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第3話:漣の歌
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その貝に耳をつけると、美しい波の音と歌声が聴こえる。そして目を閉じれば、白い砂と輝く波の入り江の光景が鮮明に思い浮かんだ。
「貝に耳をつけて波の音を聞く、という遊び、小さい頃にやった事はある?」
イヴフレイアの問いに、楓は首を傾げた。
「……ない、です。古い本やムービーとかで見た事はあるんですけど」
「そう? あれは本来は波の音じゃなくて、貝の隙間を縫って通る風の音を潮騒の音になぞらえる遊びなんだけど……この貝は、ちょっと違うのよ」
フレイアが示すのは楓が次の仕事に選んだものだった。桜色の巻貝で、開いた口の部分はトゲか牙のように幾つか細く張り出している。所々に赤く細い模様がついており、一見すると何の変哲もない、ただの巻貝に見えた。楓の暮らす〝コットンピンク星〟のマリーン地区ではこういった巻貝の飾りや貝殻の実物が土産として売られている。だがこの巻貝は、アルビレオの『出自待ち』の品である。ただの貝である筈がないと解ってはいたが。
「ちょっと違うというと……?」
「実際に、波音が聴こえるの。鮮明な波の音と、それに乗る女性の歌声。そして、これを聞きながら目を閉じると、一つのイメージが思い浮かぶのだけど……実際に、試してみる? 耳にぴったりくっつけなくても、ある程度近ければ大丈夫よ」
フレイアは素手で慎重に巻貝を持ち上げ、楓に差し出して来る。楓は手袋のままそれを受け取り、耳元に近付けてみた。
楓の共感能力は触れなければ大丈夫だ。なので、耳に直接つかないように恐る恐る貝の口を近付けると――……
「あ……本当に……」
ざ、ざざ、と押しては返す波の音が聴こえる。風の音を錯覚したのではない、これは確かに波の音、そのものだった。そして波の音に交じり、美しい女性の歌声が聴こえてきた。
歌詞は解らない。いや、歌詞などないのかもしれない。ラララ、とも、アアア、とも聴こえる、高音の透き通った歌声。それは波の音と同調するように押しては強く高く、引いては遠く儚く、聴く者の胸を不思議とざわつかせる旋律だった。
「じゃあ、目を閉じて」
「…………」
言われたようにそっと瞼を降ろす。すると、楓の脳裏に鮮明に浮かぶものがあった。
晴れた青空、太陽の光を反射して白く輝く波間、美しく光る入り江。どこまでも透き通り果てのない大海原とそれを映すような蒼穹、綿のように膨らむ白い雲が帆船のようにその美しい青に浮かび、ゆっくりと流れている。
人のいない、波音と歌声の響く静かな美しい、まるで絵画のような光景。歌声は海の彼方、空の彼方、そのどこまでも続くような青の中に吸い込まれるように流れていく。風に乗り、波に乗り、雲海の果てへ、更にその先へ、どこまでも渡っていく。
青い海原、心地よく気怠い永遠の午睡、その中に入っていけたら、ずっとそこで微睡んでいられたらと、思わず願ってしまう程の――……。
「何かが見えた?」
フレイアの言葉にはっと楓は目を開いた。思わず空想の風景に夢中になり、我を忘れる所だった。慌てて貝を耳元から離し、楓はフレイアを見る。
「見えました。綺麗な入り江の景色と、歌声が……」
「やっぱり楓ちゃんの目にも同じものが見えるのね」
うんうんと頷き、フレイアはひとまず貝を受け取り箱の中に置く。ここは閉架倉庫の一つで、巻貝はいつものように銀の鍵を磨いて仕舞った後で立ち寄った倉庫にて楓が選んだものだった。
「じゃあ、今日はこれにしましょうか」
巻貝を収めた箱ごと持ち上げてフレイアが言う。
「はい。あの、私が運びます」
「そう? それじゃあお願いね、私は先に行って準備をしてくるから」
「はい」
頷く楓に箱を渡し、フレイアは先に歩いて行った。今日はイタチも第三作業室を数時間使用すると言っていたので、そちらの折り合いも兼ねてだろう。イタチは技師として寄贈品の状態を確認したり汚れを落としたりと保存作業をする事が多いが、楓はこの共感能力で『視る』だけだ。付近でイタチが作業をしていても一人座るスペースさえあれば邪魔にはならないだろう。
この博物館に就職して、幾つかの品の来歴も明かした楓はこの仕事が少し好きになっていた。今でも見知らぬものに触れるのは怖いし、不意に触れるのは抵抗もあるが、ここでは周囲の人のサポートや理解もある。それがどれ程にありがたいのかを、この所の楓は噛み締めていた。
「すみません、失礼します……」
箱を手に第三作業室の扉を開くと、中で細い筆のようなブラシを手にしていたイタチは「おー」と声を上げた。最も顔には口全体を覆うマスクをしていたので、声はややくぐもっていたが。
「あの、イタチさんの邪魔にならないようにしますので、よろしくお願いします」
「いやいやこっちこそ、この部屋は楓ちゃんの作業所ってことで用意したってのに、押しかけて悪いな。これの砂落としさえ終わったら出てくから、ちょい待っててくれ」
偶然にもイタチは新しく寄贈された品の、貝殻類の作業をしているようだった。
ひとまずテーブルの上に箱を置き、中の巻貝を取り出すと微かにあの歌が聴こえた気がした。イタチもそう感じたようで、ふと手を止めてテーブルの方に顔を向ける。そして納得したように頷いた。
「ああ、今回はそれか」
「はい」
「偶然だなー、丁度この貝殻と近い地区から寄贈されたやつだよ、それ」
「そうなんですか。あの、その地域の名前を教えて頂けませんか?」
何かのヒントになるかもしれない、と思い訊ねた楓に、イタチは笑いながら頷く。
「ディランドゥーア国のセント・ポーケイア湾だな。見つかった経緯なんかもリストに纏めてあるから、詳しくはそっち見てくれ」
「あっ、はい」
そういえば分類表のリストを見ればそういった事は既に記載されているのだった。余計な手間をさせてしまったと焦ってバンドデバイスを起動させる楓に、イタチは手にしたブラシを軽く振りながら「でもな」と続ける。
「余り『それ』に耳を傾けすぎないようにな。危ないから」
「……えっ?」
「まーその辺は、フレイアさんが説明してくれるだろ」
驚き顔を上げた楓にイタチはそのまま作業を再開した。すぐ直後に扉が開き、フレイアが何か薄くて四角いものを抱えて入って来る。
「後ろ通るわよー」
「どーぞー」
呑気にやり取りをしつつ、抱えたものに当たらないよう調整しながらフレイアがイタチの後ろを通って楓の前に歩いて来た。フレイアの抱えていたものは白い布に包まれており、彼女はそれをテーブルの上に置くと布をそっと取り上げる。
包まれていたのは一枚の絵画で、油絵のようだ。木の板にキャンバスを貼り付けた、古来からの美術形式である。しかし楓が驚いたのは、そこに描かれた景色だった。
