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96 騎士に任じてくれ ★
◆騎士に任じてくれ
青桐は堺と、心を通わせ、体もつなげた。
衣服をすべて脱いだ堺は、その白い背中を、惜しげなく青桐にさらして見せる。
うつ伏せで、寝台に膝をついて、腰を上げた状態だ。
すでに後孔に、青桐は剛直を挿入していて。膝立ちで堺を攻めていた。
挿入まで至る情交は、まだ、両手で数えるほどだが。
体をつなげる刺激を知ったばかり堺の体は、素直に快楽を受け入れている。
最初こそ、キスも情交も、その言葉にさえ恥じらいを見せていたけれど。
青桐からもたらされる、めくるめく愉悦を、ふたりきりのときに拒むことなど、ない。
「ん、ん、あ、青桐さまぁ…」
後ろから突き入れるたびに、桜色の唇から艶やかな声が漏れる。
振り返ってこちらを見る、薄青の瞳が、濡れて、色っぽかった。
白い髪を横に流し、背中をあらわにしているのは。青桐が、その敏感な背中を楽しむためだ。
ゆるりと腰を揺らめかせながら、青桐は堺の肩甲骨の辺りに唇を寄せる。張り出した骨を舐めれば、堺は背筋をそらして、善がった。
「堺に羽があったら、ここから、真っ白な翼が生えていたのだな? 堺に羽が生えていたら、この年齢まで独り身でいないだろう。この綺麗な人が、嫁になってくれたなんて…俺は本当に、幸運な男だ」
なめらかな肌を舐めて、堪能していたが。
堺が無言で、青桐は首を傾げる。
いつもなら、そのような…とか。あり得ませんとか。己の目がおかしい的なことを言ってくるのだが。
不思議に思い、堺の顔を見ると。なにやら頬を染めていた。
「あの…鏡というか。自分の姿を、ライラさんに見せてもらったのです。このように、兄に酷似した顔をしていたとは思わず。綺麗と言われて、否定をしたら。兄のことも、けなす感じになってしまいますから。なにも申せません」
ライラさんに見せてもらった、というのは。青桐にはよくわからなかったが。
あの生き物は、存在自体がよくわからないので。そうなのかと納得するしかない。
なにはともあれ。
堺は、自分が美人さんだということを知ったのだ。
「…だろう? 堺は美しいんだ。氷の妖精のように、雪の結晶のように、綺麗で気高く。顎の線がすっきりとしていて、鼻筋が通っていて、薄めの唇は白皙の顔に彩りを添え…」
「や、やめてください。恥ずかしくて、心臓が壊れてしまいます」
鋭敏な背骨の線を、舌で舐め濡らしながら青桐が告げていくと、堺は降参した。
今まで気にしたことのなかった、化け物だと思っていた、容姿が。青桐を魅了するものだったと自覚し。
堺は混乱の極みだった。気持ちがついてこない。
「あぁ、この白い背中も。まるで足跡のない雪原のようだ。目にまぶしく。俺がこの雪原に、跡をつけてもいい?」
青桐が背中に吸いつき、チクリと感じる。
でもその些細な痛みが、堺の胸を、なぜだかキュンとさせる。
「堺の背中に、情痕がついた。雪原の上に、赤い花びらが散ったみたいで。綺麗だよ」
「それは、青桐様だけがつけられる跡なのですね?」
「そうだよ。俺の刻印だから」
青桐に所有される感覚が、堺の心を満たす。
もっと、貴方のものにしてください。そんな気にさせた。
「あの、青桐様」
堺は青桐を振り返って、情欲に潤む魅惑の瞳でみつめた。
「青桐様に、背中を愛でてもらうのは、とても気持ちが良いのですが。私は青桐様と正面から抱き合いたいのです。いけませんか?」
珍しい堺のおねだりに、青桐は興奮してしまった。
顔や態度には出さないが。すごくたぎったので、剛直がギンと張り詰める。
その感覚に、堺が、あぁと、感じ入るのを目にし。
さらに、高まってしまう。
「…いや、そうして、してほしいことは、全部教えて? それが、ふたりで探り合いながら、極めていく、第一歩だからな。堺の願いは、なんでも叶えてやる」
「は、あぁぁ、あ…ん」
香油にまみれた剛直は、堺の中からぬるりと抜けるが。その引き抜く合間も、堺は甘いあえぎを漏らした。
