魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

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おまけ ④ マミはモヤモヤ ②

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 夕食の席で、ぼくとリィファ兄上が父上の子ではないって教えられた。
 がーんとなった、その日の夜。
 母上はぼくと一緒に寝てくれた。ふへ。

 んん、ぼくだけじゃなくてぇ。
 ご説明いたしますとぉ(母上がいつも、言う感じです)リィファ兄上の部屋でぇ、ぼくとリィファと母上が、一緒に寝たのです。
 サーシャが生まれてから。ぼくは母上と一緒に寝られなくなったから。

 嬉しいです。えへ。

 っていうか。ドバベ…カ家の子供は、次期魔王となるべく。子供のうちから自立が求められて。
 じりつぅ…よくわからないけど。ひとりで寝なさーいって。言われて。
 レイン兄上もリィファ兄上も、ひとりで寝ていますって。侍女に言われると。
 なら、ぼくもって。思うのだけど。
 でも、やっぱり。ぼくは母上と一緒に寝たいのです。
 だから理由はなんでもよくて。一緒が、嬉しいです。

 寝台で、白い寝間着の母上を真ん中にして。
 リィファとぼくは、母上の右と左に引っついて、寝る。
 母上は、いい匂い…もちぃぃ。

 リィファ兄上は、チェック柄のパジャマだけど。
 ぼくは母上と同じような、白くて寸胴な寝間着を着て。三角帽のナイトキャップをかぶっています。三角の先の方は、ぼくの髪と同じピンク色のポンポンがついているの。
 はっ、そういえば、これ。マルチェロおじちゃんからのプレゼントだった。

「ふたりとも、よく聞いてね? 母上も父上も、嘘をつきたくないから。本当の父上についてたずねられたら、真実を言うってお約束していたの。でもね? 血脈というのは、家族の間では関係ないことなのです」
「どうしてぇ? 父上と母上のこどもでなかったら、ぼくは魔王のけつみゃくではないのでしょう? かぞくではなくなったのでしょう?」
 リィファ兄上が、悲しげに母上に聞きます。
 えぇ? 家族ではないのぉ? ぼくも? 家族ではないのぉ?

 でも、母上は。首を横に振り。優しく、ぼくと兄上を手で撫でてくれます。

「母上は、魔王の三男でした。でも魔王様の血脈ではなかった。それでも、兄上は。ぼくを大事に大事に育ててくれて。家族にしてくれたのですよ? その兄上というのは。レオンハルト父上のことです。リィファとマミの父上は、とても愛情深い方で。父上は、リィファもマミも大好きです。だから。血脈でなくても、父上の大好きな人は、父上の家族なのです」

 母上のお言葉は、ぼくはよくわからなかったけれど。
「レオンハルト父上のことを、父上だと、思っていていいということですか?」
 リィファ兄上が、そう聞いた。
 ふーん、そういうお話?

「そうですよ。本当の父上が誰かわかったとしても。ぼくたち、家族は。今まで通り、なにも変わらずに家族なの。マミもわかりましたか?」
「…なにもかわらず、かぞく。ですっ」
「そうです。みなさん、賢くて、すごいですねぇ?」
 ぼくは、母上の言葉を繰り返しただけだけど。褒めてもらえたので。たぶん良いことを言ったのでしょう。
 うむ。ぼくは賢い、魔王の三男。
 母上も、魔王の三男だったのですね?
 やはり、魔王の三男は特別なのです。ムフーン。

 はっ?? いやいや? も、もしかしてぼくは、もう魔王の三男ではないのでしょうか?
 大変です。魔王の三男は、特別なのに。
 それにみなさん、ぼくを魔王の三男だと思っているのですよぉ?
 今更違いましたとは、言えませぇんんん。

「母上、ぼくはもう、まおうのさんなんではないのですかっ?」
「マミ? なにも変わらずと言ったでしょう? マミはずっと、魔王の三男ですよ?」
 そう言って、母上はナイトキャップの上から、頭をナデナデテンテンしてくれた。
 そうか。変わらないのでしたね? ほっ。