「これ、あの貝の……」
「うん。同じものを見た?」
「見ました。これと、同じ光景を……」
キャンバスに描かれていたのは、青の美しい海と白い浜辺、そして突き抜ける程の美しい青空。それは、海の色も波の高さも浜辺の砂の色も、そして空の色も雲の形に至るまで、先刻巻貝の音を聴いて幻想した光景、そのものだったのだ。
「――この貝はね、歌声を聴いた人すべてに、同じ光景を見せるらしいの」
フレイアがそう言い、絵画と巻貝とを交互に見た。楓は途中だったバンドデバイスのリストの続きに急いで目をやる。
……分類MT-247。ディランドゥーア国のセント・ポーケイア湾で発見。夏の終わり、台風の過ぎ去った後の浜辺にて打ち上げられていた。これに耳を寄せると波の音と共に女性の歌声が聴こえる。歌に歌詞は無く、ハミング、コーラスのみである。また、この歌を耳にした者には共通したある光景が喚起されるという特質を持つ。現在この喚起される場所は特定されておらず、捜索中。なお、聾唖者にはこの喚起効果はなく、あくまで歌を聴き取る事が可能な者に限られる。また、この歌を何度も聴くと喚起される光景に対し執着心のようなものが芽生える効果が確認されているので、取り扱いには要注意。
「……執着心?」
最後の一行の要注意の項目に思わず声を上げると、フレイアが困ったように頷いた。
「そうなのよ。――誰が聴いてもこの『光景』が思い浮かぶっていう性質に気付いた後で、この『光景』をより具体的にするために画家の人に協力して貰ったの。これがその方の描かれた絵画なのだけど……完成した、って報告と一緒に絵の写真が証明として送られて来たから、私達は事前に契約していた通りに絵画の所有権譲渡のための手続きと貝殻の返還をお願いしたのよ。こちらにその二品が届いたら報酬を振り込むという形でね。――でも、実際にこの絵画と貝殻が来たのは二か月後、それも副館長が強制返還願いで向こうに乗り込んで行ってやっと、だったの」
「…………」
「その画家のセンセーは絵を描くために日夜歌を聴いていたらしくてな」
小さな貝殻の砂落としをして表と裏を見返しながらイタチがぼやくように続ける。マスク越しの口がもごもごと動いていた。
「その内に、この景色の虜になっちまったんだ。楓ちゃんも見たなら解るだろ? 綺麗な景色で、あの中に入りたい、あそこに行きたいと感じなかったか?」
「それは……はい、そう、思いました」
実際にフレイアに声を掛けられるまで、楓はあの光景に夢中になっていた。楓の答えにイタチは溜息をつく。
「俺も同じことを思ったよ。ここの職員は、白靴下を除いて全員そう思った」
「……電話番さんは、違ったんですか?」
どうやらあの黒猫はそうは思わなかったらしい。楓の問いにイタチは可笑しそうに目を細めた。
「あそこには館長がいないから、だってさ。あと、誰からも通信のなさそうな世界なんて退屈すぎてつまらない、だと」
「…………」
「電話番は館長が大好きだからねぇ」
フレイアも小さく笑い、それで楓もやっとでその可能性に思い至った。そうだ、あの景色は美しく静かだが――誰もいないのだ。ヒトや動物どころか、海鳥も、魚の影も、何もなかった。……だからこそ、あんなに静かで安らかなのだろうか?
「まあともかく、ソレを日夜見続けた画家のセンセーは、その景色をキャンバスに再現する事に夢中になり、やっとで完成させた。完成して勢いのまま俺らに報告したはいいものの、気付いちまったんだろうな。――完成したなら、絵も巻貝も、自分の手元から離れて行くんだって」
「それは……そう、ですよね……」
「ああ。それが契約だ。元々巻貝は返還するという前提の貸し出しで、譲渡した訳じゃない。絵画だって、著作権は画家先生のもので、所有権の譲渡だけが契約だった。これが気に入らないなら契約を破棄してもいいが、巻貝だけは返して貰わなきゃならん。あれはこっちの所蔵物だからな。でも画家先生はそれを嫌がった。絵も貝も、自分の手元にずっと置いておきたがった。正確には、歌から連想されるあの景色を失いたくなかった。送り返した次の日からはもうあれが見れなくなる事に耐えられなかった」
「…………」
一度聴いた、見ただけの楓だってあそこまで夢中になった。それを連日連夜耳に目にしていた者は、その人の感情は、どのように変化しただろうか。そこに行きたいと願い、歌を聴き目を閉じている間だけはそれが叶う。そして頭まで漬かり切った頃に、突然別れが来るのだ。まるで夢から覚めるように。
「……その画家の人は、どうなったんですか?」
副館長が乗り込んで巻貝を返して貰い絵画を買い取ったという。ならば、画家は。
「画家の先生が暴れて、最終的に警察沙汰になっちゃってね」
フレイアが溜息混じりに呟いた。イタチも次の貝殻に取り掛かりながらごちる。
「画家先生に精神鑑定が掛けられてな。絵と巻貝への異常な執着心を認められて、まあ家族の要請もあって、……記憶消却処理に掛けられたよ」
「…………」
それはつまり、巻貝の見せた光景ごと絵を描いていた期間の記憶を全て消されるという事だ。
「画家先生の貝殻と夢想への執着に家族も悩んでいたらしくてな。なんせ、ほっとくと一日中あれの歌を聴いているんだと。止めようとしても聞きゃしない。寝食忘れて貝に耳を当ててるっつー異様な状態だったんだってさ。で、家族としてはそんな厄物はもう勘弁して欲しいし、元の画家先生に戻って欲しいってことでな。……今はこの絵を描いた事すら忘れているようだ」
「権利自体も譲渡したいと申し出があったんだけど、副館長が所有権のみにしたいと譲らなくてね。結局、画家の先生の作品リストからはアフターゴーストモードで記載する、という事で話が纏まったのよ」
楓は冷たい氷が喉に押し込まれたような心地になり、思わず唇を噛んだ。アフターゴーストモードのリスト記載、それは少し前に設立された、作者本人が死亡してから表に出す事が許されるという著作関係の特殊な記載法だ。つまりこの絵を描いた者は、誰かが契約を破って打ち明けない限りは、死ぬまで己がこの絵を描いた事を知らずに人生を過ごす事になる。それは、ひどく悲しい事のように思われた。……だが、それも仕方のない事だ、とも。
「とにかくそういう訳だから……楓ちゃんも、この調査をする時にこの歌を聴くのは一日に二回、三日以上連続で聴くのは禁止ってことで、いいかしら?」
「は、はい。解りました」
正直、今の話を聞いた後だとあの光景の中に行きたいという欲求は薄れて来ている。電話番のある意味で含蓄ある言葉を支えにしようと楓は心に誓った。幸か不幸か、今から楓が行うのは巻貝を耳に当てて歌を聴く事ではなく、巻貝に触れてその記憶を読み取る事だ。
