11 / 25
探さないと決めた
転生4度目
五度目の僕は、月の宇宙基地で生まれた。
「ほら見てハリー。貴方の瞳の色よ」
幼い僕を抱きあげ、地球を見ながら母は微笑んでそう言った。吸い込まれそうな程に暗くどこまでも永遠に続く広い宇宙に、ぽっかりと浮かぶ美しい青い星。
ハリオットと名付けられた僕は、宇宙飛行士兼地質博士をしている両親より産まれた新世代だった。
毎日、目が覚めると目の前に地球が見える。青い、自分の生きる月よりも遥かに大きな星。夜になると、地上がチカチカと光って見えた。それでも百年前よりはその光の数は幾分少ないらしい。何故なら、地上に住む人が減ってきているからだ。
「行ってみたいな、地球に。」
「…そうね。いつか一緒に行きましょう。」
母はそう言ってくれたけれど。
どうやら、地球から離れて産まれた僕達新世代は、彼の星の重力に耐え切れる人体構造をしていない為、そこを訪れるには内蔵が押し潰されないように重力を調整する器具をつけ、強化スーツを着用しなければならなかった。
父と母が地球出身者であれば、1/2の確率で体構造は地球に適していたいうデータもあったけれど、僕の場合は両親共に月で生まれていたから、仕方の無いことだったのかも知れない。
「…逢いたいな。」
「ん?誰に?」
学園の外壁の縁で隣に座り、同じように地球を見上げていたトーマスに聞かれて、僕は目を瞬かせ。そして、小首を傾げた。
「…分からない。」
「なんじゃそりゃ。」
「…そう言うのってない?逢いたいなあって思うこと。」
「誰かも分からない人物に?ないね。」
「…。小説があるんだよ、そう言う。」
ストン、と塀から飛び降りて、中庭へと歩き出しながら僕は呟くように言った。
「地球人の作品なんだけどさ。微かな記憶しかないけれど、ずっと逢いたい人がいるんだって。覚えてないけど、大切な人がいるんだって。」
「…知らないぞ、そんな話。」
「本を読めよ、トム。」
「めんどくせえよ、ゲームしてる方が楽しいし。…ちなみにそれ、何年前の作品?」
「陽光暦2456年。」
「は?やば、500年くらい前じゃん。そんなん知るわけねー。」
そう言いながらもトーマスは自分の耳元に着いている記憶媒体に指を当てていた。僕らの記憶は、全てそこにインプットされている。知っているものも知らないものも全て。
「なになに?…ステファニー・マルゴット・ナイト。地球人の登山家兼、旅行ライター。そして小説家。『記憶の航海』の著者。」
「そう、その本。」
「こんなの、よく探して読むよなあお前。」
「面白いじゃん、地球の話。」
「…まあ、言えてる。」
ポンポンと地面を蹴りながら、二人は街灯の並ぶ庭園を通り過ぎ、学校の校門前まで進む。月面は地球と同じように灯りで照らされているけど、大気のないその空は深い闇でしかない。地球の内側から見たら、美しい青い空が見えるのだと言う。風があり、その風が運んでくる匂いも植物や生き物の形も色も、全てが月とは異なっているのだと。
「行ってみたいよな。」
「研究が進めば、だよな。」
小さい頃に母に「地球に行きたい」と話した時に、少し悲しそうな困った顔をされた理由を僕はもう知っている。納得はしていたけれど、それと誰かに逢いたいと思う気持ちはまた別だと感じていた。
ここではない、他の惑星でもない。きっと、あの青い星の空の下に、その人はいる。ハリオットはいつもそう思っていた。確信めいたことは何もないというのに、不思議な話だ。
月には存在しないが、地球で言う季節が流れ僕は大人になった。
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
先輩の溺愛にはウラがある
七瀬菜々
恋愛
憧れの先輩エリック・ド・モンフォールに絶賛片思い中のエチカ・ロアンは、先輩の卒業式の日に最後の告白をすると決めて眠りについたのだが……
翌朝、目が覚めたら――そこは五年後の世界だった!
困惑するエチカに告げられたのは、自分が憧れの先輩エリックと結婚しているという事実。
理解が追いつかない彼女をよそに、エリックはまるで夢のように甘く優しく溺愛してくる。
だが、彼の微笑みの奥には、言葉にできない違和感があってーー!?
思い出せない五年間。
変わってしまった環境。
そして、完璧すぎる先輩の愛情。
幸せなはずなのに、胸の奥に小さなざわめきが残り続けーーやがてエチカは、先輩の優しさの裏に隠された“真実”へと近づいていく。
赤い糸が見える悪役令嬢らしい私は王子との婚約を破棄したい
あおくん
恋愛
アイリスには何故か赤い糸が見える。
他の人には見えないその糸で結ばれる男女は運命で結ばれている事実を知ったアイリスは、自身の婚約者である王子殿下が自分ではない女性と赤い糸で結ばれていることに気付いていた。
加えアイリスは未来を知っていた。
悪役令嬢として婚約者に断罪される未来だ。
アイリスはそんな未来はごめんだと、婚約を解消すべく動き出す。
一方王子殿下は婚約関係を続けるうちに、運命の相手ではなく仮の婚約者であるアイリスへと気持ちが揺らいでしまう。
どうにかして婚約破棄したいアイリスと思春期な王子、その他諸々の運命の赤い糸を題材とした……そんなお話です。