 安心したら、なんだか眠くなってきました。おやすみなさい。

     ★★★★★

 翌日。父上はいつものように、魔王城へお仕事に行きました。
 母上が言う通り、なにも変わらないいつもの日々です。母上の言うことはいつも正しいですね?
 だけど。なんだか昨日はいろいろ言われて。
 ぽわぁーん、としています。頭グルグルで、もわーんです。
 なんか、考えなきゃいけないような気もしますが。
 なにを考えればいいのか、わかりません。
 ぼくのお気に入りの、緑地に白い水玉模様のカーディガンを。エリンが着せてくれたけど。
 ぼくのお気に入りの、馬車のおもちゃで、お部屋の中で遊ぶけど。
 いつもならそれで、ご機嫌気分になるのに。
 今日はいつまでも頭のモヤモヤは晴れないのです。

 そんな日の昼過ぎ。
 マルチェロおじちゃんとファウストおじちゃんが、たずねてきたのです。

 リィファ兄上は、お庭でファウストおじちゃんと会うのですって。
 ぼくは、エントランスの隣にあるサロンで。マルチェロおじちゃんと会いました。
 
 へぇぇぇぁぁああ? そんな、急に来られても困りますっ。
 ぼくは。どんな顔をしていいのか、わかりません。
 マルチェロおじちゃんは、ぼくのホントの、ち、父上? なんだよね?
 ホントの父上って、なんですかぁ?
 よくわからなくて。笑ったり、への字口にしたり、眉間をムニョムニョさせたりしていたら。
 母上が心配そうに、ぼくを見やります。

「マミ? ぼくがついていようか? マルチェロおじちゃんとお話しできないのなら、今日でなくてもいいんだよ?」
 母上はそう言いましたが。マルチェロおじちゃんは首を振ります。
「大丈夫だよ、サリー。今日は私に、任せてくれるかい?」
 心配そうにしながらも、母上はうなずいて。サロンを出て行きました。

 ちょっと、心細い。
 そう思っていたら。マルチェロおじちゃんは小さく微笑んだ。
「いつも大きな声で、マルチェロおじちゃーんって走って来てくれるのに。今日はおとなしいね?」

 ぼくはソファに座って、モジモジします。
 父上が。マミの本当の父親が誰か、昨日話したよって。マルチェロおじちゃんに言ったのですって。
 それでおじちゃんはすぐに、ぼくの元に来てくれた、みたい。
 母上がそう言いました。
 ファウストおじちゃんも同じ理由で。リィファに会いに来たのです。

 んんっ、なにも知らなかったときのように。ぼくはマルチェロおじちゃんのことを見られません。
 ち、ち、父上?
 お、お、おとしゃま?
 っていうか、本当にマルチェロおじちゃんが、おとしゃまなのですか??

「ぼ、ぼっ、ぼくは。きのうからずっと、モヤモヤです。ぼくはっ、父上にもにていませんが、マルチェロおじちゃんにも、にていないのです。ぼくはほんとうは、すて子なのではないかと。ホントの父上などいないのではないかと。いまも、うたがっておりますっ」

 そうです。ぼくは父上を尊敬していて。
 そんな父上が、ぼくに嘘を言うとは思えませんが。
 それでも。マルチェロおじちゃんの子供だっていうのは。全然、ピンとなりませんっ。
 だってみんな、手足はシューーーっと長いのですもん。
 父上も母上も兄上も、マルチェロおじちゃんだって。目んめぱっちりで、ほっぺはないのですもん。

 それにぃ。マルチェロおじちゃんは。金色の髪がキラキラで。前髪はサラサラってなって。
 絵本の中で、お姫様を迎えに来る王子様みたいなのですもん。
 マミみたいに。ピンクで毛先がクルンってなっていないですもん。
 
 母上が昨夜。家族は変わりないって。言ってくれたから。
 ぼくはなにも変わらないのだと思って。それで、安心はしたけれど。

 でも。ぼくは誰にも似てないの。

 この、もっちりなぼくが。王子様みたいにお顔がキラキラの、び、び、美男子ぃ? の、マルチェロおじちゃんの子なのぉ? またまた、そのようなぁ。
 とても信じられません。そう思っていたら。

 マルチェロおじちゃんがぼくの横に腰かけて。
 ぼくのまぁるい肩を抱いて。優しく言うのだ。
「捨て子? そんなことは、絶対にないよ。だって、っんももの実から出てきたマミを、ぼくはしっかりと抱きしめたのだからね?」
「ぼくがうまれたところを、みたのですか?」
「もちろんだよ。サリー…母上が、小さな小さな卵のマミをっんももに移したところも見たよ。だからマミは。私の子供に間違いないよ?」

 マルチェロおじちゃんは、優しい笑顔でそう言いますが。
 父上はよく『マミや、マルチェロのあの笑顔に騙されるな?』と言いますから。
 ぼくは、だまされませんよぉぉぉ?

