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林檎パイとお兄様
「今日は何を作ってみようかしら。
今朝の採れたては林檎、砂糖、シナモン。......これは、アップルパイね。」
アップルパイは今ではティファーニーナの得意なお菓子の一つである。少女は髪を結い上げてエプロンをつけ、袖を捲りあげてボタンで留めた。
手を綺麗に洗ってまずパイシートを作るところから始める。小麦粉を二百グラム準備して、篩にかけた。その次に冷水に塩を少々入れて透明になるまで良くかき混ぜておく。
小麦粉とバターを切るようにして混ぜ合わせ、そこに冷水を加えて粉けが無くなるまで更に手で混ぜてゆく。纏まったら濡れ布巾を掛けて冷暗所に二時間ほど置いておく。
「さて、その間に中身を作りましょうか。」
林檎を二つ準備して、皮をスルスルとむいてゆく。
甘酸っぱい爽やかな良い香りが調理スペースに漂う。この林檎はきっと甘くて美味しいに違いない。
そんな事を思いながら、四つ切りにし後、芯を切り取って台の上で小さく切り刻んでゆく。あんまり小さくすると食感が楽しめないので、ある程度のサイズで。
深めの鍋に小切りにした二つ分の林檎、砂糖、無塩のバターを入れて中火で混ぜながらじっくりゆっくり熱してゆく。そこから水分がなくなるまで時々混ぜながら煮て、頃合になったら火を切る。そしてそこからきちんと冷ましてりんごのコンポートの完成だ。
(うーん、良い匂い。これだけで食べても良いんだけど、我慢だわ。)
「よし、パイシートもそろそろ良い感じかしら?」
棚に一旦しまっていた生地を取り出すと、布巾をとって確認する。うん、大丈夫そう。
台と生地に打ち粉を振り、余分な粉をパタパタと落とす。
そうしたら愛用の麺棒を使い、器用に薄く伸ばしてゆく。ある程度伸びたら三つ折にして、また伸ばす。向きを変えてまた薄く伸ばし、再び折って伸ばす。それを五、六回繰り返す。その後、出来上がったら生地を二枚に分ける。
「型は、これにしよう。」
一枚の生地を、十六センチの丸型の型よりも大きめに伸ばし、伸ばした生地はそのまま型の底に敷き詰めて、はみ出た生地は綺麗に切り取る。フォークでポンポン刺して生地全体に小さな穴を均一に開けてゆく。この作業が地味に好きだったりする。底に砕いたビスケットを敷き詰めて、溶かしバターを回しかける。その上に先程作った林檎のコンポートを
もう一枚のパイシートを伸ばし、そちらは1度四角に形成した後、細長い短冊状にして行く。その生地をパイの上に乗せて編み込んでゆく。何気にこの作業もとても楽しい。均一に綺麗に隙間を開けながら最後まで終えたら、はみ出た部分はまた切り取る。そして、その余った生地ではみ出ないように円周を囲って最後にフォークでしっかりと押さえつける。
「さてさて、艶出しの卵さんを塗りましょう。」
溶き卵をはけに取り、パイ生地の表面に余すことなく塗ってゆく。焼く前でもそれだけで既に美味しそうである。後は、オーブンで四十分ほどしっかりと焼き上げるのだが、ここからは料理長の分野である。なんせ前世の電子オーブンとは違い薪オーブンなのだ。使い勝手はもう覚えたけれど、流石に伯爵家のお嬢様に火の世話まではさせられないと止められてしまう。
「では、料理長。あとはよろしくお願いします。」
「お任せ下さい!芸術品に仕上げてみせます!」
大業な事を言ってにっと笑うと、料理長は恭しく頭を下げた。
ティファーニーナは頷いて調理場から移動すると、次は隣の食料庫へと入ってゆく。次は整然と並ぶ食料品の中から林檎パイと一緒に出す紅茶を選ぶのだ。バターたっぷりのパイ生地と砂糖で更に甘味を増した林檎コンポートを食べた後に、それをサッパリとさせる渋みとコクのある紅茶が良い。
「うん、これにしよう。とても良い匂いだわ。」
一つの瓶を取り出しておく。既に調理場からはアップルパイの焼ける良い匂いが漂ってきている。
今日も美味しいおやつタイムとなりそうだとティファーニーナは満面の笑みを浮かべた。
のだが。
(これは──どういう状況なのかしら?)
いつも通り、三時のおやつの時間にレオンハルトの執務室にデザート持参で向かい、アップルパイの説明を一通りしてさあ!そのまま帰ろうとしたら。何故か呼び止められ、そのままソファーに座らされた。
暖かい湯気の上がる紅茶のカップの向こう側。レオンハルトはじぃっと紫水晶の瞳で目の前のアップルパイを見つめている。ティファーニーナはそんな彼を見つめていて、後ろに控えているマーサは困惑顔でそんな二人を見ていた。
(何故、私はここで座っているのかしら......?)
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