存在感のある、熱いモノが失われると。堺は悲しげに眉をしかめる。
大丈夫、すぐ与えてやる。
堺をあおむけにかえして、組み敷くと。膝裏に手を置いて、押し開き。再び堺の蕾に、剛直を当てた。
欲しがるように、ひくつく後孔に、じっくり、先端をもぐり込ませる。
堺は焦れる様子で、腰を揺らめかせた。
「早く、奥までください。青桐様…あ、あ、んぁあ」
内壁がさざめく感覚を楽しみながら、青桐は最奥まで剛直を挿入した。
堺も充分に、中で悦楽を受けているので。青桐のモノを歓喜して迎えてくれる。
甘い締めつけが、青桐を熱望しているようで、愛情をかき立てられた。
「堺っ、可愛い、可愛い、俺の龍。あぁ、愛している。言葉だけではもどかしいほどに…」
大胆なうごめきで剛直を抜き差しすると、ずちゅずちゅと濡れた音が鳴り、ふたりの情熱を燃え上がらせる。
炙られ、火照った熱い体を、互いに引き寄せる。
堺は首に腕を回して、溶け合うように肌を重ね。
青桐は、背に手を回して、荒々しくかき抱く。
「私も…私の主。私は、貴方おひとりのもの。愛しています、青桐様」
ふたり、微笑みを交わし。幸せの中でくちづけ合って。
そして嵐のように激しく求め合い。
狂おしい官能の波に揉まれて…ふたりで高みに駆け上がっていった。
★★★★★
熱く抱き合ったふたりは、荒い息を整え、絶頂の余韻に身を浸らせていた。
情熱の火を燻ぶらせていく、その過程も甘露なものだった。
「青桐様、おそばに行ってもいいですか?」
あおむけに体を投げ出す青桐に、少し身を起こした堺が聞いた。
もちろん、いいに決まってる。
青桐は双眸を細めて承諾すると、腕を堺の首の下に通し、肩を抱いて身を引き寄せた。
堺は青桐の脇に近い、胸の辺りに頭を委ねる。
柔らかい髪が、胸に触れて。くすぐったい。
「以前、紫輝と、恋について話したことがあります。恋愛は、なんとしてもその人を欲しいと思う、欲だと。ときには、腕の中に閉じ込めて、ひとりで食らうような、激烈な感情が湧くのだと」
堺は青桐の胸を指先で撫で、汗に湿った肌の感触を味わう。
「そんな凶暴な気持ちが、私の中に生まれることを、当時は想像すらできなかった。でも、今ならわかります。貴方の、この肌の熱さを、抱き締める力強さを、私以外の誰にも渡したくない」
たおやかで気品があり、道場での手合せでも、苛烈さを表に出さない堺が。このような強い気持ちで、己を想ってくれるなんて。
青桐は、ジンと胸が熱くなる。
本当に、自分は堺と想い合っているのだなと、しみじみ感じた。
「正真正銘、俺は堺だけのものだよ。肌を合わせたのも、俺の激しさを知るのも、堺だけだ」
「初めて…というのは。驚きました。だって青桐様が触れると、いつでも、なんでも、気持ち良いだけなので」
すぅっと、息を吸いこむ気配がして。堺が匂いを嗅いでいるのだと知った。
「…汗臭いか?」
ちょっと、心配になってしまう。情事のあとだから、それなりに汗をかいた。
「いいえ、青桐様は、いつも良い匂いがするのです。香水ですか?」
「いや、なにも。さっき堺に使った、香油くらいかな」
「その香りではないのです。でも、ずっと嗅いでいたい気になります」
高い鼻梁を押しつけて、堺は陶酔するみたいな、あどけない顔で微笑した。
ほのぼのとした堺の様子を見ると、青桐は安堵するのだ。
己の腕の中が一番安心する場所なのだと、堺に思ってもらいたい。
「…昔、読んだ本で。名家の姫様が盗賊にさらわれて。そこから逃げ出した姫様が、助けを求めたのは、大きな馬に乗った勇猛果敢な騎士だった。っていう話があって。その姫様、盗賊の元から逃げるくらいだから、お転婆で、戦う姫様なんだけど。いざというときに姫様を守るのは、やっぱり頼れる騎士」
なんの話だろうと、堺は青桐をみつめる。
青桐は、己の腕の中の姫様の頭に、慈愛のキスを贈った。