「でも、ぼくは。だれにも、にてないの」
 そう言ったら。マルチェロおじちゃんが。プッと。
 昨日の父上と母上のように、笑いを吹き出しました。
 もうっ、なんなん?? ぼくは、グレそうです。

「ごめんごめん、マミ。だってね? マミは。私がはじめて出会った頃のサリーにそっくりなのだもの。だからマミは、母上にとても似ているんだよ?」
 そう言えば昨日、父上も。ぼくが母上の子供時代そのまんまだって、言っていました。
 あの目んめぱっちりの母上が、ホントにぼくに似ているのぉ?
 まだ、信じられませんんん。

「それに…マミは、自分の目んめを見たことがあるかい?」
 マルチェロおじちゃんに、目をやんわり細めてたずねられ。
 ぼくはその、あまりにも綺麗な王子様の笑みに、キュンとしました。
 あ、キュンとしている場合ではなかった。
 目、目んめ? ですか?

「いいえ、ぼくは糸目なので」
 それにぼくは、ぼくの目にあまり興味はありません。

「マミの目んめはね? とても美しいエメラルドグリーン…キラキラの緑色なんだよ?」
「それって、マルチェロおじちゃんのように、キラキラのピカピカの、みどりなのですか?」
「そうだよ? マミの瞳は、私の瞳と同じ色なんだ」

 なんとなんと、ぼくは王子様の目んめと同じ目んめなんだって?? すっごーい。
 ホントかなぁ? あとで確かめてみましょう。
 でしたらワンチャン、ぼくも王子様になれるかもしれませんね?
 あ、調子に乗りました。王子様を夢見るのは、もっちりを卒業してからにします。

「どうだい? 納得できたかい? 私をお父様だと思ってくれるかい?」
 のぞき込まれるようにして、おじちゃんに聞かれます。
 近い、近い。
 ぴかぴか王子様オーラが、ぼくの目にまぶしくうつります。

「おとしゃま、というより、おうじしゃまっ」
「ん? 王子様って言った? 私よりもマミの方が王子様なのに。おかしいね?」
 そう言われて…はっ、そうだ。
 母上が、マルチェロおじちゃんは王子様ではなく公爵だって、言っていましたっ!!
 でも、ぼくは。魔王の三男だから、魔王子? んん、よくわからない。

 でもでも、このような王子様…母上が言うには、公爵らしいけど。
 その王子様に、この、ぼくのようなもっちりな子供がいたら。恥ずかしいんじゃないかしら?

「ま、マルチェロおじちゃんは。ぼくのようなもっちりが子供で。良いのですか?」
 兄上は、ふたりともシュッとしていますし。
 大人の人も、ぼくのようなぽっちゃりは見かけません。
 父上はいっぱい食べろと言うけれど。
 もっちりぽっちゃりが、あまり良くないことは。なんとなくわかっています。
 絵本の王子様も、お姫様も、みんなシュッとして、美人で、御ツノがでかいのです。

 そうしたら、マルチェロおじちゃんは。
 向かい合わせに、ぼくをお膝の上に乗せると。すっごく優しく笑った。

 父上は騙されるなと言いますが。この、笑顔は。
 すっごく、好きぃの笑顔のようです。
 ぼくが鶏モモを見たときの、笑顔ですから。そういうの、わかります。

「小さい頃、私はもっちりしたサリーに恋をしたんだ。もちろんサリーの人柄や、賢さや、愛らしさも好きだけど。だからね? そんなサリーにそっくりなマミのこと。とっても可愛いって思っているよ?」
 真正面から、イケメンおじちゃんにそう言われ。ぼくは、ふわぁぁぁああとなった。

「それに、もっちりな子はいらないなんて。私は絶対に、そんなことは思わない。だってマミは、大事な大事な私の子なのだからね? マミはもっちりでも、やせてても、賢くても、おバカでも、なんでもいいんだよ? 私はありのままのマミが大好きなんだ」
「おじちゃんは、ぼくが好き? ぼくがどんな子でも、好きなの??」
「そうだよ。マミは可愛い可愛い、私のだぁい好きなマミだ」

 そうしてマルチェロおじちゃんは、ぼくをふんわり抱きしめた。
 ぼくのほっぺとおじちゃんのほっぺが、もちぃとくっついて。
 ふふ、気持ちいい柔らかほっぺだねぇ、と。おじちゃんがつぶやいたとき。

