貴方は私のお兄様?

須木 水夏

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親の心子知らず











「大人になったなあと思ってなあ。」


 と言ってグスリ、と鼻を啜る父にティファーニーナは心の底より申し訳ない気持ちになった。


 彼女がティファーニーナの身体に入る前の記憶──六歳以前の記憶は、無い。
 ただ物語の中でそういう記載があったのと、ティファーニーナの周りにはマーサしか居なかったこと、そしてマーサの「お嬢様はある日突然人が変わったように良い子になられたのですよ。」という言葉で、何となく以前のティファーニーナの性格を察していた。
 


(昔の私、お父様の事をかなり心配させていたのでは。)


 母は遠の昔に亡くなり、父には仕事で放って置かれた物語の中のティファーニーナは寂しさから、誰かに構って欲しくてわがままを言い続けていたら、本当にそのような性格になってしまったようだった。
 言うことを聞かないと金切り声で叫び、暴力を振るい、伯爵家の娘という地位を使って人を脅す──だったのに、ある日突然人が(物理的に)変わった事により、マーサはそれが衝撃的過ぎて忘れられないのだろう。

 幼い少女は父の前では本性を隠していただろうが、きっとティファーニーナの性格は屋敷の者達から彼に筒抜けだったに違いない。だからこそ、話の中では外に出ることを許されなかったのだろうから。

 我儘で傲慢で高慢ちきで、なんとも可愛げのない子どもであったティファーニーナが、感情をいつの間にか抑えられるようになり、養子としてやってきた兄とも仲良くし、大人しく家庭教師について学ぶ。その上で学園に行って交友関係を広げたい、新しい事を学びたいと言ったのだ。それは彼女を心配していた父親にとっては正に胸を撫で下ろす出来事だっただろう。

 ティファーニーナがどこへ行ってしまったのか彼女自身も知らないから、彼女はそのことも含めて彼に対して後ろめたく──申し訳なくなってしまっていた。



「何だか、申し訳ございません。お父様。」
「お?なんだなんだ、どうした?」
「いえ、昔は……色々とお父様や屋敷の方々にご迷惑をおかけしていた事が今更ながらに恥ずかしくて。」


 ティファーニーナの言葉に、父は更に笑いを深めた。


「君は幼い子どもだったのだよ。仕方ない。私もティニーを仕事にかまけて見てやれなかったんだ。
 それに、もう君はその事をきちんと分かっていて反省している。という事は立派な淑女だ。外に出しても恥ずかしくないと、私は胸を張って言えるよ。」
「……お父様。ありがとうございます!」



 会話の切れたタイミングで、話を静かに聞いていたレオンハルトがそっと父に問いかける。


「ティファは、どちらの学園への入学の手続きを進める予定ですか?」
「レーヴェと同じ学園で話を進めようと思っているよ。入学の時期は二ヶ月程ずれるだろうが、入学したら義妹を助けてくれたまえよ。」
「勿論です。」
「まあ、お兄様と同じ学園なのですか?!」


 ティファーニーナは驚きのあまり声を上げてしまった。おっと、それは大丈夫なのだろうか。過保護な父の事だ、ティファーニーナを遠いところにはやらずに家から馬車ですぐ行ける場所にある女学院を勧められると思っていたのにまさかのレオンハルトと同じ学園とは。


「無論そうだ。パパに会えなくて寂しいだろうが、週末にレオンハルトと一緒に帰ってくれば会えるからな。偏差値は高いが、君は賢いから難なくついていけるだろう。」
「そ、そうでしょうか……。」



 ヒロインはそこにいるだろう。何せレオンハルトと彼女は学園で出会っているのだから。
 その他のヒーロー達は、それぞれの理由でその内に学園へとやって来るのだ。交換留学、留学と銘打った視察、そのお付きの者。そして、ヒロインと出会い淡い恋に落ちてゆく。
 ここの淡い恋というのがポイントである。ヒロイン視点での淡い恋な訳であり、ヒーロー達はそれぞれ本気で彼女にアタックをかましてゆく。
 彼女ヒロインは天然なのかそれとも小悪魔なのか、その事には全く気が付かずに──微かにときめいたり惑わされたりしながら物語は進んでゆくのだ。……リアルに目の前で展開されると困惑しそうだが、そういう話なのである。

 レオンハルトの近くにいれば、いつの日か偶然ヒロインに会ってしまうかもしれない。いや、会ってしまうだろう。その他ヒーロー達にも。それが、ティファーニーナにとってどう転ぶのかが読めないのだが。


「ティファ、大丈夫だよ。」
「は、はい。」
「そうだぞティニー!この兄に頼ると良い!ははは!」


 
 どことなく嬉しそうなレオンハルトと、その少年の肩を叩きながら何処までも豪快に笑う父に、まだ起こっていない未来の事は考えるのを辞めて「ま、いいか」と改めてティファーニーナは思うのであった。















 


 

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