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ショコラケーキとお兄様
「これは……。」
「ふふふ、ビターチョコレートで作ったショコラケーキでございます!」
(レーヴェお兄様、本日も尊しだわ。)
何時ものおやつの時間にて。
うっすら頬を赤らめて顔を輝かせるレオンハルトを、ティファーニーナはにこにこ満足顔で見つめた。最近のレオンハルトは、喜びをはっきりと表情に表してくれるようになった。
透かしの入った繊細な食器に乗せた、ふんわりガトーショコラ。ココアパウダーでビロードのように柔らかな見た目になっていて、その上から更に振り掛けた粉砂糖が粉雪のようで美しい。ケーキの横には、クリームとサクランボが彩りを添えている。
「是非、食べてみてください!」
「うん。」
レオンハルトは目をキラキラさせたまま、フォークを手に持つとそっとケーキのケーキの先端をすくい取った。そして、はむっと口に含むと、途端に目を閉じて幸せそうにふにゃあと微笑んだのを見て「ギァッ」という声がティファーニーナの口からもれる。
「?」
「なんでもっ!!」
慌てて両手で押えたティファーニーナを、レオンハルトは顔を上げて不思議そうにきょとんと見つめていたけれど、またにっこりと笑った。
「美味しい。」
「ほ、ほ本当ですか?お口にあって良かったですわ!」
「ティファ、顔が赤いよ?」
「推しの笑顔にやられてしまっただけなのでお気になさらず……」
「え?」
「いいえ、何でもございませんわ!」
推しの幸せな顔を見る為に生きているのを、このようにして毎日痛感するティファーニーナであったが。甘くてほろ苦いケーキを食べ終わり、紅茶を飲みながらそんな日々ももうすぐ終わりを迎えることにしんみりとする。
「レーヴェお兄様は来週から、寮に入られるんですよね。」
「うん。」
「馬車で半日の距離なんですよね。」
「うん。」
「遠いですね……。」
思わずため息が漏れてしまう。馬車に乗っても十二時間もかかる場所へとレオンハルトは行ってしまうのだ。
毎週末に帰ってくると彼は言っているが、それもヒロインに出会うまでだろうとティファーニーナは思っていた。
彼に愛する人が出来れば──どう考えてもそちらを優先するようになるだろう。物語の中でレオンハルトとヒロインは友達以上恋人未満の関係で、それから先は描かれていない為、結局誰とくっついたのか分からずに終わってしまっていたはずである。(皆がヒロインとそれぞれ良い感じ良い感じになって終わってた。)
その続編が出ていたのかもしれないが、残念ながら読んでいないので分からない。けれども、レオンハルトはずっと真っ直ぐに彼女を思っていたので、その想いが報われていて欲しいとティファーニーナは心の底から思っている。
ヒロインも料理の腕前は相当な筈である。きっといつの日か、レオンハルトの中で美味しいお菓子を作る人物も自分から彼女に取って代わるだろう。つまり実質、推しを目一杯愛でることが出来るのは今だけなのだ。
(レーヴェお兄様が幸せになってくれるなら良いわ……。ちょっと寂しいけど!)
「……ティファは、学園には通わないの?」
「私ですか?私は……。」
物語の中で、ティファーニーナは学園には通っていない。この国では貴族の子女は七歳から十七歳までの十年間の間で三年ほど、国の成立ちなど歴史を含めて一般教養から始まり、淑女の嗜みや社交上のプロトコルを学ぶのが通常なのだが、恐らく物語の中のティファーニーナは家庭教師を付けられ、屋敷で学んでいた。
思うに、父がティファーニーナの我儘過ぎる性格を危惧して屋敷から外に出さなかったのではないかと彼女は考えている。
けれど今のティファーニーナは子どもの頃に比べれば別人のように落ち着いているし(実際別人だし)ら父が許すのであれば学園に通うことは出来るのだろう。
教養に関しては家庭教師に教わっている内容で既に十分なのかも知れないが、ティファーニーナには同じ年頃の友人と呼べる人がマーサ以外におらず、その事を寂しいとは常々思っていた。けれど。
「……少し、怖いのです。」
「怖い?」
(物語に悪役として登場する自分がレオンハルトと今は普通に接しているけれど、それは伯爵家の中だけの話で。)
「……外の世界に出てしまったら、何かが大きく変わってしまうのではないかと。」
──伯爵家の外に出てしまえば折角仲良くなったレオンハルトと対立してしまう様な出来事が、もしかしたら起こってしまうかもしれないという事をずっと危惧しているのだ。
(最後にはヒロインに悪事を暴かれて──とは言っても、今はなんの悪事もしていないから大丈夫だと思うけれど、何故か不安なのよね。お兄様とは仲良くしていたのに、結局寮へ入る展開になってしまったのがまだ気になってるのかしら。)
ティファーニーナの不安げな顔に、レオンハルトは少女をしばらくじっと見つめていたけれが。
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