この世の沙汰は運次第

緋水晶

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翌日から俺とスミスは三人のSランク冒険者指導の下、ひたすらにA級依頼をこなしていった。
「いやぁ、ジェイクがいなくなったせいで溜まっていたA級依頼をこんな形で消化できるとは」
「ギルド的にはありがたいですねぇ」
「あ?今A級依頼できる奴っていねぇの?」
「一応チームで二組、個人では一人いますが、全員今は遠くで別のA級依頼に当たっていますから、動けるのは私とギルド長だけですねぇ」
「最近はAランクもSランクも少な過ぎてな」
「だから二人には期待してるんですよぉ」
最初の依頼はオーク殲滅依頼から派生したA級依頼で、『オークキングを討て』というもの。
もしこれを正式な形で受けるならば、『Aランク冒険者が四人以上のパーティ』且つ『癒し手か賢者、もしくは中級以上の回復術者必須』という条件がつくような依頼で、つまりはそれほど危険な依頼ということになる。
「そうなのか。だとよ、お前ら。ほれ頑張れ~」
俺達はSランク三人、AランクとBランクが一人ずつで、キアラが中級以上の回復術者に当たるため偶然にも条件を満たしていたが、この状況ではその条件を満たしていたところで果たして意味があるのかと問いたくなっても仕方ない。
何故ならオークキングや周りの手下と戦っているのは俺とスミスだけで、Sランクの三人は少し離れたところから観戦しているだけだからだ。
正確にはいざという時すぐに助けられるよう傍に控えているという状況なのだが、気のせいか手にポップコーンとコーラが見える。
「言われなくても頑張ってんだよ!!」
「ス、スミス、前!避けろ!」
「うぉあ!?」
そのせいで妙な緊張はあるわ敵は強いわで、俺とスミスはなんとなく波に乗れないでいた。
集中力もなく注意も散漫で、そのせいか先生の軽口にスミスはつい反応し、目の前の敵から目を離すという迂闊ぶり。
二人とも心に余裕がなく、正直ちょっとよろしくない事態だ。
「よそ見してんなよ~」
なのにその原因を作った本人は知ってか知らずか気にしていないのか、「ははは」と笑いながらスミスを揶揄い続ける。
それがまあ、言葉を飾らず素直に言えば、ウザったかった。
「誰のせいだと!?」
「スミス、落ち着け!とりあえず上級魔法一発先生に撃っていいから!!」
「よしきた!」
「てめぇ、レィヴァン!」
「しまった、つい本音が!?」
その気持ちからうっかりスミスをけしかけてしまったが、例え実行したところで先生には当たらないだろうから許してほしい。
と思ったらスミスが詠唱を始めたのは避けるのが難しい氷と風の複合広範囲上級魔法『アイスストーム』。
「こいつまさか本気で殺る気か!?」と思いつつ「よしやれ、やってしまえ!!」と思っていたら、それは先生に向かわず、ちゃんとオークキングに向かって行き、無事に戦いを終えることができた。

「本当に二人で倒せるとは思いませんでした~」
「流石金級と神級だな!」
「なんたって俺の生徒だからな!!」
戦闘後、肉体的な疲労よりも精神的な疲労が勝る俺達の耳にSランクの三人の暢気な声が届くが、俺とスミスは揃って深いため息を吐くだけにとどめた。
そうしないとよりダメージが蓄積されそうな気がしたから。
ちなみにギルドの冒険者ランク同様依頼もS級まであるが、ほとんどA級が最高と言っていい。
S級依頼は今回のように上級悪魔が出たとか、先生が倒したようなスカイドラゴンが出たとか、そういう国家レベルの緊急時にしか適用されないというのが理由だが、受けられる冒険者がほとんどいないということも理由の一つだろう。
多分先生やキアラなら受けられると思うが、そんな人達が俺達につきっきりでいいのかと今更ながらに気になってしまう。
だが国命ともなればそんなことは関係がないのかもしれない。
だから俺達は精神を消耗しながらも、この贅沢過ぎるレベリングを有難く享受し、Sランク目指して日々をがむしゃらに過ごした。


そうしてあっという間に2年半が経ったこの日。
「おめでとう。これで君も晴れてSランク冒険者だ」
「ありがとうございます」
ギルドカードが光り、真ん中に書かれている文字が『S』に変わったのを見たスミスは嬉しさとそれを凌駕する疲労が混じった顔をしながらも笑みを浮かべた。
俺は1年前にすでにSランクとなり、キャリード先生に「早いにも程がある!」と理不尽にキレられたが、今回はそんなことはないらしい。
まあスミスをSランクにするために頑張ったのだから当たり前だが。
「今日はもう帰っていいからゆっくり休みなさい」
「おめでたい日くらい大目に見てあげますよぉ」
「この後ケニス達と合流すんだろ?早く行け」
スミスの転移魔法で上級遺跡からギルド長室へ帰るなり、ギルド長、キアラ、先生が代わる代わる俺達に手を振り、帰るように促す。
普段なら反省会や鍛錬でそんな風にされることはないのだが、今日は特別な日だった。
「誕生日を祝えるのなんて学生の間だけですからねぇ」
そう、スミスはSランクになったこの日、18歳になったのだ。
狙っていたわけではないが、Sランク昇進は俺達からのいい誕生日プレゼントになったのではないだろうかと思う。
「そりゃ500年も生きてりゃ誕生日なんて祝わねぇか」
「…一応私は毎年祝っているぞ?」
「え?マジ?」
「そうですねぇ。ジェイクは薄情ですから」
「人聞き悪ぅ!?」
俺達はそう言ってじゃれ合う大人三人を残したまま一礼し、ケニス達の待つ一階へと移動した。
「……Sランク、なっちゃいましたねぇ」
「ああ」
「なんであんな子供に託さなきゃいけねーんだろうな」
「向こうからの指名だから、とは言いたくないな」
「しょうがないですよぅ。私達は関われないんですから」
「俺は担任の先生だぞ!?」
「それでも、それが国の決定だからな」
「くそっ!まさかスミスが、なんて思わなかったぜ」
「それは私達もだ」
「ですねぇ。金級であることを差し引いてもただ者ではないと思っていましたが~」
「救いはレィヴァン君だな。スミス君の親友が神級の勇者であったことは幸いだ」
「まあ、そこだけは神の采配に感謝するところだ」
「……神、ねぇ?」
「……キアラ?」
「本当に神様がいるなら、なんでスミス君にだけこんなに不幸が重なるんですかねぇ…」
俺達が立ち去ったギルド長室ではこんな会話がなされていたが、俺の知るところではなかった。
知っていても何もできなかっただろうが、知っていれば変えられたことだってあったかもしれないのに。
でも結局誰よりも俺のために変えるわけにはいかないことだったのだから、知らないままでよかったのかもしれない。
どんなことになろうと俺はスミスの幸せだけを願っていたかったから。
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