34 / 39
隣の席は公爵令嬢
しおりを挟む(えーっと。……誰だっけ?)
まるでこちらの事を知っているかのようにまじまじと──金髪に青い目のいかにも貴族といった出で立ちのその男子生徒は、頬を赤らめてティファーニーナを見つめていたが、彼女と目が合うと慌てたように目を背けた。
ティファーニーナが戸惑っている間に先生の挨拶は終わり、彼女は一番後ろの窓際から二番目の席に座った。
「初めまして。御機嫌よう。ローズエッタ・リリア・マテリアよ。ローズエッタと呼んでちょうだい。どうぞこれからよろしくね。」
「御機嫌よう。ありがとうございます。私はティファーニーナ・アレサ・エルスロッドと申します。ティファーニーナとお呼びくださいませ。どうぞよろしくお願い致します。」
(なんて偶然なのかしら......!!)
そしてその隣の席には奇しくも、第二王子殿下の婚約者であるマテリア公爵令嬢が座っていたのだった。
真っ直ぐ癖のない金髪に、目が覚めるような鮮やかな青色の大きな瞳。小さな鼻と口に、生まれてきてから一度も日焼けをした事のないような透き通る真っ白な肌の色はThe・定番の美少女である。思わず見蕩れてしまいそうになるのを、ティファーニーナは既のところで堪えた。
彼女は今、ティファーニーナが使っている寮の部屋を美しく改修した人物の子孫である。偶然の一致とは言え、なんという奇跡だろうか。後でその事について是非彼女と話がしたいとティファーニーナは思った。
そしてその瞬間になって、やっと思い出した。
先程の金髪碧眼の少年は第二王子その人なのだろうと。
城には肖像画の展示があり、昔父に連れられて廊下を歩いていた時に目に入ってきた現王の肖像画と、今こちらをチラチラと振り返ってくる少年の顔はとても良く似ていた。
(成程、あれが王子様…つまりヒーローの一人ね。たしかに、ヒーローらしいお美しい顔をしていらっしゃるけど、此方を見るのは何故かしら?......きっとローズエッタ様の隣に座る事になったからね。)
確か学校同士の親睦の関連で、成績優秀者の生徒達が交換で三ヶ月ほど滞在したはずである。第二王子とレオンハルトの天敵である公爵家次男はその対象だったはずだが、まさかもう来ていたとは。
ティファーニーナはまだ向けられる第二王子からの視線を無視し、そっとレオンハルトの後頭部へと目を向けた。
ティファーニーナよりも一つ前の席に腰掛けている彼は、また以前よりも背が伸びたようで、見つめる先の背中は記憶の中のそれよりも大きかった。思春期の子どもの成長はあっという間とよく聞くが、本当に見事な変化だった。
教室の中の全員の顔を見た訳では無いので分からないが、レオンハルトから何か聞いていた訳ではなかったし、もしかしたら次男はこのクラスでは無いのかもしれないなとティファーニーナは思った。でも何はともあれ。
(レーヴェお兄様は私が守らなくては!!尊い笑顔を守るの!!意地悪な異母兄弟よりお兄様を守れるのは私しかいないのよ!!!)
まだ見た事もない敵に対して、少女は心の中でシュッシュッとパンチを繰り出す。少しばかり血の気が多いのは、元のティファーニーナの性格が心のどこかに残っているせいなのかもしれない。そんな事を頭の片隅で思いながらも始まった授業に少女は集中するのだった。
「ティファ、どうだった?」
「レーヴェお兄様!」
一時間目が終わった後、レオンハルトがティファーニーナに話しかけてきた。思わず、ぱっと花が咲くように目を輝かせたティファーニーナに、レオンハルトは嬉しそうに微笑む。麗しくも可愛らしいその表情に「グフゥ」と少女は口から息が漏れそうになるのを堪えた。
「少し緊張をしていますが授業にはついていけそうですわ。問題はございません。」
「良かった。ティファは優秀だね。昨日は出迎えに行けなくてごめん。」
「いいえ!お兄様は授業中でございましたし、時間も遅かったですもの。気にしておりませんわ!」
「ありがとう。寮の廊下からティファの乗った馬車が通りかかるのは見たんだよ。」
やはり出迎えに来てくれる予定だったらしいと分かり、ティファーニーナは嬉しくて頬を赤く染めた。事前の手紙のやり取りで当日は到着時間が遅くなる為に出迎えが難しい事は予めレオンハルトから聞いていた。寮の規則により、夜は部活動を行う生徒以外は外出が禁止になるのである。どうやら兄は、それでもティファーニーナの姿を一目見たくて男子寮の廊下の窓辺に立っていたらしい。
「早く会いたかったんだけど。今朝もずっとティファの事を考えてそわそわしていたんだよ。」
「......ッッ!!」
恥ずかしがる様子もなく──寧ろ少し拗ねたようにそう言葉を続けるレオンハルトに、ティファーニーナは目眩を起こしそうになった。見た目も性格も完全に理想の人であるレオンハルトにそんな事を言われてしまった日には。
顔を茹でダコのように真っ赤に染め上げ「アバババ」と慌てふためくティファーニーナに、レオンハルトは柔らかく美しいほほ笑みを浮かべたのだった。
115
あなたにおすすめの小説
捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました
鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」
そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。
――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで
「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」
と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。
むしろ彼女の目的はただ一つ。
面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。
そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの
「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。
――のはずが。
純潔アピール(本人は無自覚)、
排他的な“管理”(本人は合理的判断)、
堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。
すべてが「戦略」に見えてしまい、
気づけば周囲は完全包囲。
逃げ道は一つずつ消滅していきます。
本人だけが最後まで言い張ります。
「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」
理屈で抗い、理屈で自滅し、
最終的に理屈ごと恋に敗北する――
無自覚戦略無双ヒロインの、
白い結婚(予定)ラブコメディ。
婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。
最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。
-
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完】隣国に売られるように渡った王女
まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。
「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。
リヴィアの不遇はいつまで続くのか。
Copyright©︎2024-まるねこ
記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された
夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。
それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。
ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。
設定ゆるゆる全3話のショートです。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる