25 / 39
変人と学園長【レオンハルト視点】
(何をしてるんだろう……。)
レオンハルトは、目の前の光景に困惑しきっていた。彼の後ろではサイも似たような顔をしているに違いない。
女子(生徒?)が、学園の中庭で落ち葉を燃やしながら、左手にフライパン、フライ返しを持っているのだから困惑しない方が難しいだろう。しかも彼女が居る場所は、男子寮の真下である。
彼女の目の前の焚き火は、火力がなかなかに強く、フライパンの中の肉らしき物がジュージューと音を立てていた。
「何故、こんな所で料理を必要があるのですか?」
「だって、女子寮の前でするとアン寮長に怒られるんです。」
「はあ?」
──なんと、寮生であったか。女子生徒で間違いなさそうである。よく見てみれば、彼女はこの学園の制服を着ていた。着崩して派手な赤色のスカーフを首に巻いているので気が付かなかった。
サントス寮長は、ぎろりと彼女を睨んでいたが少女は怖がっている様子もない。
その少女の顔は一般的な少女達よりも整っていたが、その事がより一層年上に対する不遜な態度と常識はずれの行動を際立たせていて、レオンハルトは得体の知れないものと対峙しているような気持ちになった。
(……何だこの人。)
「こちらでも変わりません!即刻火を消して下さい。そして立ち去ってください。」
「はぁい。……あれ?」
寮長の言葉に返事をした少女は、彼の後ろにいたレオンハルトに目を向けた。そして途端に目を見開き、「え?!嘘!」と大きな声で叫ぶので、驚いて身を引いた。サイも急いでレオンハルトを庇うように彼の前に出る。
寮長のサントスは、怪訝な目でその少女を見た。
「なんです?まだ用がおありで?」
「えっ!あ、あのその後ろの方は……。」
「貴女には関係の無い方ですよ。不用意に近づいたり変な声を出したりしないでください。」
「……はぁい。」
寮長の言葉に、急につまらなくなったのか白けたような表情をすると、その少女は再びレオンハルトをちらりと見て──笑った。どことなく嬉しそうなその表情は、一瞬初めて会った時の義妹を思い起こさせたが、勿論ティファーニーナとは比べるまでもなく。
レオンハルトは無表情のままにその少女から視線を外すと、寮長の後に着いてその場を後にした。
その後ろ姿を見ながら彼女がほくそ笑みながら、「もう見つけちゃった」と言っていた事を彼は知らない。
「早速、素行の悪い者に出会ってしまって申し訳ございません。他の生徒はああではありませんので。」
「……彼女は?」
「南国からの留学生でして。どうやら祖国ではあの様に何処でも火を起こしても良かったらしく。」
「危険ですね。」
「正しく。湿度の高い南国とは違い、此方は気候が違うので辞めるようにと何度となく諌めているのですが。本日、貴方様を学園長にお連れした後、彼女の事をそのまま学園長に伝えるつもりです。」
溜息をつきながらそういう寮長は、うんざりした顔をしていたので本当に何度も起こっている出来事なのだろうとレオンハルトは思った。
──まあ、自分には関係ない人種だろう。よく分からない人間に近づく気は無いし、あの様子だと学力も低そうだし、クラスは別だろうと彼は判断した。
ティファーニーナに対しての関心は強いが、彼女以外にはさして興味もないレオンハルトである。
学園の門をくぐり、学舎の中へと入ると目の前にステンドグラスの向こう側より降り注ぐ美しい陽光が、レオンハルトを迎えた。清廉さを現す百合の花と勇猛さを現す鷹を象ったそのステンドグラスの前を通り過ぎ、コツコツと靴音を立てながら白い大理石の廊下を歩いて行く。
白い窓枠の向こうに中庭がちらりと見え、そこで乗馬の訓練や遠くでボールを投げて遊んでいる生徒達の姿が見えた。
爽やかな初夏の風の吹き、木々をざわめかせる。そして渡り廊下を抜け、学園長室へと案内された。
学園長は、真っ白な長い髭を持つ大きな体躯の老人だった。黒い学長服の上からでも、鍛え抜かれた衰えの知らない肉体の分厚さが伺える。
けれど、彼の青い目はレオンハルトを見て柔らかく弧を描き、柔和な性格を滲ませている。
「ようこそ、ヴィラステリア学園へ、レオンハルト君。新たな門出には少し緊張もあるだろうが……ここでの時間が、君にとって実り多きものとなるよう願っているよ。」
「ありがとうございます。」
レオンハルトがそう返事をすると優しく目を細めて、彼は続けて言った。
「もうご存知かもしれない。清廉と勇猛――これは我が学園が掲げる理念だが、君ならきっと、その意味を真に理解し、体現できると信じている。」
そしてふと目を伏せてから、やや冗談めかして笑った。
「もっとも……学びの道には、時に退屈で煩わしいことも付きものじゃがね。それもまた成長の一部ということで、どうか付き合っておくれ。」
「はい。頑張ります。どうぞよろしくお願い致します。」
レオンハルトはそこで、緊張で強ばっていた肩の力をそっと抜くことが出来たのだった。
あなたにおすすめの小説
公爵家の養女
透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア
彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。
見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。
彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。
そんな彼女ももう時期、結婚をする。
数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。
美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。
国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。
リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。
そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。
愛に憎悪、帝国の闇
回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった――
※月曜にから毎週、月、水曜日の朝8:10、金曜日の夜22:00投稿です。
小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
あなたの隣に私は必要ですか?
らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。
しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。
そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。
月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。
そんな状況で、アリーシアは思う。
私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。
【完結】ハーレム構成員とその婚約者
里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。
彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。
そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。
異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。
わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。
婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。
なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。
周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。
コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のシャレルは、第二王子のジョーンによって無実の罪で投獄されてしまう。絶望の中彼女を救ってくれたのは、ずっと嫌われていると思っていた相手、婚約者で王太子のダーウィンだった。
逃亡生活を送る中、お互い思い合っていたのにすれ違っていた事に気が付く2人。すれ違った時間を取り戻すかのように、一気に距離を縮めていく。
全てを失い絶望の淵にいたシャレルだったが、ダーウィンとの逃避行の時間は、今まで感じた事のないほど、幸せな時間だった。
新天地マーラル王国で、ダーウィンとの幸せな未来を思い描きながら、逃避行は続く。
そしていよいよ、あと少しでマーラル国というところまで来たある日、彼らの前にジョーンが現れたのだ。
天国から地獄に叩き落されたシャレルは、絶望の中生涯の幕を下ろしたはずだったが…
ひょんなことから、ダーウィンと婚約を結んだ8歳の時に、戻っていた。
2度目の人生は、絶対にダーウィンと幸せになってみせる、そう決意したシャレルだったが、そううまくはいかず、次第に追い詰められていくのだった。
※シャレルとダーウィンが幸せを掴むかでのお話しです。
ご都合主義全開ですが、どうぞよろしくお願いします。
カクヨムでも同時投稿しています。
2度目の結婚は貴方と
朧霧
恋愛
前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか?
魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。
重複投稿作品です。(小説家になろう)