「まあ、そういう経緯でこの絵は博物館に来たのだけれど……歌を聴いた全員に、この景色で間違いないと証言も得てね。実際に絵という明確なモチーフが存在するなら、これで地図を検索にかけてみればいいと思ってたの。でも、」
はあ、とフレイアは溜息をつく。成程、確かに個人の脳裏に同じものが思い浮かぶとはいえ、それを直接出力出来るような機器はまだ存在しない。音声による誘導式の自動作画プログラムならあるが、確実に合うものとなると何度も試してみないと難しいだろう。しかし同じ人間の画家ならば脳裏に浮かんだ風景を絵として再現し落とし込む事は可能だ。だからこそ博物館は画家に依頼をしたのだろう。絵の実物があるなら惑星図を参照して近しい場所も特定出来る筈だ。しかし、フレイアの声音は明るくはないし、今に至ってもこの巻貝は出自不明なままである。という事は、その試みは失敗したのだろう。
「……見付からなかったんですか?」
問いかけると、フレイアは眉を下げて頷いた。
「そうなのよ。似た場所なら幾つも候補が挙げられたんだけど、現地の人にこの絵を見て貰ったら、誰もこの景色は知らないと言うのよ。地殻変動や大陸移動なんかの可能性も考えて、過去数百年に遡って惑星図を辿ったのだけど、どうにも見付からなくて。他の惑星から持ち込まれたものじゃないかという話も出たのだけどね、付着していた有機物は確実にアルビレオの海のものなのよ。でも、それがどこかが、解らない」
「つまるところ……俺達は無駄に画家のセンセーを苦しめただけ、って事になっちまってな」
「…………」
「イタチくん。その物言いは偏向的すぎるわよ」
自嘲のように笑うイタチをフレイアが厳しく咎める。
「そうッスね、でも画家のセンセーだってこの博物館の由来物や依頼の意味についても解ってたハズだ。副館長がそこんとこ事前に細かく細かく詰めてたからな。だから画家センセーの件はもう終わってる。今は、楓ちゃんはその事については気にする必要も気に負う必要もない。あんた、そういうの引っかかる方だろ?」
「あ……」
肩を竦めたイタチの言葉で、楓はようやく彼が何を言いたいのかを察した。確かに楓は画家に同情し、巻貝やそれを見る、見なければならない自分に対して重圧のようなものを感じていた。……イタチは、それを気にするなと言っているのだろう。今までのように、ただ仕事としてこなせばいいと。フレイアもイタチの真意に気付いたようで、目を丸くした後で苦笑した。
「イタチくんはデリカシーに欠けるわね。でもその分、直球だからいいのかしら」
「誉め言葉として受け取っときまーす」
軽い応酬に楓はやっとで肩の力を抜き、微笑んだ。
「ありがとうございます、……気が楽になりました」
「うんうん。こいつは直接的な実害がない分、大人しいヤツだからな。ここで怯まれてちゃ困る、主に俺が」
筆のように細いブラシを軽く振りながらイタチが言い、
「一言多くもあるのよねぇ……」
フレイアが再度咎める視線を向けたが、イタチはそっぽを向いて砂落としの作業を続けた。
バンドデバイスには脈拍や血圧、体温を測る機能も付いており、それをオンにして楓は手袋を脱ぐ。もしデバイスから異常が検知されればフレイアかイタチが止めに入るだろう。
「じゃあ、始めます」
「はい。少しでも異変を感じたらすぐに離してね」
「解りました」
フレイアも楓のすぐ傍で見ていてくれる。決心して、楓はその桜色の巻貝に触れた。
……海だ。
だが、あの歌を聴き脳裏に自然と思い浮かんだ、穏やかで美しい海ではない。
海は濁っていた。海は荒れていた。海は、船を飲み込んでいた。
それは笑った。くすくすと笑い、わたしを――巻貝を手にしたまま、再度大きく口を開き、高らかに歌った。
あの歌だ。だが、あの歌声が導くのは嵐と高潮。風に狂い波に荒れ、濁った黒緑色に染まった海が歌声に合わせて船を打ち付け、帆を引き裂き、船上で呆然と歌に聞き惚れていた人間達を一人また一人と飲み込んでいく。緑色の波の舌が掬って巻き取り、次の瞬間には何もかもを海の喉の底に沈めている。
それは笑った。愉悦に、恍惚に、己の歌の引き起こす惨事と、それにも関わらず己の歌を聴きに沖に来る愚昧な人間達を嘲笑った。
歌う程に海は荒れた。歌う程に海は船と人間を飲み込んだ。
お気に入りの巻貝を撫でながら、それはひどく愉し気に笑った。
悪意も何もない、ただ純粋に、面白い見世物を見るような声で。
撫でる手の、指の間には薄い水かきがあり、岩礁の上で歌うそれの身体は鱗に覆われている。第二の呼吸器官であるエラを閉じて陸上の呼吸器官である鼻口から潮臭い空気を一杯に取り込んで、それは歌い、笑った。
「――……ッ!」
楓は思わず巻貝から手を離した。
「楓ちゃん!? 大丈夫、楓ちゃん?」
「心拍数と血圧が上がってる。おい、大丈夫か?」
フレイアとクジの心配そうな声が聞こえる。いつの間にか、砂落としの作業をしていたイタチがそこから離れてテーブルのすぐ傍にまで来ていた。何度も瞬きをして、楓は安堵に深く息を吐いた。
「顔色も良くないわね。今日の作業はここで中止しましょうか?」
「一応、緊急装置は作動してないしアラームも反応してないからそこまで酷いようには見えないけど……」
二人が交互に言い、楓はゆっくりとまだ音を立てている心臓を抑えるように胸の上に手を置き、一拍置いてから首を横に振った。
「大丈夫です、続けます」
「でも……」
「少し、驚いただけで……もう大丈夫です」
「……あの景色を見たワケじゃなさそうだな。何を見たんだ?」
イタチが声を潜めて問いかける。楓は、見たもの――巻貝の記憶を――思い返しながら、告げた。
「セイレーン、です。この巻貝の持ち主は、セイレーンでした……」
楓の言葉にフレイアもイタチも驚いたように目を見開く。
「この巻貝がお気に入りだったようで、これをずっと手に持って、あの歌を歌っていました。……でも、あの歌は船と人間を引き寄せて嵐の中に沈める、実際には……そういう歌だった、みたいです……」
楓の共感能力は、触れた対象の記憶や感情を再現する。あの巻貝の歌を聴いた時は、それに触れてはいなかった。だが、今、触れてあの歌に喚起される光景とはまるで違った景色を感じ取ったから解る、……あの穏やかな海の景色は、巻貝の記憶には、無い。
「セイレーン……」
フレイアが素早くバンドデバイスでポーケイアの海に関する情報にアクセスした。セイレーン、海難事故、と検索していくとすぐに結果が表示される。イタチも横からそれを覗き込んだ。
「こりゃ凄い数だな。……ここ200年は収まっているみたいだが、それ以前は海難事故多発海域が沖の方にある」
「生きて岸に流れ着いた人の証言もあるわね。『魔物の声に惑わされた』って」
「その魔物って、やっぱり、」
楓が問うと、フレイアは頷いた。
「セイレーンの事でしょうね。歌のようなものを聞いたという証言もあるわ」
