バリリッと、電撃の光が剣先に集まり。紫輝は叫んだ。
「らいかみっ!」
ドンと、紫輝の怒りの波動のような大きな音が鳴り。紫の電光が、大塚に直撃した。
バリバリと感電したかのように男は痙攣し、その場にくずおれる。
「別に、ライラと剣を合わせなくても、生気は吸えるよ? もう、聞こえてないだろうけど」
のほほんとした口調で、紫輝は意識を失った大塚に教えてあげた。
普通なら死んじゃうような派手な感じで倒れ込んだが、大丈夫。普通にライラが生気を吸っただけ。いつもと同じだ。
とにかく、ラスボスを倒したので、いったんライラ剣を背中の鞘にしまい。
大塚の軍服を探って牢のカギを取り出すと、堺の牢の出口を開ける。
「さぁ、帰ろう。堺」
紫輝は笑顔で、堺に手を差し出した。
あなたにおすすめの小説
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。