貴方は私のお兄様?

須木 水夏

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お父様は敏腕?








「ああそうだ。香辛料を扱う店を作ろうと思っているんだ。」
「そうなのですか?」
「ああ。」



 夕食時。領地より王都へと一週間ぶりに戻ってきた父は、ニコニコしながらそう言った。今日の夕食は鶏肉の香草焼きである。皮がしっとりジューシーで美味しい。温かいオニオンスープと新鮮なカブとレタスのサラダ、デザートにはミルクプリンを用意している。ティファーニーナは作るのも大好きだが、勿論食べるのも大好きである。
 それをゆっくりと楽しみながら、父が突然そんな事を言ったのでティファーニーナは目を丸くした。



「此方でまとめて購入した方が、向こう側にも利益があるようでね。それならいっその事、貿易事業としてやってみようと思ったんだ。既に国の許可も得ていて商会ギルドへの申請は終わっている。」
「まあ!お父様って有能なんですね!!」
「はっはっは!もっと褒めてくれてもいいぞお。」
「素敵!最高!ビッグなお父様!!」
「はっはっはーーーっ!!!」



 豪快にそう言って笑う父を、ティファーニーナは尊敬を込めて見つめる。レオンハルトはどこが冷めた目でそんな二人を見つめていたが、ふと気がついたように静かな声で言った。



「前例はなかったかと思うのですが、貿易面では特に問題はなかったのでしょうか?」

 
 レオンハルトが言っているのは、南国との貿易の事だろう。北に位置するシーリン国は南部の国とは取引がない。



「レーヴェはそこが気になるかい?」
「はい。国の法律や規約に違反することになるのではと。」
「その通りだ。南国のクセルより香辛料を仕入れているんだが、この国とクセルは貿易の協定関係がない。
 今までは向こうに私の知り合いがいて、個人的なそのツテを使って香辛料を仕入れていたのだが、今回は国同士の貿易事業になるという事だな。」
「......と、言うことは?」
「我がエルスロッド伯爵家は、クセル国の貿易を全面的に任されることになった。」
「......。」
「国の事業として、貿易の南国担当者に任命されたのだよ。」
「......えっ?!そうなんですの?!」



 父の言葉にティファーニーナは思わず声を上げた。


「実は、以前貿易大臣に南部の香辛料の素晴らしさを紹介したのだよ。」
「貿易大臣......。ストリンガル公爵家ですか。」
「流石レーヴェだね。その通り。彼との会食の際に、香辛料を使った料理を振舞った。」
「どうでしたか?」


 父が担当者に任命されたと言うことは、言わずもがな。


「気に入って貰えたさ。これからはもっと大規模に輸入が出来るようになるぞ。」
「まあ!素敵!」
「ふふふ、ティ二ーがまだ見た事の無い香辛料も、パパ頑張って仕入れちゃうぞー!!」
「お父様大好きー!!」


 そう言いながらも、ティファーニーナは「あれ?これって良いのかしら?」と頭の片隅で思っていた。
 物語の中では、香辛料はヒロインと共に南国からやってくる。香辛料をふんだんに使った美味しい料理の数々をヒロインが作る事により、五人のヒーロー達と仲を深めてゆくのだ。ヒーロー達は皆傷ついていて──レオンハルトと同じように何かしらの迫害を受け劣等感や悲しみを背負っている──それを、彼女が底抜けの明るさと美味しい料理で癒してゆくというのが小説のストーリーである。


(私、もしかしてちょっとやってしまったかしら?)


 ティファーニーナとレオンハルトが敵対していない時点で原作とは違う展開になってきているのだが、それは別としてヒロインの役割が変わってしまうのかもしれない。彼女の出身国はクセル国だっただろうか?
 別の国であれば、彼女だけのな香辛料が存在しているだろうか?



「...それでお父様、いつから本格的な輸入開始となるんですの?」
「こちら側の準備は終わっていて、あちらとの規約に関して更に詰める予定だから、それが決まってからだな。三ヶ月後くらいだろうか。」
「まあ、そんなに早く。」
「最初は小規模な交易となるだろうが、市民に行き渡るようになれば大事業になること間違いなしだ。」



 ニコニコしている父は、どうやら仕事のできる男のようである。
 ティファーニーナは黙って食事を続けるレオンハルトをちらりと見た。
 彼は伯爵家にやって来た時よりも少し身長が伸びたようである。頬もふっくらとして、青白かった肌は血色が良くなっている。暗かった表情も心做しか明るい。香辛料たっぷりの肉料理を食べている時もほぼ無表情だけど、目がキラキラと輝いているのを見ると美味しいと感じていて、それが食欲増加にも繋がっているようだ。
 そして、おやつも毎日食べている。
 物語の中のレオンハルトは、病的に色白で排他的な雰囲気の折れそうなほどの細い青年なのだ。小説の中で読む分には良いが、実際に目の前にそんな人がいたなら食べさせたくなるのが人の心理と言うものだろう。


(......お兄様の栄養状態の事を考えると、これで良かった気がするわ。)


 ティファーニーナはそう思い、まあいっかと微笑んだのだった。







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