貴方は私のお兄様?

須木 水夏

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ヒロインという名の小動物?









「それ!貴女の持ってるそのサンドイッチみたいなやつ!それ何?」



 目をキラキラさせながら勢いよく話しかけてくるその少女の事をティファーニーナは初めて見た。一度見たら記憶に焼き付いて忘れられないであろう輝く黄金色の美しい瞳。この国では珍しい健康的な小麦色の肌と、日に透ける赤髪は淡いピンク色のようにも見える。
 そして、とてつもなく顔が整っている。この国の、少し彫りの薄い儚げは美しさとは異なり、ラテン系のような──高めのシュッと通った鼻筋にぽってりした唇、そして少しだけ猫のようにつり上がった大きな目──そんなはっきりくっきりとした顔立ちだった。
 その大きな瞳は好奇心が故にキラキラを通り越してギラギラしている。ちょっと怖いくらいに。

 

「あ、えぇと、これは……。」



 ティファーニーナが戸惑いながらも返事をしようとした時の事だった。
 

「君、不躾じゃないか?」


 不機嫌さを隠そうともせずそう言ったレオンハルトの言葉でティファーニーナは口を閉じた。全くもってその通りである。

 昼食中に挨拶もなく話しかけてきて、しかも名乗りもしないのはどこからどう見えもマナー違反である。
 しかも繋がっているガゼボの直ぐ右隣にはこの国の第二王子がいて、婚約者である公爵令嬢も居る。もし仮に彼らを知らなかったとしても、ガゼボを取り囲むように配置されている騎士達の姿を異様に思わなかったのだろうか。その騎士達が此方に近づく少女を止めなかったのも警護の不備ではあるが。



「え?!貴方!」
「……は?」

(お、お兄様……っ!!)




 ティファーニーナが一番最初に彼に会った時、確かにそのような表情をしていた記憶がある。
 人を寄せ付けない凍てつくような紫水晶の瞳には、鮮やかな軽蔑の色が滲んでいて、レオンハルトはそれを隠そうともしていなかった。無表情で、冷たい声色。もっと幼い見た目であったら可愛く見えたかもしれないが─出会った頃の彼のように─今はただただ背筋が凍るような恐怖を感じる冷酷さだ。
 今までに見た中で一番恐ろしい顔をしている義兄に、思わずティファーニーナは息を飲んだ。
 しかし、どういうことだろう。

 その能面のような表情を見ても、その少女は動じなかった。それどころか。



「え?覚えてない??ほら、前に中庭で会ったでしょう?私、料理をしてたの!覚えてるよね?」
「……。」
「覚えていないはずがないわ!私よ私!」



 まるで、レオンハルトが彼女の事を言葉に、ティファーニーナはやはりそうかと息を飲んだ。
 黄金色の瞳にピンク色の髪の美少女ときて、間違いない。この物語のとなる少女が目の前にいた。

 しかし少し違和感がある。


 
(……物語の中のレオンハルトとヒロインはこんな出会い方をしていたかしら……?)



 ふと頭の中に浮かび上がった文章。



 目の前にいる美しい紫色の瞳を持つ少年を、彼女は覗き込むようについ見つめてしまった。


『あなた、どうしてそんなに陰気臭い顔をしているの?お腹が空いているの?』
『なっ……?!』


 黄金色の瞳がじっと無垢にレオンハルトをた。美しく煌めき、どこまでも透き通るその瞳にレオンハルトは釘付けとなる。しかし彼女は、ハッと思いついたような顔をすると自分の手元で先程まで煮込んでいた林檎煮を器にスプーンで掬いとると、彼に差し出した。

『食べていいよ!私の手作りスイーツ!』
『……。』


 何時もなら絶対に受け入れるはずのないその得体の知れないものを、レオンハルトは何故か勧められるがままに口にした。果物特有の酸味を含んだ甘みが口の中いっぱいに広がってゆく。それは温かくて。

 そして。


『……美味しい。』
『でしょ!故郷ふるさとでは定番料理だよ。私の得意料理なんだ!』


 そう言って眩しい程に微笑んだ少女を、少年は惚けたように見つめていた。

 」





(……ああ、なんか思い出したわ。)

 小説の中では彼女に押し付けられたものをそのまま食べてましたわね、お兄様。


 高位貴族が何処ぞの誰とも分からぬ者から与えられた食事を口に入れるなど、本来なら有り得ない展開だけど、だってそうならないと
 だがしかし。恐らく今目の前にいるは、彼女から与えられた物を食していない。









 

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