貴方は私のお兄様?

須木 水夏

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スパイシーハンバーグとお兄様








 久しぶりの再開に心浮き立ったまま、ティファーニーナとレオンハルトは微笑みあいながら並んでダイニングへと入った。先に部屋に入っていた父は、既に席に着いていた。
 縦長のテーブルに父が誕生日席に座り、そしてそのサイドに向かい合う形でティファーニーナとレオンハルトは座る。
 父はニコニコしながら、少女の方を見た。



「さて、本日のディナーはティニーお手製と聞いたよ。レーヴェの為に作ったのだろう?」
「まあお父様、さすがお耳がお早いですわ!勿論、久しぶりにお会い出来たお兄様の為ですし、お父様の為にも作りましたわ。」


 まだからかうような口調の父に、ティファーニーナは居心地悪さを感じながらも、微笑んでそう言った。レオンハルトはその会話を聞いて、驚いたように目を丸くした。



「ティファが食事を作ったの?」
「ええ。あ、でも火入れは料理長ですからご安心くださいませ!」
「そうなんだね。楽しみだな。」


 この国では貴族の女性は火を扱う事が身分上出来ないので、慌てて火は使っていない事を伝えるとレオンハルトは頷いた。

 話している間に、白磁の皿に盛られたハンバーグと、付け合せの炙りブロッコリーと煌めく人参のグラッセがテーブルに並べられた。オニオンスープに香ばしい匂いの焼きたてブレッド、そしてトマトとレタス、パプリカなどの生野菜サラダも置かれる。
 本日は前菜から一皿ずつ並べるパターンではなく、ハンバーグを早く味わって欲しいというティファーニーナの趣旨による構成だった。


(気に入って頂けたら良いのだけど。)



「召し上がれ。お口に合えば嬉しいことこの上ないですわ。」


 既にフォークとナイフを手に持ち、目を輝かせていたレオンハルトは、ティファーニーナの声に頷いた。父も襟元にナプキンを付け、同じように手にカトラリーを取る。
 それを見て、ティファーニーナも食事に取り掛かった。


(お野菜はすっ飛ばすわ!ハンバーグの焼き具合が何よりも気になるのよね。)
 


 ドキドキしながら、久しぶりに作った手ごねハンバーグにナイフを入れる。ジュワッと肉汁と共に、中からチーズがとろりと皿に広がった。


(完璧だわ!何て透き通った肉汁なのかしら!そしてこのチーズの黄金の輝き!)


 ナイフで肉片を小さく切り取ると、フォークですくい取る。チーズがびょーんと長く伸び、下にまるでリボンが解けるようにするすると落ちてゆくのを見て、思わずゴクリと喉を鳴らしていた時。



「……美味しい。」



 パッと顔を上げると、目の前のレオンハルトは頬を赤らめ、歓喜した表情で口許を抑えていた。なんとなく目まで潤んでいるような気がする。胡椒が辛すぎたかしらと不安になりながらも、ティファーニーナはフォークを置いて問いかけた。



「お兄様、お口に合われましたか?」
「うん。初めて食べる味だったんだけど、とても、とても美味しい。」
「本当ですか?嬉しいですわ!」


 ニコッと微笑むと、何故か更に顔を赤く染めあげてレオンハルトはティファーニーナから目を逸らし、ハンバーグをまた口に運んでふにゃあ、と可愛らしい笑顔を浮かべていた。
 それを見て、ティファーニーナも一口ハンバーグを口の中に招き入れた。
 パクリ、と口に含んだ瞬間に口内に広がる甘くジューシーな肉の味わいと、黒胡椒のピリリ、とした刺激が舌先に感じられる。チーズの濃厚な旨みがそこに加わり、あら?ここはもしかしてハンバーグ天国かしら?などと恍惚としながら頭の中で考えていた時。


「……パパにも聞いて欲しいなあ。」 


 兄妹のやり取りに、誕生日席の父がぼそりと呟くように言った。慌てて少女は肉片の飲み込み、少ししょんぼりしている父にも「いかがですか?」と尋ねると、父は漸く娘に構ってもらえて嬉しかったのか、満足したようにニカッと豪快に笑った。


「無論、ものすごく美味しいに決まっている!!」
「ありがとうございます!!」
「ティニーはいつの間にこんなに香辛料の適切な使い方を覚えたんだい?もしかして天才なのかい??パパは鼻高々になってしまうよ!」
「お父様が沢山仕入れてくださったので、たくさん練習出来たのですわ!お父様のおかげでございます!」



 前世の記憶によるものです──などとは言えないので、ティファーニーナはそう言って誤魔化した。実際に父の貿易事業は上手くいっているし、前世でもなかなか使った事のない珍しい香辛料に関しては試行錯誤をしているので、事実でもある。
 何はともあれ喜んでもらえたなら良かったと、また食事を続けようとすると、レオンハルトが人参のグラッセを一口サイズに切りながら、囁くように言った。


「ティファは、すごいね。」
「え?」
「君の料理は、僕の心を一瞬で元気にしてくれる。」


 彼はそう言い終わった瞬間に、また輝くような笑みを見せてくれた。物語の中では一度たりともティファーニーナには見せることのなかった、あの魅惑的な笑みを。


「……ヌゥッ。スゥーーー。」


 なので思わず変な声が漏れそうになり、息を整えてしまったのは仕方の無いことであった。

















 



 

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