貴方は私のお兄様?

須木 水夏

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転生先は意地悪な義妹?







 ティファーニーナには、物語には載っていないが元々兄弟が居ない。
 その為、幼い頃から存分に甘やかされ、そしてそのまま超ド級のわがまま娘へと成長する。見た目だけは非常に愛らしい、。中身が入れ替わるまでは。
 
 物語でハイリオル公爵家より、養子としてやってきたレオンハルトをティファーニーナはとても嫌っていた。理由は、今まで自分が享受してきた独り占め出来る色んなものを、彼に分け与えなくてはならなくなったからである。
 その上、彼が嫡男になる事でティファーニーナは自身が大事にされなくなるのでは、と危惧したのだ。



 エルスロッド伯爵家は、父一人子一人の家族構成で、そこに加わった賢いレオンハルトは父から可愛がられていた。それが気に入らなかったティファニーナは、彼を兎にも角にも虐めた。
 物を壊す、盗む、捨てるの3ステップは勿論のこと、使用人に言いつけて色んな罪を着せてみたり、食事に腐ったものを入れてみたり、家から締め出してみたり。父はその都度少女を叱っていたが、ティファーニーナはその場で反省しているように見せるだけで、ほとぼりが冷めるとまたレオンハルトを虐める。
 暴力を振るったりはしなかったが、裏でネチネチと陰湿な事を繰り返した。それが、彼がエルスロッド伯爵家にやって来て、ティファーニーナが嫁いでゆく五年間の出来事だ。最悪である。

 最終的に、レオンハルトを虐めていたことがヒロインによって暴かれ、それは幾つかの刑事事件にまで発展してしまった。その結果はヒロインが傷ついたレオンハルトを慰めるのもお約束のやつである。

 結局、闇を暴かれたティファーニーナは父にも見放されてしまい、それが原因で嫁の貰い手が無くなってしまい、遠く離れた隣国の商家へと嫁ぐことになってしまったのだ。ヒロイン達は、色んなことを乗り越えてハッピーエンドになったのだろう。彼女がその結末を知らないのは、最後まで読む前に死んでしまったからだ。







「どう考えても無理だわ~。あんなに可愛らしいお兄様を虐めるなんてどうかしてるわよね。」


 中の人が変わってしまったティファーニーナは、帰ってきた部屋の中で早速次の贈り物を刺繍する準備をしながらそうぼやく。

 彼女は、何の弾みでこの物語に入り込んでしまったのか──今でもはっきりと覚えている。
 彼女は元々、ティファーニーナの中の人になるまでは日本という国で女子高校生だった。
 母が刺繍作家であり、父が料理研究家という少しだけ特殊な家庭に育ち、そして彼らを見て成長した少女も刺繍や編み物、料理が子どもの頃から大好きであった。
 十七歳の冬で、もう三学期も終わりの頃だった。大学への進学も決まり、その時にはもう殆ど学校へは行かずに卒業式を控えていた。友達の咲良と柚香と会ってお茶して、大学離れても連絡取り合おうねってきつく約束して。

 その日も帰り道に手芸店に寄った。
 いつもの帰り道で、何の変哲もない何時もの道で。あまり見た事のない大きな犬に吠えられて、手元の携帯を見ていたから吃驚して咄嗟に後ろに飛び退いたら、積もっていた雪に足元を取られて滑った。

 そして、後ろにあった物──おそらく電柱──に頭をぶつけて、そこからもう何も覚えていない。

 そこで記憶が終わっているので、恐らく死んでしまったのだろう。気がついたら、当時六歳のティファーニーナの中に入ってしまっていた。

 別人の身体の中に入ってしまって最初はとても驚いたし動揺した。その上、六歳の体に女子高生の精神はちょっとばかし負荷が大きかったのか、その後一週間熱を出して寝込んだ。
 寝ている間に「もう元の家族には会えないんだ」という気持ちを何度も噛み締めて、たくさん泣いた。
 けれど、回復した後の彼女は切り替えが早かった。転生先は、悪いことばかりじゃなかったから。

 まず、自分の容姿を鏡で見て驚いた。輝く白金髪に水色の大きな瞳。柔らかそうなモチモチほっぺの超絶美少女であった。大人になったらめちゃくちゃ美人になりそう……、とごくりと唾を飲み込んだ。

 そして次に、エルスロッドという姓を気に入った。奇しくも、その当時ハマっていた『生まれ変わりはお姫様?』というタイトルの小説に出てくると同じだ!と興奮した(その時はまだ物語だとは知らずに推しの名字と一緒だとテンションが上がっていた。)

 またティファーニーナの実家が伯爵家だったことで、衣食住に困ることがなかったのも良かった。現代日本のようにインフラが完備されている訳ではなかったけれど、お湯を沸かせばお風呂にも入れるし、電気よりはかなり暗いけど、ランプ生活にも慣れればなんてこと無かった。そして、まだ学園にも通っていないので時間が沢山ある。沢山あると言うことは、趣味の刺繍や編み物やお絵描きをいろいろできるということだ。



「悩んでもどうにもならないなら、どう生きてゆくのかを考えなくちゃ。」


 ティファーニーナの幼少期よりの記憶も、彼女の中には残されていた。思えばこの子も父は仕事で忙しく母親がおらず、侍女達が始終相手をしてくれるわけではないので放って置かれた可哀想な子どもである。
 でもだからといって他人を虐めて良いわけではない。

 




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