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クリステル

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 クリステル・ザハードは、公爵家の長女で、上には兄、下には妹と弟がいる長女だ。兄妹は仲がよい。ザハード公爵家を継ぐのはクリステルとほんの小さな頃より決まっていて、兄や弟は彼女を助けるために育てられている。
 また妹も魔力が高く、将来的には高位貴族に嫁ぐ事が決まっていた。


 クリステルには逸話がある。それは公爵夫人が彼女を出産した時、まさに今膣道を通って出てきたクリステルの頭が、まるで光源のようにピッカピカに光っていたそうだ。
 驚いた産婆が思わず悲鳴を上げ、扉の前に待機していた父親が慌てて部屋の中に飛び込むと、部屋中が光で満たされていて何も見えないほどだった、らしい。


 おそらく聖魔法の使い手だろうと、一ヶ月後に連れていかれた教会での判定は『全魔法対応型オールラウンダー』というものだった。



 得意なのは『聖魔法』と『風魔法』ではあるが、他の魔法も平均以上に使える『聖女』と呼ばれる稀有な存在として、クリステルは幼い頃から大切に育てられた。

 ところが、クリステルはその状況が大いに不満だった。皆が自分に傅き、丁寧だがまるで腫れ物のように扱われる。
 大人に囲まれているため歳の近い友達が出来ないし、妹や弟はクリステルと能力差があり、まだクリステルの力の暴発の危険性がある為、一日のうち僅かな時間しか会うことが叶わない。母や父も忙しく、兄はクリステルを時々構ってくれたが、領地の運営の勉強や学業に大忙しで、そんなに沢山の時間一緒にいられない。
 少女は小さな頃から少しずつ、孤独を積上げていった。

 ある時、「寂しい」と我慢が出来なくなったクリステルが父に訴えかけると、彼は数日後に一人の少年をクリステルに会わせた。それが、エリオットだった。
 銀髪に美しい薄紫の瞳の少年は、賢そうな顔立ちをしていて身のこなしもその年齢以上に洗練されていた。


『初めまして。クリステル様。私はエリオット・フランコリン、フランコリン公爵家の次男です。貴女の婚約者に選ばれ、光栄です。』

『婚約者…?』

『はい。私は貴女を支えるために、尽力したい思っております。』

『…それは、私とともだちにもなってくれると言うこと…?』

『ともだち…。』



 エリオットは一瞬、切れ長の形のよい目を丸くしてきょとんと、クリステルの顔を見つめたが。直ぐに笑顔になって頷いた。


『うん。いずれは夫となるけれど、まずは友だちになろう。』




 エリオットは、クリステルが持っている能力に関係なく、年相応の普通の少女であるように彼女を扱ってくれた。
 一緒に本を読み、馬に乗り、かけっこをしたりかくれんぼをしたり。約束通り友達になってくれた最初の人物であった。
 数年後にエリオットの友達の伝でネイフィアを紹介され、更にクリステルの世界は輝き始める。

 彼らとの日々の中で、クリステルは寂しかった心が満たされ、のんびりとした少女に育った。

 そして。



「クリス!新しい友達できたの!」

「は、初めまして!ノエリアです!」


 ネイフィアが中庭でナンパしたノエリアを連れてクリステルの元へと連れてきて、更に友達が増えることとなった。



「まあ。初めまして~。クリステルです。」


「クリス、テル。…テルテル。」

「はぁ~い。」

「いや受け入れるの早っ!」

「じゃあ、貴女のことはノンって呼んでもいい~?」

「ノン!可愛い!好き!」

「こっちもはやー!」




 こうして、力の秀でた三人は出会ったのだった。







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