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お兄様が爆誕?
「ティニー。お兄さま、欲しくないかい?」
「……お兄様?」
突然父にそう問いかけられて。
ブランケットを羽織ってカウチにちょこんと座り、暖炉の前で静かに本を読んでいたティファーニーナはまん丸の大きな薄水色の瞳をぱちくり、と瞬かせた。
淡い白金髪をハーフアップにして綺麗に編み込み、瞳の色に近いドレスを着てその少女は妖精のような可憐さを漂わせている。まだあどけなさが存分に残るティファニーナは、今年で十三歳だ。
「お兄様って、あの?」
娘に目を輝かせてそう問い返され、父親であるスティフ・エルスロッド伯爵は戸惑った。
「えっと、どのお兄様がいるんだろう……、まあいいや。そうだね。あのお兄様だよ。」
「私に美味しいお菓子を譲ってくれたり、テスト勉強を教えてくれたり、頑張ったら褒めてくれたりする、あのお兄様?」
「……随分と認識に偏りがあるな。」
期待に目をキラキラさせながらそう早口に語った娘に、父は戸惑ったようにそう呟いた。少女は一瞬だけ慌てたような表情をした後に「本で読んだの。」と言った。
「……そういうお兄様なのかは分からないが。レオンハルト君はとても聡明で良い子だよ。」
「お兄様は、レオンハルトって言うの?」
「そうだ。」
「レ、レオンハルト」とティファーニーナは小さく繰り返した。何故か小刻みに震えているのに、父親は小首を傾げた。
「レオンハルト……!!お兄様。素敵、とても素敵だわ!それで、私にお兄様が出来るのはいつなの?」
「……ティニーに抵抗感無さすぎてお父様の方がびっくりしてるよ。
まあ、ティニーに異議が無いのであれば直ぐに「異議なし!!」わーお、さすが我が娘。」
父の言葉が終わる前に、ティファーニーナはキラキラ、いや若干ギラギラした目で元気良く言い放った。
エルスロッド伯爵家はティファーニーナしか子どもがいない。
その為に、祖父の意向で男子の養子を迎える事になったとその後に父は少女に教えてくれた。
今後、ティファーニーナがエルスロッド伯爵家に留まる事になっても、結婚で嫁ぐことになっても良いようにとの配慮らしい。
ティファーニーナが留まる場合という事は、即ちレオンハルトは彼女の花婿にするつもりで選ばれているのだが、特に何も考えていない少女はそんな事は微塵も考えずに「お兄様」という響きにワクワクしていた。
そして。
初夏の淡い光に烟るような銀色の雨がシトシトと降る中、レオンハルトはエルスロッド伯爵家へとやって来た。
初めて彼を見た時、ティファーニーナはあまりのその容姿の美しさに吃驚して言葉を失ってしまった。
レオンハルトは、ハイリオル公爵家の出身だと少女は父から事前に聞いていた。
ハイリオル公爵家と言えば、王家の血筋にも当たる由緒正しい大貴族である。その特徴は漆黒の闇よりも深い美しい黒髪と、神秘的な星を閉じ込めたような紫水晶の瞳にあった。
レオンは、その色合いを正に余すこと無く完璧に引き継いでいた。
十三歳のティファーニーナよりも二歳年上のレオンハルトは、十五歳にしては身体が小さく、目線の高さも少女とほぼ同じくらいだった。その顔立ちは儚げで中性的でどことなく近寄り難い雰囲気の──兎に角今まで見た事のない程の、物凄い美少年だったのだ。
ティファーニーナは、最初は口をぽかんと開けて彼を見つめていたが、然し、次の瞬間にはぱぁあ、と音が付いてそうな満面の笑顔を浮かべ「お兄様!」と大きな声で言った。
その声に驚いた様に少年はびくりと肩を揺らし、そしてティファーニーナを見て、一瞬だけ目を見張ったが──それは本当に刹那の事で。直ぐに真顔に戻ると少女から視線を外し、目を伏せた。
「……レオンハルトです。よろしくお願いします。」
「初めまして、私はティファーニーナです!やっと会えましたね......!!
是非、私のことはティニーと呼んでください。お兄様のことはなんとお呼びすれば良いですか?」
「……何とでも。」
「何とでも?」
その答えにティファーニーナは一瞬だけきょとんとした。
無表情のまま俯いてしまった少年の様子を見て、少女は一瞬だけ口元を押さえ──少しだけ何かを考えた後に、再び頬を染めてにこっと花が綻ぶように笑った。
「では、レーヴェお兄様とお呼びします!」
その言葉にレオンハルトは何も反論せず、ちらりとティファーニーナの顔を見ただけだった。少女はその反応に、あれ?と再び首を傾げ、父だけがうんうんと嬉しそうに頷いていた。
「では私もレーヴェと呼ばせてもらおう。レーヴェ、今日からは此処が君の家だ。どうか末永く、よろしく頼むよ。」
「……はい。よろしくお願い致します。」
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