【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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92 ストライキ、します ①

     ◆ストライキ、します

 地下に降りる扉を守っていた大和が、地上に出てきた紫輝に言った。
「ここからは、俺が、紫輝様をお守りします。どうぞ、こちらに」

 千夜は身をひそめ。地下から出てきた紫輝と堺を伴い、大和は先頭を歩いていく。
 指令本部の廊下には、騒ぎを聞きつけた左の兵が大勢いたが。最強の龍鬼である堺や、触ると意識を失うという噂の紫輝を相手に、手も足も出ないようで。

 三人は廊下の真ん中を堂々と歩いて、突き当りの、大将の執務室に何事もなく到着したのだ。

 一応、ノックはしたけど、紫輝は無遠慮に、執務室の扉を開けた。
「お待たせ、青桐。堺を連れてきたよ」
 笑顔で紫輝が言うと、青桐は蒼白の顔つきながら、小走りに堺に駆け寄ってくる。
 堺も紫輝から手を離し、青桐に向かって両手を伸ばした。
 手と手を重ねたふたりはヒシと抱き合う。

「堺、無事か?」
「青桐様。申し訳ありませんでした」
 熱いふたりを横目に。
 はは、己の存在はどこへ? と紫輝は思う。
 ま、安否を確かめ合う恋人の邪魔などいたしませんよ。

「なぜ、堺がここにいる? 青桐、堺から離れるのだっ」
 ヒステリックに金蓮が叫ぶが。
 青桐は、堺の肩を抱いたまま離れない。
 ですよねぇ?

「兄上、何度も言っていますが、堺に非はない。俺は堺がなんで投獄されたのか、いまだ理解できません」
 青桐はそういう方向で談判していたようだ。
 なるほど、少しは考えているんだな?
 いきなり、嫁だ、伴侶だ、と言わないで、堺の救出を優先していたのなら、賢いやり方だ。
 高貴な血筋の方は、頭に血がのぼると、すぐに剣を振り上げるからな。

「なんか、で堺が変なところに入れられたみたいだから。俺が連れ出してきたんだ」
 ほがらかに、紫輝が言うのに。燎源が声を荒げた。

「余計なことをしてっ。間違いなどではない。堺は、してはならぬことをしたから、捕縛したのだ。おまえ、警備の兵はどうしたのだ?」
「警備の兵? みんな、寝てるよ。仕事中に寝るなんて、職務怠慢だなぁ。統花様、あとでこっぴどく叱ってくださいね」
 とりあえず、紫輝は可愛らしくにっこりと笑うが。
 一転、ギラリと目を光らせる。

「あと…間違いだということにしておいた方が、後々、良いと思いますけど?」
 一見、無害そうな紫輝が。声を低め、燎源を厳しい目で見やるので。
 燎源も金蓮も、背筋をゾワリとあわ立てた。

 そうしてお偉方をビビらせた後、紫輝はある人物を指差し、怒鳴り上げた。
「おい、貴様。嘘を並べて、金蓮様を前線から本拠地まで無駄足を運ばせるとは、何事だっ! 万死に値するぞ」
 燎源に隠れるようにしてそばにいる、青桐邸の元家令に告げると。
 元家令は、万死という言葉に、ヒェッと肩をすくめるが。
 ここで引けるわけもないので。声を震わせながら、反論する。

「う、う、嘘などではない。その、白い龍鬼が、青桐様を寝台に引きずり込み、将堂の御方を無理矢理犯したのだ。わ、私は、この耳で、確かに聞いたのだっ。ひと晩ではない。毎晩、獣のごとく、貪っていたのだっ。私はあの御方の悲痛なすすり泣きを耳にしたのだ」
 その言葉に、紫輝は青桐を睨みつける。
 己の清楚な親友に、なんてことをっ!