「剣術では、俺は堺にかなわない。ヨワヨワな騎士だ。堺は、刀を振り上げてくる相手には、鬼強くて。俺のことをしっかりと守ってくれるのだろう。でも、凶器を持たぬ相手には、弱い。今朝、燎源になにも言わずに従ったように。権力を振りかざす者にも、言葉で心を傷つける者にも、従順で。自分が傷つくことを厭わず、俺を守ろうとする」
そのような、健気な堺も愛おしいが。
「でも俺は、堺の心が傷つくのは嫌なんだよ? だから。そういう権威や言葉の刃を振りかざす輩から、俺は堺を守りたい。俺を、堺の心と誇りを守る、騎士に任じてくれないか?」
「青桐様…」
「今のところ、俺には権力がある。力のある何者からも、堺を守ることができる。俺は、この心を傷つけさせない。矜持を踏みつけさせない」
この心、と言ったとき。青桐は堺の心臓の辺りを、指先でくるくるなぞった。
「私を守ってくださるなんて。とても嬉しいです。では、青桐様は、私の心を守る騎士、私は貴方の体を守る騎士、ですね?」
「違う、違う。堺は、俺の体を守る、戦う姫様だよ。長くて美しい髪の、艶やかなお姫様」
青桐は、大きな手のひらで、堺の白い髪を撫でる。透き通るような色味はキラキラ光り、つるつるとした触り心地で、いつだって良い匂いがする。
青桐のお気に入りだ。
「青桐様、姫様と騎士様は、どうなったのですか?」
「もちろん、追いかけてくる盗賊たちを、姫様と騎士はバッタバッタと斬り倒し、姫様は自分の屋敷に無事に帰りついた。褒美に、騎士は姫様との結婚を許され。姫様はひとり娘だったから、騎士はその家の家督を継いで、玉の輿。めでたしめでたしだ」
「良かった。いいお話ですね?」
ふんわりと笑う堺を見ると、青桐も幸せな気持ちになる。
だから、これでいいのだ。
本当は、姫様には許嫁がいて、その人の子供を身ごもって、愛憎渦巻いたり。家督の権利をめぐって叔父と剣戟を交わしたりする。ドロドロの恋愛活劇なのだが。
「姫様と騎士のように、俺たちも、早く結婚の名乗りをあげたいな。そうしたら、昼間のツンも、少しは和らぐ」
昼間のツンと言われ、堺はおろおろしてしまう。
「決して、青桐様をないがしろにしているわけではないのです。ただ、人々に悟られないよう、戒めているだけなのです。想いは心に秘めておく。そうしないと、そばにいることすら叶わなくなるので」
結局、燎源に捕縛されたわけだから。堺の懸念は間違いではなかったわけだ。
「今しばらくは、そのように振舞っていた方が良いと思うのです。金蓮様も、いつか怒りが再燃し、私を討ちにくるかもしれませんし。目立つ行いは控えましょう。なので、青桐様も戒めます」
堺は、戒めると言って、青桐の唇をチュッとひとつ吸った。
「これで、想いを心に秘められます」
照れながらする、小さなキスに。
青桐はゴオッと、邪な炎が立ち昇った。
ほんのり頬を染めて、己の胸元から上目遣いにみつめてくる堺などっ。
愛らしいの極みだっ。
「いやいやいや、それでは秘められない。ダダ漏れる。もっと、しっかり封じてくれないと。俺の堺への想いは、どくどくと、あふれてくるから」
「もっと、しっかり、ですか?」
前に垂れてくる髪を、指先で耳に引っかけ、堺は青桐に、今度はしっかりと、くっつけるキスをした。
でも、恥ずかしいのか。深いくちづけまではしてこない。
「ふふっ、ダメダメ、もっと。昼間、俺が想いを秘めてもいいって思えるくらいに、封じて。戒めて」
唇をくっつけたまま。堺と青桐は寝台の中で、いけません、とか、駄目です、とか、言いながら。クスクスと笑いながら。
戒めという名のキスを、何度も交わし合った。
★★★★★
翌日、青桐の屋敷への引っ越しは、無事に完了し。
紫輝が指示した声明も、一言一句たがわず出された。
金蓮は、たかが紙切れに書かれたことに、大した影響力もないと思っているのだろうが。
各部署に出されたその声明は、当主の厳命として、ゆるやかにではあるが浸透していくことになる。
終戦への道は、確実に進んでいったのだ。
青桐は堺と、心を通わせ、体もつなげた。
衣服をすべて脱いだ堺は、その白い背中を、惜しげなく青桐にさらして見せる。
うつ伏せで、寝台に膝をついて、腰を上げた状態だ。
