最弱伝説俺

京香

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第二章 噂が広まるのは早いもので

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 あのあと、すぐに戻ってきた広田にどんなにか泣きつきたかったか、しかし「人前では泣くな」という陣作の注意点を思い出してぐっと堪える。
 兄たちの前では二日に一回は泣いているので、本当は涙腺がひねったままの蛇口のごとく弱いのだ。

 せめて、この状況を分かってもらいたくて祈りを込めた視線を広田に送りまくってみたが、届いたかどうかはよく分からなかった。というか、多分届いていない。そうこうしている内に担任教師が教室に入ってくる。

「おー揃ってるね。入学おめでとう。んじゃ、詳しいことは明日にして今日は解散」
「「はああああ?」」

 あまりの雑さに、教室中が初めて出会った者たちとは思えない団結力でツッコミが入る。

「せんせーでしょ! 初日くらい、真面目にしてください!」
「今日、教室まで来た意味無いし!」
「でも、先生眠いし」
「子どもか!」

 担任の反論がくだらなすぎて、何人か椅子から崩れ落ちてしまった。未だに「えー」とぶつくさ文句を言っているのを見て、葵も呆気にとられてしまう。何に関してもクソ真面目に考えてしまう葵にとって、担任の態度がひどいと怒るよりも新鮮でならなかった。

――おお! こんな風に俺も飄々と出来たらなぁ。

 飄々としているのではなく実際にずぼらなだけであるのだが、自分を卑下して考える葵には理解しろと言っても出来ないだろう。
 さり気なく尊敬の眼差しを送ってくる生徒がいることに気が付かず、担任はやっとため息を吐きながらも今日の業務をこなすことにしたらしい。

「あー……しょうがないなぁ」
「しょうがなくないでーす」
「そうですねー。そしたら、まず学級委員決めよっか。代表やってたし広田君でいっか。オッケー?」
「いや、だから雑だって!」
「僕もそんな理不尽な決められ方、嫌なんですけど」
「えー」

 さっそく詰まってしまった話題に、面倒くさそうな顔を隠しもせずに言い放つ。

「じゃんけんでいいや」
「「いいや、じゃねぇええええ」」

 ブーイングの嵐も気にせずに、担任はゴリ押しで通してしまった。
 かくして、あまり類を見ない「学級委員決定じゃんけん大会」が開催された。ルールは簡単、全員でじゃんけんして最後まで負けたクラス一じゃんけんの弱い者が学級委員に決定となる。

「せぇ~の! じゃんけんぽん!」

「うおー! 負けたぁ」
「やったー!」
「もう半分消えた!」

 意外にも盛り上がりを見せる中、葵もこっそり参加する。
 学級委員なんぞになりたくはないのだが、もしも、あとで「参加していないから学級委員ね」と言われたら言い返す自信が全く無い。だから、今までも基本的に教師に言われたことには全て大人しく従ってきたのだ。

 横を見れば、葵が参加しているからか山上も参加していた。意外だ。というか、不真面目ですを絵に描いたような山上がじゃんけんしている姿が異様だった。
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