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明日も君と

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話す世界は楽しい方がいい。突拍子のない言葉も、誰かの笑顔を求めたものならば、たいてい誰かは笑ってくれるものだ。

「パンダって可愛いねぇ、パンダになりたいよ」
「……」

そんな私のメルヘンな言葉を聞く様子もなく。この子、羽鳥さんは何か別の事を考えている。

「笹の葉って毒があるらしいけどさ、私なら頑張ったら食べれるんじゃないかと思うんだ」
「……」

うん、惨敗。
こうも話を聞かれないのは悲しいもので。私、藤城ゆみかの心は複雑骨折どころじゃない。
だって目もあわない会話って何だろう。あの高い声のロボットですら目合うのに。手は握ってくれないけど。

「ねぇ羽鳥さぁん」
「……」

名前を呼んでもダメですかい。
せっかくクラスメイトになったんだし仲良くなりたいと思ってたんだけどなぁ。
少なくとも100人はほしい。なんならもう人間じゃなくてもいい。パンダとか。

「どんだけパンダ好きなの」
「へ?」
「なに、笹食べたいって。理解が追いつかないわ」
「羽鳥さんっ……」

ナイスツッコミ。あとおはよう。
私はやっと朝を迎えられた気がするよ。

「いやもう放課後なんだけど」
「あれ?」
「変なの」

クスリと小さく笑うその顔。入学以来、初めて見た……そんなの。

「羽鳥さん……可愛い!」
「はっ?!」
「私の話毛ほどにも聞いてない感じだったからショックで骨折するかと思ったけどくっついたよ!」
「いやいやもう話が分からない!」

無愛想だった人が笑うと可愛いとか、ファンタジーの話だと思ってたけど、これはなかなかに破壊力がある。思わず右手が疼きそう。

「今なら私の右目からドラゴン出せるよ!」
「ボケの手数多すぎでしょ自重して!?」

グイグイ迫れば呆れながらも笑ってくれるあたりまた可愛い。なんだ、ちゃんと聞いてくれるじゃん。

「異世界転生の妄想もほどほどにね?」
「し、してないし!」

あ、なんかしてそう。ボケたんだけどな。

「羽鳥ちゃん今日は一緒に帰らない?」
「ちゃんって……まぁ、いいけど」
「私が電車で羽鳥ちゃんはたしかバスだっけ? 並んで帰ろうね」
「帰れるか!」

どうせ話すなら、口に出す言葉は楽しい方がいい。
その中でボケるなら、ツッコミがある方が何倍も輝くだろう。

「また明日も話そうね、羽鳥ちゃん!」
「……まず名前教えて」

相手が楽しそうなら、これからもっともっと楽しくなるに違いない。

「スターダストって呼んでよ」
「星屑になりますけど?!」


君と話すこれからを考えたら、それだけで楽しくて。
また明日に、期待せずにはいられなかった。
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