 ぼくはっ。なんか、よくわからないけど。
 胸がきゅうぅぅぅぅぅってなって。
 ぼくも、マルチェロおじちゃんが好きぃぃぃって、なったのです。

 でもでも。ぼくはまだ、うなずけません。
 ぼくは、慎重派なのです。

「でも、マルチェロおじちゃんが父上になったら。ぼくは、まおうのさんなんではなくなってしまいます。まおうのさんなんは、とくべつです。母上もまおうのさんなんだったのですから」
 母上が魔王の三男だと知ったのは、夕べですが。
 とにかく、母上はすごいのですから。やはり魔王の三男はすごいのです。

「大丈夫だよ? マミが魔王の三男なのは、変わらないからね? 簡単に言うとね? マミは父上がふたりになるの。父上ふたり、母上ひとり」
「父上が、マルチェロおじちゃんと父上になるのですかぁぁ? すごーい」
 なんか、わからないけど。なにやら豪華な感じがします。
 とにかく、すごーいです。

「なら、ぼくっ。マルチェロおじちゃんが父上で、いいです。そうします」
 ぼくが笑顔でそう言うと。おじちゃんはなにやら、小さなため息をついた。

「良かった。こうして穏便に親子の名乗りができて、私は嬉しいよ。ホント、レオンハルトは急に真実を言った、なんて言うのだから。心臓が止まりそうになったよ。マミに嫌われたらどうしようって思って。この屋敷に来るまで、とってもドキドキしたんだ」
「大人でも、どきどきするの?」
「もちろんだよ? 私はマミに嫌われたら、生きていけないからね?」
「ダメです。生きてぇ」
「その言い方、サリーそっくりだね?」
 ぼくの話を聞いて、マルチェロおじちゃんはクスクス笑った。
 なにが、おかしかったのかしら?

「あぁ、父親と認識されたからには、一緒に住んで、もっと親子の仲を深めたいけれど。子供のうちは母上と過ごしたいだろう? 私は仕事が忙しいから。マミを屋敷にひとりにはできないからね? しばらくは通いになるが。マミにいっぱい会いに来るよ?」
「…んん? マミといっしょにくらせないの? ずっと、ここにいればいいのにぃ」
「…そうだねぇ」
 今まで、とても優しいお顔をしていたマルチェロおじちゃんだが。
 なにやら、ニヤリと笑います。
 あぁぁ、それは、黒い魔力が駄々漏れというやつです。
 父上が、騙されちゃダメって言う、お顔ですぅ。

「マーミ? 私をお父様って、言ってごらん??」
 一瞬で、またマルチェロおじちゃんは優しいお顔に戻りましたが。
 これは、うさんくさいです。
 えっと、悪い感じがまだそこはかとなく残っています。
 それに急に、お、おとしゃまと言うのも。
 すっごく恥ずかしいです。無理です。

 なので。ぼくは。
 おじちゃんの膝の上からヨジヨジ降りて、ソファのひじ掛けのくぼみに頭をツッコんで、まぁるくなります。
 とにかくまぁるくなっていれば、時は過ぎるのです。

「あぁ、マミがまぁるくなっているぅ。マルチェロぉ? お父様呼びはまだ早いです。ゆっくり進めないとダメではないですかぁ」
 母上の声がします。サロンを覗いて様子を見ていたみたいですね?
 でも母上が来ても。ぼくは、まぁるくなります。

「えぇぇ? サリー、マミがソファの三角コーナーにキュッとはまってしまったけど、これはなんなの? 恥じらっているんじゃないのぉ?」
 マルチェロおじちゃんは、新米おとしゃまなので。
 ぼくの恥じらいや、トキメキや、ドキドキや、ソワソワがてっぺんになると丸くなることを知らないのですね? まだまだですね?

「まるっ、ねぇ、サリー。これは丸すぎないかい? 大丈夫なのかい? ソファから緑の毒キノコが生えてるようにしか見えないのだが?」
 マルチェロおじちゃんは、王子様にあるまじきでアワアワしていますが。
 カーディガンの水玉模様が、毒キノコに見えるのですか? 失礼ですねっ。
 でも、なにはともあれ、マミのモヤモヤは。とりあえずモヤモヤではなくなりました。

 父上がふたりになった、というだけのようでした。
 なーんだ。難しいお話かと思ったけど。
 やはり、難しいお話はいつかわかるようになるのですね?
 母上の言ったとおりです。ムフーン。

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