すでに後孔に、青桐は剛直を挿入していて。膝立ちで堺を攻めていた。
挿入まで至る情交は、まだ、両手で数えるほどだが。
体をつなげる刺激を知ったばかり堺の体は、素直に快楽を受け入れている。
最初こそ、キスも情交も、その言葉にさえ恥じらいを見せていたけれど。
青桐からもたらされる、めくるめく愉悦を、ふたりきりのときに拒むことなど、ない。
「ん、ん、あ、青桐さまぁ…」
後ろから突き入れるたびに、桜色の唇から艶やかな声が漏れる。
振り返ってこちらを見る、薄青の瞳が、濡れて、色っぽかった。
白い髪を横に流し、背中をあらわにしているのは。青桐が、その敏感な背中を楽しむためだ。
ゆるりと腰を揺らめかせながら、青桐は堺の肩甲骨の辺りに唇を寄せる。張り出した骨を舐めれば、堺は背筋をそらして、善がった。
「堺に羽があったら、ここから、真っ白な翼が生えていたのだな? 堺に羽が生えていたら、この年齢まで独り身でいないだろう。この綺麗な人が、嫁になってくれたなんて…俺は本当に、幸運な男だ」
なめらかな肌を舐めて、堪能していたが。
堺が無言で、青桐は首を傾げる。
いつもなら、そのような…とか。あり得ませんとか。己の目がおかしい的なことを言ってくるのだが。
不思議に思い、堺の顔を見ると。なにやら頬を染めていた。
「あの…鏡というか。自分の姿を、ライラさんに見せてもらったのです。このように、兄に酷似した顔をしていたとは思わず。綺麗と言われて、否定をしたら。兄のことも、けなす感じになってしまいますから。なにも申せません」
ライラさんに見せてもらった、というのは。青桐にはよくわからなかったが。
あの生き物は、存在自体がよくわからないので。そうなのかと納得するしかない。
なにはともあれ。
堺は、自分が美人さんだということを知ったのだ。
「…だろう? 堺は美しいんだ。氷の妖精のように、雪の結晶のように、綺麗で気高く。顎の線がすっきりとしていて、鼻筋が通っていて、薄めの唇は白皙の顔に彩りを添え…」
「や、やめてください。恥ずかしくて、心臓が壊れてしまいます」
鋭敏な背骨の線を、舌で舐め濡らしながら青桐が告げていくと、堺は降参した。
今まで気にしたことのなかった、化け物だと思っていた、容姿が。青桐を魅了するものだったと自覚し。
堺は混乱の極みだった。気持ちがついてこない。
「あぁ、この白い背中も。まるで足跡のない雪原のようだ。目にまぶしく。俺がこの雪原に、跡をつけてもいい?」
青桐が背中に吸いつき、チクリと感じる。
でもその些細な痛みが、堺の胸を、なぜだかキュンとさせる。
「堺の背中に、情痕がついた。雪原の上に、赤い花びらが散ったみたいで。綺麗だよ」
「それは、青桐様だけがつけられる跡なのですね?」
「そうだよ。俺の刻印だから」
青桐に所有される感覚が、堺の心を満たす。
もっと、貴方のものにしてください。そんな気にさせた。
「あの、青桐様」
堺は青桐を振り返って、情欲に潤む魅惑の瞳でみつめた。
「青桐様に、背中を愛でてもらうのは、とても気持ちが良いのですが。私は青桐様と正面から抱き合いたいのです。いけませんか?」
珍しい堺のおねだりに、青桐は興奮してしまった。
顔や態度には出さないが。すごくたぎったので、剛直がギンと張り詰める。
その感覚に、堺が、あぁと、感じ入るのを目にし。
さらに、高まってしまう。
「…いや、そうして、してほしいことは、全部教えて? それが、ふたりで探り合いながら、極めていく、第一歩だからな。堺の願いは、なんでも叶えてやる」
「は、あぁぁ、あ…ん」
香油にまみれた剛直は、堺の中からぬるりと抜けるが。その引き抜く合間も、堺は甘いあえぎを漏らした。
存在感のある、熱いモノが失われると。堺は悲しげに眉をしかめる。
大丈夫、すぐ与えてやる。
堺をあおむけにかえして、組み敷くと。膝裏に手を置いて、押し開き。再び堺の蕾に、剛直を当てた。
欲しがるように、ひくつく後孔に、じっくり、先端をもぐり込ませる。
堺は焦れる様子で、腰を揺らめかせた。
「早く、奥までください。青桐様…あ、あ、んぁあ」
