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第二王子カイル
しおりを挟む学園にやって来て一週間が経った。
一番最初に、現在この学園にて一番高位である公爵令嬢ローズエッタと仲良く(?)なったのが功を奏したのか、クラスの女子達とティファーニーナは今のところ上手く接することが出来ていた。
話を聞くとローズエッタも、第二王子のカイルと共にヴィラステリア学園へと国内の交換留学でやって来ているようであった。つまり、カイルとローズエッタはティファーニーナよりもほんの少しだけ早くこの学園にやって来たという事になる。その親近感があるせいなのか、ティファーニーナはローズエッタと他の女子生徒よりも言葉を交わす機会が多かった。(席が隣という事もあるだろうけれど。)
昼休憩の時に、他の令嬢達を含め話をしていた時のことだ。ある一人の令嬢がローズエッタに質問をした。
「ローズエッタ様、此方の学園の授業は物足りないのではありませんか?」
と。ローズエッタはその問いかけに首を傾げた。
「王都の学院との偏差値の差について仰っておられるのかしら?
正直、私は授業内容は体感だとそんなに変わらないと思うわ。この学園は市民も通っていてその方達のクラスもあるのだから、平均にすれば必然的に下がるのは当たり前の事よね。向こうは貴族一辺倒ですもの。寧ろどこの学園よりも学力が高くなければ、王も高いお金を使って作った甲斐が無いのではない?」
「そうですね。おっしゃる通りだと思います。」
「そもそも、子供の頃より厳しい家庭教師を付けられていて勉強ができないは言い訳にもならないでしょう?」
「……え、ええ、まあ。」
(それは人によるのかもしれないと思うけど……。)
会話に耳を傾けながら、心の中でティファーニーナはそう呟いた。
ローズエッタは物事をはっきりと口にする──歯に衣着せぬ性分だということが、この短期間でティファーニーナは良く理解できた。彼女は他人に厳しい。そして。
「まあ、私は人の事は言えないのだけれど。足りないのは誰でも同じね。」
「……失礼ですが、ローズエッタ様は学院では成績優秀者として表彰された事もあるのだとか。」
「ええ、あるわね。」
「それは、勉学に秀でているという事ではございませんでしょうか?」
「そうね。でも勉強が幾ら出来ても周りに認められなくては全く意味は無いわ。」
「……な、成程ですわ。」
そう言い切るローズエッタの表情は無感情で何を考えているのかティファーニーナには判断できなかったが、それが良いものでないことぐらいは分かった。
(ご自身にも厳しい方なのよね……。)
会話を聞きながらちらりと、レオンハルトの方へとティファーニーナは目を向ける。
自席に座り、涼し気な顔で手元の本へと視線を落としている彼も己に厳しいタイプの人である。
ティファーニーナは一瞬懸念したのだ。年下である自分が兄と同じクラスに入る事によって、彼を傷付ける事にはならないかと。もしかしたら嫌われてしまって物語の中のように啀み合う関係になってしまうのではないかと。
然しそれは杞憂であった。
「ティファは賢いのだから当然だよ。……それに同じクラスなれた事を僕は本当にとても嬉しいと思ってる。」
そう言って、レオンハルトはただ幸せそうに柔らかく微笑んだ。その美しい顔に悶えて「グフゥッ」と変な声を出すティファーニーナを見つめ、クスクスと楽しそうで穏やかな笑い声を添えて。
(レーヴェお兄様はプライドが高いはずなのに、妹には甘いのだわ。)
ティファーニーナは出来る限りレオンハルトの傍にいたいと思いつつも、この国では兄であっても女性が男性に馴れ馴れしくすることははしたない事だと思われている。その為、昼食時以外でなかなか彼に話しかける事は叶わない。
それが今のところのこの学園生活の中で唯一歯がゆかったけれど、その間に女子生徒達とある程度交流が出来たのは良い事だった。
しかし一つだけ、戸惑うことがあった。
ローズエッタと話をしていると、ある人物がティファーニーナに話しかけてくるようになったのだ。
それが、何を隠そう──ローズエッタの婚約者である第二王子カイルであった。
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