【完結】君との約束と呪いの果て

須木 水夏

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運命の始まり

最後の逢瀬、世界の終わり

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(…真っ暗)






 唐突として意識が戻った時、私は暗闇の中に取り残されていた。周りを見渡しても何も見えない。キーン、と耳元で微かに耳鳴りがしたけれど。

 静かで、どこまで続くのかも分からない夜よりも深い闇の中で、何かに凭れかかって座り小さく呼吸を繰り返していた。その呼吸音もと異なっている気がしたけれど、何が違うのか分からない。


(リズム、かな。…何だか、すごくゆっくり。前もこんなだったっけ?





 …前って、なんだっけ?)








 自分の思考に首を傾げながら、自分の呼吸音に耳を澄ませる。
 暫くそうしていると、自分と同じような呼吸音が聞こえている事に直ぐに気がついた。そこに居るのかも、直ぐに解った。それはまるで閃きのような直感にも近い感覚だった。






「…だいじょうぶ?」


 不思議な音のが闇の中に響いた。硬質な、けれど優しい声が正面から聞こえてくる。
 

「…うん。」


 自分の声も、水の中にいて、何重にも重なっていて、それでいて何処か遠くで聞こえて来ているようなそんな風に耳に届いた。



 でも分かる。この声は







 









 解るのに、分からない。それなのに、溢れんばかりに胸に押し寄せる強い喜びの気持ち。頭の芯が痺れそうに成程の幸福感が心いっぱいに広がって溢れて、不意に涙が込み上げそうになり、きつく唇を噛み締め我慢した。




 いた。
 ここにはいた。
 ずっと、ずっと探していた。



 立ち上がって今すぐに駆け寄りたかった。けれど不可解な事に足に力が入らなかった。そもそも、感覚がない。手を動かそうとすると、ギギ、と軋むような音がするがこちらも確かな感覚を得ない。
 顔を動かすと、先程と同じように耳のすぐ近くで、今度はビーンという音が小さく聞こえてきた。



 というか、ここは。
 この場所は。私達は。
 電子回路記憶が物凄いスピードで信号を飛ばしてゆく整理されてゆく




も、戦。)



 整然と並べられた受信データを全て読みとった後に、私はここが戦場である事を著しく理解した。
 『ここも』と思考した電脳には首を傾げてしまうが、何か他のデータと比較したのだろう。他のデータを探ってみても何も出てこないことに、また軽く混乱を覚えたが。


 そんなこちらの気持ちを知ってか知らずか、正面から聞こえてくる声の主はとても落ち着いていた。
 少しの静寂の後また、静かな声が響く。



「…多分もう、ここ地下の扉は開かないね。」

「…そう、だね。」

「…こわい?」

「ううん。」





 元々怖いという感情は持ち合わせていないのかもしれない。けれど、違う理由で怖くはなかった。
 君が傍にいるから。



 背中に繋がれた太い命の紐電源コード
 吸い込まれてしまいそうな程の真っ暗闇に響く、微かな水の音。

 大方、自分たちが目覚める前にこの製造室スクエアも一度攻撃を受けたのだろう。その衝撃で、保水液が水槽から零れ滴っているのだ。




 自分達が世界を統一しようとした人間によって彼ら人間を模した形の、そして一番直近に造られた生命体でありである事。今いる空間がその施設内の遥か一万メートルの地下である事。このの最後の切り札として、置いておかれていた存在である事。

 そして。

 施設の外の世界では、今では主導権を巡ってあるじ達が争い合い、この施設への出入口も爆破で海に浸水して閉鎖された事も、電源の入らない重たい鉄鋼の扉は一筋縄では開かない事も、の世界にいたから背中の接続部分で先程、記憶共有された瞬間から知っていた。

 私達を動かすエネルギー鉱物発電の供給は止まり、今は施設内の自家発電で賄われているのだろう。けれど、恐らくそれもその内に停止する。そうなれば自分達もそのまま永遠の眠りにつくのだろう。

 だから、その前に。



「ねえ」

「なあに?」

「手を繋いでもいい?」



 そう私が問うた相手から、一瞬言葉は返ってこなかったけれど。



「…いいよ」



 カシャン、と何かが外れる音がして、自分の右隣から手が伸ばされる音がした。なのでその方向に自分も手を伸ばす。手枷となっていた鉄の腕輪は簡単に外れて、こちらからも同じ音が響いた。コロコロと地面に鎖の輪が転がってゆく。

 カツン

 お互いの触れる指先や掌に感覚は無いけれど、先程の喜びとはまた違う、温かい気持ちが胸に灯った。
 この気持ちも彼ら人間に倣って造られたものなのだろうか。それでも良い。幸せだと感じた。




「…静かだね」
 
「…そうだね」

「本当の事を言うとさ、君のことずっと探していたんだよ。」



 突然の私の言葉に、その人は何かを一瞬考えて。沈黙の後に「そう。」と一言だけ呟くように言った。



「…じゃあ、顔を見せないとね。」



 彼がそう言うと、相手の胸元に小さくあかりが灯り、繋いでいる手とは反対側の手を上に向かって掲げると、パッと花火のように光源が宙に舞った。まるで星のように輝くそれに、二人の姿が照らし出された。



「貴方の目の色、綺麗。」

「君の目の色も、綺麗だよ。」




 黒い艶のある素材の服を身につけたその人は、精巧に作られた美しい人形のようだった。その瞳の色は、一度も見た事はないけれどで知っている
 美しい顔が穏やかに笑みを浮かべて、こっちを見ていた。
 私の目の色を綺麗と言った?私も同じ色をしているのだろうか?


 私は彼を見つめた後、自分の胸元へと目をやった。光の反射で、自らのボディの色も白であったことを確認したからだ。



「…君は黒で、私は白なんだね。」

「僕らの姿は『天使』らしいよ。」

「天使…?」

「戦争を終わらせる為に、最後に神の使いの姿を創ったそうだよ。」

「…悪趣味だね。」

「言えてる。」




 ふふ、と2人で小さく笑った。光の粒が段々と小さくなってゆき、ゆっくりとまた暗闇へと戻る頃。私はゆっくりと遠のく意識の中で、ぽつりと呟いた。



「また、逢えるかな。」

「…きっと、見つけるよ。」






「…約束よ。」





 囁くような声で返事をしたのを最後に、私の意識はそこで途絶えた。










 
 
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