内壁がさざめく感覚を楽しみながら、青桐は最奥まで剛直を挿入した。
堺も充分に、中で悦楽を受けているので。青桐のモノを歓喜して迎えてくれる。
甘い締めつけが、青桐を熱望しているようで、愛情をかき立てられた。
「堺っ、可愛い、可愛い、俺の龍。あぁ、愛している。言葉だけではもどかしいほどに…」
大胆なうごめきで剛直を抜き差しすると、ずちゅずちゅと濡れた音が鳴り、ふたりの情熱を燃え上がらせる。
炙られ、火照った熱い体を、互いに引き寄せる。
堺は首に腕を回して、溶け合うように肌を重ね。
青桐は、背に手を回して、荒々しくかき抱く。
「私も…私の主。私は、貴方おひとりのもの。愛しています、青桐様」
ふたり、微笑みを交わし。幸せの中でくちづけ合って。
そして嵐のように激しく求め合い。
狂おしい官能の波に揉まれて…ふたりで高みに駆け上がっていった。
★★★★★
熱く抱き合ったふたりは、荒い息を整え、絶頂の余韻に身を浸らせていた。
情熱の火を燻ぶらせていく、その過程も甘露なものだった。
「青桐様、おそばに行ってもいいですか?」
あおむけに体を投げ出す青桐に、少し身を起こした堺が聞いた。
もちろん、いいに決まってる。
青桐は双眸を細めて承諾すると、腕を堺の首の下に通し、肩を抱いて身を引き寄せた。
堺は青桐の脇に近い、胸の辺りに頭を委ねる。
柔らかい髪が、胸に触れて。くすぐったい。
「以前、紫輝と、恋について話したことがあります。恋愛は、なんとしてもその人を欲しいと思う、欲だと。ときには、腕の中に閉じ込めて、ひとりで食らうような、激烈な感情が湧くのだと」
堺は青桐の胸を指先で撫で、汗に湿った肌の感触を味わう。
「そんな凶暴な気持ちが、私の中に生まれることを、当時は想像すらできなかった。でも、今ならわかります。貴方の、この肌の熱さを、抱き締める力強さを、私以外の誰にも渡したくない」
たおやかで気品があり、道場での手合せでも、苛烈さを表に出さない堺が。このような強い気持ちで、己を想ってくれるなんて。
青桐は、ジンと胸が熱くなる。
本当に、自分は堺と想い合っているのだなと、しみじみ感じた。
「正真正銘、俺は堺だけのものだよ。肌を合わせたのも、俺の激しさを知るのも、堺だけだ」
「初めて…というのは。驚きました。だって青桐様が触れると、いつでも、なんでも、気持ち良いだけなので」
すぅっと、息を吸いこむ気配がして。堺が匂いを嗅いでいるのだと知った。
「…汗臭いか?」
ちょっと、心配になってしまう。情事のあとだから、それなりに汗をかいた。
「いいえ、青桐様は、いつも良い匂いがするのです。香水ですか?」
「いや、なにも。さっき堺に使った、香油くらいかな」
「その香りではないのです。でも、ずっと嗅いでいたい気になります」
高い鼻梁を押しつけて、堺は陶酔するみたいな、あどけない顔で微笑した。
ほのぼのとした堺の様子を見ると、青桐は安堵するのだ。
己の腕の中が一番安心する場所なのだと、堺に思ってもらいたい。
「…昔、読んだ本で。名家の姫様が盗賊にさらわれて。そこから逃げ出した姫様が、助けを求めたのは、大きな馬に乗った勇猛果敢な騎士だった。っていう話があって。その姫様、盗賊の元から逃げるくらいだから、お転婆で、戦う姫様なんだけど。いざというときに姫様を守るのは、やっぱり頼れる騎士」
なんの話だろうと、堺は青桐をみつめる。
青桐は、己の腕の中の姫様の頭に、慈愛のキスを贈った。
「剣術では、俺は堺にかなわない。ヨワヨワな騎士だ。堺は、刀を振り上げてくる相手には、鬼強くて。俺のことをしっかりと守ってくれるのだろう。でも、凶器を持たぬ相手には、弱い。今朝、燎源になにも言わずに従ったように。権力を振りかざす者にも、言葉で心を傷つける者にも、従順で。自分が傷つくことを厭わず、俺を守ろうとする」
そのような、健気な堺も愛おしいが。
「でも俺は、堺の心が傷つくのは嫌なんだよ? だから。そういう権威や言葉の刃を振りかざす輩から、俺は堺を守りたい。俺を、堺の心と誇りを守る、騎士に任じてくれないか?」
