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探さないと決めた
転生4度目②
胸に去来する喪失感はそのまま、けれどその隙間を埋めるように地球に関しての物語や書物の研究をし、大学を卒業した後は、所謂考古学者という職業についた。しかしハリオット自身は地球へ行くことは出来ないので、歴史書物の内容や文様、文字の細部研究をし、事実正しいのかどうかを見定めてゆくという、時間も労力も根気もいる地味な仕事をメインとしていた。
ちなみに僕の仕事を「地味」と揶揄したのは、宇宙旅程管理主任者になったトーマスだ。苦笑いで返しておいた。
(確かに地味だけど、性分には合ってるだよなあ。)
地上において存在していた紙の本の中には、既に原本自体が失われてしまっているものも多かったが、先代が遺してくれた膨大な数の記憶装置を一つ一つ確認してゆく作業で新しく繋がりや類似が判明する事も、数は多くないが未だにある。大まかに描かれた内容と、年代、詳細に整合性があるのかを、関連のあると思しき書籍や映像を確認しながら細々と見つけてゆく。
月面に二千年程前のマテアと言う国周辺の記録が送られてきて、それ確認していた時の事のことだ。
僕が見つけたその国は、最早記録媒体の中には名前しか残っていなかった。大国の間に挟まれたその国は小さく、しかし鉱山資源に富んだ国だった。隣国であったマテア大国に攻めいられるまでは。
国自体の古文書や歴史書物は燃えて残っていない為、周辺諸国より書物を確認したところ、国王と王妃は殺害され、家臣も皆殺しにされたとあった。良くある国家殲滅の記録だ。
城下に火を放たれ、民も方方の国へと散らばったが、不思議なことが一つだけあった。
皇太子であった王子、そして、皇太子の婚約者であった公爵令嬢の失踪だった。名前すら記録には残っていない二人。何故か気にかかった。
「この二人が国を売った首謀者だったか、それとも秘密裏に殺害されたのか。…ミステリー小説が一冊誕生だな。」
ぽつり呟きながら、僕はデータに目を滑らす。
大方、戦乱の世のどさくさに紛れて逃亡しているか、その場で殺されている可能性の二択だと思うが、マテア大国側の歴史書には殺害したなどという記述はない。彼らは戦争のさなか突如として姿を消した。
そう、まるで神隠しにあったかのように。
小さな国の王族の最期。マテア王国にその後伝わる童謡歌にはその国の「王様が逃げた」という一文がある。これは当時の国王の事なのか、それとも王太子であったその人物の事なのか。それともマテア側の作った人々を扇動するために捏造された物か。僕は少し書物を確認した後、大きく背伸びした。
「さて、疲れたな。」
肩が凝った、と腕を回してみる。本来であれば現地に行ってみたい所だが如何せん、身体の作りが地球向きでは無いわけで。
「…久しぶりに確認してみるか。」
三つの大国の間に、隙間のように存在した小さく豊かな国。タルメニア。
「今で言う、…この北方のアルプスの辺りかな。」
地球の地図でその国があったであろう場所を確認すると、山々が四方に聳えた盆地であった。例え周りを大国に囲まれていたとしても攻めいられ辛い立ち位置に存在していることが分かる。
現在の映像が大きく目の前に映写され、その中に降り立つと、色鮮やかな空と森とに僕は魅入った。
(映像でもこんなに美しいなんて。実際に目で見たらどんなに胸に響く事だろうか。)
中央に澄んだ湖。山々の麓に広大な森。その葉を揺らす柔らかな風。色とりどりの花々が良く手入れされた街道沿いに咲いている。実際には受けることの無い風を感じながら、その道沿いをゆっくりと歩いてゆく。人口は少ない為、すれ違う人は皆無だ。
美しい自然咲き誇る穏やかな田舎の風景は、月では考えられないほどの奇跡の光景だった。
「…?」
道を歩きながら、僕はふと違和感を覚える。湖のこの位置から見た時に、見えるはずの建物がなかったから。
「…あそこの崖。」
切り立った崖が、遠くに見える。あの崖は、城からは西北西に見えていた。城があったのは国の北側で、その城の裏に広がっていたのは『魔女の森』と呼ばれる深淵の森で。
「魔女の、森。」
そこまで考えて、僕はふと気がついた。目の前にあるデータの頁を探ってみてもその様な文章は載っていない。
「…どこの記憶媒体だ?」
胸の内のどこかがざわり、と蠢いた。嫌な予感にも似た、けれどそれを自分が何処か待ち望んでいるかのような、異質な感情だった。
ふとその時、前から歩いてくる人物に僕は気が付いた。荷物は少なく軽装なので、ここ住民だろう。向こうには自分の姿は見えていない。リアルタイムと言ってもラグの発生している過去の残像でしかない映像なのだから。何も気にすることなく、通り過ぎれば良いだけのことだった。
「あ」
自分の口から転がり落ちた言葉も、意図したものでは無かった。
自分の目の前を通り過ぎるその人の淡いラベンダー色の瞳が。陽の光に照らされて柔らかく煌めくのを見て、全ての出来事が一瞬のうちに蘇ったから。
「あ、ああ」
途端に立っていられなくなり、僕はその場にしゃがみ込んだ。恐ろしい程に早い心音が耳のすぐ側で聞こえてくる。
そんなハリオットには気が付かず、軽やかに歩みを進めるその人は、ずっと自分が渇望していた人物、その人だった。
「リア…」
彼女の後ろ姿を目で追いかけながら崩れ落ちるように倒れ込んだ後。
バツン、とまるで電源が落ちるように、ハリオットの五度目の人生はそこで途絶えた。
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