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ボロアパートに引っ越した僕は知らなかった

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 僕は小さな鍵を手にしてドアの前に立っていた。
 これから僕の新生活が始まるんだ!
 ――と言っても新居はボロアパートなんだけどね。
 入居者は僕一人だけ。家賃は安いし、一人だから騒音問題もない! ラッキー!

「あの、早くしてくれませんか?」

 おっと。引っ越し業者さんを待たせているんだった。
 僕は鍵を回し、ドアを開ける。
 部屋の中には女の子がいた。知らない女の子だ。びっくりするくらいの美少女だ。
 え? どういうこと? ここって僕の部屋だよね? 誰あのめちゃくちゃ可愛い娘。もしかしてテレビのドッキリとか?

「奥に運んじゃいますねー」

 業者さんは女の子に目もくれずダンボールを運び込む。
 女の子はにこやかに笑いながら手を振っている。僕は小さく手を振り返す。
 すると、女の子はびっくりした表情を浮かべる。
 先に手を振ってきたのはそっちだろうに。
 女の子は高校生くらいだろうか。Tシャツにスカートとラフな格好をしている。それにしても可愛い。

「運び終わりましたよ」
「え? ああ、ありがとうございました」

 どうやら見とれていたようだ。僕はお礼を言って業者さんを見送る。


 部屋には僕と女の子の二人だけ。

「えっと」
「あの」

 僕と女の子の言葉が重なる。

「先にいいですよ」

 女の子の声は透き通っていて綺麗だった。

「まず、あなたは誰ですか?」
白峰洋子しらみねようこといいます」
「なぜこの部屋に?」
「私、以前ここに住んでいたんです」
「忘れものとか?」
「いいえ」
「懐かしくなったとか?」
「全然」
「じゃあ、何でここにいるんですか?」

 謎は解けない。
 僕としてはずっと居てもらっても良いくらいだけど。

「ここにいる理由を話す前に、私からも一つ質問していいですか?」
「ええ、もちろん」
「私のこと見えてますよね?」
「え? 見えますよ。可愛い顔がはっきりとね」

 心の声がもれてしまった。死にたい。

「へ? 可愛い? あ、ありがとうございます」

 照れた顔も可愛い。

「ちょっと待ってください! 私の顔が見えるんですか!?」
「は、はい」

 いきなり身を乗り出してきたので、たじろいでしまった。ていうか近い!

「そういう人に会ったのは初めてです! 嬉しいなー!」

 白峰さんは僕の手を握ってぶんぶんと振る。

「落ち着いてください。いったい何のことですか?」
「私、幽霊なんですよ」

 そう言って白峰さんはにこっとほほ笑む。

「ええーー! 幽霊!?」

 ボロアパートに引っ越した僕は知らなかった。僕の部屋に美少女の幽霊が住んでいることを。
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