「青桐様…」
「今のところ、俺には権力がある。力のある何者からも、堺を守ることができる。俺は、この心を傷つけさせない。矜持を踏みつけさせない」
この心、と言ったとき。青桐は堺の心臓の辺りを、指先でくるくるなぞった。
「私を守ってくださるなんて。とても嬉しいです。では、青桐様は、私の心を守る騎士、私は貴方の体を守る騎士、ですね?」
「違う、違う。堺は、俺の体を守る、戦う姫様だよ。長くて美しい髪の、艶やかなお姫様」
青桐は、大きな手のひらで、堺の白い髪を撫でる。透き通るような色味はキラキラ光り、つるつるとした触り心地で、いつだって良い匂いがする。
青桐のお気に入りだ。
「青桐様、姫様と騎士様は、どうなったのですか?」
「もちろん、追いかけてくる盗賊たちを、姫様と騎士はバッタバッタと斬り倒し、姫様は自分の屋敷に無事に帰りついた。褒美に、騎士は姫様との結婚を許され。姫様はひとり娘だったから、騎士はその家の家督を継いで、玉の輿。めでたしめでたしだ」
「良かった。いいお話ですね?」
ふんわりと笑う堺を見ると、青桐も幸せな気持ちになる。
だから、これでいいのだ。
本当は、姫様には許嫁がいて、その人の子供を身ごもって、愛憎渦巻いたり。家督の権利をめぐって叔父と剣戟を交わしたりする。ドロドロの恋愛活劇なのだが。
「姫様と騎士のように、俺たちも、早く結婚の名乗りをあげたいな。そうしたら、昼間のツンも、少しは和らぐ」
昼間のツンと言われ、堺はおろおろしてしまう。
「決して、青桐様をないがしろにしているわけではないのです。ただ、人々に悟られないよう、戒めているだけなのです。想いは心に秘めておく。そうしないと、そばにいることすら叶わなくなるので」
結局、燎源に捕縛されたわけだから。堺の懸念は間違いではなかったわけだ。
「今しばらくは、そのように振舞っていた方が良いと思うのです。金蓮様も、いつか怒りが再燃し、私を討ちにくるかもしれませんし。目立つ行いは控えましょう。なので、青桐様も戒めます」
堺は、戒めると言って、青桐の唇をチュッとひとつ吸った。
「これで、想いを心に秘められます」
照れながらする、小さなキスに。
青桐はゴオッと、邪な炎が立ち昇った。
ほんのり頬を染めて、己の胸元から上目遣いにみつめてくる堺などっ。
愛らしいの極みだっ。
「いやいやいや、それでは秘められない。ダダ漏れる。もっと、しっかり封じてくれないと。俺の堺への想いは、どくどくと、あふれてくるから」
「もっと、しっかり、ですか?」
前に垂れてくる髪を、指先で耳に引っかけ、堺は青桐に、今度はしっかりと、くっつけるキスをした。
でも、恥ずかしいのか。深いくちづけまではしてこない。
「ふふっ、ダメダメ、もっと。昼間、俺が想いを秘めてもいいって思えるくらいに、封じて。戒めて」
唇をくっつけたまま。堺と青桐は寝台の中で、いけません、とか、駄目です、とか、言いながら。クスクスと笑いながら。
戒めという名のキスを、何度も交わし合った。
★★★★★
翌日、青桐の屋敷への引っ越しは、無事に完了し。
紫輝が指示した声明も、一言一句たがわず出された。
金蓮は、たかが紙切れに書かれたことに、大した影響力もないと思っているのだろうが。
各部署に出されたその声明は、当主の厳命として、ゆるやかにではあるが浸透していくことになる。
終戦への道は、確実に進んでいったのだ。
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パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
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突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
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