貴方は私のお兄様?

須木 水夏

文字の大きさ
15 / 39

お兄様が寮に?














「おお、そうだった。それを私も話そうと思っていた。どうする?」
「......在学中は寮に滞在しようと思っております。」


 ティファーニーナはいきなり始まった父と兄の会話に目をぱちくりとさせた。


「寮?レーヴェお兄様、寮に入られるんですの?」
「うん。この屋敷の位置が少し学園に通うには遠いんだ。」
「そ、そうなの、ですね......。」



(寮ですって?!そんな……。)



 そう言えばそうだった、とティファーニーナは物語を思い出した。
 彼は小説の中ではティファーニーナが意地悪過ぎて伯爵家にも馴染むことが出来ず、養子に入って早々に父の手配で学園の寮へと移り住んでいた。ティファーニーナはそれを喜んだが、彼は毎週末に父に執務を習う為に帰宅をしていて、その度にまた執拗に虐めていたのだ。何て性格が悪いんだろうか。

 けれどおかしい。今のところ、ティファーニーナはレオンハルトを一切虐めていないし、何なら仲良くしているつもりだったのに、それでも彼は寮に入ってしまうのだという。会話の流れから見ると父が決めたわけでは無さそうだが、それでも物語の通りの進行だった。
 ヒロインに会う為にはヒーローの一人であるレオンハルトは勿論学園に通う必要があるのだが──出会いの場所が学園だから──すっかり頭から抜け落ちていた事だったので、ティファーニーナはしゅんとした。


(そんなあ……。)



 ショックを受けて明らかに元気がなくなってしまったティファーニーナに、レオンハルトは慌てたように言った。


「毎週末には戻ってくるよ。」
「……本当ですか?」
「うん。……ティファのお菓子を食べに帰る。」
「……まあ!レーヴェお兄様とおやつを食べる時間が減ってしまうのは残念ですけど、戻られた際にご一緒したいですわ!」
「うん。」


 良かった、嫌われている訳では無いらしいとティファーニーナは安心した。しかも今、彼はティファーニーナの名前をティファと呼ばなかったか?気のせいか?ん?と少女が首を傾げて、思考の海を泳いでいると。



「君達は仲が良いなあ。いやあ、年頃の娘がいるところに息子を迎え入れるにあたって親族から心配されていたんだ。パパは最初から信じていたが、今のやり取りを見て安心したぞ!」
「……うふふ。」
「パパも仲間に入れておくれ!」
「勿論ですわ!!」



 小説の中のティファーニーナとレオンハルトの関係は、完全に破綻していたんですけども。
 と思いつつ、レオンハルトへと少女は視線を向けた。彼は何故か頬を少し赤らめて、どこか慌てたような表情をしながら父を見ていたが、ティファーニーナの視線に気が付きギクリと身を強ばらせて、そっと彼女から目を逸らして顔を伏せた。その頬がますます赤くなってゆくのを見て、おや?と少女は思った。


(……もしかして、照れていらっしゃるのかしら?)


 その可愛いらしさにティファーニーナの胸はキュンとする。物語の中ではけして見た事のない彼の姿だったから。




 小説の中のレオンハルトは照れたりするタイプではなく、いつも冷静沈着で、ヒロインを助けたり助言したりする場面でも他のヒーロー達の誰よりも一歩後ろに下がって、けれど一度も離れずに彼女の傍に居た。

 その物語の中では、五人のヒーローとヒロインとのそれぞれの話が展開されてゆく。どれも友情以上恋人未満のような、優しくて焦れったい甘い話がそれぞれある訳だが、その中でも彼女がお気に入りだったのは、ヒロインとレオンハルトの話である。
 他の情熱的、積極的なヒーロー達とは違って、レオンハルトはまるで真綿で包むように優しくヒロインを愛した。控えめな春の風のような柔らかな愛情表現に、心を打たれたのだ。ヒロインに向けられたレオンハルトの真摯な眼差し──それを思い出した瞬間、ティファーニーナの心のどこかにモヤっとした気持ちが湧き出すのを感じた。


(んん?)



 首を傾げたまま、やはり掴めない自身のその気持ちに釈然としないでいる少女の横で、父と義兄は転入と寮の手続きの話をしていた。









 

あなたにおすすめの小説

公爵家の養女

透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア 彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。 見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。 彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。 そんな彼女ももう時期、結婚をする。 数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。 美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。 国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。 リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。 そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。 愛に憎悪、帝国の闇 回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった―― ※月曜にから毎週、月、水曜日の朝8:10、金曜日の夜22:00投稿です。 小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

あなたの隣に私は必要ですか?

らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。 しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。 そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。 月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。 そんな状況で、アリーシアは思う。 私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。

【完結】ハーレム構成員とその婚約者

里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。 彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。 そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。 異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。 わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。 婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。 なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。 周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。 コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のシャレルは、第二王子のジョーンによって無実の罪で投獄されてしまう。絶望の中彼女を救ってくれたのは、ずっと嫌われていると思っていた相手、婚約者で王太子のダーウィンだった。 逃亡生活を送る中、お互い思い合っていたのにすれ違っていた事に気が付く2人。すれ違った時間を取り戻すかのように、一気に距離を縮めていく。 全てを失い絶望の淵にいたシャレルだったが、ダーウィンとの逃避行の時間は、今まで感じた事のないほど、幸せな時間だった。 新天地マーラル王国で、ダーウィンとの幸せな未来を思い描きながら、逃避行は続く。 そしていよいよ、あと少しでマーラル国というところまで来たある日、彼らの前にジョーンが現れたのだ。 天国から地獄に叩き落されたシャレルは、絶望の中生涯の幕を下ろしたはずだったが… ひょんなことから、ダーウィンと婚約を結んだ8歳の時に、戻っていた。 2度目の人生は、絶対にダーウィンと幸せになってみせる、そう決意したシャレルだったが、そううまくはいかず、次第に追い詰められていくのだった。 ※シャレルとダーウィンが幸せを掴むかでのお話しです。 ご都合主義全開ですが、どうぞよろしくお願いします。 カクヨムでも同時投稿しています。

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)