「…………」
「そうか。俺達はあの落ち着いた海ばかり探してたから……これに、思い至らなかったんだ」
苦々しい顔でイタチが呟く。フレイアは更にポーケイアの海とセイレーンについてを調べ進めていた。
「セイレーンを捕獲した記録もあるわね。残念ながら、捕まえられたセイレーンは翌朝にはただの海水になっていたみたいだけど……これは、アルビレオのセイレーンにとっては自殺を意味するものだから……」
「…………」
フレイアも記事を読み上げながら、同時にテキストとして情報を纏めて打ち込んでいる。イタチはふうとマスクの内で息をすると、再び元の場所に戻り、貝殻の砂落としの作業に手を付けた。
「これでもう来歴は確定じゃないか?」
「あの、でも……まだ、あのセイレーンがどうなったのか、どうしてこの巻貝だけ岸に打ち上げられていたのかが、解りませんし……」
「うーん。まあそうだけどさ」
「楓ちゃんが平気そうなら、作業を進めて貰いたいけど」
「大丈夫です、やれます」
「…………」
強く言う楓にイタチは肩を竦め、フレイアはただ微笑んで頷いた。
「じゃあ、引き続きお願いね。何が見えたかを都度、言ってちょうだい。私が記録していくから」
「解りました」
答えて楓は再度巻貝に手を伸ばす。さっきは驚いて離してしまったが、これがセイレーンの持ち物だったと覚悟をしていれば大丈夫だ。
深呼吸をして、楓は巻貝に触れた。
海は暗かった。海は静かだった。海は凪いでいた。
セイレーンは一人、岩礁に腰掛けて巻貝を手にして歌う。しかし最早その歌を聴く者はおらず、海も応えはせず、ただただセイレーンは一人、月夜の下で歌っていた。
セイレーンの目から零れるものが巻貝にとつんと落ちる。それは海水によく似ていたが、海水なのかどうかは巻貝にもセイレーンにも解らなかった。
「もういない……」
歌の合間に、セイレーンは嘆きのように呟く。
「もういない……」
海は静かだ。波は穏やかで、その下で夜光虫がちらちらと光り泳いでいる。
「私の歌を聴くものは……誰も……」
とつんと、また塩水が巻貝の上に落ちた。
「夢よ……我が夢よ……」
それは、そのセイレーンが、数多の船を沈め人を殺めて来た魔物が、初めて己のために紡ぐ歌だった。
「我が……夢よ……見て……見せて……私に……」
海は応えなかった。波はセイレーンを無視して静かにさざめき、遠くに忌まわしき灯台の光がこちらに周回する瞬間、セイレーンの目を閃光が突き刺す。
「見えない……夢よ……私の海よ……」
セイレーンは一人だった。少なくとも、巻貝がこの海妖に拾われてからずっと、この魔物の同種を見た事はなかった。セイレーンは歌を共鳴させる生き物だった。美しい夢を見せる生き物だった。セイレーンは、誰かが夢を見ないと己の夢が見れない生き物だった。
巻貝は夢を見ない。巻貝は眠らない。だから巻貝はセイレーンの共鳴装置とは成り得なかった。
「私の……海……」
セイレーンは水かきのついた手で巻貝を持ち上げ、開いたその口にそっと唇を寄せる。
そうして彼女は、残りの力を振り絞って、巻貝の中に己の歌を吹き込んだ。
巻貝は夢を見ない。巻貝は眠らない。……だが、巻貝は波の音と歌を、その渦巻いた殻の内に風として封じ込める事が出来た。
セイレーンは初めて巻貝のために歌い、巻貝は初めてセイレーンのために歌を覚えた。
そうして最後の吐息を貝殻の内に吹き込むと、セイレーンはそのまま、塩水となって溶け落ちた。
残るは岩礁の上に巻貝が一つ。
巻貝はそのまま岩礁の上で、幾つもの昼と夜を過ごし、海風と共に歌った。聴く者もない歌だった。
そうしてある夏、大きな台風が来て、それは凶暴な風を起こして嵐を招き、長く岩礁の上にいた巻貝を濁った波の舌が舐め取って岩の上から押し流した。奇しくもその嵐は、セイレーンの呼ぶ嵐に、とてもよく似ていた。
荒れた海に巻き取られ流された巻貝は、やがて白い浜辺に打ち上げられた。――そして、様々な人間の手を渡り、アルビレオから新アレクサンドリアへと惑星を渡り、ある博物館の保管庫に置かれ、幾人もの耳にあてがわれ、画家の男を狂わせて、そして、そして今。
楓の目に、自分を手に取りじっと見詰める楓自身が映った。
彼女は、静かに手を離した。
あの海の沖には海難事故多発区域がある。そしてそれは、セイレーンの仕業だと言われた。だから人間はそれに対策を立てたのだ。
「灯台を建てて、位置を示し、その沖合を避けるように周知したのね。誰もあそこを通らなくなって、たまに密漁船や他所の観光船が迷い込んで事故を起こしたりもしたみたいだけど……」
とにかく、そこは『魔物の棲む海域』だと知られるようになった。だが、ある時期から、そういった事故が全く起きなくなった。逆に密漁船が入り込み禁漁とされている魚や貝を乱獲したものが帰路で海洋警察に拿捕され、あの海域に長く居たのに何事もなかったと知らされた。海洋警察はポーケイア湾の住民とも協力し、事の解明に当たり、本当にその海域にはもう何もいないと解ったのだ。
セイレーンは消えて、海には平和が戻った。そして200年が経ち、ある夏の嵐の後、一つの巻貝が海岸に打ち上げられた。それが、この巻貝に纏わる全てだった。
「セイレーンは、本当は嵐の海より静かな海が見たかったのでしょうか」
呟く楓に、フレイアは黙り込みイタチは肩を竦める。
「そうかもな。アルビレオのセイレーンは、歌に夢や願望を乗せて歌うそうだ。そうして仲間同士で歌い合う事で、己の見たい夢が相手の歌に乗って届けられる。本物のセイレーンの歌なら、聴いた者本人の願望が見えるんだ。それぞれ違う、個別の願望や欲望が。でも、これはセイレーンが自分の夢を乗せて貝に吹き込んだ歌だ。……粗雑にコピーされた音楽ファイルのようなものだな。俺達の夢を再現できる程の力は、もうない」
「…………」
どこまでも透き通った青空と海、静かな波の誰もいない入り江。心安らかで穏やかな永遠の午睡。それこそが、セイレーンが求めてなお与えられなかったものなのかもしれない。
後日、その巻貝はリアルグラフィックという形で第七彷徨博物館の展示物に加わった。実物は閉架に保管され、形だけを投影するという形式の展示法だ。その後ろには画家が描いた風景画が展示され、穏やかな入り江が巻貝に寄り添うように掛けられていた。
■■目録■■■
『セイレーンの夢』 分類:MT-247
ディランドゥーア国のセント・ポーケイア湾で発見。――年の夏、台風の過ぎ去った後の浜辺にて打ち上げられていた。これに耳を寄せると波の音と共に女性の歌声が聴こえる。歌に歌詞は無く、ハミング、コーラスのみである。また、この歌を耳にした者には共通したある光景が喚起されるという特質を持つ。
歌の主はアルビレオのセイレーンの一人であり、この光景はセイレーンが求めた理想の風景だと仮定されている。
