4 / 39
転生先は意地悪な義妹?
しおりを挟むティファーニーナには、物語には載っていないが元々兄弟が居ない。
その為、幼い頃から存分に甘やかされ、そしてそのまま超ド級のわがまま娘へと成長する。見た目だけは非常に愛らしい、めちゃんこ性格が最悪なキャラクターであった。中身が入れ替わるまでは。
物語でハイリオル公爵家より、養子としてやってきたレオンハルトをティファーニーナはとても嫌っていた。理由は、今まで自分が享受してきた独り占め出来る色んなものを、彼に分け与えなくてはならなくなったからである。
その上、彼が嫡男になる事でティファーニーナは自身が大事にされなくなるのでは、と危惧したのだ。
エルスロッド伯爵家は、父一人子一人の家族構成で、そこに加わった賢いレオンハルトは父から可愛がられていた。それが気に入らなかったティファニーナは、彼を兎にも角にも虐めた。
物を壊す、盗む、捨てるの3ステップは勿論のこと、使用人に言いつけて色んな罪を着せてみたり、食事に腐ったものを入れてみたり、家から締め出してみたり。父はその都度少女を叱っていたが、ティファーニーナはその場で反省しているように見せるだけで、ほとぼりが冷めるとまたレオンハルトを虐める。
暴力を振るったりはしなかったが、裏でネチネチと陰湿な事を繰り返した。それが、彼がエルスロッド伯爵家にやって来て、ティファーニーナが嫁いでゆく五年間の出来事だ。最悪である。
最終的に、レオンハルトを虐めていたことがヒロインによって暴かれ、それは幾つかの刑事事件にまで発展してしまった。その結果はヒロインが傷ついたレオンハルトを慰めるのもお約束のやつである。
結局、闇を暴かれたティファーニーナは父にも見放されてしまい、それが原因で嫁の貰い手が無くなってしまい、遠く離れた隣国の商家へと嫁ぐことになってしまったのだ。ヒロイン達は、色んなことを乗り越えてハッピーエンドになったのだろう。彼女がその結末を知らないのは、最後まで読む前に死んでしまったからだ。
「どう考えても無理だわ~。あんなに可愛らしいお兄様を虐めるなんてどうかしてるわよね。」
中の人が変わってしまったティファーニーナは、帰ってきた部屋の中で早速次の贈り物を刺繍する準備をしながらそうぼやく。
彼女は、何の弾みでこの物語に入り込んでしまったのか──今でもはっきりと覚えている。
彼女は元々、ティファーニーナの中の人になるまでは日本という国で女子高校生だった。
母が刺繍作家であり、父が料理研究家という少しだけ特殊な家庭に育ち、そして彼らを見て成長した少女も刺繍や編み物、料理が子どもの頃から大好きであった。
十七歳の冬で、もう三学期も終わりの頃だった。大学への進学も決まり、その時にはもう殆ど学校へは行かずに卒業式を控えていた。友達の咲良と柚香と会ってお茶して、大学離れても連絡取り合おうねってきつく約束して。
その日も帰り道に手芸店に寄った。
いつもの帰り道で、何の変哲もない何時もの道で。あまり見た事のない大きな犬に吠えられて、手元の携帯を見ていたから吃驚して咄嗟に後ろに飛び退いたら、積もっていた雪に足元を取られて滑った。
そして、後ろにあった物──おそらく電柱──に頭をぶつけて、そこからもう何も覚えていない。
そこで記憶が終わっているので、恐らく死んでしまったのだろう。気がついたら、当時六歳のティファーニーナの中に入ってしまっていた。
別人の身体の中に入ってしまって最初はとても驚いたし動揺した。その上、六歳の体に女子高生の精神はちょっとばかし負荷が大きかったのか、その後一週間熱を出して寝込んだ。
寝ている間に「もう元の家族には会えないんだ」という気持ちを何度も噛み締めて、たくさん泣いた。
けれど、回復した後の彼女は切り替えが早かった。転生先は、悪いことばかりじゃなかったから。
まず、自分の容姿を鏡で見て驚いた。輝く白金髪に水色の大きな瞳。柔らかそうなモチモチほっぺの超絶美少女であった。大人になったらめちゃくちゃ美人になりそう……、とごくりと唾を飲み込んだ。
そして次に、エルスロッドという姓を気に入った。奇しくも、その当時ハマっていた『生まれ変わりはお姫様?』というタイトルの小説に出てくる推しと同じだ!と興奮した(その時はまだ物語だとは知らずに推しの名字と一緒だとテンションが上がっていた。)
またティファーニーナの実家が伯爵家だったことで、衣食住に困ることがなかったのも良かった。現代日本のようにインフラが完備されている訳ではなかったけれど、お湯を沸かせばお風呂にも入れるし、電気よりはかなり暗いけど、ランプ生活にも慣れればなんてこと無かった。そして、まだ学園にも通っていないので時間が沢山ある。沢山あると言うことは、趣味の刺繍や編み物やお絵描きをいろいろできるということだ。
「悩んでもどうにもならないなら、どう生きてゆくのかを考えなくちゃ。」
ティファーニーナの幼少期よりの記憶も、彼女の中には残されていた。思えばこの子も父は仕事で忙しく母親がおらず、侍女達が始終相手をしてくれるわけではないので放って置かれた可哀想な子どもである。
でもだからといって他人を虐めて良いわけではない。
102
あなたにおすすめの小説
捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました
鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」
そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。
――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで
「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」
と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。
むしろ彼女の目的はただ一つ。
面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。
そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの
「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。
――のはずが。
純潔アピール(本人は無自覚)、
排他的な“管理”(本人は合理的判断)、
堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。
すべてが「戦略」に見えてしまい、
気づけば周囲は完全包囲。
逃げ道は一つずつ消滅していきます。
本人だけが最後まで言い張ります。
「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」
理屈で抗い、理屈で自滅し、
最終的に理屈ごと恋に敗北する――
無自覚戦略無双ヒロインの、
白い結婚(予定)ラブコメディ。
婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。
最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。
-
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完】隣国に売られるように渡った王女
まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。
「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。
リヴィアの不遇はいつまで続くのか。
Copyright©︎2024-まるねこ
記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された
夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。
それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。
ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。
設定ゆるゆる全3話のショートです。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる