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序章 はじまりの予知夢と思惑
双子の皇女5
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アヴァの為…とエヴァを否定したフィル王に誰一人意見する者はいない。
流れる沈黙に、きっと最初から独りきりだったのだと唇を噛んだ。
大きく息を吸い込むと、エヴァは握り締めた拳に力を入れた。けれども絞り出した返答は、それとは反対に消え入りそうな程小さくなった。
「…分かりました。明日、出立致します」
「…余はこの国をまた一つにしたいと考えている。…同盟の内容書面は後程部屋へ届けさせよう。お前への話は以上だ、早く下がれ」
突き放すように早口に言ったフィル王はエヴァから視線を外した。
「…はい、父上」
…静かに部屋から出ようとした時にすれ違いざまに隣でクスッとアヴァが笑った様な気がしたが、顔を上げて確認する気すら起きなかった。
(出る時に父上に挨拶をしてきたっけ…?)
自室の扉を開けながらエヴァはふとそんな事を思い出した。
「違う、そんな事はどっちでも良い。…早く荷物を整理しなくちゃ」
整理と言いながら部屋を見渡しても荷物という荷物は殆ど無い。
最低限しか与えられない調度品や洋服を眺めながら、よくこれで過ごせたものだと溜息が出てきた。
あれと、これと…と鞄に詰め込みながら偶に出てくる小さな思い出の品に時折手を止めつつ最後に少しの非常食と金貨を確認すると外はいつの間にか陽が沈み、真っ暗になっていた。
恐らくそろそろルカが"食事を…"と言ってくる時間だが元より少食な事もあり、腹は空いていない。
(……外の空気でも吸ってこよう)
部屋に入り込んだ白い月明かりに誘われているのか、エヴァは静かに部屋を出た。
まだ廊下を歩いているだけだというのに既に肌寒さを感じる。
直ぐに戻れてここから一番近い庭は…と考えていると何処からか人の声が聞こえた。
十歩程先にある部屋の扉が僅かに開いている。
「……」
聞き耳を立てるなど下品ではしたないと躊躇いながらもエヴァはそっと近づき中を盗み見た。
僅かな隙間から確認できたのは、黄金色の髪と白髪混じりの茶髪だった。もう一人は見えないが、声から聞き取るとするとあの側近。
(父上とアヴァ…それと、サイラス…?こんな部屋で何の話?)
完全に閉まりきっていない扉には気が付いていない様子で三人は話を続けている。
「明日、出立と言っていたわよね。あの子に上手くできるかしら、不安だわ」
「同盟内容からは恐らくどの国も不満は出ないかと。問題はあの方がどの位時間がかかるか…ですね。後から監視を追わせます」
「遅かれ早かれ同盟を締結させればあれには用はない。サイラス、逐一行動を報告せよ」
「御意。供人は如何致しましょう?監視は置くとして、他国に失礼があっては元も子もありますまい。万が一に備え…」
「ふ…む……ルカには懐いているようだが…どうだ?」
「駄目よ、お父様。ルカの方もあの子に対して思い入れがあるもの。…側近を連れて行くならイーサンかチャドね」
(これは…私の話?監視…どういう事?)
一体この同盟には何の思惑があるのか。
困惑するエヴァの脳裏にフィル王が言ったあの言葉が甦る。
『余はこの国をまた一つにしたい』
今思えば、それなら四国が集まり話をすれば良いのではないのだろうか?何故わざわざ同盟を各国と結ぶ必要があるのか疑問が浮かんだ。
「…——…。じゃあ、チャドに決まりね。彼もこちら側だから説明すれば問題ないわ」
「そうですね…私からも申し伝えておきます。フィル王陛下、宜しいですか?」
「うむ、良かろう。全てが整ったら帰国前に処分する様に伝えろ。サイラス、その後…」
「存じております、記憶操作し各国からあの方の存在を抹消させます」
そこまで聞いてエヴァは慌ててその場から離れた。もはや月明かりのある庭などどうでも良くなり、小走りに元来た廊下を戻り部屋を目指した。
(…処分…私を?最初から…あの日から生かされていたのはこの為だったの?皇族であるが故に他国も簡単に同盟を拒否する事はできない。この国から私が離れれば…いなくなれば破滅の…)
「エヴァ様?一体何処に行かれてたのですか?お食事を…」
ぐるぐる回る思考を遮るようにルカの声が聞こえて我に返った。部屋の前に待機した彼は不思議そうに首を傾げた。
「…ルカ、私…は最初から…この為に生かされていたの?貴方知っていたの?」
「エ、エヴァ様?何かあったのですか?」
流れる沈黙に、きっと最初から独りきりだったのだと唇を噛んだ。
大きく息を吸い込むと、エヴァは握り締めた拳に力を入れた。けれども絞り出した返答は、それとは反対に消え入りそうな程小さくなった。
「…分かりました。明日、出立致します」
「…余はこの国をまた一つにしたいと考えている。…同盟の内容書面は後程部屋へ届けさせよう。お前への話は以上だ、早く下がれ」
突き放すように早口に言ったフィル王はエヴァから視線を外した。
「…はい、父上」
…静かに部屋から出ようとした時にすれ違いざまに隣でクスッとアヴァが笑った様な気がしたが、顔を上げて確認する気すら起きなかった。
(出る時に父上に挨拶をしてきたっけ…?)
