【完結】君との約束と呪いの果て

須木 水夏

文字の大きさ
22 / 25
双子の魔女

双子の六百年

しおりを挟む




「…本当に喋れるようになったわ。」

 ぽつり、とクローディアは呟いた。




「…見える。見えるわ。あれが、空?」

 呆然としたようにシローネが言った。





 ジェナイトの言ったことは本当であった。彼が消えた日から、数時間後(もしかしたら、数日は経っていたのかも知れない)、少女達の傷はまるで最初から無かったかのように綺麗に癒えた。と言っても、鏡がある訳では無いので、お互いに顔や身体を確認し合って分かったことだ。

 そして、彼が言ったように先天的な障害だったシローネの盲目は治り、後天的なクローディアの失語症も治った。
 喋れるようになったクローディアは、今まで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように喋り、美しい歌声で歌った。
 目が見えるようになったシローネは全てが目新しく、暫くは触ってよく見て触って、という動作をずっと繰り返していた。


しかし、この場所には娯楽も無ければ、他の人も居ない。ただ、木々の生い茂る森の中だ。

 眠くならない、空腹にならない、朝も夜も無い。風は時折通り過ぎ、木々を揺らして梢を鳴らすがただそれだけだ。
 森の奥には澄んだ沢が流れていて、そこに足や手を浸して遊んでみたりもした。もしかしたら、此方側(樹とは反対側)から出られるのではないか、と道を進んでみたりもした。けれど、そこから外に出ることは出来なかった。



「つまらないわ、シロ。」

「私だって。なーんにもないんだもの。」

「こんなのじゃ、私達の頭もおかしくなってしまうわ。」



 教えてもらった名前は遠の昔に忘れてしまったが、以前ここに居た男の様子を思い出してクローディアは身を震わせた。



「何とか外の世界の様子が分からないものかしら?ねえ、そこの鳥さん、街に行って来て、様子を聞かせて頂戴な。」


 シローネが何の気なしに目の前の気に止まっていた小鳥に声をかけた。その小鳥は一瞬首をかしげたあと、まるで承知したというように木の先端から飛び立って行った。それが、ついほんのさっきの出来事。


 そして。




「…すごいわ。新聞の切れ端よ、クロ。」

「…鳥まで操れるの?!」

「ううん、初めて。」

「初めて…。」



 人間にだけ有効だと思っていた彼女達の力は、動物にも有効だったようで。境界線の向こう側から何処から持ってきたのか、ぺらり、と一枚の新聞紙を小鳥は落とした。
 小鳥が新聞を運んできてくれるのは、それからずっと日課になった。小鳥たちには「ホープ」という名前をつけた。あっという間に同じ子は居なくなってしまうが、ずっと少女達に新聞紙の切れ端を運び続けてくれた。
 そこには断片的にだが、移り変わりゆくタルメニアの姿が鮮明に見えた。




「王様が代替わりしたわ。」

「何回目よ。」

「分からないわ。もう数えてないもの。」

「私も。ほら見て、隣国で戦争が起こってるみたい。」

「へえ、平和な時って本当に少ないのね。」

「争い事が大好きよね、人間って。」




「人が沢山死んでるわ。何があったのかしら?」

「ふーん、感染症が起こったのね。」

「感染症?ここに入れば一発で治るわね。」

「…まあ、そうねえ。」





「小麦が豊作なんですって。」

「小麦?何だっけそれ。あ、パンの粉?」

「そう、多分それ。」





「この服素敵。ここを出たらオシャレしたいわ。」

「この帽子も良いわ。この髪留めも綺麗。」

「靴の形も違うわ!」









「この文字、難しいわね。」

「えっと、平和協定ですって。」

「へえ。平和ねえ。いつまで続くのかしら?」




 毎日の同じような会話。そして、ずっと変わらない外の世界を確認する作業。




「すごい、見てこの日付。あれから五百年くらい経ってるわ。」

「…そう言えば、あの人城から続く道を掘るって言ってたわよね。あれってそれじゃない?」

「ん?」



 シローネの言葉に、柔らかな草の上に寝転んでいたクローディアは顔を上げた。境界線の樹の向こう側、人がいる事にその時になって初めて気がついた。あの大きな樹を越えなければ、此方の音も姿もどうやら見えていないらしい。




「…本当だわ。穴掘ってる。」

「ええ、じゃああの人、まだ生きてるってこと?そういう事よね?」

「…成程、本当に死ねないってことね。」






 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

ガネス公爵令嬢の変身

くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。 ※「小説家になろう」へも投稿しています

【完結】誕生日に花束を抱えた貴方が私にプレゼントしてくれたのは婚約解消届でした。

山葵
恋愛
誕生日パーティーの会場に現れた婚約者のレオナルド様は、大きな花束を抱えていた。 会場に居る人達は、レオナルド様が皆の前で婚約者であるカトリーヌにプレゼントするのだと思っていた。

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

処理中です...