なお、当館ではセイレーンの歌声という危険性を鑑みて、歌の視聴等には対応していない。
「貝に耳をつけて波の音を聞く、という遊び、小さい頃にやった事はある?」
イヴフレイアの問いに、楓は首を傾げた。
「……ない、です。古い本やムービーとかで見た事はあるんですけど」
「そう? あれは本来は波の音じゃなくて、貝の隙間を縫って通る風の音を潮騒の音になぞらえる遊びなんだけど……この貝は、ちょっと違うのよ」
フレイアが示すのは楓が次の仕事に選んだものだった。桜色の巻貝で、開いた口の部分はトゲか牙のように幾つか細く張り出している。所々に赤く細い模様がついており、一見すると何の変哲もない、ただの巻貝に見えた。楓の暮らす〝コットンピンク星〟のマリーン地区ではこういった巻貝の飾りや貝殻の実物が土産として売られている。だがこの巻貝は、アルビレオの『出自待ち』の品である。ただの貝である筈がないと解ってはいたが。
「ちょっと違うというと……?」
「実際に、波音が聴こえるの。鮮明な波の音と、それに乗る女性の歌声。そして、これを聞きながら目を閉じると、一つのイメージが思い浮かぶのだけど……実際に、試してみる? 耳にぴったりくっつけなくても、ある程度近ければ大丈夫よ」
フレイアは素手で慎重に巻貝を持ち上げ、楓に差し出して来る。楓は手袋のままそれを受け取り、耳元に近付けてみた。
楓の共感能力は触れなければ大丈夫だ。なので、耳に直接つかないように恐る恐る貝の口を近付けると――……
「あ……本当に……」
ざ、ざざ、と押しては返す波の音が聴こえる。風の音を錯覚したのではない、これは確かに波の音、そのものだった。そして波の音に交じり、美しい女性の歌声が聴こえてきた。
歌詞は解らない。いや、歌詞などないのかもしれない。ラララ、とも、アアア、とも聴こえる、高音の透き通った歌声。それは波の音と同調するように押しては強く高く、引いては遠く儚く、聴く者の胸を不思議とざわつかせる旋律だった。
「じゃあ、目を閉じて」
「…………」
言われたようにそっと瞼を降ろす。すると、楓の脳裏に鮮明に浮かぶものがあった。
晴れた青空、太陽の光を反射して白く輝く波間、美しく光る入り江。どこまでも透き通り果てのない大海原とそれを映すような蒼穹、綿のように膨らむ白い雲が帆船のようにその美しい青に浮かび、ゆっくりと流れている。
人のいない、波音と歌声の響く静かな美しい、まるで絵画のような光景。歌声は海の彼方、空の彼方、そのどこまでも続くような青の中に吸い込まれるように流れていく。風に乗り、波に乗り、雲海の果てへ、更にその先へ、どこまでも渡っていく。
青い海原、心地よく気怠い永遠の午睡、その中に入っていけたら、ずっとそこで微睡んでいられたらと、思わず願ってしまう程の――……。
「何かが見えた?」
フレイアの言葉にはっと楓は目を開いた。思わず空想の風景に夢中になり、我を忘れる所だった。慌てて貝を耳元から離し、楓はフレイアを見る。
「見えました。綺麗な入り江の景色と、歌声が……」
「やっぱり楓ちゃんの目にも同じものが見えるのね」
うんうんと頷き、フレイアはひとまず貝を受け取り箱の中に置く。ここは閉架倉庫の一つで、巻貝はいつものように銀の鍵を磨いて仕舞った後で立ち寄った倉庫にて楓が選んだものだった。
「じゃあ、今日はこれにしましょうか」
巻貝を収めた箱ごと持ち上げてフレイアが言う。
「はい。あの、私が運びます」
「そう? それじゃあお願いね、私は先に行って準備をしてくるから」
「はい」
頷く楓に箱を渡し、フレイアは先に歩いて行った。今日はイタチも第三作業室を数時間使用すると言っていたので、そちらの折り合いも兼ねてだろう。イタチは技師として寄贈品の状態を確認したり汚れを落としたりと保存作業をする事が多いが、楓はこの共感能力で『視る』だけだ。付近でイタチが作業をしていても一人座るスペースさえあれば邪魔にはならないだろう。
この博物館に就職して、幾つかの品の来歴も明かした楓はこの仕事が少し好きになっていた。今でも見知らぬものに触れるのは怖いし、不意に触れるのは抵抗もあるが、ここでは周囲の人のサポートや理解もある。それがどれ程にありがたいのかを、この所の楓は噛み締めていた。
「すみません、失礼します……」
箱を手に第三作業室の扉を開くと、中で細い筆のようなブラシを手にしていたイタチは「おー」と声を上げた。最も顔には口全体を覆うマスクをしていたので、声はややくぐもっていたが。
「あの、イタチさんの邪魔にならないようにしますので、よろしくお願いします」
「いやいやこっちこそ、この部屋は楓ちゃんの作業所ってことで用意したってのに、押しかけて悪いな。これの砂落としさえ終わったら出てくから、ちょい待っててくれ」
偶然にもイタチは新しく寄贈された品の、貝殻類の作業をしているようだった。
ひとまずテーブルの上に箱を置き、中の巻貝を取り出すと微かにあの歌が聴こえた気がした。イタチもそう感じたようで、ふと手を止めてテーブルの方に顔を向ける。そして納得したように頷いた。
「ああ、今回はそれか」
「はい」
「偶然だなー、丁度この貝殻と近い地区から寄贈されたやつだよ、それ」
「そうなんですか。あの、その地域の名前を教えて頂けませんか?」
何かのヒントになるかもしれない、と思い訊ねた楓に、イタチは笑いながら頷く。
「ディランドゥーア国のセント・ポーケイア湾だな。見つかった経緯なんかもリストに纏めてあるから、詳しくはそっち見てくれ」
「あっ、はい」
そういえば分類表のリストを見ればそういった事は既に記載されているのだった。余計な手間をさせてしまったと焦ってバンドデバイスを起動させる楓に、イタチは手にしたブラシを軽く振りながら「でもな」と続ける。
「余り『それ』に耳を傾けすぎないようにな。危ないから」
「……えっ?」
「まーその辺は、フレイアさんが説明してくれるだろ」
驚き顔を上げた楓にイタチはそのまま作業を再開した。すぐ直後に扉が開き、フレイアが何か薄くて四角いものを抱えて入って来る。
「後ろ通るわよー」
「どーぞー」
呑気にやり取りをしつつ、抱えたものに当たらないよう調整しながらフレイアがイタチの後ろを通って楓の前に歩いて来た。フレイアの抱えていたものは白い布に包まれており、彼女はそれをテーブルの上に置くと布をそっと取り上げる。
包まれていたのは一枚の絵画で、油絵のようだ。木の板にキャンバスを貼り付けた、古来からの美術形式である。しかし楓が驚いたのは、そこに描かれた景色だった。
「これ、あの貝の……」
「うん。同じものを見た?」
「見ました。これと、同じ光景を……」
