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次のケーキは
しおりを挟むそんな訳で、もう少しで寮に入ってしまうことが決まったレオンハルトの為に、ティファーニーナはますますお菓子作りにのめり込んだ。
「さて。今日はショコラケーキを作りましょう。」
「ショコラケーキですか!」
「おお!」
調理場にて、メモ帳を持った料理長と弟子のテオが目を輝かせる。最近二人はティファーニーナの作るお菓子のレシピを覚えようと、こうしてメモを取りながら手伝いをしてくれている。
ちなみにこの世界は中世ヨーロッパ風なのだが──現代人(しかも絶対日本人)が考えた世界だからなのか、確実に当時そんざいしなかっただろうと思われる料理の材料も普通に手に入る。生クリームやベーキングパウダー、今回使う板チョコレートもその内の一つだ。
電子レンジがないくらいで、オーブンもあるし特に困ることも無いのはありがたい。ちなみに冷蔵庫はあるけれど、電気ではなく毎日氷を二段あるうちの上の棚に仕込んで冷やすタイプである。つまり、電気だけがないのだ。(ここまで揃っているなら電気も欲しいところだが、ちょっとの不便感を出す為の工夫?なのかも。)
(前世の記憶のまま普通に料理を楽しめるのは、嬉しいわね。)
朝のうちに無塩バターと卵は常温に戻しておいてもらって、それぞれの材料の測りも終わっている。型の準備も終わっているのを確認して、ティファーニーナは髪を結い上げると手を丁寧に洗う。エプロンを付けて「よし」と気合を入れて袖をたくり上げると。
「それでは!まずスポンジを作りましょう。」
「「はい!」」
まず、ビターチョコレートを調理台に準備し、細く刻む。
「いい匂いね!さすが高級チョコレート!」
と言いながら、リズミカルに刻んでゆく。サクサク音が気持ち良い。そしてそれをボウルにいれて熱いお風呂くらいのお湯を入れた湯煎で丁寧に溶かしていく。
その間に別のボウルに室温になった無塩バターを入れて、ヘラで先ず混ぜて、そのあと泡立て器で優しくクリーム状になるまで練る。柔らかいバターはあっという間に形を変えていくのが楽しい。
そこへグラニュー糖を加えて、更に白っぽくふんわりするまで良くかき混ぜる。ここから先もまだ根気のいる作業が続いてゆく。
溶かしたチョコレートを加えて切るように混ぜ、よく混ぜ合わさったら次は白身と分けて溶いておいた卵黄を、3回に分けてゆっくりと混ぜてゆく。
一旦それは置いていて、今度は白身を別のボウルに入れ泡立て器で少し泡だて(白くなる位まで)、そこに別途グラニュー糖(さっきよりも少し多め)を加えて今度は柔らかい角がたつまで混ぜる。
(いい感じ。)
先程混ぜておいたチョコと卵黄のボウルに、メレンゲを1/3程度に先に入れてサックリと混ぜ合わせ、残りのメレンゲも入れてふんわり混ぜ合わせる。甘い香りがしていて、既に美味しそうなのだけれど、そこへ薄力粉を篩にかけながら投入して、それもヘラでさっさっと混ぜ込んでいく。
「さあ、型へと入れるわよ。」
バターを塗った丸型の型に、スポンジの元を流し込む。布巾を敷いた台の上でトン、トンと型を少し浮かして落とし、空気を抜く。さて、そこからは薪オーブンの天才、料理長の分野である。
「中温で、三十分から四十分焼き上げてちょうだい。程よい所で取り出してね。その間にチョコレートクリームを作りましょう。」
「はい!」
先程使ったビターチョコレートと、ミルクチョコレートを半分ずつ用意し、細かく刻んで混ぜてそれをボウルに入れる。小鍋に生クリームを準備し、そちらは沸騰しない直前まで温め、ボウルにゆっくりと加えて刻んでおいたチョコレートを溶かす。
そして夏になっても贅沢に使える氷山のキンキンに冷えた氷を入れた氷水にボウルを入れ、角が経つまで泡立て器でしっかり泡立てる。手は疲れるけど、ティファーニーナはこの作業が一番好きだったりする。自分の手の中で、クリームがどんどん滑らかにそして艶めいていくのを見るのが好きなのだ。
「お嬢様、スポンジが焼き上がりました。」
「はぁ~、香りだけでも美味しい!」
ふんわりと漂うチョコレートの香りに、ティファーニーナはにっこりと微笑んだ。焼きあがったスポンジを、ひっくり返して型から慎重に外し粗熱をとる。美味しそうな色だ。料理長とテオとマーサが今にもヨダレを垂らしそうな顔でスポンジを見つめているのを見て、少女は声を上げて笑った。レオンハルトは父も含め皆、今では彼女のお菓子に夢中である。平和だなあ。
「皆の分もありますからね!」
「有難うございます!」
「ありがたい!」
「やった!」
時間を置いて、冷めてしっとりとしたスポンジを真ん中で横半分に切込みを入れ、二つに分ける。チョコクリームをパテに取り、まず半分にした間にチョコクリームを塗り込む。スポンジをズレないようにそっと重ね、今度はたっぷりのチョコクリームを上に乗せて塗り広げていき、側面にもできるだけ丁寧に塗る。少し不恰好でも大丈夫。美味しいんだから。
最後には残しておいた刻みチョコを全体に満遍なくかければ、少しほろ苦くて甘いビターガトーショコラの完成である。
(お兄様、喜んでくださるといいなあ。)
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