貴方は私のお兄様?

須木 水夏

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新しい生活










「まあまあ、お嬢様。制服が大変お似合いです!」
「そ、そうかしら?」



 朝の準備が完了すると、マーサが興奮したようにキラキラした目でティファーニーナを褒めた。白い膝下のふんわりとしたワンピースに、胸元には学園の色である濃い青色のリボン。
 大きな襟の胸元から背中側にかけて、そして両方の袖のスカートの裾には青い糸で刺繍が施してある。その柄は男子生徒は良く見ると蔦と鷹が、そして女子生徒は蔦と百合の花が描かれており、陽に当たるとキラキラと光沢感が出てとても美しかった。
 靴はある程度自由だが高いヒールは禁止されている為、ティファーニーナは焦げ茶色のショートブーツを選択した。レースの靴下がチラリと見えるようにマーサが選んでくれたそれは、上品かつ歩きやすく少女は直ぐに気に入った。

 ティファーニーナはそもそも全身の色味が薄い。白金髪と水色の瞳、真っ白な肌には、確かにその制服は似合いすぎていた。鏡に映るの姿を見て、少女は思わず感心したように呟いてしまった。



「ああ本当だわ。可愛い。」
「ご自覚があるのですね。」
「え?あ、違うのよ?」
「大丈夫です。何も違っておりませんので。」


 うんうんと大きく頷くマーサに「中の人が違うんです」とは言えずに。「まあ、いっか。」とティファーニーナは苦笑いを浮かべた。













(ふう、緊張するわね。)



 初登校。担任の教師に連れられて廊下を歩きながら、ティファーニーナはそわそわしていた。既に授業の始まる数分前で、廊下を歩いている生徒達はいなかったが教員とはすれ違うので、その度に少女は「御機嫌よう」と頭を下げた。
 掃除の行き届いた壁や柱、美しい大理石の床は磨きあげれていて、淡い光を放っているかのように輝いている。



(掃除の達人がいらっしゃるのね。)



「鷹のように勇猛に気高く。百合のように清廉に誇り高く。生徒達は謙虚で思慮深く、自らの心身を鍛錬し勤勉である事を求められます。
 我が学園を創設されたジャグリア司教様は、こちらに通う生徒達の無限の可能性を信じておられました。その為には、基礎、基本が常に一番大切だと解かれたのです。」



 歩きながら、メイレンと名乗った女教師はそう滔々と言った。



「エルスロッド伯爵家様は、とても堅実で頭の良い方だとお伺いしております。王の覚えも目出度く、海外向けの貿易事業を一任されていらっしゃるのですよね。」
「あ、ありがとうございます。よくご存知で……。」
「つい先月ご入学された嫡子様も、とても優秀でいらっしゃいますし。」
「ええ。」


 
 急に父とレオンハルトを褒められて、ティファーニーナは鼻高々になったが、次の言葉で冷水を浴びせられたような気分になった。


「ですので、ご息女の貴女様にもかなりの注目が集まっておられるのですよ。」
「……まあ。」
「貴女様が入られるのは、この学園の中でも上級のクラスです。きっと良い学園生活が待っていることでしょう。」


(なんということでしょうか。あまり期待をしないでほしいんですけども…!!)




 女教師はティファーニーナを振り返って微笑むと、ぴたりと一つの扉の前で足を止めた。「さあ、どうぞ。」そう言うと、その扉を外側に開いて内へと入るように促した。ティファーニーナが一歩足を踏み入れると。



「さあ皆さん。お静かになさいませ。本日より来られました新しい編入生です。」



 彼女のその一言で、それまで少しばかりざわついていた教室内が一気に静かになった。こじんまりとした──とは言っても、ティファーニーナが前世で覚えているよりも少し小さめなくらいで狭い訳では無い──部屋に、生徒が二十名ほどいた。男子が少し多いが大体半々の人数で、その中にティファーニーナは真逆のレオンハルトの姿を見つけた。



(お兄様と同じクラスなの?!)



 どうやらティファーニーナが自宅で勉強を教えて貰っていた教師たちは優秀であったらしい。ちなみに前世の記憶のおかげで算数や数学に関しては天才と褒められるほど少女はよく出来た。(日本では真ん中くらいの成績だったというのに)

 兎にも角にも。レオンハルトと同じクラスになれた彼女は、嬉しさと安心で彼に飛びっきりの笑顔で微笑んだ。そのティファーニーナの笑顔に釣られるように、レオンハルトも柔らかな春の陽射しのような笑みを浮かべてくれる。思わず口から「デュフ」という変な音が漏れ出そうになって、ティファーニーナは耐えた。実家ならまだ良い。でもここは新しい環境、新しい人たちがいる場所である。──いずれバレてしまうとしてもそれは今では無い、そう思ったからだ。

 益々笑み大きくするティファーニーナに、すると何故か教室の中で息を飲むような音が聞こえてきた。不思議に思って音の聞こえてきた方向に目を向けると、一人の男子生徒と目が合った。



(……なんか、何処かで見たことがあるような?)










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