貴方は私のお兄様?

須木 水夏

文字の大きさ
36 / 39

第二王子カイル

しおりを挟む









 学園にやって来て一週間が経った。
 一番最初に、現在この学園にて一番高位である公爵令嬢ローズエッタと仲良く(?)なったのが功を奏したのか、クラスの女子達とティファーニーナは今のところ上手く接することが出来ていた。
 話を聞くとローズエッタも、第二王子のカイルと共にヴィラステリア学園へと国内の交換留学でやって来ているようであった。つまり、カイルとローズエッタはティファーニーナよりもほんの少しだけ早くこの学園にやって来たという事になる。その親近感があるせいなのか、ティファーニーナはローズエッタと他の女子生徒よりも言葉を交わす機会が多かった。(席が隣という事もあるだろうけれど。)
 


 昼休憩の時に、他の令嬢達を含め話をしていた時のことだ。ある一人の令嬢がローズエッタに質問をした。


「ローズエッタ様、此方の学園の授業は物足りないのではありませんか?」


 と。ローズエッタはその問いかけに首を傾げた。


「王都の学院との偏差値の差について仰っておられるのかしら?
 正直、私は授業内容は体感だとそんなに変わらないと思うわ。この学園は市民も通っていてその方達のクラスもあるのだから、平均にすれば必然的に下がるのは当たり前の事よね。向こうは貴族一辺倒ですもの。寧ろどこの学園よりも学力が高くなければ、王も高いお金を使って作った甲斐が無いのではない?」
「そうですね。おっしゃる通りだと思います。」
「そもそも、子供の頃より厳しい家庭教師を付けられていて勉強ができないは言い訳にもならないでしょう?」
「……え、ええ、まあ。」


(それは人によるのかもしれないと思うけど……。)



 会話に耳を傾けながら、心の中でティファーニーナはそう呟いた。
 ローズエッタは物事をはっきりと口にする──歯に衣着せぬ性分だということが、この短期間でティファーニーナは良く理解できた。彼女は他人に厳しい。そして。



「まあ、私は人の事は言えないのだけれど。足りないのは誰でも同じね。」
「……失礼ですが、ローズエッタ様は学院では成績優秀者として表彰された事もあるのだとか。」
「ええ、あるわね。」
「それは、勉学に秀でているという事ではございませんでしょうか?」
「そうね。でも勉強が幾ら出来ても周りに認められなくては全く意味は無いわ。」
「……な、成程ですわ。」


 そう言い切るローズエッタの表情は無感情で何を考えているのかティファーニーナには判断できなかったが、それが良いものでないことぐらいは分かった。


(ご自身にも厳しい方なのよね……。)


 会話を聞きながらちらりと、レオンハルトの方へとティファーニーナは目を向ける。
 自席に座り、涼し気な顔で手元の本へと視線を落としている彼も己に厳しいタイプの人である。
 ティファーニーナは一瞬懸念したのだ。年下である自分がレオンハルトと同じクラスに入る事によって、彼を傷付ける事にはならないかと。もしかしたら嫌われてしまって啀み合う関係になってしまうのではないかと。
 然しそれは杞憂であった。


「ティファは賢いのだから当然だよ。……それに同じクラスなれた事を僕は本当にとても嬉しいと思ってる。」



 そう言って、レオンハルトはただ幸せそうに柔らかく微笑んだ。その美しい顔に悶えて「グフゥッ」と変な声を出すティファーニーナを見つめ、クスクスと楽しそうで穏やかな笑い声を添えて。



(レーヴェお兄様はプライドが高いはずなのに、妹には甘いのだわ。)



 ティファーニーナは出来る限りレオンハルトの傍にいたいと思いつつも、この国では兄であっても女性が男性に馴れ馴れしくすることははしたない事だと思われている。その為、昼食時以外でなかなか彼に話しかける事は叶わない。
 それが今のところのこの学園生活の中で唯一歯がゆかったけれど、その間に女子生徒達とある程度交流が出来たのは良い事だった。


 しかし一つだけ、戸惑うことがあった。
 ローズエッタと話をしていると、がティファーニーナに話しかけてくるようになったのだ。

 それが、何を隠そう──ローズエッタの婚約者である第二王子カイルであった。


 








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました

鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」 そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。 ――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで 「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」 と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。 むしろ彼女の目的はただ一つ。 面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。 そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの 「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。 ――のはずが。 純潔アピール(本人は無自覚)、 排他的な“管理”(本人は合理的判断)、 堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。 すべてが「戦略」に見えてしまい、 気づけば周囲は完全包囲。 逃げ道は一つずつ消滅していきます。 本人だけが最後まで言い張ります。 「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」 理屈で抗い、理屈で自滅し、 最終的に理屈ごと恋に敗北する―― 無自覚戦略無双ヒロインの、 白い結婚(予定)ラブコメディ。 婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。 最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。 -

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

【完】隣国に売られるように渡った王女

まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。 「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。 リヴィアの不遇はいつまで続くのか。 Copyright©︎2024-まるねこ

記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された

夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。 それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。 ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。 設定ゆるゆる全3話のショートです。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

処理中です...