【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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102 馬鹿げてる

     ◆馬鹿げてる

 話を引き延ばすだけ引き延ばし、明け方近くまで銀杏と会話した結果。
 次の日の出発時間は、太陽がてっぺん近くまで上った頃だった。
 手裏基成に戻ると宣言した巴は、朝ご飯をしっかり要求した。

「僕は戻ると決めたのだから、君たちに、ちゃんとついて行くつもりだよ。だが、昨日は、昼と夜の食事が抜きだった。同じ歩調で歩くためにも、食事は三食きっちり出してもらいたいものだ」
「本当に、ちゃきちゃき歩いてくれるんでしょうね?」
 あくびをしながら、銀杏は巴に聞く。まだ眠そうだな。
「あぁ、同じ歩調で歩くよ」
 ちゃきちゃきかどうかは知らないが。
 どうせ、今日の足が重いのは、銀杏だ。巴は銀杏の歩調に合わせてやるつもりだった。

 そうして。まだ油断はできないと、縄で縛られているものの。後ろ手ではなく、手を前で縛られ。食べやすくなったし、歩きやすくもなった。
 しかし、今日中に奥多摩は抜けてしまうだろうかと、巴はひやひやしていた。
 でもお供の者が道を間違えたり、出発が遅かったことも響いて。結局まだ、奥多摩の山の中だった。

「もう、なんで山を抜けられないのっ? 将堂の領地なんか、一刻も早く出たいのに」
 大柄の男が、姫をなだめている間。小柄な男の方は黙々と火をおこしたり、天幕を作ったりしている。
 手際が良い。

「なにか、手伝いましょうか?」
 聞くと、小柄な男、島田は巴を見やり。
「じゃあ、焚き木を拾ってきてくれ」
 そう言って、巴のマントの内側にある小物入れに、短剣を差し込んだ。
 幸直とともに捕まったとき、帯剣していた剣も、短剣も隠し武器も、全部取られてしまったのだが。それはそのうちのひとつだった。

 そして、彼は味方のようだと感じた。
 なんでかはわからないけど。きっと、彼も。あの銀杏が、当主になったらヤバいと思っている口なのだろう。

 焚き木を拾いに、巴は森へ入っていく。
 しかし、どういうつもりなのかな? 今、逃げようとしたら、島田に捕まりそうだな。あの人、足が速かったし。雰囲気に隙がないし。夜の森は怖いし。

 いろいろ考えた末、巴はすぐに行動には移さず、おとなしく焚き木を拾って戻ることにした。
 短剣は、もっと好機なときに有効活用しよう。

 手首が縛られているが、その腕の間に持てるだけの枯れ枝を持って、焚火のところに帰る。
 島田は、少し驚いた。このまま逃げると思ったのかな。でも、それは今じゃない。
 それは島田にもわかっているようで。口の端でニヤリとした。
 ん? 試されたか。まぁいい。

 野営の支度が整い、焚火の前で、夜食を食べる。
 今日も、キンと冷えた空気が身に染みる。

 干し肉を食べながら、巴は昨夜のことを思い出していた。
 銀杏はなにやら、手裏の最高機密をベラベラ喋ってくれたわけだが。手裏基成が三人体制で、みたいなことや。今は安曇がひとりで基成を引き受けていることなどだが。

 それはともかく。
 彼女が言いたいのは。イケメンふたりに、今までチヤホヤされていたのに。
 基成であった安曇と、将堂の血脈である自分が結婚して、将堂と手裏を牛耳ってしまいましょうと提案したら、なんでか安曇に怒られて。
 基成の三人体制から、いきなり自分を放り出した。
 銀杏は手裏の家督を継ぐつもりだったのに、幹部の前で女性だと言ってしまったことで、それもなくなって。
 超ご立腹。的な。

 聞けば聞くほど、おバカで、頭が痛くなる話だった。
 恋愛のもつれ…というより。銀杏のひとり空回りで。
 自分らの命が危機とか。マジでやめてほしい。迷惑な話だ。

 つか、紫輝には。
 安曇が弟で、基成で、伴侶だって聞いていた。
 深入りしたくなくて、頭の片隅に追いやっていた情報だが。
 つまり安曇は、紫輝に惚れ込んでいる。のだろう?
 銀杏が横入りする余地、なくね?
 紫輝は、あんな、あどけない顔していて。頭の回転は速いし。
 この前の堺の事件で、金蓮をやり込めたあの手腕は、目が覚めるほどの策士ぶりだった。
 右軍参謀の地位に相応しいと、巴も納得したくらいだ。
 ま、まだまだ専門知識は足りないが。