キャンバスに描かれていたのは、青の美しい海と白い浜辺、そして突き抜ける程の美しい青空。それは、海の色も波の高さも浜辺の砂の色も、そして空の色も雲の形に至るまで、先刻巻貝の音を聴いて幻想した光景、そのものだったのだ。
「――この貝はね、歌声を聴いた人すべてに、同じ光景を見せるらしいの」
フレイアがそう言い、絵画と巻貝とを交互に見た。楓は途中だったバンドデバイスのリストの続きに急いで目をやる。
……分類MT-247。ディランドゥーア国のセント・ポーケイア湾で発見。夏の終わり、台風の過ぎ去った後の浜辺にて打ち上げられていた。これに耳を寄せると波の音と共に女性の歌声が聴こえる。歌に歌詞は無く、ハミング、コーラスのみである。また、この歌を耳にした者には共通したある光景が喚起されるという特質を持つ。現在この喚起される場所は特定されておらず、捜索中。なお、聾唖者にはこの喚起効果はなく、あくまで歌を聴き取る事が可能な者に限られる。また、この歌を何度も聴くと喚起される光景に対し執着心のようなものが芽生える効果が確認されているので、取り扱いには要注意。
「……執着心?」
最後の一行の要注意の項目に思わず声を上げると、フレイアが困ったように頷いた。
「そうなのよ。――誰が聴いてもこの『光景』が思い浮かぶっていう性質に気付いた後で、この『光景』をより具体的にするために画家の人に協力して貰ったの。これがその方の描かれた絵画なのだけど……完成した、って報告と一緒に絵の写真が証明として送られて来たから、私達は事前に契約していた通りに絵画の所有権譲渡のための手続きと貝殻の返還をお願いしたのよ。こちらにその二品が届いたら報酬を振り込むという形でね。――でも、実際にこの絵画と貝殻が来たのは二か月後、それも副館長が強制返還願いで向こうに乗り込んで行ってやっと、だったの」
「…………」
「その画家のセンセーは絵を描くために日夜歌を聴いていたらしくてな」
小さな貝殻の砂落としをして表と裏を見返しながらイタチがぼやくように続ける。マスク越しの口がもごもごと動いていた。
「その内に、この景色の虜になっちまったんだ。楓ちゃんも見たなら解るだろ? 綺麗な景色で、あの中に入りたい、あそこに行きたいと感じなかったか?」
「それは……はい、そう、思いました」
実際にフレイアに声を掛けられるまで、楓はあの光景に夢中になっていた。楓の答えにイタチは溜息をつく。
「俺も同じことを思ったよ。ここの職員は、白靴下を除いて全員そう思った」
「……電話番さんは、違ったんですか?」
どうやらあの黒猫はそうは思わなかったらしい。楓の問いにイタチは可笑しそうに目を細めた。
「あそこには館長がいないから、だってさ。あと、誰からも通信のなさそうな世界なんて退屈すぎてつまらない、だと」
「…………」
「電話番は館長が大好きだからねぇ」
フレイアも小さく笑い、それで楓もやっとでその可能性に思い至った。そうだ、あの景色は美しく静かだが――誰もいないのだ。ヒトや動物どころか、海鳥も、魚の影も、何もなかった。……だからこそ、あんなに静かで安らかなのだろうか?
「まあともかく、ソレを日夜見続けた画家のセンセーは、その景色をキャンバスに再現する事に夢中になり、やっとで完成させた。完成して勢いのまま俺らに報告したはいいものの、気付いちまったんだろうな。――完成したなら、絵も巻貝も、自分の手元から離れて行くんだって」
「それは……そう、ですよね……」
「ああ。それが契約だ。元々巻貝は返還するという前提の貸し出しで、譲渡した訳じゃない。絵画だって、著作権は画家先生のもので、所有権の譲渡だけが契約だった。これが気に入らないなら契約を破棄してもいいが、巻貝だけは返して貰わなきゃならん。あれはこっちの所蔵物だからな。でも画家先生はそれを嫌がった。絵も貝も、自分の手元にずっと置いておきたがった。正確には、歌から連想されるあの景色を失いたくなかった。送り返した次の日からはもうあれが見れなくなる事に耐えられなかった」
「…………」
一度聴いた、見ただけの楓だってあそこまで夢中になった。それを連日連夜耳に目にしていた者は、その人の感情は、どのように変化しただろうか。そこに行きたいと願い、歌を聴き目を閉じている間だけはそれが叶う。そして頭まで漬かり切った頃に、突然別れが来るのだ。まるで夢から覚めるように。
「……その画家の人は、どうなったんですか?」
副館長が乗り込んで巻貝を返して貰い絵画を買い取ったという。ならば、画家は。
「画家の先生が暴れて、最終的に警察沙汰になっちゃってね」
フレイアが溜息混じりに呟いた。イタチも次の貝殻に取り掛かりながらごちる。
「画家先生に精神鑑定が掛けられてな。絵と巻貝への異常な執着心を認められて、まあ家族の要請もあって、……記憶消却処理に掛けられたよ」
「…………」
それはつまり、巻貝の見せた光景ごと絵を描いていた期間の記憶を全て消されるという事だ。
「画家先生の貝殻と夢想への執着に家族も悩んでいたらしくてな。なんせ、ほっとくと一日中あれの歌を聴いているんだと。止めようとしても聞きゃしない。寝食忘れて貝に耳を当ててるっつー異様な状態だったんだってさ。で、家族としてはそんな厄物はもう勘弁して欲しいし、元の画家先生に戻って欲しいってことでな。……今はこの絵を描いた事すら忘れているようだ」
「権利自体も譲渡したいと申し出があったんだけど、副館長が所有権のみにしたいと譲らなくてね。結局、画家の先生の作品リストからはアフターゴーストモードで記載する、という事で話が纏まったのよ」
楓は冷たい氷が喉に押し込まれたような心地になり、思わず唇を噛んだ。アフターゴーストモードのリスト記載、それは少し前に設立された、作者本人が死亡してから表に出す事が許されるという著作関係の特殊な記載法だ。つまりこの絵を描いた者は、誰かが契約を破って打ち明けない限りは、死ぬまで己がこの絵を描いた事を知らずに人生を過ごす事になる。それは、ひどく悲しい事のように思われた。……だが、それも仕方のない事だ、とも。
「とにかくそういう訳だから……楓ちゃんも、この調査をする時にこの歌を聴くのは一日に二回、三日以上連続で聴くのは禁止ってことで、いいかしら?」
「は、はい。解りました」
正直、今の話を聞いた後だとあの光景の中に行きたいという欲求は薄れて来ている。電話番のある意味で含蓄ある言葉を支えにしようと楓は心に誓った。幸か不幸か、今から楓が行うのは巻貝を耳に当てて歌を聴く事ではなく、巻貝に触れてその記憶を読み取る事だ。
「まあ、そういう経緯でこの絵は博物館に来たのだけれど……歌を聴いた全員に、この景色で間違いないと証言も得てね。実際に絵という明確なモチーフが存在するなら、これで地図を検索にかけてみればいいと思ってたの。でも、」
