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21.こうすれば恋人に見える
しおりを挟むまた新たに困った事になった。
マオが歩く時に手を握らなくなった。
そのかわりに、肩を抱いたり腰を引き寄せて歩くようになってしまったのだ。
「こうすれば恋人に見える」
「……」
どうやら街で、いらない事を覚えてきてしまったらしい。
街でイチャついてたカップルが居たんだろうなぁ。
「あの……恋人では無いと思うんですが……っ」
「なる。絶対になるから大丈夫だ」
「大丈夫って……」
絶対になる、と豪語するわりに、マオの表情はあまり自信がないように見えた。
だめ? だめ? と、まるで僕からのお許しを乞うような瞳をしている。
そんな瞳で見られたら反応に困る。まるで叱られ待ちの子犬のようで、ついつい「もう良いよ」と言ってしまいたくなるじゃないか。
「……外ではあまり恥ずかしい事しないでくださいね……」
しかし流石に恋人を受け入れるわけにはいかないので、ゴニョゴニョと言葉を濁して視線をそらす。
都合の悪い事を後回しにするのは僕の悪い癖だとは思うけれど。
でもどうやらこの魔王はしばらく僕の隣を離れそうにないので、ゆっくり考えていけば良いとも思うのだ。
「次の街もこれで安心だ」
「……」
次の街もとっても心配だ。
✧ ✧ ✧
「サク、ん」
「お、ありがとう“ ”。今日も綺麗だね」
最近のあの子は、花を贈る行為を覚えた。
街で二人で歩いている時、男性が恋人であろう女性に、小さな花束を渡しているのを見たからだ。
「どうして花をあげてるの?」と聞かれたから「好きな人に好きだよって伝える為に花を贈るんだよ」と答えた。
その日から、毎日のように野花を摘んで僕にくれるようになったんだ。可愛すぎるでしょう。
道端に咲く小さな花ばかりだが、毎日摘んでは僕のもとに持ってきてくれるあの子。そのおかげで狭く質素な部屋が華やいだ。
今日はひよこのような可愛らしい色の小さな花だ。
「じゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃい」
可愛い笑顔に見送られ、僕は今日も仕事に行く。
傭兵として街の治安を任されている僕は、家を出た瞬間からもう仕事だ。
街の治安は悪い。国が荒れるにつれて窃盗や強盗、闇市場や奴隷商が横行し、街には貧富の差が広がっていた。
正直もう、領主の傭兵だけでは対応できなくなっている。
それでも雇われたからにはやるしかないのだけど。
「よぉクラッソ、まだ生きてたか」
「生きてますよ。縁起でもないなぁ」
僕は名字が無いので生まれの村の名で呼ばれている。それが名字の代わりなのだ。
見回り中に傭兵仲間と会い、軽口をたたきながらそのまま合流した。その方が安全だからである。
以前はこの男とはさほど仲良く無かった。むしろこの男は、僕が弱いから良くバカにしていたくらいだ。
しかし、国が荒れると共に負傷する傭兵仲間が増え、ついには命をおとす者も現れた。
そうなれば残った者同士で仲間意識が強まり、自然と力を合わせるようになったのだ。
「なぁ知ってるか? 王の噂」
「噂が多すぎて逆に分かりません」
「はは、ちげーねぇな」
不穏な噂話はいやでも耳に入る。巨人の村を焼いたとか、ドワーフを奴隷にして大量の武器を作らせているとか、近々悪魔が襲ってくると民の恐怖を煽って教会の信者を増やしてるとか。
とにかく、ろくでもない噂はいくらでも聞こえてくる。
「あの強欲王、今度はげっこーじゅ? ってやつを奪ってきたらしい」
「月光樹を?」
しかし今回は、また新たなろくでもない噂だった。
「月光樹って、不老不死の噂があるアレですか?」
「お! 知ってんじゃんお前」
あの子の事を知るために読んだ、精霊族の本で得た知識だ。
不老不死の噂は眉唾物だが、不思議な力を持つのは間違いない。
なるほど、あの王様が欲しがるわけだ。
「無理に奪ったからかなり先方を怒らせたらしくてさ、まぁたこの国の敵が増えたってわけだ」
「……迷惑な話ですよね」
奪った元は、やはり精霊族の里だろうか。
精霊族と竜人族以外を認めない排他的な里だと、本にはあった。
そしておそらく、あの子の故郷。
「もしかしたら俺たちまで戦争に駆り出されるかもなぁ……」
「それは──」
「あっ! おいお前何してるっ!」
不穏な話題に移った所で強盗現場に遭遇し、話はここで終わる。
精霊族から大切な木を奪った国。
ざらりとした不安を残したまま、なんとか無事に今日の日を終えてあの子に会いたいと考え続けた。
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