貴方は私のお兄様?

須木 水夏

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生きやすくしたい!











 それ迄のティファーニーナは侍女や家庭教師達にも我儘を言いたい放題だったらしいのだが、ある日を境に一切言わなくなった。それどころかきちんと言うことを聞くし大人しいし、あんなに嫌っていた勉強も率先してするようになったのだ。周りは少女のあまりの変わりように病気を疑った。失礼な話である。

 綺麗にカーテシーをして、背筋を伸ばしてちょこんと静かに座るティファーニーナに2週間ぶりに領地から帰還した父親も驚いていた。



「……久しぶりに会ったら、ティニーは雰囲気が変わったね。」
「まあ、お父様。子どもはどんどん大きくなるものですよ!目を離したら一瞬で成長します!」
「なんだか、言葉遣いも賢くなったような。」
「ええ!私ももう七歳ですわ。そして、ティニーはそもそも賢いですから!」
「そうかそうか、そうだな!ティニーは本当に可愛いなあ。」


 のほーっと嬉しそうに鼻の下を伸ばす父に、ティファーニーナは今ならいけるかも!、と更に上目遣いで彼を見つめた。


「そんなお父様に、可愛いティニーからお願いがあります!」
「おお!久しぶりのお願いだね。何でも聞いてあげよう。」


(甘い、父!でもこの甘さ、有難い!)


 ティファーニーナは心の中でガッツポーズをした。


「お父様、是非南部の商家より手に入れて欲しいものがあるのです。」
「南部の?何故?何か欲しい服や宝石でも見つけたのかい?」
「いいえ!宝石よりもある意味貴重なものがあるんです。香辛料と言うものなのですが。」
「コウシンリョウ?聞いたことはあるな。」

 父は首を傾げた。成程。彼の反応を見るとまだこの辺りでは流通しているものでは無いらしい。


「はい!何でもそれを使うと、お肉の臭みを消したり風味に深みを出したり、匂い付けをしたりお料理で色々出来ちゃうんです!」
「何だって?確かに、食事の味が物足りない時もあるから試しては見たいな。……でも、何故そのようなことを知っているんだい?」
「本を読みました!!」
「何?!本で知識を得たのかい?!ティ二ー、凄いじゃないか!!」
「そうなんです、すごいんです~。」


(嘘は言ってないから!)



 本当は、物語が進む中でヒロインが南部出身であり、彼女がスパイスを使って作る料理でヒーロー達の胃袋を掴むという内容があるのだけれど、そんな十年も先の事を待っていられる訳ない。

 不味くはないんけど。
 素材の味が生かされた料理の味は、正直ティファーニーナの中の人にとっては美味しいと呼べる物では無い。
 強く感じるのが塩味だけの一辺倒さにウンザリしてしまったのだ。
 日本に生きていた時のように、少しでもうま味のある食べ物が食べたい...!!甘いものであれば、砂糖と卵と小麦粉があれば自分で作ることが出来るが、肉料理は別である。



(どうせ生きるなら、快適にしたいもの!)


 このまま放っておいても、十年後にはヒロインが南部から持ってきた香辛料は王都で流行るのである。なので、ティファーニーナの家でコソッと先取りしてもなんの問題もないだろう。少女はそう思った。

 早速、娘命の父は南部の商人を家に呼び寄せて香辛料に関して詳しく聞いたらしい。エルスロッド伯爵家は由緒正しい家柄で、それなりに富と地位を得ているので、それは特に難しいことではなかっただろう。
 後日、どっさりと玄関先に積まれた箱を見てティファーニーナは目を輝かせた。
 

「胡椒、ナツメグ、クローブ、ローレル。これはシナモンね。この赤いのはパプリカ?
 うわぁあ、胡麻にサフランにクミン......!これだけあれば色んなことが出来るじゃない...!!」


 これで料理に幅が出る!歓喜に身を踊らせながらスキップし、ティファーニーナは自ら屋敷の厨房を訪れ、料理長にそれらを見せた。


「おお!これが噂に聞いたことのある南部の宝石ですか!」
「肉料理やスープ、パンにも、後は物によってはデザートにも合うわ。お父様に沢山取り寄せてもらったから、今日からじゃんじゃん試してみてちょうだい!」
「承知致しました。」


 その日料理長が腕を振るい、胡椒とローズマリー、ローリエを使って調理された鴨鶏のコンフィは、肉が柔らかくジューシーで涙が出るほど美味しかったのを覚えている。
 胡椒の力、偉大すぎる......!


 食後の紅茶とリンゴパイにはクローブパウダーを加えてもらった。バニラのような甘くスパイシーな香りが鼻腔をくすぐり、ティファーニーナはようやく満足したのだった。

 父も使用人達も、美味しい美味しいと料理を食べた。父は早速香辛料の魅力に取り憑かれたらしく「もっと仕入れよう!」と執事と話をしていた。




 7年後、ティファーニーナは伯爵家のお食事改革を行った事を再び本当に良かったと思った。
 それは、レオンハルトの事だ。
 彼は伯爵家の料理を気に入ったらしく、笑顔までとはいかなくとも──はにかみを見せてくれるようになったのである。やってきた頃には考えられなかった変化だった。



 家族との食事の後湯浴みをして部屋で寛ぎながら、ティファーニーナは丸いほっぺたに片手を当ててほう、とため息をついた。
 




「......お料理を召し上がられた時のレーヴェお兄様のあのお顔を、なんと表現したら良いのかしら...?」
「お嬢様、またレオンハルト様の事ですか?」




 ティファーニーナお付の侍女であるマーサは、ベッドを整えながら呆れたように少女に言った。




 



 

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