はあ、とフレイアは溜息をつく。成程、確かに個人の脳裏に同じものが思い浮かぶとはいえ、それを直接出力出来るような機器はまだ存在しない。音声による誘導式の自動作画プログラムならあるが、確実に合うものとなると何度も試してみないと難しいだろう。しかし同じ人間の画家ならば脳裏に浮かんだ風景を絵として再現し落とし込む事は可能だ。だからこそ博物館は画家に依頼をしたのだろう。絵の実物があるなら惑星図を参照して近しい場所も特定出来る筈だ。しかし、フレイアの声音は明るくはないし、今に至ってもこの巻貝は出自不明なままである。という事は、その試みは失敗したのだろう。
「……見付からなかったんですか?」
問いかけると、フレイアは眉を下げて頷いた。
「そうなのよ。似た場所なら幾つも候補が挙げられたんだけど、現地の人にこの絵を見て貰ったら、誰もこの景色は知らないと言うのよ。地殻変動や大陸移動なんかの可能性も考えて、過去数百年に遡って惑星図を辿ったのだけど、どうにも見付からなくて。他の惑星から持ち込まれたものじゃないかという話も出たのだけどね、付着していた有機物は確実にアルビレオの海のものなのよ。でも、それがどこかが、解らない」
「つまるところ……俺達は無駄に画家のセンセーを苦しめただけ、って事になっちまってな」
「…………」
「イタチくん。その物言いは偏向的すぎるわよ」
自嘲のように笑うイタチをフレイアが厳しく咎める。
「そうッスね、でも画家のセンセーだってこの博物館の由来物や依頼の意味についても解ってたハズだ。副館長がそこんとこ事前に細かく細かく詰めてたからな。だから画家センセーの件はもう終わってる。今は、楓ちゃんはその事については気にする必要も気に負う必要もない。あんた、そういうの引っかかる方だろ?」
「あ……」
肩を竦めたイタチの言葉で、楓はようやく彼が何を言いたいのかを察した。確かに楓は画家に同情し、巻貝やそれを見る、見なければならない自分に対して重圧のようなものを感じていた。……イタチは、それを気にするなと言っているのだろう。今までのように、ただ仕事としてこなせばいいと。フレイアもイタチの真意に気付いたようで、目を丸くした後で苦笑した。
「イタチくんはデリカシーに欠けるわね。でもその分、直球だからいいのかしら」
「誉め言葉として受け取っときまーす」
軽い応酬に楓はやっとで肩の力を抜き、微笑んだ。
「ありがとうございます、……気が楽になりました」
「うんうん。こいつは直接的な実害がない分、大人しいヤツだからな。ここで怯まれてちゃ困る、主に俺が」
筆のように細いブラシを軽く振りながらイタチが言い、
「一言多くもあるのよねぇ……」
フレイアが再度咎める視線を向けたが、イタチはそっぽを向いて砂落としの作業を続けた。
バンドデバイスには脈拍や血圧、体温を測る機能も付いており、それをオンにして楓は手袋を脱ぐ。もしデバイスから異常が検知されればフレイアかイタチが止めに入るだろう。
「じゃあ、始めます」
「はい。少しでも異変を感じたらすぐに離してね」
「解りました」
フレイアも楓のすぐ傍で見ていてくれる。決心して、楓はその桜色の巻貝に触れた。
……海だ。
だが、あの歌を聴き脳裏に自然と思い浮かんだ、穏やかで美しい海ではない。
海は濁っていた。海は荒れていた。海は、船を飲み込んでいた。
それは笑った。くすくすと笑い、わたしを――巻貝を手にしたまま、再度大きく口を開き、高らかに歌った。
あの歌だ。だが、あの歌声が導くのは嵐と高潮。風に狂い波に荒れ、濁った黒緑色に染まった海が歌声に合わせて船を打ち付け、帆を引き裂き、船上で呆然と歌に聞き惚れていた人間達を一人また一人と飲み込んでいく。緑色の波の舌が掬って巻き取り、次の瞬間には何もかもを海の喉の底に沈めている。
それは笑った。愉悦に、恍惚に、己の歌の引き起こす惨事と、それにも関わらず己の歌を聴きに沖に来る愚昧な人間達を嘲笑った。
歌う程に海は荒れた。歌う程に海は船と人間を飲み込んだ。
お気に入りの巻貝を撫でながら、それはひどく愉し気に笑った。
悪意も何もない、ただ純粋に、面白い見世物を見るような声で。
撫でる手の、指の間には薄い水かきがあり、岩礁の上で歌うそれの身体は鱗に覆われている。第二の呼吸器官であるエラを閉じて陸上の呼吸器官である鼻口から潮臭い空気を一杯に取り込んで、それは歌い、笑った。
「――……ッ!」
楓は思わず巻貝から手を離した。
「楓ちゃん!? 大丈夫、楓ちゃん?」
「心拍数と血圧が上がってる。おい、大丈夫か?」
フレイアとクジの心配そうな声が聞こえる。いつの間にか、砂落としの作業をしていたイタチがそこから離れてテーブルのすぐ傍にまで来ていた。何度も瞬きをして、楓は安堵に深く息を吐いた。
「顔色も良くないわね。今日の作業はここで中止しましょうか?」
「一応、緊急装置は作動してないしアラームも反応してないからそこまで酷いようには見えないけど……」
二人が交互に言い、楓はゆっくりとまだ音を立てている心臓を抑えるように胸の上に手を置き、一拍置いてから首を横に振った。
「大丈夫です、続けます」
「でも……」
「少し、驚いただけで……もう大丈夫です」
「……あの景色を見たワケじゃなさそうだな。何を見たんだ?」
イタチが声を潜めて問いかける。楓は、見たもの――巻貝の記憶を――思い返しながら、告げた。
「セイレーン、です。この巻貝の持ち主は、セイレーンでした……」
楓の言葉にフレイアもイタチも驚いたように目を見開く。
「この巻貝がお気に入りだったようで、これをずっと手に持って、あの歌を歌っていました。……でも、あの歌は船と人間を引き寄せて嵐の中に沈める、実際には……そういう歌だった、みたいです……」
楓の共感能力は、触れた対象の記憶や感情を再現する。あの巻貝の歌を聴いた時は、それに触れてはいなかった。だが、今、触れてあの歌に喚起される光景とはまるで違った景色を感じ取ったから解る、……あの穏やかな海の景色は、巻貝の記憶には、無い。
「セイレーン……」
フレイアが素早くバンドデバイスでポーケイアの海に関する情報にアクセスした。セイレーン、海難事故、と検索していくとすぐに結果が表示される。イタチも横からそれを覗き込んだ。
「こりゃ凄い数だな。……ここ200年は収まっているみたいだが、それ以前は海難事故多発海域が沖の方にある」
「生きて岸に流れ着いた人の証言もあるわね。『魔物の声に惑わされた』って」
「その魔物って、やっぱり、」
楓が問うと、フレイアは頷いた。
「セイレーンの事でしょうね。歌のようなものを聞いたという証言もあるわ」
「…………」
「そうか。俺達はあの落ち着いた海ばかり探してたから……これに、思い至らなかったんだ」
苦々しい顔でイタチが呟く。フレイアは更にポーケイアの海とセイレーンについてを調べ進めていた。