 それよりも。
 銀杏の、この頭の悪さでは、賢龍けんりゅうは荷が重いって。
 将堂の血脈という切り札があっても、無理だって。
 早く気づいた方がいいよ。

 というわけで、今夜も巴は銀杏の説得、という名の安眠妨害をし始めるのだった。
「せっかく、手裏の当主などという、面倒な役割を放棄できたのだから。安曇のことなんか忘れて、己の幸せを追求する方が、よっぽど建設的ではないか?」
 銀杏が天幕に戻る瞬間に、巴は声をかける。

「なによ、またそこに話が戻るの? ウザいわね。私の幸せが、安曇の失脚なのよっ。大勢の人の前で、私との結婚は受け入れないって言われたのよ? 漆黒の手裏の翼を守るって。私のこの翼まで、否定した! 絶対許さないわっ」
 無視すればいいのに、いちいち反応してくるのが、頭の悪い証拠と言える。
 昨日の反省を生かして、今日はなんとしても、彼女は早寝をするべきなのだ。
 そういう反省の日々の積み重ねが、人を大きく成長させる。と思うのだが。

 少なくとも巴は、昨日と同じ失敗をする気はない。
 でも銀杏は、昨日と同じ失敗を、息を吸うかのごとく、自然に繰り返すのだった。

「たかが、ひとりの男の不幸せを願うだけで、こんな労力を使うなんて。馬鹿げてる」
「生まれながらに、手裏家当主の座が決まっていた、恵まれたあんたには、わからないのよ。私は、あんたを追い出したあとの六年間、手裏家の当主になることだけを目標に生きてきた。それをいきなり奪われたのよっ。あり得ないでしょ?」

 その割には、当主になったあとのことなど、全く考えていなかったように思うが。
 それは、なんなんだろう。
 地位につくだけで、あとは周りの人がやってくれるとか、思っているのだろうか。

 少なくとも自分は、剣の才能がないという理由で、次期当主の座から転がり落ちたのだが。

 手裏家の当主は、まず、軍を率いていく圧倒的な力を有すること。そして商売の才能が必須だ。
 西側は商業が発達しているので。数字に強く、癖の強い、商人と対等にやり合わなければならず。
 ときには、それを武力で圧倒するのだ。
 つまり、当主自体に力が備わっていないとならない。
 でも銀杏には、どちらもないように見受けられ。これでは手裏一族の承認は得られない。

 ま、それはともかく。
 今は、彼女の幸せの追求、だな。

「そうだよ、僕は恵まれていた。しかし、だからといって。幸せだったかと言えば、それは違う。手裏の中に、僕の居場所はなく、いつも空虚だった。財産が多くても、幸せを感じられない者がいて。貧しくても、己の道を追求できれば幸せな者がいる。姉さんも、金や権力ではなく、本当の幸せを手にできるよう行動するべきだ」

「そんなの、恵まれた者の発言よ。私は十年以上、座敷牢にいたの。嫌い。なにもかも、許さないわ。安曇も、あんたも」
 ギラリと巴のことを睨みつけた銀杏は、天幕に入っていってしまった。
 今夜は。引き止めに失敗したな。

 銀杏は、なにもかも許さないと言う。
 これから利用する巴のことも、睨んで。

 そんな感情的なことでは、己を味方にできないぞ?
 味方になる気は。これっぽっちも、ないけれど。

     ★★★★★

 次の日、銀杏は。夜明けとともに、起き出した。ちっ。

 凍えた空気の中、干し肉で出汁を取った汁物を飲んで、朝食にする。
 体は温まるが、ただ腹を満たすだけの、味気ない食事だ。
 自分に作らせてほしい。手持ちの食材で、もう少し美味しいものが作れる自信がある。

「さぁ、今日こそ、この山を出るわよ。早く前線に合流して、安曇の前に、この男を突き出してやるわ」
 銀杏の言葉に、内心ギョッとして。
 巴はふと、視線を彼女に向ける。

「突き出すって? 僕が基成に戻るって話ではないのか?」
「よく考えたら、前の基成を捕まえたのって、手柄だと思うの。安曇も怒りを解いてくれるかもしれないわ。でも、あいつが謝らなかったら。やっぱりあんたを基成に据えて、安曇を殺すの。良い案だわ」

 それ、全部、己に言っちゃっていいのか? と思いつつ。
 つか、安曇の目の前に基成を差し出したら、問答無用で斬られるんじゃね?
 いやいや、でも安曇は、紫輝とともに終戦の方向に動いているのだから、そんな無体はしないかも。

 でも、基成が邪魔になるとなったら、やっぱり斬るか。

 巴は、銀杏の話を聞いて、本格的に脱出を検討し始めた。
 お供の者が野営の片付けをし、焚火を消した。
 今日も一日、移動するのだろう。
 できれば、箱根につく前に決着をつけたい。そう、大雑把な目標をつけた巴だったが。

 そのとき。ホー、と。フクロウが鳴いた。

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