最弱伝説俺

京香

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第三章 三大イベント

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 無理矢理ながらも代表者になってしまったので球技大会のプリントをよく読んでみたところ、何故人気があるのか理解した。優勝チームには食堂無料券が進呈されるらしい。
 ここに通う生徒は金持ちでもなんでもない。中には金に不自由したことのない人間もいるかもしれないが、たいていは一般庶民だ。

 もしくは、女子に良いところを見せたいか、単純に暴れたいか。一番最後が有力な気がしてきた。気が滅入る。

――そういえば、代表者に一人女子もいたな。あのメンツに女子一人って大変だ……何かあったら助けないと……俺が助けられたりして。

 そういえば、例のお面男は球技大会に出るのだろうか。代表者の中にいたりして。そうだとしたら、大乱闘が起きそうでぞっとした。もしも球技大会で不良たちが問題を起こしたとしたら。

「今から考えたって無駄だな。何が起きたって、俺がどうこう出来る立場じゃないし」

 それでもどうにもならない気分になって、実家で働いているあの人に連絡を取ってみた。

『どうした』
「声が聴きたくなった」
『はは、ホームシック?』
「うん」

 素直に返せば、さらに機嫌の良さそうな笑いが聞こえた。低いトーンが心地良い。
 昔からこの声が好きだった。葵を一番に考えてくれるところも、ダメなところはしっかり叱ってくれる(しかも暴力は無し)ところも好きだが、声がダントツで好きだ。顔より声の印象が強い程に。

『かぁわいい。俺の顔でも思い出して寝ろよ』
「うん」
『うそ。ほんとにホームシックじゃん。大丈夫? イジメられてない?』
「だいじょぶ。イジメられてはない」

 むしろイジメる側だと思われて距離を置かれている。これはこれでツライ。

「ひー君」
『なに?』
「次会ったら二人で遊んで」
『いいよ』

 葵のお花畑な脳内に、ひー君と遊ぶ妄想が広がる。これで今日は良い夢が見られそうだ。
 だるんだるんに緩んだ頬を引き締めるべく、陣作成プリントを読み込んでからこの日は就寝した。

「ひー君、おやすみ」

 熟睡し過ぎて夢は見なかった。
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