「セイレーンを捕獲した記録もあるわね。残念ながら、捕まえられたセイレーンは翌朝にはただの海水になっていたみたいだけど……これは、アルビレオのセイレーンにとっては自殺を意味するものだから……」
「…………」
フレイアも記事を読み上げながら、同時にテキストとして情報を纏めて打ち込んでいる。イタチはふうとマスクの内で息をすると、再び元の場所に戻り、貝殻の砂落としの作業に手を付けた。
「これでもう来歴は確定じゃないか?」
「あの、でも……まだ、あのセイレーンがどうなったのか、どうしてこの巻貝だけ岸に打ち上げられていたのかが、解りませんし……」
「うーん。まあそうだけどさ」
「楓ちゃんが平気そうなら、作業を進めて貰いたいけど」
「大丈夫です、やれます」
「…………」
強く言う楓にイタチは肩を竦め、フレイアはただ微笑んで頷いた。
「じゃあ、引き続きお願いね。何が見えたかを都度、言ってちょうだい。私が記録していくから」
「解りました」
答えて楓は再度巻貝に手を伸ばす。さっきは驚いて離してしまったが、これがセイレーンの持ち物だったと覚悟をしていれば大丈夫だ。
深呼吸をして、楓は巻貝に触れた。
海は暗かった。海は静かだった。海は凪いでいた。
セイレーンは一人、岩礁に腰掛けて巻貝を手にして歌う。しかし最早その歌を聴く者はおらず、海も応えはせず、ただただセイレーンは一人、月夜の下で歌っていた。
セイレーンの目から零れるものが巻貝にとつんと落ちる。それは海水によく似ていたが、海水なのかどうかは巻貝にもセイレーンにも解らなかった。
「もういない……」
歌の合間に、セイレーンは嘆きのように呟く。
「もういない……」
海は静かだ。波は穏やかで、その下で夜光虫がちらちらと光り泳いでいる。
「私の歌を聴くものは……誰も……」
とつんと、また塩水が巻貝の上に落ちた。
「夢よ……我が夢よ……」
それは、そのセイレーンが、数多の船を沈め人を殺めて来た魔物が、初めて己のために紡ぐ歌だった。
「我が……夢よ……見て……見せて……私に……」
海は応えなかった。波はセイレーンを無視して静かにさざめき、遠くに忌まわしき灯台の光がこちらに周回する瞬間、セイレーンの目を閃光が突き刺す。
「見えない……夢よ……私の海よ……」
セイレーンは一人だった。少なくとも、巻貝がこの海妖に拾われてからずっと、この魔物の同種を見た事はなかった。セイレーンは歌を共鳴させる生き物だった。美しい夢を見せる生き物だった。セイレーンは、誰かが夢を見ないと己の夢が見れない生き物だった。
巻貝は夢を見ない。巻貝は眠らない。だから巻貝はセイレーンの共鳴装置とは成り得なかった。
「私の……海……」
セイレーンは水かきのついた手で巻貝を持ち上げ、開いたその口にそっと唇を寄せる。
そうして彼女は、残りの力を振り絞って、巻貝の中に己の歌を吹き込んだ。
巻貝は夢を見ない。巻貝は眠らない。……だが、巻貝は波の音と歌を、その渦巻いた殻の内に風として封じ込める事が出来た。
セイレーンは初めて巻貝のために歌い、巻貝は初めてセイレーンのために歌を覚えた。
そうして最後の吐息を貝殻の内に吹き込むと、セイレーンはそのまま、塩水となって溶け落ちた。
残るは岩礁の上に巻貝が一つ。
巻貝はそのまま岩礁の上で、幾つもの昼と夜を過ごし、海風と共に歌った。聴く者もない歌だった。
そうしてある夏、大きな台風が来て、それは凶暴な風を起こして嵐を招き、長く岩礁の上にいた巻貝を濁った波の舌が舐め取って岩の上から押し流した。奇しくもその嵐は、セイレーンの呼ぶ嵐に、とてもよく似ていた。
荒れた海に巻き取られ流された巻貝は、やがて白い浜辺に打ち上げられた。――そして、様々な人間の手を渡り、アルビレオから新アレクサンドリアへと惑星を渡り、ある博物館の保管庫に置かれ、幾人もの耳にあてがわれ、画家の男を狂わせて、そして、そして今。
楓の目に、自分を手に取りじっと見詰める楓自身が映った。
彼女は、静かに手を離した。
あの海の沖には海難事故多発区域がある。そしてそれは、セイレーンの仕業だと言われた。だから人間はそれに対策を立てたのだ。
「灯台を建てて、位置を示し、その沖合を避けるように周知したのね。誰もあそこを通らなくなって、たまに密漁船や他所の観光船が迷い込んで事故を起こしたりもしたみたいだけど……」
とにかく、そこは『魔物の棲む海域』だと知られるようになった。だが、ある時期から、そういった事故が全く起きなくなった。逆に密漁船が入り込み禁漁とされている魚や貝を乱獲したものが帰路で海洋警察に拿捕され、あの海域に長く居たのに何事もなかったと知らされた。海洋警察はポーケイア湾の住民とも協力し、事の解明に当たり、本当にその海域にはもう何もいないと解ったのだ。
セイレーンは消えて、海には平和が戻った。そして200年が経ち、ある夏の嵐の後、一つの巻貝が海岸に打ち上げられた。それが、この巻貝に纏わる全てだった。
「セイレーンは、本当は嵐の海より静かな海が見たかったのでしょうか」
呟く楓に、フレイアは黙り込みイタチは肩を竦める。
「そうかもな。アルビレオのセイレーンは、歌に夢や願望を乗せて歌うそうだ。そうして仲間同士で歌い合う事で、己の見たい夢が相手の歌に乗って届けられる。本物のセイレーンの歌なら、聴いた者本人の願望が見えるんだ。それぞれ違う、個別の願望や欲望が。でも、これはセイレーンが自分の夢を乗せて貝に吹き込んだ歌だ。……粗雑にコピーされた音楽ファイルのようなものだな。俺達の夢を再現できる程の力は、もうない」
「…………」
どこまでも透き通った青空と海、静かな波の誰もいない入り江。心安らかで穏やかな永遠の午睡。それこそが、セイレーンが求めてなお与えられなかったものなのかもしれない。
後日、その巻貝はリアルグラフィックという形で第七彷徨博物館の展示物に加わった。実物は閉架に保管され、形だけを投影するという形式の展示法だ。その後ろには画家が描いた風景画が展示され、穏やかな入り江が巻貝に寄り添うように掛けられていた。
■■目録■■■
『セイレーンの夢』 分類:MT-247
ディランドゥーア国のセント・ポーケイア湾で発見。――年の夏、台風の過ぎ去った後の浜辺にて打ち上げられていた。これに耳を寄せると波の音と共に女性の歌声が聴こえる。歌に歌詞は無く、ハミング、コーラスのみである。また、この歌を耳にした者には共通したある光景が喚起されるという特質を持つ。
歌の主はアルビレオのセイレーンの一人であり、この光景はセイレーンが求めた理想の風景だと仮定されている。
なお、当館ではセイレーンの歌声という危険性を鑑みて、歌の視聴等には対応していない。
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