自室の扉を開けながらエヴァはふとそんな事を思い出した。
「違う、そんな事はどっちでも良い。…早く荷物を整理しなくちゃ」
整理と言いながら部屋を見渡しても荷物という荷物は殆ど無い。
最低限しか与えられない調度品や洋服を眺めながら、よくこれで過ごせたものだと溜息が出てきた。
あれと、これと…と鞄に詰め込みながら偶に出てくる小さな思い出の品に時折手を止めつつ最後に少しの非常食と金貨を確認すると外はいつの間にか陽が沈み、真っ暗になっていた。
恐らくそろそろルカが"食事を…"と言ってくる時間だが元より少食な事もあり、腹は空いていない。
(……外の空気でも吸ってこよう)
部屋に入り込んだ白い月明かりに誘われているのか、エヴァは静かに部屋を出た。
まだ廊下を歩いているだけだというのに既に肌寒さを感じる。
直ぐに戻れてここから一番近い庭は…と考えていると何処からか人の声が聞こえた。
十歩程先にある部屋の扉が僅かに開いている。
「……」
聞き耳を立てるなど下品ではしたないと躊躇いながらもエヴァはそっと近づき中を盗み見た。
僅かな隙間から確認できたのは、黄金色の髪と白髪混じりの茶髪だった。もう一人は見えないが、声から聞き取るとするとあの側近。
(父上とアヴァ…それと、サイラス…?こんな部屋で何の話?)
完全に閉まりきっていない扉には気が付いていない様子で三人は話を続けている。
「明日、出立と言っていたわよね。あの子に上手くできるかしら、不安だわ」
「同盟内容からは恐らくどの国も不満は出ないかと。問題はあの方がどの位時間がかかるか…ですね。後から監視を追わせます」
「遅かれ早かれ同盟を締結させればあれには用はない。サイラス、逐一行動を報告せよ」
「御意。供人は如何致しましょう?監視は置くとして、他国に失礼があっては元も子もありますまい。万が一に備え…」
「ふ…む……ルカには懐いているようだが…どうだ?」
「駄目よ、お父様。ルカの方もあの子に対して思い入れがあるもの。…側近を連れて行くならイーサンかチャドね」
(これは…私の話?監視…どういう事?)
一体この同盟には何の思惑があるのか。
困惑するエヴァの脳裏にフィル王が言ったあの言葉が甦る。
『余はこの国をまた一つにしたい』
今思えば、それなら四国が集まり話をすれば良いのではないのだろうか?何故わざわざ同盟を各国と結ぶ必要があるのか疑問が浮かんだ。
「…——…。じゃあ、チャドに決まりね。彼もこちら側だから説明すれば問題ないわ」
「そうですね…私からも申し伝えておきます。フィル王陛下、宜しいですか?」
「うむ、良かろう。全てが整ったら帰国前に処分する様に伝えろ。サイラス、その後…」
「存じております、記憶操作し各国からあの方の存在を抹消させます」
そこまで聞いてエヴァは慌ててその場から離れた。もはや月明かりのある庭などどうでも良くなり、小走りに元来た廊下を戻り部屋を目指した。
(…処分…私を?最初から…あの日から生かされていたのはこの為だったの?皇族であるが故に他国も簡単に同盟を拒否する事はできない。この国から私が離れれば…いなくなれば破滅の…)
「エヴァ様?一体何処に行かれてたのですか?お食事を…」
ぐるぐる回る思考を遮るようにルカの声が聞こえて我に返った。部屋の前に待機した彼は不思議そうに首を傾げた。
「…ルカ、私…は最初から…この為に生かされていたの?貴方知っていたの?」
「エ、エヴァ様?何かあったのですか?」
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