「なんだとっ? おい、毎晩、獣のように堺を貪っているのか? 青桐っ」
「はっ、堺は俺の嫁だぞ。毎晩抱いて、なにが悪い?」
 開き直る青桐に、堺は顔を真っ赤にし。
 室内にいた幸直は、あちゃーと天をあおぎ、巴は残念そうに首を振ったのだった。

「それに、犯すとか、人聞きが悪い。ちゃんと同意を得ているし。獣のごとく貪って…はいるかもしれないが、泣かしたことはないぞ。たまに目を潤ませるが、あれは歓喜の嬌声というやつで…」
「あ、青桐様、どうか、その辺で…」

 いつも白皙はくせきの美しい顔を、この上なく赤くして。
 堺は青桐の赤裸々せきららな言葉を止めたのだ。

「青桐、おまえ、堺を抱いたと言うのか?」
 驚愕した声と面持ちで、金蓮は青桐に問いただす。
 でも、青桐は。堺が牢獄から出てきたので、もう怖いものはなかった。
 今度こそ、堺を命を懸けて守り切る。
 堺を己のものだと主張する。許されないのなら、もう、ふたりで逃げて、穏やかな地で暮らしたっていいのだ。
 つか、誰にも、自分たちを咎めるいわれはない。

「あぁ、そうだ。だから、そいつの言っていることは、全部嘘だ。俺は誰にも犯されたりしていないし、同意なので、傷害にも当たらない。紫輝の言うとおり、堺の投獄は間違いってことでいいな?」
「馬鹿なっ。将堂の者が龍鬼と関係を持つなど、許されないのだっ」

「そこだっ!」
 金蓮の決定的な言葉に、紫輝は文字通り指を突きつけ指摘した。

「我らは、翼がないだけの、ただの人だ。その我らを不当に貶める、その行い、言動を、将堂の当主自ら、改めてもらいたい」
 堂々と、紫輝は言い放つ。
 この話をブッ込みたくて、機会を狙っていたのだ。

 だが金蓮は鼻で笑い、反論する。
「はっ、龍鬼は、ただの人ではない。能力があるではないか。人などではない、異質の化け物だ」
「それは、翼のない我らをあわれむ神様が、我らにさずけてくれた、ありがたい能力です」

 神様はスピリチュアルすぎて、わかりにくいかな、と思い。
 紫輝は言い直した。

「貴方方には翼がある、空を飛べる。でも俺たちはずっと地べたにいるしかないから、生きるための能力が備わっているだけなのだ」
「その能力が、我らには脅威なのだ」

「金蓮様は、いったい、我らのなにを脅威に感じているんだ? 俺たちの能力に、殺傷力はないんだぞ。俺は眠らせるだけだし、堺は精神を操ったって誰も死にゃしないし、廣伊だって、緑を生やすだけだ。剣を振りかざす、有翼人種の方がよっぽど怖いし、殺傷しているんですけどぉ?」

 紫輝の問いに、金蓮は答えられず、奥歯を噛むが。
 そこに燎源が声を出した。

「藤王は、人を殺せる。炎を操るからな」
「えぇ? ここにいない人のことを言われてもなぁ…」
 と言いながら、紫輝は足音もなく金蓮に近づいて行き。
 グンと近づいて、耳元に囁く。

「じゃあ、なんで藤王はあのとき、能力を使って金蓮様を殺さなかったと思う?」
 その言葉は、金蓮にだけ届き。
 金蓮は目をみはる。

 藤王が金蓮暗殺のとき、能力を使わなかったのは。
 ライラの呪いに縛られ、使用不可能だったからだが。

 この囁きは、金蓮に希望をもたらすのだ。
 藤王はやはり、己を殺す気はなかったのだと。

「貴様、金蓮様に触るな」
 目くじらを立てた燎源が、紫輝を金蓮から引き剥がそうと、手を出すが。
 紫輝は殴られる前に、サッと身をかわす。

「よせ、燎源。大事ない」
「そうだよ、統花様。俺は味方だよ? 上官に手を出すわけない」
 両手を上げて、降参のポーズをとるが。紫輝は燎源を、挑発的に見やる。

「でも、藤王は生きてるか死んでいるかわからないんでしょ? だったら俺には検証しようがないな。だって、藤王は火を出せるかもしれないが、人を焼死させるほどの火力があるかどうか、わからないしなぁ。統花様は、藤王が能力で人を殺したところ、見たことがあるのか?」
「いや、ないが」

 そうだと思い、紫輝はニヤリとする。
 堺も言っていたが、大概の龍鬼は能力を出すのに、それなりに集中を要する。
 能力で対峙するより、剣を振る方が早いのだ。
 だから藤王もそうだと思った。

 紫輝の昏倒させる能力は、ライラのものなので、紫輝は対象外である。
「では、龍鬼の能力は脅威ではない、ってことで。そこまでは、よろしいですか?」

 授業のように告げて、紫輝は微笑み。話を続けた。

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