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兄とランチと初めまして
「最近、第二王子王子に絡まれているようだけど……大丈夫かい?」
心配そうにこちらを見つめてくる紫水晶の瞳に、初夏の柔らかな陽射しが入り込んでキラキラとしている。それを見つめながら、ティファーニーナはぽわわん、と心が宙に舞うほど癒されるのを感じたけれど。話の内容に、ハッとして首を大きく横に振った。
「大丈夫です!ローズエッタ様が助けてくださっているのです。」
「そうなの?」
「ええ、殿下は女性専用のサロンにも来られる事があるのですが、その度にローズエッタ様に追い出されています。」
「な、なるほど。」
「ローズエッタ様は素晴らしいお方ですわ!殿下にもバシッと対応されるんです!」
「そう……。」
「強くて勇ましくて。私もあの方のようになりたいです!」
「そうなの?」
目を輝かせながらそう言うティファーニーナを、レオンハルトは苦笑いを浮かべた。
春の妖精のように繊細で可憐な見た目の義妹より「強くて勇ましくなりたい」と言われて戸惑ったのだけれど、ティファーニーナはそれに気が付かずに楽しげに話し続ける。その表情に何も言えなかったからだ。
今日の昼食は、サーモンのバターソテーと卵と芋のポテトサラダ、マーサが街のパン屋で買ってきた白いパンと搾りたてのオレンジジュースである。結局、学食へと行ったのは最初の一度のみで、その後はずっと中庭でレオンハルトと共に昼食を取っていた。
昼食はティファーニーナが朝早起きして作り、部屋に備え付けられている冷蔵庫──所謂上部に氷が入れられていて下部を冷やすことの出来る昔ながらの──があるのでその中に一旦入れて置き、お昼休憩の頃にマーサに持ってきてもらうという習慣がこの頃には既に出来上がっていた。
昼食を手作りしていると言うと大抵の令嬢には驚かれた。(それはそうだ)
その話をまた勝手に横で聞いていた第二王子は食べたそうにしていて、寧ろ「食べさせてくれないか」と話に割って入り、顰めっ面をした彼の部下に「なりません」と止められていた。ローズエッタはそんな彼をますます冷たい視線で見ていた。あの状態で本当に結婚をしたとしてやって行けるのだろうか?そう考えた後に、ティファーニーナはふと第二王子とヒロインの関係って最終的にはどうなったんだっけ?と思い返した。
(肝心な事を殆ど覚えていないのよね。)
あの手の話は大体最後はヒロインのハッピーエンドで終わっているはず。そうは思っても結末を思い出せないのはなかなかに歯痒いものである。
ティファーニーナは、自身の隣でゆっくりとランチを食するレオンハルトをちらりと見た。何度見ても胸が高鳴る見た目なのだが、如何せん彼もヒーローの一人。ヒロインとこれから出会いがあると考えると胸の中にモヤモヤとした気持ちが広がる。それが、物語に巻き込まれる事に対しての不安なのか、それともレオンハルトがヒロインと関わることに対しての不満なのか分からなかったけれど。
(ただ平穏に暮らしたいだけなのに。このまま、ヒロインに出会わずに済む方法がないかしら。)
そんなことを考えていた数日後の事。
その日は小雨が朝から降っていた為、いつもの中庭ではなく学園と寮の間にある珍しい三軒繋がりのガゼボで、ティファーニーナはレオンハルトと共にランチを取っていた。メニューはアボガド、トマト、チーズ、レタス、そして生ハムの入ったパニーニである。夏にしては肌寒い日だったので、温かいオニオンスープも用意し、二人で談笑をしながら食べていた。
珍しい事に、その日は同じ場所でローズエッタと、そして何故か一緒に第二王子カイルもいた。どうやらカイルが「私も食堂以外で食事がしたい」と我儘を言ったらしく、お目付け役兼婚約者のローズエッタが王家に手配させたまるでフルコースのような料理を──テーブルまで用意させて──食していた。ちなみに、カイルはティファーニーナの作ったパニーニがどうしても気になるらしく「これと交換しないか?」「少しだけなら良いでは無いか?」と何度もレオンハルトに声をかけ、冷たく「結構です」とあしらわれていた。
ローズエッタはそれをやはり白けた冷たい目で見ていて、途中ティファーニーナと目が合うと、困ったように微笑んだ。その様子はまるで幼子の面倒を見ている母のようだった。
(ローズエッタ様は大変だわ……。)
心よりそんな風に思いながら、ティファーニーナが食べ進めていた時。
「えっ!なにそれ美味しそう!」
「……え?」
そう言って元気よく声をかけ、ガゼボに侵入してきた人物がいた。はっとしてそちらに目を向けると、明るい赤色の──ピンク?──髪と太陽のように輝く金色の大きな瞳を持った絶世の美少女が、ガゼボの入口でティファーニーナの持つパニーニをじっと食い入るように見つめていたのだった。
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