貴方は私のお兄様?

須木 水夏

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寮の決まり事

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「さあ、お入りください。此方が貴方様のおへやとなります。」



 通されたのは、南向きの大きな部屋であった。
 事前に聞いていた通り、キッチン付きでダイニング兼リビングの大きな部屋、トイレとバス、マーサ侍女の部屋、そしてティファーニーナの寝室がそこには納まっていた。
 室内灯に照らされている白い壁には、良く見ると金色の蔦草模様が描かれていてシックな色合いの柱と大理石の床に良く馴染んでいた。広い部屋の天井からは、小さめではあるが明らかに豪華なシャンデリアが吊るされていて、その他のローテーブルやソファー、鏡面台など質の高い家具は元々そこにあった物だ。寝室に付いている天井にまで届くクローゼットも、持ってきた少女の荷物を納めるには十分なサイズだった。



「……美しいお部屋ですわね。」
「一番最初にこの部屋を使われたのがマテリア公爵令嬢様でいらっしゃったので、その時に改装されているんです。」
「成程。そうでございましたか。」



 それは納得である。マテリア公爵家と言えば、この国の三大公爵家の一つだ。金の唐草模様はマテリア公爵家の家紋にも入っている。政務大臣を代々勤めている家柄であり、国政にも大きく関わっている家系だ。娘の為に部屋を幾分かレベルアップさせる事など何でもない事だろう。
 話は逸れるが、レオンハルトの生家であるハイリオル公爵家もその三大公爵家の一つである。ハイリオル公爵家は法務大臣の家系だ。




「それでは、こちらの寮での規則をお伝え致します。」
「はい、宜しくお願い致します。」



 寮長は無表情のまま、ソファーに向かい合わせに座ると、ローテーブルの上に一枚の紙を置いた。
 ティファーニーナはその紙を手に取ると中身に目を通す。



「その一、寮の門限は夜の六時です。こちらは厳守下さい。
その二、廊下ですれ違う際には挨拶を忘れずに。
その三、休日以外は制服を必ずご着用下さい。
その四、男子生徒はこちらの寮にお連れにならないで下さい。
その五、夜の九時以降は部屋からの外出は基本的に禁止されております。
その六、個人の私物を共有スペースに置きっぱなしにはされないでください。
その七、夜の十時以降は騒音を出さないようにお願い致します。
その八、廊下を走る、共有スペースにて大声で会話をする、寮生同士で口論をすることは禁じられております。もし揉め事が起こった場合は、必ず寮長ないし準寮長にご報告をお願い致します。
その九、部屋の備品の移動はその室内のみで可能です。
その十、……無いとは思いますが、キッチン以外での料理は禁止されております。」

「……。」



 最後のところでティファーニーナは首を傾げそうになったが、その時にハッとヒロインのことを思い出した。


(彼女だけ例外なのかしら?)



 学園内で料理が出来る場所は、寮の部屋のキッチンか学園内の調理室のみになるのだが、ヒロインは違う。レオンハルトが目撃した通り、、そこで料理をし始めてしまうのだ。道行くヒーロー達が、そんな彼女に興味を持ちそして振る舞われる料理の数々に舌ずつみを打ち、そして心を奪われるという王道の展開なのだから。



「ソンナーヤ寮長様、質問がございますがよろしいでしょうか?」
「もちろんです。」
「キッチンで作った料理を肉親に届けるのは問題はございませんか?」
「先月に男子寮に入寮されたエルスロッド子息様でございますか?それは問題ございませんが、男子寮に女子生徒が入ることは出来ません。また学園におきましては飲み物を除く昼食以外の持ち込みは禁止されておりますので、ご了承下さいませ。」
「昼食を作って学園の食堂や中庭で食べる事は可能ですか?」
「はい、問題ございません。」
「承知致しました。ありがとうございます。……ちなみになのですが。」
「ええ。」
「兄が、中庭で料理をしている女子生徒を見たと手紙で知らせてくれたのですが、そちらは……。」
「南の国の習慣がなかなか抜けない生徒が一人おります。恐らくその者の事でしょう。」



 寮長は大きく溜息をついた。どうやら、ヒロインは許されているという訳ではないらしい。そういえばレオンハルトも男子寮の寮長が口酸っぱく注意していたと言っていたっけな。


「この国では貴族の女子が火を扱うことは無いのでその場面を見たら驚かれるかもしれませんが、速やかに私にお知らせ下さいませ。」
「分かりました。」


 彼女の苦虫を潰したような表情から察するに、かなり手を焼いているようだった。南の国の習慣と寮長は言っていたが、ヒロインはただの料理好きという設定ではなかっただろうか?物語の中で、彼女は兎にも角にも料理を奮っていた印象だった。その料理は時にヒーロー達を元気づけて勇気づけ、そして──。


(……何か、大事な事を忘れている気がするのよね。)


 ティファーニーナは首を傾げたが、考えてみても何も思い浮かばなかった為諦めた。そして、明日から始まる学園での生活に思いを馳せたのだった。











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